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耳に突っ込んでいたイヤホンが今回のレース結果を高らかに告げる。

俺は舌打ちを一つしイヤホンを外す。ちくしょう、今回もハズレか。


あーあ、ついてねーな。そう思いながらごろりと寝転がる。床に置かれたポテチの袋に手を突っ込み、バリバリと貪る。

のんびりと過ごしていると、玄関の方で扉が開く音がした。安いアパートだから、扉が開く振動が床を伝ってやってくる。

ばたんっ!とやや乱暴に閉まった扉と、こちらに向かってくる大きな足音。どうやら足音の主はご立腹らしい。


「甚爾さん!いい加減うちを勝手に使うのやめてください!」

勢いよく部屋に飛び込んできたのは、一応はこの部屋の家主である若い男。

うっせぇのが帰ってきたと思いながら見上げれば、むすっとした顔と目が合う。


「あー?お前が何時でも来てくださいって言ったんだろうが」

「言いましたけど!確かに言いましたけど!こんなに高頻度で寝泊まりしたり勝手に冷蔵庫の中身を食い散らかしていくとは思わないじゃないですか!」

「おいおい、食い散らかすってひでぇ言い方だなぁ」

そう言いつつポテチを食べれば「床!落ちてる!」と文句を言われる。別に後でお前が掃除するからいいじゃん、と思ったが言ったら余計に怒鳴ってくるだろうから言わない。


「甚爾さんめっちゃ食うから、食費凄いんですよ!うちに入り浸るなら、食費ぐらい入れてください!」

「はぁ?・・・はー、ったく、そうつれないこと言うなよ名前」

めんどくせーなぁ、と思いながら体を起こし、ぐいっと名前の腕を掴む。不意打ちだったからか呆気なく倒れ込んできた名前を抱きしめてやれば、その顔は一瞬にして真っ赤に染まった。


「ひっ・・・と、甚爾さん、止めてください」

まったく、出会った頃はもうちょっとしおらしいというか、俺が言う前になんでもしてくれる都合の良い奴だったのに。

一度気まぐれに呪霊から助けてやったら、お礼をしたいと言い出したのはそっちだろ。大して料理上手というわけじゃないが、まぁ一人暮らしの男が作るならこんなもんだろうという腹が膨れる料理を振る舞い、頼んでもないのに風呂やら酒やらを用意して・・・

おそらく本人からすればそれがお礼の全てだったのだろうが、何時でも来てくださいと言われたなら俺は勿論そうする。

女の家でも良いが、同じ男だからか何かと気が回るし、小言は言ってくるがなんだかんだ言ってこいつは俺に甘い。命の恩人だからとか、そういう理由も含めてだか、こいつはとことん俺に甘い。


「知ってんだぞぉ?お前が俺のこと『そういう目』で見てんの。好きだろ?俺のこと」

だから、たまにこういうことをしてやれば、なんだかんだ言いつつこいつはまた俺に尽くしてくれる。

「ちょっとだけサービスしてやるよ。それで今回はチャラな」

「は?ちょっ、わっ、何で脱ぐんですか!」

「サービスしてやるっつってんだろぉ?有難く受け取っとけよ」

「ーっ!甚爾さん、駄目です!駄目ですってば!」

「とか言いつつ、ちょっと勃起してんじゃねーか。若いなぁ?」

そう揶揄えば真っ赤なまま黙る名前に俺は腹を抱えて笑いそうになる。


シャツを脱いで肌を見せつつ、手で軽く名前の股間を撫で上げる。たったこれだけで黙るこいつは絶対に童貞だろう。

駄目ですとか言いながら俺の身体めっちゃ見てるじゃねぇか。おいおい、男の胸なんて見てそんなに楽しいか?

にやにやとしていると名前と目が合う。その目がじわじわ潤んでいくのを見て、女はこういう犬みたいな若い男が大好きだよなぁ、と何気なく思った。


「・・・ま!駄目ならしょーがねぇな」

は?という声が聞こえたが無視だ。俺はにやにや笑いながら脱いだシャツを再び着こむ。

おいおい随分残念そうな顔するじゃねーか。けど、たったこれだけで「・・・当たり前じゃないですか」と強がって引き下がるようじゃ、何時までたっても童貞決定だぞお前。

小言を言われた面倒くささを名前を揶揄うことで解消。むしろ面白過ぎて気持ち的にはプラスになった。本当にこいつおもしれー。


「甚爾さんほど教育に良くない大人、見たことないです」

「でもそんな俺が好きだろ?愛する俺をもっと甘やかせよ」

「・・・今日の晩御飯はハヤシライスの予定です」

「あ?俺、今日は肉の気分」

「今日は!ハヤシライスです!」

貴方の要望なんて聞きません!という態度を取っているが、俺に食事を与えないという選択肢はないらしい。馬鹿だなーこいつ、と思いつつ「はいはい、わかったよ」と適当に返事をして再び寝転んだ。



一晩名前の家でだらだらして、気分がのったら裏の仕事をこなし、それで手に入れた金をギャンブルにつぎ込む。

あれだけあった金はあっという間にハズレ券に代わり、むしゃくしゃしながら住宅地を歩く。此処から一番近いのはあいつの家だ。あの日からほんの二日しか経ってないが、なんだかんだ言って名前は断らないだろう。

