×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -





※R15くらい。


僕を見付けてくれたのは五条先生だった。


昔から変なものが見えて、幼い頃の僕はそれが周囲にとっては普通じゃないなんて知らなくて、気付くと周囲は僕のことを『変な子』として扱った。

両親は「人前でそんなことを言うな」と言ったし、何度も精神科へ連れていかれた。病院は変なものが他のところより多くて、僕はよく怖くて泣いてたっけ。

普通は見えないものが見えると泣きわめく息子に両親は心底頭を悩ませたのだろう。何時の間にやら、僕は両親から放置されるようになった。


家の一番奥にある僕の部屋。僕がその部屋から出るのは、風呂とトイレを済ませる時ぐらいだった。食事も、一緒に食卓を囲むことを嫌がった母親が部屋に運んできたから、部屋で済ませていた。

寂しくないと言ったら勿論嘘になる。けれど、両親のあの『気味が悪いもの』を見る目を見る機会が減るなら、それでいいと思っていた。

保育園、幼稚園、そこまでは良かったけれど、小学生になるとそうもいかない。小学校中学校は義務教育で、行かないといろいろと問題になるらしい。

それまで部屋に籠り切っていた僕は入学のお祝いをされることもなく小学校へ入学し、毎日ではないものの登校するようになった。

でも僕にとって、それは地獄の日々。


変なものは昔よりずっとよく見えていて、それが人に危害を加えるものだと知ってしまった。目を合わせないように必死で下を向く僕は、周囲には可笑しく見えたことだろう。

同級生に「変な奴」と言われ、馬鹿にされることもあった。変なものが教室にいる時は、耐え切れずに帰ってしまうこともあった。

学校から両親にも連絡がいっているのだろう。両親は冷ややかな目で僕を見ていた。

怖い、辛い、僕はどうすればいいんだろう。部屋の中で泣きじゃくる僕は、ある日その人に出会った。


真夜中、二階にあるはず僕の部屋の窓ガラスをこんこんと叩いている誰か。真っ黒な服に真夜中なのにサングラスを付けている変な人だったけれど、僕は普段から見える変なものではなかったから、窓を開けた。

するとその人は「ありがとー」と笑って僕の頭を撫でてくれた。両親も撫でてはくれない僕の頭を、撫でてくれた。

貴方は誰?何で二階なのに此処に来れたの?と恐る恐る聞く僕に、その人は笑って「いいよいいよ、何でも答えてあげる」と言って僕を抱き上げて、ベッドに腰掛けた。

誰かの膝の上に座るなんてきっと物心がついてからは初めてのことで、僕はとても緊張したことを覚えている。


その人の名前は五条悟さん。昼間に『呪霊』を見て怯えている僕の様子を偶然確認、その時に自宅の場所も確認し、別の用事の帰りに様子を見に来てくれたそう。

驚いた。この人も僕と同じものが見えているんだ。僕だけじゃなかったんだ。

「偉かったね。あいつらは目が合うと襲ってくるから、見ないように頑張るのは正解だった」

でも、ずっと下を向いているなんて嫌でしょ?と言って僕を撫でるその人に、僕はこくりと頷いた。


それからの展開は、今考えても早いものだった。

一晩中僕のことを抱っこして撫でてくれた五条先生は、翌日の昼頃には僕を迎えに来てくれた。

両親によくわからない書類を渡して、それを見た両親は少し戸惑いつつも僕を五条先生に渡した。


「今日から僕が、名前の家族で先生だから」


その日から僕は無理に小学校に通う必要はなくなって、勉強は五条先生だったり別の人に教えて貰ったりした。

五条先生は呪術師というもので、しばらくしてから僕は五条先生に呪術の使い方を教えて貰って、中学からは何とか学校に通えるようになった。

中学になる頃には五条先生の紹介で一つ年下の恵くんという友達も出来て、先生の紹介で入学した呪術高専ではもっと沢山の知り合いと友達が出来た。

全部全部五条先生のおかげ。僕は初めて五条先生に頭を撫でられたあの夜から、五条先生が大好きなのだ。

恵くんにそれを言うと顔を顰めて「趣味悪いな」と言う。確かに五条先生は性格とかいろんなものに難があると思うけれど、僕にとっては何より素敵な人なんだ。



「あ、名前おかえりー」

今日の派遣先で2級レベルの呪霊を倒し寮に戻ると、ベッドに寝転ぶ五条先生が出迎えてくれた。

この部屋の合鍵を持っている五条先生は、時折こうやって部屋で寛いでいる。


「ただいま、五条先生。何か飲みます?」

「冷蔵庫に入ってたジュースならもう飲んだよー」

「あ、それ僕が飲もうと思ってたやつなのに」

酷いよ先生、と言いながら荷物を降ろしてベッドに腰掛け、きらきらの髪を眺める。

五条先生は凄い人。ここ数年でそれをひしひしと感じている。五条先生に見つけて貰えたことは、きっと僕の中で一番の奇跡なのだと思う。

だからこそ、僕は五条先生に感謝している。呪術師としては五条先生に一生敵わないだろうと思っているけれど、それ以外ならもしかすると五条先生にお礼が出来るんじゃないかっていつも考えている。

