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※R15くらい。


僕の術式を知ると、皆嫌そうな顔をする。

死者を蘇らせることが出来る。それだけ聞くと、人の理を反する程の強力な術式だ。その時点で人によっては嫌な顔をするが、大抵の人は「素晴らしい術式じゃないか!」と褒めてくれる。


しかし方法が問題だった。

まず、死者を蘇らせるためには死体が必要で、死体がないなら何とか飛び散った死肉を拾い集めなければならない。

そうやって入手した死体に・・・僕の体液を注ぐ必要がある。もっとはっきり言うなら、精液をその肉体に吸収させなければならないのだ。最悪だ。


更に最悪なことに、死んでいる人間が自主的に僕の精液を飲めるわけはなく、結果的に死体に無理やり精液を注ぐことになる。口からの吸収よりも腹に直接注いだ方が効果が高いため、要するに死体を犯すことになるのだ。

屍姦という単語を知った時は「僕は他人から見るとそんな特殊性癖の持ち主に見えるのか」と絶望したものだ。

勿論僕には屍姦という趣味はなく、死体を犯すことになってしまったのは、権力はあっても倫理観はゼロな我が家の熱心な研究者たちが度重なる検証実験を繰り返した結果である。詳しい術式が発覚するまでは地獄だった。精力剤、催淫剤、見知らぬ死体、死体死体死体・・・

過去を思い出すとうっかり死にたくなるが、僕の能力の使いどころは多い。

この業界は死んでしまう人間が多い。血肉も残らず死ぬ人間の方が圧倒的に多いが、何とか肉の断片が残って戻ってくることもある。そういう人の実家が蘇生を望んだ場合、僕が駆り出されるわけだ。


・・・でも生き返らせた人たちは、誰もかれもが僕を嫌う。そりゃそうだ、死んでる自分を犯して中に精液を注ぐような変態野郎なんて好きになるわけがない。

僕の術式を知る人は皆僕を嫌ってる。少なくとも僕だったら嫌いになるだろう。

そんな僕は現在高専に通わせて貰っているが、他人との交流は少なかった。出来るだけ関わりたくない。これ以上嫌われたくない。

高専にいる間も仕事はあるため死の危険が付きまとうが、常に複数人での行動だし見守りの先生たちだっている。実際の現場よりも幾分か安全だから僕の術式なんて使う機会そうそう訪れないだろうと、そう油断していた。


「・・・灰原、くん」

灰原くんが死体で帰ってきた。

同級生の七海くんと灰原くんが担当していた任務。同じく参加予定だった僕は別件で複数の死体を蘇生していたため、その任務に参加することが出来なかった。

僕が参加していたからといって事態が変わったかはわからないけれど、もしかすると灰原くんは死なずに済んだかもしれない。

・・・他人との関りを恐れるあまり、折角灰原くんが気さくに話しかけてくれても無視をし続けてしまった。灰原くんも七海くんも一般家庭の出だったから、僕の能力は知らなかったんだと思う。七海くんも、灰原くん程ではなかったけれどこんな僕に親切にしてくれた。


「五体、満足だ」

聞けば、瀕死状態の灰原くんを七海くんが何とか連れ帰ってきたらしい。けれど応援が来る頃には手遅れで、灰原くんは死んでしまって・・・

灰原くんは一般家庭の出だ。蘇生を要請するような実家ではない。

迷う必要はない、こんなに綺麗な死体が残っているんだ、一度注ぎ込んでしまえば何の問題もなく元通りのはずだ。肉片しか残っていない場合は時間がかかるが、これならすぐ・・・


でも、怖い。

今この部屋にいる七海くんをまずは追い出さないといけない。どうして追い出すのか、理由を聞かれるはずだ。何て答える?僕が死者を蘇生できる術式を有していることを伝える?きっと方法を聞かれるはずだ、答えないといけない?怖い、七海くんから軽蔑の目で見られることが怖い。

