※『失格者の愛情表現』続編。
A組の担任である相澤先生と、B組の僕。普段の学校生活で関わる時間はあまりない。
けれどA組とB組は同じヒーロー科で、合同授業もたまにはある。
朝から担任の管先生に「今日はA組との合同授業だ!皆、心して挑むように!」と力強く言われた僕らB組。A組に対して何かと対抗心を燃やしているためか、熱意が凄い。
先生と同じようにA組に対抗心を燃やす物間なんかは「絶対A組に勝つぞ!」と意気込んでいた。
別に対抗心は持っていないけれど、A組との合同授業なんて普段そうそうあるものではない。殆どの生徒は普段とは違うその出来事にワクワクしていた。
そして待ちに待った合同授業。巨大な体育館に集まった僕らは、前半は個人個人の個性の訓練を行い、後半はA組とB組がランダムで試合を行うことになった。
管先生はA組に絶対に勝てとは言わないけれど「全力でやれ!」と応援に力を込めていた。
まぁわざと負けるような器用なことは出来ないから、お互いに失礼のないように全力でやるつもりではいる。
両親から受け継いだ個性を最大限生かせるように個人訓練を始めれば、A組の指導をしていた相澤先生とパチリと目が合った。
学校ではあまり関わる機会が少ないから、こういう時どういった対応をすればいいのかわからない。けれどそれは相澤先生も同じだったようで、先生はしばらく僕を見つめた後、少し不自然に目を逸らした。
「イレイザーヘッドがどうかしたの?」
「別に。うちの担任とは違って、静かな人だなって見てただけ」
僕と相澤先生の様子に目ざとく気付いた物間にそう返事をすれば、物間は「ふーん」と聞いてきた癖に興味なさそうな返事をしてきた。
「ところで物間は訓練どうするつもり」
「いつも通り、B組の皆の個性を使わせてもらうつもりだけど、隙があればA組のも使わせて貰おうと思ってるよ」
「訓練だし、お願いすれば使わせてくれると思うよ」
「お願いぃ?」
「何も言わず手で触れるのは、相手も吃驚するだろうし。B組は慣れてるけど」
A組に『お願い』をするのが嫌なのか露骨に顔をしかめる物間の額に軽くデコピンをし「そういうことはちゃんとしないと駄目だって」と窘めた。
「ちぇっ、名前ってA組贔屓だよね」
ぶつくさ文句を言っている物間に「贔屓なわけじゃないけど」と言いつつ、自分の訓練を始める。
たまに相澤先生と目が合うこともあるけれど、訓練事態は順調に進んだ。
A組もA組で個人個人訓練をしていて、その様子を見るだけでも勉強になる。B組は互いの個性を見慣れてきているし、A組の個性も見たことがないわけではなかったけれど新鮮な気持ちだ。
そしてそろそろ訓練は止めてランダム試合をしようとなった頃、物間の「わっ!?」という声が近くで聞こえた。
見れば物間がコピーしたらしいネビルレーザーがあらぬ方向に飛び、それが体育館天上の照明にぶち当たり、照明が落ちてくるのが見えた。
運が悪いことに物間はレーザーの勢いで尻もちをついていて、落ちてくる照明を避けることが出来ない。
咄嗟に物間を突き飛ばす形で飛びつけば、間一髪で僕も物間も照明にぶち当たることはなかった。
「物間!平気?」
「だ、大丈夫。ごめん名前」
普段は素直じゃない物間が素直に謝っている。余程驚いたからだろう。
「って、あっ!名前、足!足!」
足を連呼されて自分の足を見れば、照明の破片が掠ったのかふくらはぎ当たりに軽く血が滲んでいた。
大したことないよ、と返事をするより前に「一旦医務室に行くぞ」という声。見れば、僕と物間を見下ろすような形で相澤先生が立っていた。
「物間は無傷か・・・なら苗字、お前は来い。歩けるか?」
「はい、大した怪我ではないので」
相澤先生に差し出された手を借りて立ち上がり、少し足を庇いつつ体育館を出た。
