僕は一介の鬼でしかありません。
死後の世界で、罪人に罰を与える鬼。
沢山の人間のおぞましい憎悪や悲哀に包まれたこの僕は・・・
どの鬼よりも薄汚れていることでしょう。
「始くぅ〜んvV」
「・・・大王様・・・」
ただ、閻魔大王である彼は、僕のことをそう思ってはいないらしい。
というか・・・
「あの・・・大王様・・・何故、セーラー服をお召しになっているんですか?」
セーラー服姿でこちらに駆け寄ってきた大王様は、僕に抱きついて笑った。
「え?セーラー服は嫌い?」
「ぇっと・・・嫌いとか、そういう問題では・・・」
何故、死後の世界の王である大王が、そんな格好をしているのか、僕は気になって仕方ありません。
けれど、これ以上これを指摘しまうと、なんだかややこしいことになりそうだから止めます。
同僚の鬼男君が、それが原因で大分疲労していたと噂で聞きましたし。
ギュゥギュゥッと抱きついてくる大王様に、僕はちょっとだけ困惑する。
僕は、毎日のほとんどを地獄で過ごしています。
だから・・・
血の鉄っぽい臭いとか、きっと酷い臭いが身体に染み付いてしまっているはず。
「大王様・・・臭いが移ってしまいます」
「ん?始からは、温かい匂いしかしないぞ?」
スリッと僕の胸に頬を擦り寄せる大王様は、笑顔でそういった。
その言葉に驚く僕に、大王様がにっこりと笑いかけてくる。
「オレは、始君大好きだ」
息を呑む。
大好き?僕は、こんなにも汚いのに。
こんなにも・・・
「いけません、大王様・・・僕は、こんなにも汚れています・・・」
ゆっくりと大王様は自分から引き剥がし、僕は一歩距離を取る。
「そんなことない。君は、とっても綺麗だ」
笑顔で僕に一歩近付いた大王様。
僕はまた、息を呑んでしまいました。
「もし、本当に君が・・・姿かたちが汚れてしまっても、君は君。君は、とっても綺麗だ」
するりっと、大王様の手が僕の頬を撫でる。
硬直している僕に、大王様がギュッと抱きついた。
「オレは、そんな綺麗な君が好きだ」
笑顔でそういった大王様に、僕は一筋の涙を流した。
おまけ⇒