それに、生き返らせた灰原くんが、あんなに優しい灰原くんから嫌われるのも怖い。

なら、生き返らせたらすぐに逃げて、全部なかったことに、そうだ、無かったことにしよう、そうしよう。


「な、七海くん」

「・・・なんですか、苗字」

「ごめ、ごめん。ちょっとだけ、ちょっとだけでいいから、外で待ってて。中、入らないで」

声が震える。不審がらないで、嫌わないで・・・


「・・・わかりました」

案外すんなりと部屋を出て行った七海くんに安堵し、すぐに霊安室の鍵を内側から閉める。この部屋が内側から鍵がかけられるタイプで良かった。

傷だらけで死んでいる灰原くん。その身体を覆うシートをはぎ取り、その身体に馬乗りになる。

ポケットから取り出したのは強力な催淫剤。実のところ、精通が始まってからすぐに度重なる実験のせいで、僕は自然勃起が出来なくなっていた。こうやって強い薬を使わないと役に立たない。

・・・別件で複数体の死体を蘇生したせいか、薬の飲みすぎで少しくらくらする。けれど飲まないと灰原くんを生き返らせることが出来ない。

水なしで飲めるそれを噛み砕き、飲み下す。

じわりと下腹部が熱くなる。あぁ、この感覚が毎度恨めしい。

何故血では駄目だったのだろうか。何故もっと嫌悪感の少ないものに出来なかったのか。


灰原くんの服を脱がし「ごめんなさい、ごめんなさい」と言いながらその身体を暴いていく。

死体だからといって乱暴には出来ないから、出来るだけ丁寧に、丁寧に。

当然ぴくりとも動かない灰原くんの身体を貫いて一番奥の方へ注げば、その部分から温かさがじわじわと広がるのを感じた。

僕の術式によって身体が強制的に修復されていく。注がれた精液が生命活動に必要なエネルギーに書き換えられていくのだ。


僕はすぐに灰原くんから離れる。お互いの服を元に戻して、もう一度「ごめんなさい」と懺悔をして。

ぴくっと灰原くんの胸部が上下するのがわかった。心臓が動き出した。

目が覚めないうちにと僕は扉の方へ走る。鍵を開け、勢いよく開ければ七海くんが扉のすぐ前に立っていた。


「あっ、な、七海くん、ごめん、なさい」

口から自然と謝罪の言葉が出てきて、僕は七海くんの脇を抜けて走り去った。

霊安室に入った七海くんは驚くことだろう。

傷だらけのまま、少しずつ生命活動を取り戻していく灰原くんの姿に。


・・・実家の許可もなく勝手に術式を使ったことは、きっとすぐにバレるだろう。最近催淫剤の効き目が悪いことに、実家も多少の焦りを見せている。だからこそ、僕が勝手に術式を使用することをよしとしていないのだ。

何時の間にやら実家の金儲けや地位確立のための道具にされていた僕にとっては、今回が初めて自身の意思で行った蘇生だったのだと思う。

その代償がまた嫌われてしまうことだというのは、心臓が潰れてしまいそうな程恐ろしい。

沢山走って、何時の間にやら寮の自室に逃げ込んで僕は、間もなく夜蛾先生から電話がかかってきた。

用件は勿論灰原くんのことで、状況的にすぐに僕の能力だということがわかり、連絡したらしい。

何かと僕を気遣ってくれる夜蛾先生は、今回の件は出来るだけ実家に伝わらないようにしてくれるというが・・・きっと時間の問題だろう。


灰原くんは霊安室から病室に移され、七海くんが傍にいるらしい。二人とも僕を気にしている様子らしいけれど、会いに行きたくはない。

部屋にこもり始めてから、部屋の外に夜蛾先生や七海くん、話を聞いた夏油先輩たちが来ることもあった。夏油先輩に関しては、僕が別件で蘇生した人たちについての問いかけもあった気がするが、僕はそのどれに対しても返事をすることが出来なかった。

