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直哉には教育係がいる。

呪術師でありながら高専卒業後は大学に行き、海外留学までした呪術界では一風変わった男だ。


資格取得も趣味らしく、教育係らしく教員免許は勿論のこと、危険物取扱だったり呪術師には絶対に必要ないであろうカラーコーディネーターの資格まで持っていて、たまに直哉の着物に合う帯だったり小物だったりを勝手に選んだりしている。

教育係なんて大人になる頃には自然と解任されて別の子供へ担当を変えているものだが、直哉の教育係は直哉がとっくに大人になっていても教育係のまま。


斜め後ろに控え、時折助言をしてくる姿は教育係というよりは側近のような感じだ。周囲も、彼のことは教育係ではなく直哉の側近として認識している。

生みの親よりも、誰よりも傍にいる時間が長い教育係のことは、直哉も憎からず思っている。自分の将来を想像する時は、常に教育係の姿も想像できるぐらいには、教育係の存在が傍にあることを信じて疑っていない。


まぁ実のところ、教育係が直哉の教育係であり続けていることには単純な理由がある。直哉の次に教育係を必要としていたはずの扇の娘が一人は天与呪縛で呪霊が見えず、もう一人も大した実力がなかったがために教育係が必要じゃなかったのだ。

まんまと五条悟に持っていかれた伏黒恵が禪院家に迎えられるなんていう『もしもの世界線』があれば、十中八九教育係は恵につけられていたはずだ。

そんなことも知らずに教育係が自分の側近であるとすら思っている直哉は、どんな話の流れだったかは忘れたが、ふと自分が常々思っている言葉を口にしてみた。


「三歩後ろを歩かれへん女は背中刺されて死んだらえぇ。名前もそう思わん?」

男尊女卑の考えが根深い呪術界では割とポピュラーな考えであり、直哉の発言はそう珍しいものではない。所謂『腐った蜜柑』とその予備軍がある会合でこの発言をすれば多くの賛同が得られ、直哉は自身の教育係である名前からも賛同が得られると信じて疑わなかった。

しかしながら返事が聞こえない。どうしたのかと思いくるりと振り返ってみれば、名前は同意も否定もすることなく、ぱちりぱちりと瞬きを繰り返して直哉を見ていた。


「・・・おやおや、それは困りましたね。直哉様の奥方と私が隣り合って歩くことになります」

「あ?何でそうなるん」

「私は常に直哉様の斜め後ろ、ほぼ三歩後ろに控えております。そうすると、同じく三歩後ろに控える奥方様と隣り合うことになりましょう?まぁそれも良いですね、奥方様と早く仲良くなれそうで」

予想の斜め上どころか、天井を突き破るような予想外の言葉に直哉は先程の名前のようにぱちりぱちりと目を瞬かせる。

そして想像する。未来の自分とその三歩後ろを歩く妻、そしてその横でにこにこ笑っている教育係・・・

え、なんなんそれ無理。その並びだと完全に自分の方が除け者やないの。直哉は自分の頭の中のその光景に苛立った。


教育係は変わり者で、呪力が少ないものやそもそも呪力が無いものにも平気で接する。先程男尊女卑の考えについて賛同を求めてはみたものの、よくよく考えると名前にその考えはなさそうだ。だとすればきっと、直哉の妻に対してもそれはもう親切に接するはずだ、何故なら自分が教育する子の妻であるから。

そうするとどうなる?妻と教育係は仲良くなる。女を胎盤としか見ていない夫なんかよりずっと。そうするとそうすると?

直哉の頭の中に昼ドラじみた光景が浮かんだ。自分のものであるはずの教育係とまだ見ぬ自分の妻が不倫する光景だ。直哉は頭の中でまだ見ぬ自分の妻の顔面を殴った。女の分際で人のもの誑かしよってからに。


「・・・名前は俺の先生なんやから、隣を歩いたらえぇやろ。名前だってうちじゃある程度偉いんやし、誰も文句言わんよ。な?」

ぐいっと名前の腕を掴んで引っ張ってみる。大した抵抗もなく自分の隣に立った名前を見ると、直哉は途端に気分が良くなる。頭の中の妻は既に顔がぼこぼこに腫れ上がっていた。

