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※特殊設定。


近頃勢力を増している宗教団体があるらしい。

信者には統一性がなく、小さな子供から老人まで様々。一見すると宗教に固執している様子はないし一般的な日常生活を行っているようだが、彼等はただ一つのことには強い執着心を見せる。

それは『教祖』たる『少年』。

信者たちは彼を愛している。それがどういった種類のものかはわからない。信者一人ひとり異なるのかもしれない。

彼等はただ只管に教祖を愛している。教祖が現れれば涙を流して喜び、教祖が声を上げれば喜びのあまり気絶する信者までいる程。


発足が最近であったこともあり、呪術界においてはそこまで気にする必要のない存在であったが、事情が変わった。

信者に呪術師が加わり始めたのだ。

一見するとわからないため発覚が遅れたが、信者の存在は少しずつ浮彫になり始めた。


「・・・灰原、それは何だ?」

「え?これ?教祖様に貰ったんだ!」

心底嬉しそうにお守りを握り締める同期を前に、七海は顔を顰める。

お守り袋の端に小さく縫われた団体名称。呪術とは関係のない一般家庭から高専へと入学した七海でも最近耳にする宗教の団体名称と同じだ。宗教の詳しい内容はわからないが、まさかこんな近くに信者がいるとは思わなかった。


「教祖様が直々に声を掛けてくださってさぁ!もう泣いちゃったよ」

じんわりと目に涙を浮かべているのは、まさかその時のことを思い出しているのだろうか。生憎特に信仰している神もいない七海は、その光景が異常としか思えなかった。

直ぐに教師に告げるべきだろうか。しかし、信仰自体は自由だ。誰かがとやかく口を挟むことではない。


「・・・兎に角、今は任務に集中しましょう。そのお守りについては後程話を聞きます」

「えっ、七海も興味ある?」

言葉を間違えたかもしれないと内心後悔をしながらも、七海は灰原と共に次の任務先へと向かう。

今回の二人の任務は2級呪霊の討伐。事前に渡された調査資料によれば、二人の実力であれば十分討伐が可能だ。そのはずだった。

現場である土地に足を踏み入れた瞬間、七海は嫌な予感を感じていた。

その土地は、やけに地蔵が多かった。山道を歩けばそれが顕著で、まるでこの先に『奉られる』なにかがあるような・・・

そしてその嫌な予感は、呪霊と遭遇することで的中することになる。


「この呪霊っ、どう考えても2級ではないっ」

呪霊は強かった。到底2級とは思えないほどに。

呪霊がいたのは山奥の古びた神社で、あろうことか呪霊は土地神として奉られていたのだ。

人の信仰とは、人の想いとは時として恐ろしいものだ。元々は本当に2級程度の呪霊だったのだろう。しかし呪霊自身が起こした事件により、人々は祈ったのだ。もしかすると土地神がお怒りなのかもしれない、どうか我々をお救いください土地神様!と。

そして恐れや祈りは呪霊の力となり、その力は灰原や七海では敵わないものへと変わった。


「灰原、一旦逃げましょう。手に負えません」

「あぁ、わかっ・・・」

既に傷だらけの灰原が七海を振り返った瞬間のことだ。突然、灰原の上半身と下半身が・・・別れた。

灰原!と七海が声を上げ、灰原はぽかんとした顔で地面に崩れ落ちる。

崩れ落ちた衝撃でか、灰原のポケットからはあのお守りが零れ落ちた。そのお守りは灰原の血で濡れて真っ赤に染まっていく。


「な、なみ、逃げ、ろ」

辛うじてそう言った灰原に七海が手を伸ばす。

頭では無理だとわかっていながらも、七海は手を伸ばす。何時だって危険が伴う世界だとは知っていた。同じ学校の先輩たちの中で、帰ってこなかった人もいた。けれど、入学してからずっと一緒の同期との別れはまだ経験したことのないものだった。