実家からの電話も多い。勝手なことをするなだとか、いろいろと。


「苗字、いますか」

七海くんは僕が部屋にこもり始めてから何度も来る。返事がないとわかっているはずなのに、一日一回は声を掛けてくる。

「灰原の傷はもう大丈夫だそうです。明日から授業にも参加します。・・・灰原が、心配していましたよ」

良かった、灰原くんはちゃんと治ったんだ。けど、合わせる顔がない。

「明日から灰原も来ると思いますよ。気まずい気持ちはあるかもしれませんが、灰原は会いたがっています」

それは困る。僕は本当に合わせる顔がないし、何よりもし少しでも嫌そうな顔をされたらと思うと・・・

七海くんがそう予告した通り、灰原くんは翌日には僕の部屋の前にやってきた。


「苗字、七海から苗字がずっと部屋に籠ってるって聞いて・・・ちゃんと食べてる?良かったらさ、三人でご飯とか・・・」

「む、無理」

咄嗟に声が出た。

「七海!苗字喋った!」

「流石に突然食事は無理でしょう。此処は無難に、会話から始めましょう」

「そ、そっか。じゃぁ、扉越しに一緒にご飯とかは」

七海くんも傍にいたらしく、僕の身体がびくりと跳ねる。


「苗字が一度もお見舞いに来てくれなくて寂しかったなぁ。僕、苗字とは仲が良いつもりでいたから」

仲が良い?そうだっただろうか、と困惑していると、七海くんも「そうでしたっけ」と言う。そうだよね、灰原くんはよく話しかけてくれていたけど、特別仲良くはしてなかったし・・・

「えっ!?そ、そうなの?僕てっきり、僕と七海と苗字でチームだとばっかり・・・」

「チームはチームですけど、仲良く一緒に何かをした覚えはないですよ」

チーム?チームというのも正直僕は違う気がする。僕は実家の仕事でよく任務から抜けていたし。なのに七海くんまで、僕をチーム扱いするの?


「じゃぁこれから仲良くしないと。折角友達になれたんだから」

チームの次は友達?二人は僕の友達のつもりだったの?

「あ!聞いてよ苗字、明日から僕ら、五条先輩たちに強化訓練を受けることになったんだ!」

「前回の任務で夏油先輩が夜蛾先生に提案したそうです。苗字も参加しますよね?私たちを見捨てる気ですか?」

え?え?と驚きながら扉を見つめる。二人はどうしてそんな風に話しかけてくるんだろう。僕は他人から見れば嫌悪されるようなことをしたのに。


「苗字?返事が聞こえないけど、寝ちゃった?」

「まだ夕方六時ですよ、寝るには早すぎます」

「今からコンビニで何か買ってくるけど、何がいい?嫌いなものある?」

「要望がない場合は適当に買ってきますよ」

困惑し切った僕は、よろよろと扉に近づく。

その足音が聞こえたのか「ちょっとだけ!ちょっとだけ顔を見せて!」と灰原くんが声を掛けてくる。

顔を?見るのは嫌じゃない?怖い目で僕を見たりしない?

