×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -





小学校が終わって、家に帰らずに近所の林の中に入った。

同じクラスのショウくんがこの林で大きな虫を見付けて、クラスで自慢してたから。僕も同じかそれ以上に大きな虫を捕まえて、皆を吃驚させるんだ!


ランドセルは林の入り口に生えてる大きな木の裏に隠した。被っていた帽子が虫網の代わりで、空っぽのお菓子箱が虫かごの代わり。

落ち葉をさくさく踏みながら林の中を走っていると、時間はあっという間に過ぎて行く。

少し薄暗くなってきて、目当ての大きさの虫はいなかったけれど仕方ないからもう帰ろうかなって思った時、僕は見知らぬ背中を見付けた。



「わぁ!君だぁれ!?」

「エっ!?」

声を掛けるとこっちを振り返った、不思議な色をした不思議な生き物。けれど「えっ!?」って言ったから、言葉は通じる。僕の知らない生き物!凄い!


「僕、名前!虫取りしに来たんだ!」

「お、俺、血塗・・・」

「けちず?」

「う、うん」

自己紹介できた!僕は嬉しくなって血塗に近づいて「握手する?」と手を伸ばす。


「握手?え?俺と?」

「うん!自己紹介したら、仲良くしましょうねって握手するんだよ!ママが言ってた」

「ママ・・・わ、わかった、握手してやるヨ」

ぎゅっと握られた手を握り返して、僕は「じゃぁ血塗と僕はお友達だね!」と笑う。


「血塗って森の妖精さん?」

「妖精じゃねぇ」

「じゃぁ何?」

「うーん・・・呪霊と人間の、中間?俺、難しことはわかんねぇよぉ」

「じゅれぇ?妖怪みたいなの?じゃぁ血塗は、ハーフなんだ!すごーい!」

ジュレイはよくわからないけど、ハーフが凄いのはわかる。ママが好きな俳優さんも確かハーフだったから。コクサイケッコンって凄いんだって。妖怪と人間のハーフの血塗も、きっとコクサイケッコンなんだ。


「凄い?お、俺、凄い?」

「うん!ねぇ血塗は虫取り出来る?」

「したことねぇ」

「えぇー!じゃぁ一緒にしようよ!」

本当はもう帰らないといけないけど、折角血塗と出会えたんだからもうちょっと遊びたい。

血塗は大きな口で笑って頷こうとしたけれど、途中で何かを思い出したように「あ!」と言った。


「俺、兄者とやることあったんだった」

「そうなの!?血塗、お兄ちゃんいるの!?いいなぁ、僕一人っ子だから・・・」

「へへっ、兄者はすげぇんだぞ。俺より強くて頭もよくて、すっげぇ頼りになる」

「えー!いいないいなぁ!」

「へへへっ」

自慢げに笑う血塗が羨ましい。前にママに「お兄ちゃんが欲しい」ってお願いしたことがあったけれど、ママは「ごめんねぇ」って笑うばかりだった。


「僕も血塗のお兄ちゃん会いたい」

「えっ・・・んー、んー・・・多分、大丈夫だと思う」

「ほんと!?わぁ、じゃぁ血塗のお兄ちゃんに会ったら今日は帰ろっと」

「わかった!じゃぁ俺がおぶって兄者のところに連れてってやるよぉ」

くるりと背中を向けた血塗に「うん!」と返事をしながら飛びつく。


「落ちるなよぉ?」

「頑張る!」

ぎゅっと血塗にしがみ付くと、血塗が走り出した。



「わっ!わっ!血塗はやーい!」

「へへっ!はえぇだろー」

「凄い凄い!」

次々変わっていく景色にはしゃいでいると「あれぇ?兄者いねぇぞー?」と血塗が言った。


「血塗、迷子?」

「迷子じゃねぇよー!」

「あははっ!ジャンプやめてよぉ、ぐらぐらする」

突然ジャンプして僕を驚かせる血塗に笑ってしがみ付き直す。身体はひんやりしてるし、ちょっと不思議なニオイがするけど、そんなに嫌な感じはしない。


「名前、楽しいかぁ?」

「うん!凄く楽しい!」

「兄者はなかなか見つからねぇけど、多分もうちょっと!」

「わかったぁ!」

びゅんびゅんっと風がほっぺに当たる。血塗のジャンプが凄くて、木より高く飛んだりする。やっぱり妖怪と人間のハーフって凄いんだ!