「おやおや、直哉様はまだ少し甘えたですね」

「もしそう見えるなら、名前の教育が悪かったんかなぁ」

「そう言われると弱いですね。直毘人様に申し訳が立ちません。御給金は毎月しっかりいただいているので」

因みに直毘人にとって、名前に与える給金は年々『教育費』よりかは好き勝手な言動や行動をして周囲からのヘイトを集めまくっている直哉を多少抑え込めていることに対する『養育費』という意味合いへと変わってきているのだが、勿論そんなこと直哉は知らない。名前は少し察している。


「御給金貰えるから御当主様を優先するん?ならそろそろ『禪院家』じゃなくて、俺個人との雇用契約に変えよ?な?えぇやろ?お金はちゃーんと出す」

「そういうことは直毘人様に確認を取った方がいいですよ」

「名前からも言うて?俺とずーっと一緒にいたいから禪院家との雇用契約を終了したいですって」

冗談っぽく、ぴとりと直哉は名前の腕にしがみ付いてみた。どうにもしっくりくるような気がした直哉の口元に笑みが広がる。


そうだ、もし妻が出来たら四六時中この光景を見せつけてやろう。お前に親切にするこの男の一番は俺なんやぞ、と。直哉の口からはくふくふと笑い声が漏れ出てしまう。

直哉の考えを察しているのかいないのか、名前の眉が少し下がる。

「・・・それはそれは、とても突飛な話ですね」

「突飛?むしろもっと早くそうするべきやった」

すりっと腕に擦り寄って、悪戯に胸板なんかを撫でてみたり。機嫌の良い直哉の手を、名前は振り払うことはない。ただただ困ったように眉を下げている。


「な?なぁ?次の禪院家の当主はどうせ俺なんやから。契約とかそういう面倒な手続きは早々に済ませておくに限る。俺、偉いと思わん?」

つつつっと直哉の手が名前の着物の合わせ目に忍び込んだところで、名前はこほりと咳払いを一つ。

つれないなぁ、と呟いた直哉は腕にはしがみ付いたまま、手をそっと合わせ目から離した。


「兎に角、雇用契約については直毘人様とご相談を。私は雇われの身なんですから」

傍から見ればやんわりとした『拒絶』なのだが、直哉は単純に名前が照れているのだと思った。だって自分は名前と一番長く過ごした生徒で、これからも傍に居続ける相手。自分と一緒にいることが名前にとっては一番幸せなはずなのだから。

そんな風に信じて疑わない直哉の頭の中では、未来の自分と名前が仲睦まじく歩いていた。


まるで夫婦のようなその光景に、直哉は一人勝手に満足した。




妄執な妄想をする盲目な愛




呪術師の愛は呪われている。

自分にべったりくっついてうっとりしている直哉を見下ろしながら、名前という教育係はため息を吐きそうになった。

実のところつい先日、古い友人である悟くんから「乙骨憂太って子と一緒に海外に行って欲しい」とお願いの連絡が来ている。禪院家の現当主である直毘人には既にちらりと話しているが、直哉が知ればどうなることか。

思った以上に自分に執着してしまっている直哉をどう説得するべきか。名前の中では既に出発することが決定しているため、どうするべきかと頭を悩ませた。



あとがき

・教育係
禪院の遠い親戚。学ぶことが好きでいろいろと手を出していたら、噂を聞きつけた禪院家で雇われ教育係をすることになった。
五条家の悟くんは年下の友人。
直哉のことは生徒としてある程度大事にしているが、友人から頼られたらそっちを優先するつもり。
この度軟禁か監禁されるフラグが立った。

・直哉
いろいろな偶然が重なって思った以上に長い事自分と一緒にいてくれた教育係に依存している。
教育係の腕に擦り寄ったり抱き着いたりすることを覚えた。これから隙さえあればやる予定。
教育係も自分のことを優先すると信じて疑っていない。
この度ヤンデレフラグが立った。

・五条家の悟くん
大事な生徒である乙骨くんについててあげて欲しい気持ち半分、禪院家に嫌がらせしたい気持ち半分。
大学行ったりいろんな資格を取って自分の知らないことをいっぱい知ってる年上の友人のことは尊敬してる。尊敬する友人が働くべき場所は禪院家ではないよね!って思ってる。



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