どうせなら酒も買いに行かせるか、と思いつつ歩くと「名前くん!」というあいつを呼ぶ声が聞こえた。

見れば、そこそこ見た目の良い綺麗に着飾った女が一人、名前を追いかけている。


名前を呼ばれた名前は足を止め、心底嫌そうな顔で女を振り返った。

その表情は俺に小言を言う時とは比べ物にならないぐらい嫌悪に満ちたもので「あいつ、あんな顔も出来たのか」という感想が浮かぶ。

「待ってよ!一回一緒にご飯行くぐらいいいじゃん!」

「無理です」

何やら修羅場の気配を感じ、面白く思いそれを見守ることにした。

どうやらあの女は名前に気があるらしい。しかし名前にその気は全くなし、と。

どう考えたって俺のことが好きな名前は、自惚れでもなくあの女に靡くことはないだろう。

それにしても名前、俺がいない時はあんな態度なのか?顔はピクリとも笑わねーし、目つきヤバすぎだろ。


「経済学部の米盛さんのこともフったんでしょ?あの人自己主張強いもんね。けど私は大丈夫だから!名前くんの好みと違うなら、好みになれるように頑張るし!趣味だって合わせる!」

「いや、そういうのマジで無理なんで。いい迷惑です、帰ってください」

嫌そうな顔をこれっぽっちも隠すことなく女に言い放つ名前に少しぞくぞくするのもを感じ、思わず笑ってしまった。

マジかよあいつ。聞いた感じじゃ結構モテてて?なのにあいつが好きなのは俺で?あっさりと女をフるどころか冷たくあしらうような奴?最高過ぎるだろあいつ。


「そ、そんな、酷いよ名前くんっ、私本気で・・・」

女が今にも泣きだしそうな涙声に変わったあたりで、俺はそろそろ行くかと歩を進めた。

「おい、名前」

「・・・甚爾さん?」

よぉ、と片手をあげて近づき、その肩に腕を回す。


「こんなところで奇遇じゃねーか。今帰りか?」

「まぁはい・・・」

「俺、今日は唐揚げ食いてぇ。な、いいだろ?」

肩に回していない方の手を名前の手に絡め、顔を近づける。

先程の冷たい表情が嘘のように、ぶわりと顔を赤くする名前。

女がこちらを唖然と見つめているが、俺はあえて見せつける。


「な?今日もサービスしてやるから」

「・・・っ、ほんと、止めてくださいよ甚爾さんっ」

とかいいつつ全然俺を振り払おうとしないの、あんたも気づいただろ?

名前が真っ赤になって焦っている間に、俺はちらりと女を見た。

目が合った瞬間にやりと笑ってやれば、女が怒りとも羞恥ともとれる表情を浮かべ、その場から走り去って行った。

あーあ、可哀想になぁ。俺みたいな奴に首ったけな男を好きになっちまうなんて。


「はぁ・・・唐揚げ食べたいなら、買い出しいかないとです。行きますよ甚爾さん」

「俺は家で待ってる」

「行きますよ!ただ飯食べる気なら、少しは手伝ってください!」

「はー・・・もうちょっと俺を可愛がれよ」

腕を掴まれぐいぐいとスーパーまで引っ張られ、荷物持ちまでさせられた。

そういえばこいつ、女がいなくなったのにこれっぽっちも気にしてなかったな。こいつもこいつで俺とは種類の違うクズじゃねーか。

まぁ正直気分がいいな。こいつ、人によって態度変えんのか。こうやってなんだかんだと世話を焼こうとするのは、俺だけってか?


「甚爾さん滅茶苦茶食べるからなぁ・・・揚げるの大変」

「荷物持ちはしてやったんだから、頑張って揚げろよ」

「甚爾さんはサラダ作っといてください!」

「はー、人遣いが荒すぎるだろ」

ぶつぶつ文句を言いながら冷蔵庫を開ければ、ビールの缶が数本並んでいた。

こいつは酒は飲まないと前に言っていたし、こいつの分じゃないだろう。


「・・・ビール、用意してるんで後で飲んでいいですよ」

顔を赤くしながら少し顔を背けて言う名前に、気分が最高にノった時は大サービスしてやってもいいかもしれないと思った。




惚れた弱みの有効活用




ありがとな、名前。そう言って頬に軽くキスをしてやったら、名前は「こ、今回だけですからね!」と唐揚げの他にもつまみをいくつも用意する。

こいつちょろいな、と思いつつサービスでぴっとりくっ付いて隣に座れば、甲斐甲斐しく「口の端、汚れてますよ」「ご飯おかわりいりますか?」と世話を焼かれた。

まぁこの生活も悪くねーな。



あとがき

心底甚爾さんに惚れてる大学生主。集られてるってわかってるから一応抗議はするけど、サービス()されちゃうとうっかりいいように扱われちゃう。
そのうち「これ、息子と娘」といって恵くんと津美紀ちゃんを連れてこられて唖然とするけど、なんだかんだ言いつつ二人の世話もしちゃいそう。

実は民俗学を専攻してて卒業レポートのために盤星教について調べていた時に偶然仕事中の甚爾さんと遭遇してひと悶着あったり、そのせいで甚爾さん生存ルートがぎりぎり確定しちゃったり、甚爾さんじゃなくて男主のことをお父さんとか呼んじゃう恵くんと津美紀ちゃんとか・・・

楽しいなぁ。



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