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「明日は交流会だね、楽しみだなぁ」


「・・・名前、わかっているとは思うが、遠足ではないぞ」

「わかってるよ憲紀くん。ねぇ、今回のお土産は八ツ橋でいいかな?それともそばぼうろ?」

明日は姉妹校である東京都立呪術高等専門学校で交流会がある。憲紀は同じ三年生のうちの一人である名前の様子に「どちらでもいいんじゃないか」と言い呆れたようにため息を吐いた。


御三家の一つである加茂家に代々仕える家系、それが苗字家。そこの次男坊である名前と憲紀は長い付き合いだ。

次男が丁度憲紀と同い年だったから。たったそれだけの理由で名前は一生憲紀に仕えることが決定している。本心はどうだかわからないが、憲紀が記憶する限りでは名前は何時だって術師らしからぬゆるやかでふわふわとした笑みを憲紀に向けてくれていた。

母と離れることになり泣きじゃくる憲紀を優しく抱きしめてくれたのは名前だった。厳しい修行で傷ついた憲紀にこっそりとお菓子を持ってきてくれたのは名前だった。

憲紀にとって名前は大事な存在だと言える。何時か再び母と会えたら、その時は名前を最も信頼できる人として紹介したい、そう思うぐらいには名前のことを想っている。

そんな名前だが、長所にして唯一の欠点がある。・・・ゆるゆるふわふわし過ぎているところだ。呪術師にしては擦れてないし、愛想もいいし、幼馴染の贔屓目かもしれないがルックスも整ったいい男である。ただし、思考は綿あめのように緩い。


東京校と京都校の仲が正直言って良くないのは周知の事実。毎年行われている交流会への参加は、今年で三回目。流石に理解していることだろう。

しかしこの名前、毎年毎年これっぽっちも気にせず「初めまして、苗字名前です。これはお土産のくずきりです」と愛想よく相手に挨拶をするし、何なら簡単に連絡先も交換する。

去年なんて最悪だったな、と憲紀は眉を寄せる。去年は乙骨という生徒と何時の間にか仲良くなっていて、当然のように連絡先を交換し、交流会後には記念のツーショットまで撮っていて憲紀を激昂させた。おそらくいまだに乙骨とは連絡を取り合っているのだろう。憲紀はたまに名前の携帯を術式で粉々にしたくなる。



「あれ。憲紀くん、眉間に皺寄ってる。どうしたの?」

旅行鞄に着替えを数着詰めこんでいた名前が憲紀を見て首を傾げる。憲紀が慌てて「何でもない」と言えば、名前は旅行鞄を閉じて憲紀に近づいた。

「何でもなさそうには見えないなぁ。憲紀くん、何か嫌なことでもあった?」

幼い頃から憲紀を見続けていたからか、憲紀の誤魔化しや嘘が名前に通じたことはない。ゆるゆるふわふわの癖して、人の機微に敏感で、宥めたり慰めるのも上手いのだ。


「・・・明日の交流会が心配なだけだよ」

「そっか。あ、でも今年は乙骨くんは交流会に出ないらしいよ。まだ海外なんだって」

やっぱり連絡を取り合っていたのか、と憲紀の口の端が引きつる。

「今年は京都校が勝っちゃうかもね。あ、でも狗巻くんも警戒しておかないと。乙骨くんがいないってなると人数調整のために一年生が参加することになると思うから、初見技も多いだろうなぁ」

楽しみだね、と緩く笑う名前に憲紀は「そうだね」と頷くしかない。

どうせ名前のことだから今年も憲紀の許可なく知り合いの数を増やすのだろう。幼い頃は憲紀だけの名前だったのに。・・・少し、憲紀は唇を噛んだ。

愚かな嫉妬だと理解している。それでも、幼き日の孤独を埋めてくれた##NMAE1##を今更手放せるわけがない。

加茂家に仕える家系だと知っていながら名前宛に届く釣書を本人に届く前に処分しているのは憲紀だ。それをすり抜けてお見合いがセッティングされたと知れば、さりげなく名前に用事を頼んでお見合い自体を中止させている。

憲紀が正式に加茂家の当主になれば、嫁を娶らなければならないのは理解している。結局のところ、全て憲紀の我が儘なのだ。


「・・・名前、今日は寝つきが悪そうだ」

「憲紀くんも緊張してるんだね。僕も、緊張とわくわくで寝付けそうにないよ」

そう言いながら、名前はすたすたと歩き出した。

戻ってきた名前の腕には布団が抱えられている。顔が見えないほど積み重ねられたソレは、一人分ではない。

「ごめんね憲紀くん、ちょっと手伝ってくれる?」

「勿論だ」

名前の顔を隠す布団の一つを受け取り、畳の上に敷く。その隣に名前も布団を敷いた。


寝つきが悪い。憲紀がこう言う時、名前は必ず憲紀と一緒に寝てくれる。

幼い頃は泣きじゃくりながら「一緒に寝て」と懇願したものだ。今となっては殆ど一緒に寝ることはなくなったが、それでも時折、こうやって憲紀が不安になった時には名前と一緒に眠る。

明日の準備は既に済んでいる。名前の方も先程ので終わりだったのだろう。

「寝よっか、憲紀くん」

カチッと部屋の照明を消した名前が布団にもぐる。その隣の布団に憲紀ももぐった。

「ねぇ憲紀くん、明日は頑張ろうね」

「あぁ」

「でも無茶は止めてね。無理だと思ったら一旦引くのも大事だよ。逃げることは情けないことなんかじゃない、次を確実に仕留めるための大事な一歩なんだから」

普段ゆるくてふわふわしている癖に、戦いにおいて名前は慎重だ。それは仕える者として、主人を守るための言葉なのかもしれない。

「逃げることが許されず、その場で絶対に仕留めなければならない相手がいる時は、けして一人で戦おうとしてはいけないよ。そのための僕なんだから」

「・・・私は、君を使い潰したりしない」

「ふふっ、うん、僕もそう簡単には潰れたりしないから。・・・さ、もう寝よう。そろそろ寝ないと寝不足になっちゃう」

布団の上からぽん、ぽんっと優しく腹をたたいてくる名前に、憲紀は「わかった」と目を閉じた。




ゆるふわは生涯仕える




「本日はお世話になります。あ、これはお土産の八ツ橋です。生の方もあるので、是非食べ比べてみてくださいね」

「・・・ご丁寧にどうも」

東京高専に到着早々、一番近くにいた野薔薇にお土産を渡した名前は「あ、先生方の分はこちらです」と愛想よく挨拶をして回る。

その様子を見慣れている京都高専の面々すらも微妙な表情をしているのだから、東京高専がなんともいえない雰囲気になるのも致し方ないだろう。


「勝っても負けても是非仲良くしてくださいね。勿論、本番では全力で呪い合いましょう」

その後の交流戦は少しとは言い難いハプニングがあったものの無事に終了し、名前は何時の間にか虎杖悠仁と連絡先を交換していた。



あとがき

何時からかわからないが、古くから加茂家に仕えている。
もしかするとメロンパンが加茂憲倫だった時からかもしれない。
仕える主人のためなら命すら投げ捨てることもある、結構イカレた家系。
彼の父親は既に亡くなっており、代わりに彼の兄が現当主に仕えている。

歴代加茂家当主は苗字家の人間を使い潰すことに特に戸惑いはない。
だって苗字家はそういう一族なんだから。



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