「曽良くぅーん」
くぃっと曽良の着物の裾を引っ張った男は、にこやかな笑顔が特徴的で、始という。
曽良と同じ、芭蕉の弟子らしい。
「・・・なんですか」
そんな始をちらっと見た曽良。
「芭蕉さんが何メートルか後ろの方でバテてるよ」
「あんなの無視して大丈夫ですよ。勝手に復活しますから」
自分の師匠を『あんなの』呼ばわりする曽良に始は特に気にする様子も無く「あっそ」と言った。
・・・曽良同様、師匠を労わる気はないらしい。
嘆かわしい限りである。
「曽良君。ちょっと先の方に団子屋あったけど、食べてく?」
道沿いにある小さな店を指差す始。
「そうですね。食べましょうか」
「じゃ、俺のおごりね」
にこーっと笑いながら曽良の手を取り、歩き出す。
ちょっとその行動に驚きながらも、曽良は歩き出した。
「おばちゃーん!団子二人前ー!」
「はいよー!」
元気な掛け合いの後、おばさんが団子の盛られた皿を二枚持ってきた。
笑顔のまま団子を食べだした始を横目に、曽良も食べ始める。
「美味しいね。お団子」
「そうですね」
特に表情を変化させることもなく、曽良は返事をした。
「曽良はクールだなぁ〜」
ハハッと笑い、始は「曽良の団子の方が美味そう」と呟く。
「・・・同じでしょ、そんな――」
「いただきまーす」
曽良の手にあった団子をパクッと食べた始。
「・・・・・・」
「うん。美味い。ぁ、俺のも食べる?」
「・・・まぁ、貰いましょうかね」
ため息をついた曽良は、始の手の団子を一口食べた。
「美味しい?」
「はい」
「それはよかった」
始がちらっと視線を曽良からはずすと、その先にバテバテの芭蕉さんがいた。
「・・・ひ、どいっ、よ・・・二人とも。私を置いていっただけじゃなくて、二人で団子って!・・・しかも、無駄にラブラブ・・・」
ふらふらぁ〜っとしていた芭蕉は、つかつかと近づいてきた曽良によって断罪チョップを喰らった。
「なんで?!」
「煩いですよ、芭蕉さん」
冷たい目で師匠を見る曽良。
・・・恐ろしい。
「あははっ!曽良。あんまり芭蕉さんを虐めてやるな。ぁ、団子食べます?芭蕉さん」
「ぁ。ありが――ゴフェッフッ!!?!?!?!??!??!」
始の団子を差し出された芭蕉さんが、感動しながらそれを食べようとした瞬間、曽良に再びチョップを喰らった。
短い間の二発目に強烈。
「何、勝手に始の団子食べようとしてるんですか。このヘタ男が」
「そんな理由でチョップされたの!?」
ショックを受ける芭蕉さんを置いておいて、始は実に楽しそうに笑っていた。
・・・芭蕉さんを助ける気はまったくないという雰囲気がぷんぷんしている。
「曽良〜、食べる?団子」
「・・・いただきます」
芭蕉さんが食べるはずだった団子を普通に食べた曽良の頭を始がなでる。
「芭蕉さんには、新しいの買って上げますからね」
「わぁ!有難う始く――ベッファァァァァアアッ!!!!!!!!!」
三発目のチョップを喰らった芭蕉さんは、やむなく撃沈したらしい。
・・・所謂、嫉妬である。
お団子いかがですか?font>