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※『ぼくをすきじゃないおにいちゃん』続編。


幹部権限で志保ちゃんと楽しく買い物をした翌日、不機嫌なジンに呼び出された。

お小言を幾つか貰って、ついでに鉛玉も貰いそうになったけれどそれはなんとか避けた。

でもきっと僕は次も志保ちゃんを外に連れ出すんだろうなぁ。昔の僕じゃ誰も連れ出してくれなかった外へ。逃がしてはあげられないけれど、僕が志保ちゃんにしてあげられるせめてものことだから。

お小言が終わって「ついでにこいつを消してこい」とターゲットの写真を貰い、そのまま僕は鼠を一匹消し去りに行った。


出会い頭に言葉を交わすことなく喉を裂かれたターゲットはしばらく喉の傷口や口からごぼごぼと血を流して身体を激しく痙攣させ、そのまま動かなくなった。

殺すのは簡単。吃驚する程簡単。きっと、殺すなんてコツを掴めば子供でも出来ること。けれど処理は大変。死体の片付け、証拠の抹消、いろいろと大変・・・

元々死体を片付ける作業をしていた僕だからこそある程度テキパキ動けるけど、僕が案内役を任されている新人幹部の三人にはまだ無理かな。

案内役って組織内のことをいろいろ教えるナビゲーターみたいなこともするんだけれど、こういう死体処理も教えた方がいいのかな・・・

死体をくるんで袋に詰めて、ずるずる引きずる。

事前に用意しておいた車に死体をのせ、免許はないけれどそのままハンドルを握って発進させる。しばらく車を走らせていると着信が一つあったことに気付いた。スコッチだ。


新人幹部三人の中でもスコッチはとても親しみやすい人だ。何時もにこにこ笑ってるし、話も上手い。何故か僕を見るとたまに顔を青くしたり泣きそうな顔をするけれど。

運転しながらハンズフリーで折り返しの電話をかければ、スコッチはワンコール目で出た。

もしもしと声を上げれば「悪い、仕事中だったか?」という声。組織の人間じゃこんな風に相手を気遣う言葉なんてなかなか聞かないから、違和感。

話してみるとスコッチもついさっきまで任務で、終わったから僕に電話をかけたらしい。任務が終わって僕に任務?と尋ねれば「一応上司だし、報告した方がいいだろう?」とスコッチは答える。


別に僕は新人幹部三人の上司というわけじゃない。幹部に序列の差はなく、あるのは古参か新人かだけ。実力さえあれば、新人が古参を食い殺すことだってある。幹部同士のいざこざで消えてった幹部も多い。

報告なんていらないけれど一応スコッチの報告を聞いているうちに、スコッチが案外近場にいることがわかった。


「任務の後片付けの途中ですけど、スコッチを拾ってあげることも出来ますよ」

そう提案すればスコッチは「やりぃっ!じゃぁ待ってる」なんて返してきた。

そのままスコッチのいる場所へ向かえば、ギターケースを背負ったスコッチが「おーい」と僕に向かって手を振る。その笑顔に何か胸がジリッと痛んだ気がした。


「後片付けって言ってたけど、どっか行くのか?」

「海沿いの貸倉庫、そこのいくつかが組織の持ち物で、倉庫の中に仕事道具があるんです。見て面白いものはないですけど」

コンテナ型の貸倉庫がずらりと並んだコンクリートの埋め立て地は車でそう遠くない場所にある。

スコッチを乗せたままコンテナに向かい、目的のコンテナ前で車を止めた。

運転席から出てトランクを開こうとする僕にスコッチが「大丈夫か?良ければ手伝うぞ」なんていいながら助手席から出てくる。


「有難う、スコッチ」

「後片付けって・・・あぁ、こういうことか」

トランクを開けた瞬間ニオイを感じたのか、スコッチが少し顔をしかめた。

僕は気にせず「スコッチはそっちを持って」と二人で死体袋をコンテナの中に運び込んだ。

「こういうのは埋めたり沈めたり、たまに薬で溶かしたりします。特に素性がバレたら困る相手は薬で溶かすんだけど、時間がかかるしスコッチに申し訳ないから・・・」

「そう、か」

「時間短縮で、ドラム缶の中にコンクリと一緒に押し込んで、そのまま海に捨てます。ちょっと重たくなるから、スコッチがいてくれて良かった」


本当はコンクリを流し込んで固めた方がいいんだけど、スコッチにそこまで付き合わせちゃ悪いし。僕は手早く空のドラム缶と事前に消耗品として用意されているコンクリートの塊を準備し、スコッチと一緒に死体処理の準備をした。