頭の中に浮かぶ灰原くんは何時だって笑顔で、嫌悪の表情なんて思い浮かばないけれど、それでもまだ怖い。けど少し、ほんの少しだけなら・・・

かちゃっ、と小さな音を立てて鍵が開いた。

だらだらと汗を流しながら、息を切らせながら、ドアノブを捻る。

怖い、怖い、怖い怖い・・・大丈夫だろうか、この扉の向こうは、本当に・・・


「あ、良かった!生きてる!」

「そりゃ生きてるでしょう」

扉の向こう側にいた灰原くんは、少し顔が赤いけど笑顔だった。七海くんはいつも通りだけど、その目に嫌悪が浮かんでいる様子はなかった。


「あっ、ああっ、あの・・・」

「コンビニ、一緒に行けそう?」

「えっ」

こっちに手が伸びて来て、きゅっと軽い力で握られる。

どうしようと視線を漂わせると、七海くんと目が合った。彼は小さくため息を吐くと「観念した方がいいですよ」と少し笑う。

抵抗する間もなく手を引かれ、寮の外に出た。途中ですれ違った五条先輩が声を掛けようとしてきたけれど、それを傍にいた夏油先輩や家入先輩が取り押さえていた。


「は、灰原くん・・・手、何時まで握るの?」

「苗字が逃げようとしなくなるまで!」

「にげっ、逃げないから」

「えー・・・でももうちょっとだけ」

ふふっと笑った灰原くんは結局コンビニに入ってからも、一緒にお弁当を選ぶ時も、僕の手を握ったままだった。

支払いの時に漸く手を放してくれたかと思えば、今度は七海くんに手を握られる。


「え、えっと、七海くん・・・」

「逃げそうなので、捕まえておきますね」

「逃げないってば」

支払いが終わった灰原くんに逆の手を握られてしまっては、もう僕は逃げられない。逃げないと言ったけれど、実のところ逃げられそうなら逃げるつもりだった。

「あっ、お金・・・」

「僕の奢り!」

「心配をかけた罰です。私も奢って貰ってるので、気にしないでいいですよ」

そう言われたけど、死んだのは灰原くんのせいじゃなくて灰原くんを殺した奴のせいだし・・・

おろおろしながらも寮に戻され、自然な様子で僕の部屋に入ってきた二人はテーブルの上にお弁当を並べた。


「いやー、入院生活が割と短めで良かったよ。実家の家族からさ、今度妹の誕生日だけど帰ってくるのかってメールきてて・・・ちょっと焦った」

「そ、そうなんだ」

「そう!だから、苗字のおかげで助かった!誕生日に帰ってこなかったら、妹絶対怒ってただろうし」

ぱきっと割り箸を綺麗に二つに割りながら灰原くんは明るく笑う。それに対してなんて言えばいいのかわからない僕に、灰原くんは「有難う!」と言う。

どうして有難うなんだろう。僕は死体の灰原くんにあんなことをしたのに。


「貴方がずっと不安そうなので、この際はっきり言いますが・・・私たちは貴方の術式をとっくの昔に聞かされていましたよ。デリカシーゼロの五条先輩に」

「あ・・・そ、そうだったんだ」

そうだ、そうだよね、僕が隠していたとしても、関係者とか・・・特に御三家の五条先輩は知っていて当然か。そこから話が漏れたって、何も可笑しくない。


「『あの方法』でしか蘇生が出来ないのは、術式の効力を増すための縛りでしょう。全て聞いた話でしかないですが、貴方はその特異な能力のせいで常に多忙な術師です。・・・そんな貴方に蘇生を施してもらうには、本来それ相応の報酬が必要なはずです。その取引に関しての一切は貴方の実家が取り仕切っていると聞きました」

「僕は非術師の家の出だし、本来は死んだらそのまま終わりのはずだった。なのに苗字は、後から実家に何か言われるのをわかってて僕を助けてくれた。そりゃ初めてその方法を聞いたときは吃驚したけど、凄い感謝してるんだ。有難う」

二人が精一杯僕の正当性を説明しようとしてくれている。

僕がぼろりと涙を流し「き、気持ち悪くない?」と聞けば、灰原くんは頬を赤くして「ちょっと恥ずかしい」と笑った。




蘇っちまえよ!




「苗字が部屋に籠っちゃったって聞いてさ、僕てっきり『えっ、僕とえっちしちゃったのそんなに嫌だった!?』て焦った」

「えっ、えっ、嫌とかは思わなかった、かな」

良かったー!と何故か喜ぶ灰原くんに困惑していると、七海くんが「気にするだけ無駄ですよ」と僕のお弁当に唐揚げを一つ入れてくれた。



あとがき

術式がエロ同人というよりは屍姦という特殊性癖な子の話。
『別件』でおそらく死ぬはずだった人たちがいろいろ蘇ってる。その件で闇堕ちギリギリ回避した夏油さんからもいろいろ聞かれそう。

原作時間軸になる頃には完全に不能()になった男主を、相手は未定だけれど誰かが復活()させる予定。



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