※R15くらい。
手の中のカラフルなボール達をひょいひょいと宙に投げて、それを上手くキャッチしては投げキャッチしては投げを繰り返すジャグリング。
ベッドに腰掛けそれを見ていた名前は嬉しそうな笑顔と共にパチパチと手を叩いた。
「名前はずっとサーカスとか手品とか、見たことがなかったの?」
「娯楽の少ない地域だったんだ。貧しい地域でもあったし、子供も大人も、ずっとずっと働いてた」
サーカスの技を少しでいいから見せて欲しいと頼まれて、名前の自室で開かれた小さなサーカス。荘園内で割り当てられた自室だから、間取りも置かれている家具も僕の部屋にあるものと殆ど同じ。違うところと言えば、名前の部屋は僕の部屋よりもずっと私物が少ないところかもしれない。
面白味もない、何処か味気ない部屋。けれどそれも、今まで娯楽をあまり経験してこなかったからというなら何となく理解できる。
「へぇ。じゃぁ荘園に来たのも?」
ジャグリングを続けながら名前との会話を楽しむ。そういえば、こうやって二人きりで話せる機会ってなかなかなかったなぁ。名前とはよく喋る方だと思ってたけれど、話す内容はゲームのことだったりその日の食事の感想だったり・・・
こうやってプライベートなことを話すと、名前との距離が縮まったみたいでちょっと嬉しい。
「そう。少しでも家族を楽にしてあげたくて、そのためのお金を。ゲームに参加するだけである程度のお金は出るから、今はそれを仕送りしてる形かな」
「家族思いなんだね」
自分が此処に来た理由とは大違い、なんて雰囲気を壊すことは言わない。
名前は「有難う」って穏やかに笑ってる。笑顔が素敵。僕、名前の笑った顔が結構好き。うん、大好きだ。
一目見た時から何となく気になってて、僕の方から積極的に話しかけるようになった。名前は僕みたいな派手な見た目の人間を初めて見たらしく、最初は少し戸惑っている様子だったけれど、根がとても善良だったのかすぐに僕のことを受け入れてくれた。
僕が話すことは名前にとって珍しいものばかりだったのか、時折きらきらと子供みたいに目を輝かせながら話を聞いてくれる。そんな名前がちょっと可愛いなぁって思っているうちに、気付いたら僕は名前が好きになってしまっていた。
劇的な何かがあったわけでも、特別優しくされたわけでもない。でも恋に落ちるってそういうことなのかもしれない。
好きな人の部屋で二人きりのサーカスなんてちょっとどきどきしちゃう。やりなれたジャグリングはそう簡単には失敗なんてしないけど、気を抜くとうっかり落としてしまいそう。それぐらい、実は緊張してる。
「名前が家族なら、きっと幸せだろうなぁ。羨ましい」
自分が言った言葉に勝手に緊張して、僕は失敗する前に宙を舞っていたボールを全て回収し、サーカスで観客にするみたいに恭しく頭を下げた。
パチパチと拍手をしていた名前は、僕の言葉に今度はぱちぱちと目を瞬かせていることだろう。
「マイクが俺の家族に?それは、なんだかとっても幸せそうだ」
「え?そ、そう?」
お辞儀の途中なのにうっかり顔を上げてしまった。目が合った名前はにこにこと笑ってる。
それがとっても嬉しくて、僕は名前に近づいてその隣に腰をおろした。二人分の体重が乗ったベッドが少し音を立てる。
「ほんと?僕が家族だと嬉しい?」
「うん。マイクみたいに楽しい人が傍にいれば、きっと毎日が幸せだろうね」
「僕もそう思うよ。きっとそう」
きゃあ嬉しい、なんて冗談っぽく言いながら名前の身体に抱き着いてみる。少しでも嫌がられればすぐにやめればいいんだからっていう保身の気持ちも忘れずに。
けれど案外名前は嫌がらない。それをいいことにすりっと胸に顔を寄せてみれば、まるで当然のように頭を撫でられてしまった。
もしかして、もしかしてだけど、今いい雰囲気?僕の勘違いじゃない?