コンクリートと死体が詰め込まれたドラム缶をしっかり溶接すれば出来上がり。実は途中で薬も入れたから、海中で勝手に溶けてくれるだろう。

「手馴れてるな」

「組織の構成員ですらない間はずっとこれをやってたから」

スコッチと一緒にドラム缶を転がし、そのまま海へ。

このあたりのコンテナは殆どが組織のものだ。此処に来る人間なんて殆どいないし、死体が発見されたって死体の身元が分かるようなものは残していない。


「有難うスコッチ。任務後で疲れてたはずなのに手伝って貰っちゃって」

「いや・・・あぁそうだ、今日はもうこれで終わりなら、メシでも食いに行くか」

「え?ご飯?」

突然の食事の誘いに驚く。ベルモットにディナーに誘われたり、志保ちゃんからきちんと食事を取るように言われるけれど、まさかスコッチからご飯に誘われるなんて思わなかった。

きょとんとしながらスコッチを見つめていると、スコッチの手が僕の頭頂部に置かれた。

まるで撫でるように動いた手に身体が硬直する。

何だろう、何だ、全身の血が一瞬で煮えたぎって、一瞬にして冷めきったような、身体が不調を覚え始めている。


「お前細いからなぁ、もっと食べた方がいいんじゃないか?」

「食べることにあまり頓着がなくて」

「好きな食べ物は?何か一つでもないのか?」

不調を顔に出さないように、なんとか足の力を籠める。

「薬が入ってないものなら、なんでも。でもそれしかないなら薬入りも食べれます」

スコッチの手が一瞬止まって、それからまた動き出す。

今すぐにこの手を払いのけてしまいたい。でも、この手を払いのけたくない。

ぐらぐらと視界が揺れる。


「俺ら三人の面倒見て、任務も誰より多く引き受けてる。たまにはゆっくりしてもいいんだぞ」

ずきずき。

痛い。胸が、頭が、何故だかとても痛い。

今回使ったのはコンクリートだし、薬品はちょっとしか使ってないからきっと薬品による体調不良ではないはず。でももしかしてコンテナの中に気化した薬が充満していたのかな。


「うん、有難う。じゃぁ、お言葉にあまえて、ゆっくり食事でも・・・」

「よっしゃ!じゃぁ俺が上手い店に案内してやるよ。お前も絶対気に入るさ」

ぽんぽんと、ぐりぐりと、頭が撫でられて、温かくて、なのに寒くて、辛くて、痛くて・・・


「スコッチって優しいね。なんだか、兄さん、みた・・・ぃ」

そこまで言った瞬間、今まで感じていた体調不良が一気にのしかかる。

頭がずきずきする。ぐるぐると目が回って、吐き気を感じ始める。

何故だかこれ以上スコッチの顔を見てはいけない気がした。スコッチの手を払いのけて、その場にしゃがみ込みんだ僕の口から小さなうめき声が漏れる。

スコッチが慌てているのがわかる。心配する声が聞こえる。


痛い、頭が痛い、気持ち悪い、胸が痛い、痛い、助けて兄さん、兄さん・・・


「・・・あぁ、兄さんは助けには来ない」

ぽつりと呟く。スコッチが息をのんだ。

僕は大きく深呼吸をした。スコッチは優しい。兄さんも優しかった。けれど大きな違いはある。兄さんは僕のことを嫌いになってしまった。スコッチはまだだ。


・・・スコッチが兄さんみたいなのは勘違い。本当にスコッチが兄さんに似てるなら、僕みたいな汚いヤツに優しくなんてしないはずだ。

そう思うと、ようやく呼吸が出来るようになった。

小さく息を吐いて、唇を笑みの形に歪め、立ち上がり、真っ直ぐスコッチを見る。


「ごめんなさいスコッチ、ちょっと混乱してたみたい。もう大丈夫だから」

「あ、あぁ・・・」

「たまにあるんだ。兄さんのことを思い出しそうになると、具合が悪くなって・・・たぶん、兄さんのことを思い出したら僕、舌でも噛むんじゃないかな。気を付けなきゃ」

ははっと笑う僕を見るスコッチの顔色はとても悪かった。




あいがうけとれないおとうと




「でもきっと、僕なんて死んだ方が兄さんは喜んでくれるよね」

そんなわけないじゃないか、何でそんなことを言うんだ、俺が悪かったからだから・・・

そう叫んでしまいたいのに言葉にすることが出来ない。

スコッチ、諸伏景光の心は少しずつ擦り切れていく。




お相手:お任せします
シチュエーション:お任せします

続編の内容やお相手はお任せとのことだったので、全力ですれ違っている兄弟で書いてみました。
この短編は自分的にも結構好きなので、いつか、本当にいつかシリーズ化できればなとは思っています。


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