僕の兄さんは、酷く病弱な人だ。
その代わり、誰よりも優しい人で・・・
「妹子君は遣隋使になったんだね・・・誇らしいよ」
僕が遣隋使になったことを、誰よりも喜んで、誰よりも淋しがってくれた。
「兄さん・・・そんな切なそうな顔をしないでください」
「妹子君が立派になってくれて、喜ばしいことなのにね。私の元から妹子君が離れていくことが、とても淋しいんだよ」
とても儚い笑みを浮かべる兄さんに、僕まで淋しくなってくる。
「遣隋使の仕事が終わったら、一番最初に兄さんに会いに行くから。待ってて、兄さん」
「うん。待ってるよ」
小さく微笑んだ兄さんは「そういえば・・・」と小さく微笑む。
「今日は上司の方・・・確か、聖徳太子様に会って来たのでしょう?どうだった?」
「え゛!?ぇーっと・・・」
駄目だ。兄さんには、聖徳太子があんな変態だったとは教えられない。
しかも、僕に赤ジャージを着せようとしてることも教えられない!
そもそも、何故赤ジャージ?!何故ノースリーブ!?
ワケが分からない!!!!!!!
「妹子君?」
「ぁ!!!ぇーっと・・・悪い人ではないと思います」
まぁ、変態ではあるだろうけど。
「そう。それは良かった」
安心したように微笑んだ兄さんは、そっと僕の頬に触れ・・・
「気をつけてね。妹子君」
小さい頃から、僕が一番安心する笑みで、僕に言葉をかけてくれた。
それだけで心が一杯になる。
「怪我をしないように、気をつけるんだよ?」
「はい。兄さん」
そっと兄さんが僕を抱き締めて「気をつけてね・・・」と再度呟いた。
温かい体温をしばらく感じられないのだと自覚すると、なんだか目の奥から・・・
「ッ・・・ぅ」
「妹子君・・・泣いているの?」
「に、ぃさんが・・・悪いんですッ。そんな、淋しそうにするからッ・・・!!!」
「ごめんね、妹子君」
困ったように笑った兄さんは、ギュゥッと僕を抱き締める。
それに釣られて、僕の涙もどんどん溢れてきた。
ポロポロッ
兄さんがそっと僕の涙をその服の袖で拭ってくれた。
僕の涙で兄さんの袖が濡れる。
「妹子君・・・仕事、無理しないようにね」
「はいっ・・・」
優しく微笑む兄さんに、僕はギュッと抱きついた。
「フフッ・・・妹子君?」
「兄さん・・・大好きです」
「有難う。私も大好きだよ」
微笑みと同じ、その優しい声が、僕の頭の中を一杯にした。
濡れた袖