物間が落ち込んでいる様子だったが、フォローはB組の皆がやってくれるだろう。うちのクラスの団結力は担任のお墨付きだ。
「・・・大丈夫か、名前くん。おぶろうか」
「ははっ、平気ですよこれぐらい」
体育館を出た瞬間、心配そうにする先生に思わず笑ってしまう。
「先生、今日沢山目が合いましたね。そんなに珍しかったですか?」
「・・・あぁ、すまない」
素直に僕の方を見ていたことを認めた先生にまた笑いつつ、医務室へと到着した。
リカバリーガールが「おやおや」と言いながら僕の傷口を消毒し、ガーゼを貼ってくれた。個性を使う必要がないぐらいの軽い怪我だったから、何だか申し訳ない。
行きと同じように先生に付き添われて体育館へと向かう途中、先生がぽつりと「クラスには馴染めているようだな」と口にした。
「勿論。B組の団結力は高いので」
「特に、物間と仲がいいようだ」
「物間はちょっと精神年齢低めな部分があるんで、皆物間のフォローに回ったりしてるんです。ほら、物間って相手を煽ったりしてうっかり敵を作っちゃいそうだから」
B組の生徒たちは物間がそう悪い奴じゃないことは知ってるけど、他の奴らからは理解されないこともある。
それをフォローするということも、B組の団結力の一つなのかもしれない。
僕の話に耳を傾けていた先生は「・・・そうか」と数拍遅れて頷く。
その様子にもしかしてこの人は僕と物間の関係を疑っているのでは、と考え至る。
まぁそこまでは思ってなくても、物間と仲が良すぎるのでは、とは思ってそうだ。
「物間とはただの友達ですよ」
「・・・あ?あぁ、そうか」
突然なんの脈絡もなくそう言う僕に少し驚きつつ、先生は「そうか」ともう一度呟き頷いた。
「そうだ先生、今日の帰りは遅くなりそうですか?」
「今日の放課後は特に用事はないから定時には帰れそうだが・・・」
「大した怪我じゃないんですけど、重い物を持つと足に力が入って痛そうだなぁって。先生さえよければ、帰りに一緒に夕飯の買い出しに行きませんか?たまには先生も固形物を食べなきゃ」
「・・・わかった、行く」
「献立は買い物のときに考えましょうね。あ、食べたいものがあるならそれを優先的に作りますね」
普段のお礼です、なんて笑えば相澤先生もちょっと笑った。
物間とはただの友達ですよ、とわざわざ言ってあげたあたりから、先生の表情もやや明るいし、今は機嫌だって良さそうだ。
やっぱり物間との仲を心配してたのかな。僕への想いに勝手に罪悪感を感じている癖に、独占欲は人一番なんて、やっぱり本当にどうしようもない人。
「ランダム試合どうしましょう。管先生に頼んで、今回は見学にさせて貰おうかな」
「その方がいいだろうな」
そんな会話で締めくくり体育館に入れば、物間が申し訳なさで泣き出しそうな顔をして駆け寄ってきて「ごめん名前」と謝ってきた。
別に謝らなくていいよ、物間に怪我がなくて良かった。そう返事をする僕と安堵する物間を、相澤先生はまた見つめていた。
・・・誰かのものになってしまうのが怖いなら、早く言ってくれればいいのに。
やっぱり僕の方から言ってあげた方がいいんだろうか。
失格者でも嫉妬はする
その夜、眠ったフリをする僕に先生はまた覆いかぶさる。
名前くん、名前くん、と言いながら唇を合わせてくる先生が、起きている僕に気持ちを伝えてくるのはまだまだ先になりそうだ。
相手:相澤消太
シチュエーション:「短い僕」の「失格者の愛情表現」の続編
もしくは、「とろろんスライム」の続編
(難しければシチュエーションはお任せします)
ちょっと物間が出張ってしまいましたが、どんどん想いをこじらせている相澤先生の話でした。
きちんと言えばそのままハッピーエンドですが、相澤先生がそれに気付くのは当分なさそうです。