「んん!あっちな感じがする!」

空高く飛んでいた血塗が突然洞窟みたいな場所に入る。

そしたら、洞窟には僕より大きなお兄さんやお姉さんがいた。

「はっ!?子供!?」

お兄さんとお姉さんが驚いて、血塗も「わっ!此処違った!」と驚きながら走り出す。


「その子を放せ!」

「ちょっと餓鬼んちょ!ちょっと痛いかもしんないけど、背中から降りな!」

後ろから追いかけてくるお兄さんとお姉さんが何か言ってるけど、よくわからない。


「血塗!なんかお兄さんとお姉さん怒ってる?何かした?」

「えぇー?俺、何もしてねぇよぉ」

「そっかぁ!じゃぁたぶんヒトチガイだね!」

笑いながら言えば血塗も「そうかもなぁ!」と笑った。逃げ回ってるうちに僕たちを追いかけていたお姉さんが黒い何かに飲み込まれて、それを見た血塗が「あ!兄者あっちにいる!」って言って同じように黒い何かの中に飛び込んだ。

まるで大冒険してるみたいだ。僕はどきどきしながら血塗にぎゅっとしがみ付く。



「兄者ぁ!見てくれよぉ!俺のトモダチぃ」

「わぁー!血塗のお兄ちゃん大きいねぇー!」

黒い何かの中からようやく飛び出したら、さっきのお姉さんと血塗のお兄ちゃんらしい人がいた。

ハーフだからかな?水着みたいな不思議な格好をしたお兄ちゃんは、僕と血塗を見て吃驚した顔をしてた。


「血塗!何をしているんです!」

「あっちの方で会った!俺のトモダチ!」

「血塗の友達の名前です!小学一年生です!」

「小学一年生って何だぁ?」

「小学校の一年生!」

「んえぇ???」

血塗は小学校がわからなみたい。ハーフの学校ってないのかな?

二人して首を傾げていると、後ろからもう一人のお兄さんが出てきた。


「なぁ君!そいつ危ないから、すぐに離れろ!」

そいつって誰のことだろう。僕の傍にいるのは友達の血塗だけだから、きっとお兄さんは何か勘違いしてるんだ。でももしかしたら血塗が何かしちゃったのかな?