五条先生にお礼をしたい。喜んで貰いたい。


「ねぇ五条先生、僕にして欲しいことはありませんか?僕、何時もお世話になってる五条先生に何かお礼がしたくて」

「ははっ、名前ってば健気じゃん。でもいいよ別に、名前が元気に高専に通ってくれてるだけで僕は十分だから」

ぐしゃぐしゃと頭を撫でられ思わず口元が緩んでしまうけれど、やっぱり何かしらのお礼はしたいのだ。


「何でもいいんです。小さなことでも。五条先生が喜んでくれるなら」

「・・・いや、ほんと健気だよね名前って」

どうしてそうなっちゃったかなぁ?と言いながら頭にあった手が頬に当てられ、むにむにと揉まれた。

「して欲しいこと、ねぇ。晩御飯はよく作って貰ってるし、靴磨きも何時の間にかしてくれちゃってるし、洗濯とかもー・・・あれ?これもしかして名前に頼り過ぎだったりする?」

「そんなの日常の範囲内です」

「やっばぁ、名前の日常が僕のせいで歪んでるじゃん」

けらけら笑いながら先生は頬から手を放し、僕の膝に倒れ込む。

僕の太腿を枕にごろごろとベッドの上を転がる五条先生は「やって欲しいことねぇ、んー」と考えるそぶりを見せる。


「あっ!・・・ん?いや、これは駄目か、流石によくない。バレたら各方面から怒られそう」

「僕が黙ってればバレないです」

「えっ、魅力的な提案が過ぎる」

どんなことをお願いされるのかわくわくしながら五条先生を見下ろせば、目隠しを少しずらした先生と目が合った。そのきらきらした青い目も綺麗で、僕はふふっと笑う。


「・・・名前って僕のこと滅茶苦茶好きだね」

「はい、大好きです」

「わー、曇りなき眼」

もうちょっと五条先生の目が見たくて、少し身体を前のめりにして先生に顔を近づける。

ぱちりと瞬きを一つした先生に「ねぇ先生、僕にして欲しいことは何ですか?」と問いかける。先生、どんなことだっていいんです。先生が望むなら僕はなんだってしまう。あの部屋で怖い辛いと泣きじゃくっていた僕を救い出してくれた先生になら、なんだって。


「ちょっと倫理的にアウトなことでもいい?」

「あれ?五条先生に倫理観って備わっていたんですか?」

「突然貶すじゃん」

「そんなの気にしなくていいんですよって意味です」

先生の腕が僕の首に回って、ぐいっと引っ張られる。

今とても至近距離に先生の顔がある。ほんのり感じる吐息で、唇同士もとても近いんだなぁと思った。

先程までは少しずれていた程度だった目隠しは完全に外れて、先生が笑うと目が細まるのもよく見える。釣られて笑えば、先生の口が僕に合わさる。

少し驚いたけど、それだけ。それが五条先生の望むことならと、僕は大人しく薄く口を開いた。


「こういうのも、平気?」

「五条先生が望んでくれるなら、喜んで」

「うーん、何処で教育を間違えたのかなぁ」

「さぁ、何処ですかね」

五条先生の口から『教育』なんて言葉が出てくるのが面白くてくすくす笑うと、口を少し尖らせた五条先生が再び僕の口を塞ぐ。

温かな舌が口の中で動くのに合わせて、下手くそかもしれないけれど少しだけ舌を動かした。

ぽんぽんと頭を撫でられたから、これが正解らしい。

ん、と小さく声を漏らした先生がキスをしたまま片手で僕の服を脱がそうとするのがわかる。器用な人だな、と思いながらそれを真似するように先生の服に手を掛けた。

お互いに服を脱がせて、脱がせるのが難しいところは自分で脱いで貰って・・・

途中で「いいの?」とか「多分もう戻れないよ」という五条先生は珍しく教育者っぽくて、僕は楽しくて仕方がなかった。


「五条先生が望んでくれるなら、僕は何だって嬉しいんです」

ぴとりと肌をくっ付けて「だから望んでください」とお願いすれば、先生は「本当に何処で教育間違えたんだろう」と言いながら緩く足を開いた。




望んでくれるなら何だって




「いやー、すっきりしたけどやっちゃった感が凄いね!」

「先生が気持ち良さそうで良かったです」

「昔はあんなに小さかったのにねぇ、今では本人も息子もあんなに大きくなっちゃって・・・僕、涙が出ちゃう」

ぐすんとわざとらしい泣きまねをした五条先生が抱き着いてくるのを受け止めつつ「またいつでも望んでくださいね」と笑った。



戻る