ジョースター家とは、昔から親交があった。
だからこそ、ジョースター家に新たな家族が出来たことに、私も多いに喜んだ。
「ジョージ!久しいな!」
「おぉ名前。元気そうじゃないか」
軽くハグをすでばジョージも笑顔で返してくれる。
「あ!名前おじさん!」
「おぉ、もしやお前はジョジョか?デカくなったなぁ!」
自分に駆け寄ってくるジョージによく似た子供。
「子供の成長とは早いものだな。私が最後に見た時は、もっと小さかったはずだぞ?」
これは将来が楽しみだな。と言えば、ジョジョはにこにこと笑って「有難うございます」と言った。
屋敷の内装も昔と大して変わっていないようだし、本当に懐かしい。
「お互いに忙しくてなかなか会えなかったからな。再びこの屋敷に来ることが出来て嬉しいぞ、ジョージ」
私の言葉にジョージも笑顔になり「私もだ」と頷いた。
「ところでジョージ。お前の手紙に書いてあったディオという子は何処だ?お前の新しい息子を見ておきたいのだが・・・」
私は視線をきょろきょろと動かし、こちらをうかがっている影を見つける。
「もしや君か?」
気付かれたことに驚いたのか、その子は肩をぴくっと揺らしてから、こちらに近づいてくる。
「初めまして。ディオ・ブランドーです」
「礼儀正しい子じゃないか!」
「ディオ、彼は私の古い友人の名前だ」
ジョージの言葉にディオはこくりと頷き、笑みを浮かべて「名前さんですね」と言った。
「ディオ、名前おじさんは凄い人なんだよ!頭が良いだけじゃなくて、優しいし強いし、僕の憧れなんだ!」
「はっはっはっ、照れるじゃないかジョジョ。お前もきっと、将来は強くて優しい紳士になれるだろうな」
ジョジョの頭をぐしゃぐしゃと撫で、今度はディオに笑みを向ける。
「此処は温かい家だ。もし辛いことがあれば、すぐに相談すれば良い。なんだったら私にも手紙を書いてはくれないか?是非ともジョースター家の新たな家族である君と仲良くなりたい」
「はい。僕も是非貴方と仲良く成りたいです」
その言葉に気を良くした私はディオをひょいっと抱き上げる。
わっ!?と声を上げるディオを更に高く抱き上げ「良い子じゃないか!」と私は笑う。
「私もジョジョとディオのような息子が欲しいぐらいだ!」
「ならばそろそろ身を固めれば良いだろう?」
「ジョージ・・・私が女性が駄目なの、知ってるだろう?」
私の言葉にジョージは「すまない」と苦笑する。
ディオが不思議そうな顔をしているのに気付き、私は「あぁ、ディオが知らないのも当然か」とジョージと同じように苦笑する。
「私はどうにも女性運がないらしくてな。今まで女性に良い思い出が無いんだ。・・・あぁもちろん、ジョージの妻は良い女性だった。流石はジョージの選んだ女性だと感嘆したほどだ」
空いている手でジョジョの頭を撫でればジョジョは嬉しそうな顔をする。
腕の中のディオが「あの・・・そろそろ」と声を上げているが、あえてそれを無視してみる。
「養子を取ろうと考えたこともあるんだがな。ジョジョを見ていると思う・・・やはり良い母の愛に包まれて生まれたからこそ、こんなに元気に育つのだろうと。それに加えジョージの深い愛。こりゃもう、独身には真似できる代物じゃぁないってな」
ふぅっと息を吐いてディオを見た。
「ディオも、きっと素晴らしい母から生まれたのだろう。お前を生んでくれた母に最大の感謝をしようじゃないか」
ぴくっと肩を震わせたディオをそっと降ろし、私はジョージに「しばらく此処に滞在させてくれ」と頼んだ。
ジョージはそれを快く引き受けてくれて、ジョジョも喜んでくれた。
数日後の夜、客用の寝室で休んでいた私の耳に、控えめなノックの音が届いた。
「僕です、名前さん」
「ん?あぁ、ディオか」
部屋に入ってきたディオを見て、私は読書の手を止める。
ディオは「勉強を教えてもらいたくて」と笑った。