一人で逃げられるわけがない。逃げて、応援を呼ぶことが最善だとわかっていたとしても。

灰原の上半身に駆け寄り、呼吸の浅い灰原の身体を抱えようとする。呪霊の手は、すぐそこまで来ていた。


「・・・きょうそさま?」

死の間際で幻覚を見始めたか?と頭の冷静な部分で七海が思う。灰原を見れば、こんな時だというのにぽかんとした顔で何処かを見つめていた。お守りが落ちた場所だ。

一瞬つられてそちらを見て、七海は「は?」と声を零れた。


誰かが立っている。

それは小さな子供の姿をしていた。黒い艶々した髪、まあるい頭、足元には灰原の血で濡れたお守り袋。

何処か人間とは違う雰囲気を纏った少年は、ゆっくりとこちらに近づいてくるではないか。それと同時に呪霊の手が灰原と七海に触れかける。


しかしその手は届かない。何かに阻まれるように、まるでそこに結界でも張られているかのよおうに、呪霊はそれ以上近づいてはこられなかった。

その代わりに近づいてきた少年は、呼吸の浅い灰原を見下ろして微笑んでいた。

ぱくぱくと少年の唇が動く。灰原は、その目に涙を浮かべて「きょうそさま」と言った。少年はにこりと微笑んで、その白く小さな手を灰原の二つにわかれた身体に触れた。

それは逆再生に近かっただろう。

離れ離れになった灰原の上半身と下半身が巻き戻しのように本来の形へと戻っていく。まるでついでとでもいうように、七海の身体の傷も治っていく。

治っていく灰原と七海とは逆に、呪霊は悲鳴のような声を上げながら弱っていくのが見えた。感じ取れる呪力は、1級レベルから本来の2級レベルまで下がっている。


わけのわからない状況だっただろう。灰原の七海も、呪霊の強ささえ巻き戻った。それでも二人はすぐに意識を呪霊へと向け、何とかその呪霊を討伐することに成功したのだ。

呪霊の討伐に成功した後、少年の姿はなかった。あったのは血まみれのお守り袋だけ。中には、上半身と下半身が離れ離れになった人型が一つ、入っていた。

「教祖様が守ってくれたんだ。やっぱり教祖様は凄い!」

嬉しそうに顔を綻ばせる灰原。先程のこともあり、七海はその宗教がただの宗教団体ではないことを理解した。


「その宗教の教祖は、反転術式が使えるんですか」

「反転術式って言うか、教祖様のは『奇跡』なんだ。七海も、さっきのに呪力なんて感じなかっただろ?」

確かに、と七海は黙る。先程の人間と違う雰囲気の少年からは呪力は感じなかった。式神や呪骸であっても呪力の残穢は感じられるはずだが、それもない。

「最初は妹がお世話になって・・・妹さ、今の医学じゃ治らないって言われるような病気だったんだけど、教祖様にお祈りするようになってからどんどん治って、今じゃ元気に走り回ってる。他の人たちに似たような感じで、皆教祖様に感謝してるんだ」

「・・・貴方自身も救われたということですね」

ただの宗教団体ではなく、実際に何度も奇跡を起こしているため、その奇跡が救われたい者たちの耳に入り、一気に勢力を増したのだろう。

「教祖様は未来も見えるのかもな。でないと、わざわざお守りを渡しに来ないもんなー」

血まみれのお守り袋を嬉しそうに握り締めている灰原に少し頭が痛く感じながらも「このことはきちんと報告しましょう」と呟く。


「あっ、でも教祖様にあまり迷惑をかけるのもなぁ・・・教祖様、ほんと優しい人でさ・・・」

「今回の任務の件を報告するなら、教祖の件を隠すことは難しいですよ」

だよなー!と灰原は頭を抱えた。頭を抱えたいのは私の方だ、と七海はため息を吐いた。




結果、何故か七海は灰原と共にその宗教団体にいる。

教祖が反転術式を使用できる術師である可能性を報告したものの、その後の団体への調査は難航しているらしい。

信者の殆どが教祖に対して『恩』がある者ばかりであるため、教祖に対して害がありそうな存在は片っ端からシャットアウトしているらしい。本気で救いを求めているわけではない相手を敏感に見抜き、調査を免れている。

信者の中に術師が複数いることも問題だった。彼等は教祖を呪術の世界へ参入させてなるものかと、もはや呪詛師になりそうな勢いで抵抗してくる。

そんな中、灰原は「教祖様にお礼を言いに行きたいんだけど、七海も行く?」とすんなり七海を誘った。

此処で断る理由はなく、むしろあの件では七海も救われているため、お礼を兼ねた偵察に向かうことが決まった。


現在七海は灰原と共に教祖様がいるという部屋へと案内されている。

案内人はすよすよと眠る子供を抱いた若い女性だ。幸せそうな顔で子供を抱き「こちらです」と優しい声で言う。

途中ですれ違う誰もが幸せそうだ。呪術師らしき人間もいたが、七海たちをちらりと見れば笑顔で会釈をしてくれた。

不幸そうな人は誰一人として見当たらない。


「教祖様、灰原くんとそのご友人をお連れしました」

女性が扉に向けて声を掛ける。すると、重々しいその扉が静かに開いた。

女性はにこりと微笑むと同時に、目が覚めてしまったのか微かに子供がぐずるような声が聞こえ、女性はそれを「あぁよしよし、貴方は本当に甘えたちゃんねぇ」と幸せそうにあやし始める。灰原が「有難う御座いました!」とお礼を言う横で、七海も一礼してから部屋に入った。


