※『僕の非日常(×鬼滅)』のIFストーリーとなります。
小さい頃、僕は人攫いに遭ったらしい。
らしい、というのはその時の僕はあまりに幼過ぎて、当時のことを覚えていないからだ。
その時のことを教えてくれた育ての親は、その人攫いから僕を救ってくれた命の恩人でもあり、僕をこの世で一番愛してくれる人。
おくるみに縫われていた『名前』という名前の上に『鬼舞辻』という姓を与えてくれた。血のつながりなんてこれっぽっちもないのに、本当に大事に育ててくれた、素敵な父親。
「名前、いい子にしていたか」
ベンッと鳴女さんの琵琶の音と共に、お父さんの声がした。
ソファに座ったままくるりと振り向いて「お帰りなさい」と言えばお父さんは「あぁ」と返事をして少し笑った。
僕の育ての父親、鬼舞辻無惨。息子の目から見てもお父さんはとても顔が整っていて、少なくとも一児の父親には見えない。まぁお父さんは昔からちっとも姿が変わらない『人ならざる者』だから年を取らないのは仕方ないけれど、それを差し引いてもやっぱり顔が整っている。
「今日は鳴女さんと一緒に読み書きの勉強をして、妓夫太郎くんと堕姫ちゃんと一緒に数の勉強をして、黒死牟さんと一緒に体力づくりを」
体力づくりを、のあたりでお父さんの眉がぴくりと動く。
「何?体力づくりだと?怪我はしなかったのか」
「ただちょっと無限城内を走ったりしただけだけど、やっぱりまだまだ非力で・・・」
「お前に鍛える必要はない。お前に降りかかる危険は、全てこの私が取り払ってやるのだから」
僕の隣に腰掛けたお父さんが僕を抱きしめて言う。昔からお父さんは『お前を守ってやる』『お前はずっと此処にいればいい』と言い続けている。
物心ついた頃から今まで、僕は殆ど外に出たことがない。お父さんは僕を外に出すことを酷く嫌がるから。
一度お父さんの部下である童磨くんが僕を夜のお祭りに連れて行ってくれたけれど、その後は大変だったなぁ。出会い頭に童磨くんはお父さんにこま切れにされて、僕は「名前、私は、外に、出るなと、言った」と珍しくお説教をされた。
お父さんが僕をどれだけ大事にしているか知っているし、僕がいなくなったと知ったお父さんが酷く取り乱していたのだという話は後日鳴女さんから聞いたから、僕はもう勝手に外に出たりしないと決めた。
毎日無限城の中で過ごしているけれど、案外退屈はしない。この城はどこもかしこも僕の『お友達』で満ちているから。
特に猗窩座くんに取り憑いてる恋雪ちゃんとは大の仲良し。たまに猗窩座くんを悲しそうに見つめているけれど、笑顔がとっても可愛くて優しい女の子なんだ。
「あぁそうだ・・・土産がある。食べてみろ」
パッと身体を放してからお父さんが差し出してきたのは、チョコレートとキャラメル。前に童磨くんがくれて凄く嬉しかったのを覚えてる。
僕とお父さんは食べるものが違う。というより、こういうものは僕ぐらいしか食べない。なのに毎日の食事やお土産は僕が美味しいと思うものを用意してくれる。
あまり我が儘を言うつもりはないけれど、僕が「あれが食べたいな・・・」と言えば翌日までには必ず用意されているものだから、きっと僕は凄く甘やかされているんだろう。
甘えすぎないように気を付けたいのに、お父さんもお父さんの部下の人たちもとても親切で、ついつい、本当についつい甘えてしまう。
「わぁ!有難うお父さん」
受け取った二つのうちキャラメルの方の箱を開けて、キャラメルを一粒口に入れる。饅頭ともべっこう飴とも違う甘さに蕩けそうになる。
僕が食べる様子をじっと見つめていたお父さんに「お父さんも一つ」と指でつまんだキャラメルを差し出せば、お父さんは無言で口を開けた。
人よりちょっと鋭い歯。その歯に指が当たらないように軽く注意しながらキャラメルを入れてあげれば、お父さんは「甘ったるい」と少し眉を寄せた。
お父さんがあまりこういったお菓子が好きじゃないのは知っている。けれど毎回必ず受け取ってくれるから、僕もついつい一つあげちゃうんだ。
味わって食べている僕とは対照的にさっさと口の中のキャラメルを噛み潰して飲み込んだお父さんは、僕にぺったりとくっ付くように肩を寄せる。
毎日忙しいのか、帰ってきたお父さんはよく僕にくっ付く。僕の隣が落ち着くからだとか、僕の隣だと心が穏やかになるからだとか、前に理由は言っていた気がする。
「お前は私のものだ」
「うん、僕はお父さんの息子だから」
「私が見つけた。私だけの、私のための、宝物だ」
その言葉に頬が熱くなるのを感じる。お父さんの言葉は何時だって直球で、恥ずかしい。
優しい優しい僕だけのお父さん。太陽の光が弱点で、今はそれを克服するために頑張っているらしい。具体的にどんなことをしているかは知らないけれど、何か一つのことを一生懸命できることは凄いことなんだってこの間鳴女さんと一緒に読んだ本に書いてあった。だから僕のお父さんは凄い人なんだ。
そんな凄い人から『宝物』だって言われることがどれだけ凄いことなのかはわかってる。わかっているからこそ恥ずかしくてこそばゆくて、僕は赤い顔のままお父さんの頭を撫でた。
昔からお父さんは僕の頭を撫でてくれるから、それを真似するようにお父さんの頭を撫でる。前にこれをしてあげたらお父さんは凄く喜んでくれたから、たまにこうやって撫でるんだ。
やっぱりお父さんは僕に撫でられるのが好きみたいで、無言で手に頭を押し付けてくる。
こういうのって『猫っぽい』のかな。堕姫ちゃんの職場でも何匹か猫が飼われていて、こんな感じの反応をする猫もいるんだって教えてくれた。勿論、教えて貰ったということはお父さんには内緒。
「お前は幸せか」
「うん、お父さんといられて幸せだよ」
「お前にとって、私は大切か」
「勿論だよ。僕はお父さんが大好きだから」
お父さんの頭を撫でながら返事をすれば、お父さんは口元を笑みの形に緩めて僕の頬に唇を寄せた。
それが恥ずかしくて恥ずかしくて、僕は「お父さんくすぐったいよ」と肩をすくめた。
お父様は鬼の首領
名前、名前。そいつは危険なの。早く逃げないと。何時か食い殺されてしまうよ。
霊たちは口々に言うけれど、お父さんはやっぱり僕のお父さんだから。
生きているうちに食べられてしまうのは嫌だけど、僕が死んでからなら、僕の身体が食べられたってかまわない。そんな風に思ってしまうんだ。
お相手:鬼滅の刃に出てくる鬼とかがいいです…。無惨様とか…。
シチュエーション:シチュエーションはとくに希望なしです!小川くんなら鬼からの愛が約束されてそうなので…。
老夫婦に拾われ煉獄家のお隣さんになる前に、無惨に発見されたIF。
無限城に連れていかれ、そのまま箱入りで育つけれど奇跡的に良い子に育つ。
たぶんそのうち上弦という護衛付きで少しだけ外を散歩する許可を得るけど、うっかり鬼狩りに遭遇しそう。それか、最終決戦で「何で人間が此処に!?」って鬼狩りたちに驚かれてもいい。どちらにしても、大事に自分を育ててくれたお父さんを裏切るつもりは微塵もない。