ここ数日で、ディオは随分と私に懐いた、と思う。たぶんだが。
「駄目ですか?」
「駄目なわけがない。おいで、ディオ」
本を片付けて私の向かい側のソファーに座らせる。
「何処だ?」
「此処です」
それはディオならば簡単にわかりそうなものだったが、私はたいして気にせずに「それならこうすれば良い」と教える。
ディオは「あぁ、そうだったんですか」と小さく微笑むと、突然じっと私を見つめた。
「名前さん・・・」
「ん?どうかしたかな?」
「名前さんは、一生独身のつもりなんですか?」
「一生・・・あぁ、そういう風に言うと、何だかさびしいな。孤独は寂しいものだ」
つい眉を下げる私の手を、ディオが握る。
「ディオ?」
「・・・僕じゃ、駄目ですか?」
その言葉に私は目を見開いた。
この子の目は真っ直ぐと・・・けれど、何かをたくらんでいるようなものだった。
私はその視線から目を逸らし、小さく息をついた。
「大人をからかうものじゃないよ、ディオ」
「・・・・・・」
一瞬でもディオのような子なら、と思ってしまった自分が酷く愚かしいと思った。
「ディオ、そうやってからかうのは私だけにしなさい。ジョジョもジョージも、人が良すぎる分とても騙されやすくて、何時も目が離せないんだから」
淡々とそういって「ほら、もうわからないところはないのだろう?」とディオを部屋の外に追い出す。
ディオはそんな私に「寂しい時は何時でも言ってくださいね」などと言って、去っていく。
「・・・はぁっ」
ソファーに深く腰掛けた私は、頭を抱えながら大きなため息を吐いた。
その更に数日後、私は自分の屋敷へと帰ることになる。
帰った直後、私は新たな事業に手をだし、ジョースター家に赴くこともできなくなってしまった。
ジョジョもディオも大きくなったであろうと考える日も多かった。
そしてある日・・・
――ジョースター家の屋敷が燃え、息子のジョナサンだけが残った。
そんな知らせが、私のもとへと届いた。
その知らせは私を酷く動揺させ、私はすぐにジョースター家へと向かった。
「・・・そんな、まさか」
私の記憶の中の屋敷とはまったく違う光景。
私はぐっと奥歯を噛みしめ、残ったはずのジョジョが今どこにいるのかを探そうとした。
けれどその日はもう心身ともに疲労しており、近くの宿で眠ることにした。
ギシッ、ギシッ・・・
「・・・ん、ぅ?」
床の軋む音と、私の腹の上への圧迫感。
私は目をゆっくりと開く。
「こんばんは、名前さん」
「!!!!!でぃ、ディオ?よかった・・・話ではジョジョ以外みんな死んでしまったと聞いていたが・・・あれは間違いだったか。そうか、ディオも無事か・・・あぁ、良かった・・・」
年齢のせいかうるみそうになってきた目。目の前のディオがふっと笑った。
「二人が無事で良かった。ジョジョもディオも是非私の屋敷に来なさい。絶対に不自由はさせないから」
少しずつ意識がはっきりしてきた私は少しだけ可笑しく思った。
何故ディオは、こんな夜中に私のいる宿へ来たのだろうか。何故、私の腹の上に跨っているのだろうか。何故・・・
「その牙は何だ?ディオ」
「さぁ。貴方は知らなくても良いことです」
ディオはお世辞にも純粋とは言えない笑みを浮かべ、私の首に噛みついた。
「ぅ、う・・・?」
体感としては一瞬の暗転。私はぼんやりと意識を浮上させる。
突然ディオに噛みつかれたことには驚いたが、その後私はすぐに首筋の激痛によるショックで気絶してしまった。
「気が付きましたか?」
「ディオ・・・一体、何が・・・」
起き上がろうとした私は、ジャラッという音と共に自分が動けないことを知った。
気付けば私はベッドに手足を鎖で繋がれてしまっていたらしい。薄暗い部屋、此処が何処かもわからない。
「名前さん。貴方にはこの俺と同じ存在になってもらう」
「ディオ、何のことだ。これは一体どういう・・・」