部屋の中は荘厳だった。美しい装飾品と瑞々しい花々。まるで王座のようなその場所には一人の小さな少年が笑みを浮かべて腰掛けている。

灰原が「教祖様!」と声を上げ、小走りで近づいていく。それにつられて七海も走ったが、教祖を前にこの態度はいかがなものかと疑問を持つ。

しかし教祖の少年はこれっぽっちも気にした様子がなく、むしろ笑顔で受け入れているようだ。

「教祖様のおかげで何とか生き残ることが出来ました。妹だけでなく僕や僕の友達まで救っていただき、有難う御座います」

にこりと少年が微笑み、王座から立ち上がる。

てくてくとゆっくり歩いてきた少年は、灰原と七海の前で止まった。


「日々、その身を危険に晒しながら、諦めることなく歩み続ける、尊き人の子らよ。私は、貴方たちが幸せになることを、何時も祈っています」

鈴の鳴るような耳心地の良い声が二人に届く。

ゆっくりとした口調は優しさに溢れ、その顔には慈愛が浮かんでいた。

じわりと涙を浮かべる灰原の隣で、七海も謎の高揚感を感じていた。


「私が救えるものは少なく、何時だって手から零れ落ちる命があります。貴方たちは私よりも沢山の人の子らを救っているのです。幸せになりなさい、貴方たちは幸せになるために産まれたのだから」

少年は懐から二つのお守りを取り出す。

静かに差し出された其れを、もはや七海は受け取らないという選択肢は思い浮かばなかった。

呪力は一切感じないただのお守り袋は、きっとただのお守り袋ではないのだろう。

自然とお守り袋を大事に握り締める七海に、少年は微笑みかけた。


「何時でも遊びに来なさい。此処は、救いを求める誰かを拒んだりはしません」

「七海!やったな!」

やったな、というのは七海がこの宗教に加入するのを認められたという意味だろうか。

「会費は・・・」

「かいひ?」

「わっ!七海何言ってるんだよ!会費なんてないから!」

きょとんとした表情を見せた教祖。灰原は慌てて七海に説明する。

この宗教に会費なんていう制度はなく、あるのは信者の『気持ち』程度の送りもの。誰かは花をささげたり、誰かはお菓子だったり、誰かはお手紙だったり・・・

大きさや価値は関係ないのだという。教祖はそのどれもを平等に喜び、大事に大事にしている。


「ですが、私に捧げられるものなんて・・・」

「七海パン好きじゃん。今度それ持ってくれば?」

パン?捧げものがパンってそれはいいのか?と混乱する七海に、教祖はにこりと笑って頷いた。




幸福教へようこそ




「えっ、灰原と七海はあの宗教の信者なのか」

「はい!」

「・・・まぁ、はい、最近入りました」

ひょんなことから例の宗教の話になり、比較的可愛がっている後輩二人が内部状況が謎に包まれている宗教の信者と化していると知った先輩二人は微妙な表情を浮かべた。



あとがき

謎に包まれたショタ教祖様・・・

途中で案内をしてくれた女性は伏黒さんって言うらしいよ!子供が生まれたばかりの時に一度体調を崩したことがあって、今も様子見で幸福教の施設内で過ごさせてもらってるんだって!愛する旦那様は教祖様外出時の護衛役なんだって!ちなみに最近、事故で両親を失ってしまって親戚間をたらいまわしにされちゃった女の子を養女として迎え入れたらしいよ!新しい娘を可愛い可愛いしてたら息子が嫉妬しちゃって、ちょっぴり赤ちゃん返りで甘えたになっちゃったんだって!可愛いね!

盤星教っていう宗教団体からは目の仇にされてて、そのうち教祖様に懸賞金とかかけられちゃう(物語の都合上、時系列が前後)。
同時期に星漿体の女の子にも懸賞金がかけられちゃってて、教祖様の護衛を優先したい灰原&七海が沖縄に呼ばれようものなら、教祖様ごと沖縄に来て結果的に星漿体と教祖様のダブル護衛になるかもしれない。連絡ミスで護衛のパパ黒と未来の最強がバトルして、途中でストップがかかって両者命に別状はないものの未来の最強は無事に現最強になる。



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