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昔から、スクールカースト上位の人間に気に入られることがよくあった。

走るのが早くてクラスの人気者だった子によく遊びに誘われたり、流行に敏感で社交的な女の子から親切にされたり、時には誰かのちょっぴり偉い親御さんから「うちの子と仲良くしてあげてね」とほんの少し贔屓してもらったり・・・

スクールカースト上位というか、所謂『権力者』の部類に気に入られていたのかもしれない。


実家はまだ歴史の浅い魔術師の家系だったけれど、別に『魅了』系統の魔術を得意とする家系ではない。魔術刻印だって、長男である兄が受け継ぐことは僕が生まれる前から決まっていたことだ。

家族仲は悪くない。本来魔術師家系においては『予備』として扱われることの多い次男である僕も、それはもう家族に大事に大事に育てられた。

今代の聖杯戦争で何故か兄ではなく僕に令呪が発現しても、それが火種となり家族仲が崩壊することはなかった。

両親や兄からは「歴史が浅い分守るものも少ないのだから、命が危なくなったら逃げたって構わない」と言われ、現在の拠点である別荘へと送り出された。


聖杯戦争に参加するからにはサーヴァントを召喚しなければならない。

歴史が浅い魔術師家系は周囲の魔術師から馬鹿にされやすく、更には『触媒』などという高価なものを手に入れる伝手もない。よって僕は魔法陣の前で触媒もなしに召喚に踏み切らなければならなかった。

そんな最初から負けが決まっているような状況だったのに、僕は恵まれていた。とても、それこそ他の魔術師が聞けば目を剥いてそのまま目玉を零してしまいそうなほどに。




聖杯戦争が始まってから数日、案外僕は穏やかな生活を送っていた。

別荘の柔らかなソファに座り、父の書斎から持ってきた魔導書を読みふける。

玄関の方から扉が開く音が靴が床を鳴らす音が聞こえても、本から顔を上げることはない。誰が来たかなんてわかりきっているから。

けれど相手はそれが気に入らなかったのかもしれない。本の文字を隠すように上から影が差し、読めなくなった本は伸びてきた手によって奪われ、あっという間に後に投げられてしまった。

本の行方を追うために僕が顔を上げれば、有無を言わさず僕の膝の上に横向きに腰掛けてきた相手。僕と契約を交わしてくれたサーヴァント。


「んー、ギルさん重たい」

サーヴァントの名前を呼び、少し身を捩る。

ずっしりとした重みと硬い鎧が当たり痛む太腿や腹・・・

「失礼な奴め」

「ギルさん本体というより、鎧が重い・・・」

流石にこのままの状態でギルさんの身体を支えるのは難しくて正直に告げれば「弱者め」ギルさんと笑いつつも鎧姿から身軽な姿へと変わってくれた。

僕の胸に身体を預け、リラックスしている様子のギルさんの身体を片腕で支え、開いている方の手で髪や額を撫でる。

投げられた本の無事は気になるけれど、目の前にギルさんがいる状態で他のことを気にしていることがバレればギルさんが拗ねてしまうため、極力本がある方向には視線を向けないようにした。


触媒もない状態の召喚で引き当てた、当たりに近いアーチャーのサーヴァント。しかも最古の王であるギルガメッシュ王だなんて、ネームバリューが凄い。

更に言うと、僕の昔からの体質が運よく作用したのか、ギルガメッシュ王は僕のことをいたく気に入ってくれた。

最初はまるで飼い犬のように、次第にお気に入りのぬいぐるみを愛でるように・・・

今では『ギルさん』と愛称で呼ぶことまで許されている。


「ん・・・ギルさん、もしかして外で何かあった?」

「ふんっ、その鼻は飾りではなかったか」

笑いながらツンッと鼻をつついてくる姿。けして馬鹿にされているわけじゃないのがわかる。

ギルさんから微かに臭う血のようなニオイ。否定しないところを見ればやっぱり何かがあったんだ。例えば、敵陣営の魔術師かサーヴァントに遭遇したとか。

アーチャーはある程度の単独行動が可能で、ギルさんはそれを利用してよく遊びにいく。最初のうちに僕が案内した場所や、僕でも知らなかった場所、いろいろ。

偶然敵陣営に遭遇することもあるらしく、僕の知らぬうちに敵陣営が減っていた時は驚いた。


ギルさん程のサーヴァントを維持できるような魔力量は本来僕にはないけれど、そのあたりもギルさんがなんとかしてくれているらしい。一度ギルさんが魔力のたんまり貯まった宝石を持っていたのをちらりと見たことがあるが、きっと何処かの魔術師から奪ったのだろう。