何一つ状況が理解できていない私の口に、ディオが自分の唇を押し当てる。
・・・どろりとした何やらどろりと鉄の味のするものが流し込まれた。
――・・・
「名前様、お食事の用意が出来ました」
「あぁ、テレンスか。すまないなが後少し待ってくれ」
そう言って着替えを始めようとする私に、テレンスが「おっと、忘れるところでした」と言いながら一つの袋を渡してくる。
「ん?これは何だ」
「DIO様からです」
「まったくあの子は・・・何時もいらないと言っているのに」
そう言いつつも袋から出て来た服を身に着け、テレンスと共に食事の場へと向かう。
そこにはディオがいて、私を見る。
「おはようディオ」
軽くそう挨拶をしてから、テレンスの作った料理を食べる。
「うん。何時もながら美味いな」
「勿体ないお言葉です」
ぺこりと頭を下げるテレンスに笑みを向け「あぁ、そうだ」とディオを見る。
「ディオ、何時も言っているだろう。贈り物なんてする必要はないと」
するとディオは「そう言いつつ着ているようだが?」と挑発的に笑った。
「可愛い『息子』からのプレゼントを断れるわけないだろう。ディオ・・・お前まさか、私が断れないのを知ってて贈っているのか」
「小うるさい父親は嫌われるぞ」
「まったく・・・此処数十年でますます生意気になったな」
はぁっとため息を吐いた私は、ディオと同じ吸血鬼となった。
あの日口に入れられたのはディオの血で、それによって私は吸血鬼になったのだ。
ほとんど理解できていなかった私はディオに連れられた場所で過ごした。
後から知ったのは、ディオがジョジョを殺したということだ。それはとても悲しいことだったが、ディオの前では「そうか」とだけ言った。
ディオが深海で眠りについていた間も、私はただただ屋敷にいた。
ディオが目覚めてからは、あの屋敷は売り払い、このエジプトのカイロという地に移動した。
ジョナサンの子孫たちが年月を足すごとに生まれ、そして死にゆく。
私にとってはディオもジョナサンの子孫たちも可愛い可愛い子供達。
けれど私がその口から『ジョナサン』という名前を出すことを嫌っているディオの前では、絶対に言わない。
「そうだ、名前」
「・・・お父さん」
「ふっ・・・今夜はこのDIOと共にディナーにでも行きませんか? お 父 様 ?」
わざとらしいぐらいはっきりとした声で言うディオに私は苦笑を浮かべる。
「ディナー?それはどちらの食事かな?」
「レストランで」
「あぁ、なら良い。久しぶりに息子と二人でディナーか。楽しみだ」
にこにこと笑えば、ディオは呆れたような顔をした。
「あの日から何も変わらないな」
「あぁ、私を吸血鬼にした日のことか?あの時は驚いた・・・まさか突然噛みつかれたかと思えば、次は鎖で繋がれて、仕舞いは吸血鬼だ。一生分の驚きをあの日で使ってしまったような気分だったよ」
「それでもこのDIOのことを嫌いにならなかったか?」
「息子になってくれると知った時の喜びからすれば、あれぐらいって思ったさ」
「・・・ほぉ?」
「ディオ。お前は私の自慢の息子だ」
穏やかに笑いながら、テレンスの入れてくれた紅茶を飲んだ。
ディオはしばらく黙ると・・・
「ふんっ、流石はこのDIOの父と言ったところか」
こちらに近づいてきて、私の頬に軽く口付けた。
私もDIOの頬に口付けを返し、小さく微笑みを浮かべた。
吸血鬼となって、100年以上も過ぎた。だがその果てしない時間に飽きることはなく、私は今のこの状況に満足し・・・幸せさえ感じていた。
親愛なるお父様
(それが崩れ去るのが後少しだったとしても、私はDIOと言う息子を愛し続けようと思う)
お相手:ディオ→DIO
シチュエーション:ディオと出会って、DIOになった後もラブラブな感じの話希望
ある意味ラブラブだと・・・そうだと思って欲しいです。
主は家族愛のつもりだけど、きっとDIOはそういうつもり。