「血塗、やっぱり何かした?」

「まだなぁんもしてねぇよー!ね、兄者!」

「え?ま、まぁ、そうですね・・・それより血塗!目的も果たさずに何をしてたんですか!」

「ひゃっ・・・血塗、僕のせいで怒られてる?ごめんね血塗、僕も一緒に怒られるね!」

「名前は悪くねぇよぉ・・・俺が用事をすっかり忘れてたから・・・」

二人でしょんぼりしつつ、僕は血塗の背中から降りて血塗と手をつなぐ。


「血塗のお兄ちゃんって何て名前?」

「兄者の名前は壊相」

「えそぉ?壊相さん、ごめんなさい!」

「ごめんよ兄者ぁ!」

てくてくと血塗のお兄ちゃんの壊相さんに近づいてぺこりと頭を下げれば、壊相さんは「え、あ、いえ・・・そこまで怒ってはいません」と首を振った。


「血塗のお兄ちゃん優しいね!」

「へへっ!いいだろぉ」

「いいなぁ!僕もやっぱりお兄ちゃん欲しい!」

「へへへっ」

ついさっきみたいに自慢げに笑う血塗に「もー!」と言って頭突きをするように抱き着く。


「あ!血塗のお兄ちゃんにも会ったし、今日はもう帰らなきゃ!真っ暗!」

でも血塗の背中にのって移動してる間にランドセルまで凄く遠くなっちゃった。

「血塗どうしよう、ランドセル置いてきちゃった」

「ランドセルって何だ?」

「小学校のお道具を入れるバッグ!僕のね、水色!ママが買ってくれたの!」

「よくわかんねぇけど、取りに戻るかぁ?」

「連れてってくれるの?」

「いいぞ!兄者!名前送っていい?」

「は?い、いえ・・・まぁ、いいですよ、気を付けて」

何で壊相さんはそんなに困った顔をしてるんだろう。お兄さんもお姉さんは変な顔してるし。


「あ!血塗、お電話番号ある?今度はちゃんと遊ぼうね!」

「番号?」

「お家のお電話番号。ない?」

「えー?兄者ぁ!番号ある?」

「いえ、そういったものはないですね・・・」

壊相さんの言葉に少しがっかり。


「な、なぁ」

がっかりして肩を落としていた僕に、お兄さんが声を掛けてきた。

「俺、虎杖悠仁。君さ、そいつとずっと一緒にいたんだよな?何か怖いことされたりしてないか?」

「血塗はそんなことしないよ!友達だもん」

「そ、そっかぁ・・・あ、あのさ、今ちょっと大人の人に連絡してさ、もう少しすれば此処にくるらしいんだ」

「誰が来るの?」

「えーっと・・・」

「そこの兄弟?に聞きたいことがあんのよ」

今度はお姉さんも話しかけてきた。お姉さんの方を見れば「あー、釘崎野薔薇ね、覚えときなさいよ」と言われた。

「・・・血塗と壊相さんに酷いことしない?」

「し、しないしない!ちゃんと話をしてくれるなら、攻撃とかもしないから!だから、その大人が来るまで君も大人しく待っててくれないか?頼むよ」

両手を合わせてそう言う悠仁くんを見て、ちらりと血塗を見る。血塗は首を傾げて僕を見ている。


「ママが、ハーフは格好良いけど、ハーフなせいでいじめられることもあるって言ってた!血塗と壊相さんのこと虐めたら、僕が許さないから!」

ぎゅっと血塗に抱き着きながら言うと「へー、凄い子だねこの子」という知らない人の声が後ろからした。

「え?」

吃驚した振り返った瞬間、ぴとっとおでこに何かが当たって、僕は・・・





「・・・あれ?」

気付いたら僕は、自分の部屋のお布団の中にいた。

あれ?血塗は?血塗のお兄ちゃんの壊相さんは?

きょろきょろしていると、ベッドの上に小さな紙が置いてあった。


「お電話番号・・・」

そこには誰かのお電話番号が書かれていて、僕はベッドから降りると家の電話のところまで走った。





妖精さんと友達になった





「いやぁ、まさか呪物を生徒にする日が来るなんてなぁ」

あの日悠仁からの連絡で駆けつけた五条は、先日の襲撃事件で盗まれた呪胎九相図の受肉体を二体発見。そのうちの一体がどういうわけか人間の子供と親しくしており、それを目の当たりにしたもう一体が激しい動揺からか動けずにいたのも確認した。

五条は早々に子供を眠らせ、まるで人質にとるような形で「ちょっと話でもしない?」と笑った。完全に悪役だったと後の野薔薇は語る。


受肉体二体を拘束し高専へ連れ帰った五条は「質問に正直に答える」ことで血塗に名前の安否を約束し、同じく「質問に正直に答える」ことに加えて「高専内で大人しくする」ことで壊相に血塗と血塗が大事にしている様子のある名前の安否を約束した。

約束をした二人から出てくる情報はどれも新しく、五条は大変満足した。


「生徒になった覚えはありません。私たちはあくまで『保護』もしくは『監視対象』でしょう」

「きちんと理解してくれてて嬉しいよ。けどまさか、呪物がこれほどしっかり自我を持ってるとはねぇ・・・」

「・・・血塗の友人とやらは本当に無事ですか?友人のことを気にして血塗はすっかりふさぎ込んでしまった」

「うんうん、あの子は非術師だからねぇ。本当ならこっちに関わらないのが一番なんだけど、それで君の弟は協力的になってくれるし、便利だよね!」

「・・・おそらく貴方は人類で一二を争うクズでしょうね」

吐き捨てるように言った壊相に五条が声を上げて笑っていると、携帯の着信音が鳴った。


「おっと、噂をすれば。ちょっと血塗を呼んできてくれない?君のお友達からお電話だよ、って・・・」

「名前から電話!?」

「わっ、何処から聞いてたの?地獄耳?ヤバイね」

物凄い勢いで走ってきた血塗は五条から携帯電話を渡され、それをそわそわと耳に宛てた。


『こんにちは!血塗のお電話ですか!』

「け、血塗のお電話じゃねぇけど、血塗です!」

嬉しそうに返事をした弟の姿に、あまりよろしくない状況のはずなのに壊相は思わずほっこりした。



戻る