「お前が気にすることではない。お前はこの家でのうのうと生きていればいい」

すりっとギルさんの頬が僕の胸に摺り寄せられる。

くすぐったいな、と思いながらギルさんの頭を撫で続けていると、ギルさんの真っ赤な目が僕を見て笑みの形に細まる。


「我が此処までしてやっているのだから、お前は何かやるべきことがあるのではないか?」

「ギルさんに恩があり過ぎて、僕には一生かかってもお返し出来そうにないんだけど」

「ハッハッハッ!当たり前だ!お前程度の魔術師が今日まで生きられたのは、我のおかげ以外あるか?ないだろう!」

愉快そうな大笑い。笑いながらぐりぐりと頬を摺り寄せ続けるギルさんの身体をぎゅっと抱き締めれば、ギルさんの動きが止まる。


「お前にしか出来ない、我のためだけの『お礼』を寄越せ」

「仰せのままに、王様」

抱き締めたギルさんの唇に自分の唇を重ねる。

最初はまるで飼い犬のように、次第にお気に入りのぬいぐるみのように、そして気付けばまるで恋人のような扱いを受けていた。

昔から権力者に気に入られる性質だったけれど、此処まで気に入られたのはギルさんが初めてかもしれない。もしかして相手がどれほど権力を持っているかにもよるのかな?

自分の体質に疑問は残るものの、ギルさんからのこの扱いに関しては正直悪い気はしなかった。


「我を前に考え事とは、全く失礼な男よ」

「ギルさんとこういうことするの、悪い気しないなぁって思ってた」

「フハハハッ!正直者め!」

気を良くしたギルさんが何処からともなくワインとグラスを取り出し、ワインのボトルを僕に持たせる。

正直ワインは渋かったり酸っぱかったりするからあまり好きじゃないんだけどなぁ、とボトルを見つめているとギルさんが「子供舌な貴様のために、飲みやすい銘柄を選んでやったわ」と頬をつつかれる。

ボトルをきゅぽんっと開けて、こちらに向けられているグラスにワインを注ぐ。確かに、前ギルさんと飲んだものよりもニオイはキツくない。

僕が注ぎ終えるとボトルはギルさんによって奪われ、代わりに僕は空のグラスを持たされた。王自らワインを注いでくれるなんて、きっととても贅沢だ。

お互いにグラスを持ってワインを一口。前に飲んだワインよりもずっと飲みやすい、すっきりした後味に思わず「美味しい」と言えば、ギルさんは満足そうに笑った。


「凄いなぁ、きっと凄く高いんでしょう?」

「お前では年に一回飲めるかどうかだな」

「ギルさんが来てからずっと贅沢してる気がする。やだなぁ、聖杯戦争が終わったら僕、生きていけるのかな」

ギルさんが何処からともなく取り出してくるものはどれもこれも高価なものばかり。ここしばらくの間で僕の庶民舌はすっかり高いものの味を覚えてしまった気がする。

心配をする僕を他所に、ギルさんは「生きていけるに決まっているだろう」と笑う。

どうして?と首を傾げた僕に、ワインを飲み干したギルさんは赤い目をとろりと歪ませ「我がこの戦いに勝つからだ」と言った。


「ギルさんが勝ったら?けれど僕、聖杯に『富』を願うつもりはないよ。歴史が浅いとはいえ僕も魔術師家系の人間だし、聖杯は家のために使うけれど」

「馬鹿め。お前の願いは勝手にしろ。我の願いが叶えば、お前は一生そんな心配をする必要がない」

「と、いうと?」

ちゅっ、とギルさんの軽い口付け。


「我が受肉し、一生お前と生きるということだ」

「それは・・・なんだかとっても、素敵だね」

一生ギルさんに甘やかされて生きる駄目な男に成り下がるなんて、もしかすると誰かに怒られてしまうかもしれない。

けれど今この時みたいな穏やかで楽しい日常が一生続くなら、それもいいかもしれないなんて・・・


「励めよ名前。我の勝利を確実なものとするために」

「勿論だよ、ギルさん」

そう返事をすれば、ギルさんは空になった僕のグラスと自分のグラスを何処かに消し、そのまま僕の身体をひっぱり自分の方へと倒した。

「ギルさん、お風呂入らなきゃ」

「後にしろ」

「仕方ない人だなぁ」

微かに感じる死のニオイに目を瞑り、僕はギルさんの上に覆いかぶさった。




今この時よ永遠に




この甘いひと時は誰かの不幸の上にあるけれど、そんなの気にしていられる程僕は繊細ではない。

権力者に気に入られるって、権力者によって不幸になった誰かを目にすることが多いってことなんだから。




お相手:ギルガメッシュ
シチュエーション:がっつりラブラブしてもらえたら嬉しいです!主人公の性格とかは正直異音さんの書くものがどれもストライクなのでどんなものでもウェルカムです。こんないい加減で変なリクエストなので、完成は後の方でも大丈夫です。よろしくお願いいたします(`・ω・´)

権力者に気に入られやすい主人公とそんな主人公が気に入って何時の間にか恋人扱いし始める王様の話でした。勿論両想い。
この王はマスターのことを『貴様』じゃなくて『お前』って割と柔らかい声で呼ぶ。
甘々な王様、いいなぁ・・・


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