どきどきそわそわしながら、少し視線を上へ。名前とまた目が合ってしまった。にこにこ笑ってる。
じわっと頬が熱くなのを感じて、僕は顔を隠すように名前の胸に顔を押し付けた。
「・・・名前は、僕のこと好き?」
「マイクみたいな素敵な人を嫌う人なんているのかな」
「そ、そういうことじゃなくって!えっと・・・」
そういう好き嫌いじゃない。僕が聞きたいのは、もっと深い、友愛でも親愛でもない、恋愛の方。
でもそれをわざわざ口に出すのは恥ずかしくて、悩んだ僕は抱き着いていた腕を名前に首に回し直した。
「あ、あのさぁ名前、もし名前さえ良かったらなんだけど、えーっと」
不思議そうに首を傾げながらもほんのり笑っている名前の唇に、僕はちょんっと触れる程度のキスをした。まるで小さな子供みたいな、幼稚なキスを。
「こ、こういうことだから」
恥ずかしいけれど目を逸らしちゃ駄目だ。名前の反応をきちんと見ないと。
名前は僕にキスをされた唇に手を置き、それから僕を見た。
多分名前にとって予想外だったんだろう。けれど露骨に嫌がってはいないようだから、そこはひとまず安心。・・・嘘、まだちょっと不安。早く返事をして欲しい。
名前の首に回したままの腕が振るえる。早く返事をちょうだい。早く、早く・・・
するっと名前の腕が僕の背中に回り、ぎゅっと抱きしめられる。
驚く間もなく僕の顔の目の前には名前の顔が近づいていた。
言葉もなく、静かに合わせられた唇。
「・・・んっ♥」
キスをしながら、名前が僕の背中や頭をあやすように撫でる。これが答え?僕の気持ちは受け入れて貰えたの?喜んでいい?
「名前っ、ぼ、僕・・・」
「嬉しいよマイク。俺も、マイクさえ良ければ、こういうことをしても許される関係になりたい」
唇が離れても、額と額をこつりと合わせているから顔はずっと近くにある。
嬉しそうに目を細めて笑っている名前に、じわじわ熱くなっていた頬は今では真っ赤になっているはずだ。あぁどうしよう、幸せ。僕、今とっても幸せ。
「あ、あのさ、名前。えっとっ」
この幸せのままに『もっと』を要求するのは少し我が儘かな。少し遠慮がちに名前のシャツの釦に少し手を掛ければ、名前の目がぱちりと瞬いた。あ、今の驚いた顔、可愛い♥
「マイクはいいの?」
「うんっ」
ぐいっと名前の身体を押してみれば、名前は僕を抱きしめたままベッドに転がった。一緒に転がった僕を優しくベッドに寝かせると「いいんだね?」ともう一度聞いた。そう何度も聞かないで、もっと恥ずかしくなっちゃう。
返事の代わりに僕は少し震えちゃう手で名前のシャツの釦を一つ外した。
「・・・っ♥あ、名前、・・・ふ、ぅっ」
「マイク、辛くはない?痛かったり苦しかったら、すぐに教えて」
か弱い女の子じゃないんだから、少しぐらい乱暴にしてくれたって構わないのに。名前はまるで割れ物を扱うように大事に大事に僕に触れてくる。
その手つき一つから愛情を感じてしまって、僕の感度は勝手に上がってしまう。
名前が触れた部分が全て熱を帯びる。熱い。けどもっと触れて欲しい。僕は平気だから、もう平気だから、もっと、もっと触って。
「そんな顔をしないでマイク、自分を抑えきれなくなるから」
「あっ、ぁ・・・♥」
「大事にさせて。僕の大事な家族になる人なんだから」
優しいキスと愛撫でとろとろに溶かされてしまう。僕は「うんっ♥」と返事をすることしか出来ず、名前の愛を全身で受け止めることになった。
甘い家族予定
「身体は辛くない?辛いようなら、今日はゆっくり休んで」
「そこまでしなくて平気だよ?」
名前の腕の中で甘える僕に、名前はそれはもう優しく優しくしてくれた。ちょっと甘すぎるぐらい。
「大事にさせて」
ズルい。そう言われると、僕はやっぱり「うん♥」と返事をするしかないんだから。
お相手:マイク・モートン(曲芸師)
シチュエーション:甘めな感じで!(裏でもどっちでも!)
甘め重視で裏はほんのり添える程度となってしまいました。
押せ押せなマイクくんもいいですけど、甘えたで照れ屋なマイクくんもいいなと思う今日この頃です・・・