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僕と芭蕉君の出会いは、結構昔。


芭蕉君がまだ小さい子供だった頃、芭蕉君は捨てられていた僕を見つけた。



ぐったりしてて、不格好なぬいぐるみだった僕は、前の持ち主に捨てられてしまったんだ。

凄く寂しくて辛かった僕を抱き上げた芭蕉君は、にっこり笑って言ったんだ・・・




『わぁ、可愛い』




可愛いなんて言葉初めて言われて、とってもドキドキした。




腕に僕を強く抱きしめて僕を連れ帰った芭蕉君。

僕に“マーフィー君”なんて言う素敵な名前まで付けてくれた。



大きな大人になったらまたお別れかもしれないってちょっと心配してたけど・・・


芭蕉君は僕を捨てないでいてくれた。



身体が破れたら縫って直してくれたし、綿が零れたら戻してくれた。




そうして長い間、ずっと傍にいてくれた。

どんな時も、何があっても。


それが嬉しくて嬉しくて・・・





もしも芭蕉君がピンチになったら、絶対に助けてあげるんだって思ってる。


芭蕉君の傍にずっといれれば僕は幸せ。この幸せは、滅多な事がない限り覆ることはないって思ってたんだけど・・・








『・・・中身は綿だろうか』






突如天敵が現れた!!!!!!





芭蕉君のお弟子さん!その名も曽良君!


芭蕉君イジメが大好きみたいで、その矛先が僕にくることもしばしば。

突然中身に疑問を持たれ、首を軽くもがれたのはもはやトラウマだ。



曽良君は僕にとって天敵!しかもぬいぐるみだから逃げられないし・・・


いや、逃げられないわけじゃない。




さっきから僕がこうやって話していることからわかるかもしれないけど、僕はただのぬいぐるみじゃないんだ。


“器物は百年経つと化ける”と昔から言うように、僕は付喪神。




媒介であるぬいぐるみを動かして逃げるのはたやすいけど・・・


もしも弟子の曽良君が僕が動くのを見て『この人形は危険です、捨てましょう』なんて言ったら困る。




今更芭蕉君と離れ離れになるなんて、そんなの辛すぎる!


だからもっと別の方法を僕は探した。





どうすれば、曽良君は僕を引きちぎろうとするのをやめてくれるんだろう。


芭蕉君の夢枕に立って、曽良君を止めてとお願いしたいけど・・・芭蕉君の言う事は絶対聞かないだろうし。



・・・あ!


そうだ。芭蕉君からのお願いは聞かないかもしれないけど、他人だったらどうだろう。




曽良君って、外面は良いから他人の言う事は聞くかも!←


そうと決まれば、すぐに人に化けなくては。




僕は優しい芭蕉君の持ち物だったせいか、あまり戦う力はない。


けれど、化けることに関しては別。これは他の付喪神とは一線引いている程、僕は化けるのが得意だ。





「・・・よし」


芭蕉君が出かけ、曽良君がお留守番ついでに庭の掃除をしている時を見計らい、意識を集中させて、取りあえずは化けた。


僕は部屋に立てかけてあった姿見で自分の姿を確認する。



歳は曽良君以上芭蕉君未満ぐらいかな。

媒介のぬいぐるみがぐったりしているからと言って、僕自身がぐったりしていると誰が決めた!


背筋をぴんっと伸ばしながら、そっと部屋を抜け出す。





裏口から外に出て、あたかも散歩をしている通りすがりの人間の様な感じに、曽良君に近づいていく。


曽良君は竹箒を使って落ち葉を集めていた。




よし、いける。大丈夫、いける。





「き、君!」

「・・・はい?」


ひぃぃいいいいッ!!!!!!!!!!曽良君がこっち見たぁぁぁああああああッ!!!!!!!!!!



どどどどど、どうしよう!緊張で呼吸が辛い!

芭蕉君はこんな緊張感の中戦っているんだね!ますます芭蕉君が恋しくなったよ!






「き、君のっ、師匠の持っているお人形があるだろう」


「・・・あぁ、ありますね。それがどうかしましたか?」




感情の浮き沈みの無い声を聞いていると、僕の恐怖はどんどん増大の一手をたどる。





「そ、そのお人形のことなんだが――」

「あの」


「ッ!?・・・な、なんだい!?」




「貴方・・・芭蕉さんの知り合いか何かですか?あの人の私物のことなんか話し出して・・・」


どどどどど、どうしよう!確実に不審がられてる!!!!!!

今にも悲鳴を上げてしまいそうなんだけどっ!?





「そ、そうなんだ。彼とは親しい間柄でね。そ、それで、そのお人形のことなんだけが――」


「お名前は」

「お、お名前・・・?」


「芭蕉さんが帰ってきたらお伝えしておきます。ですから、お名前を」




どうしよう・・・

僕の名前は『マーフィー君』だ。


けれどそれを言ったら、明らかに不審がられるどころの話じゃない。






「ぇっと・・・始。ぼ、僕は始だよ、曽良君」

「・・・僕の名前、ご存知なんですね」


「!そ、そうなんだ。芭蕉君から君の話はいろいろ聞いててねっ、そ、それで、お人形の話も出たんだ!」



ちょっと苦しいかもしれないけど、僕的には死活問題だからね!







「・・・へぇ」

「は、はは・・・」


じーっと僕を見つめてくる曽良君にもう僕は口から心臓を吐き出してしまいそうだ。あ、口から綿の方が正しいかも。




「その人形がどうしたんですか」

「え?ぁ、あぁ、うん。あのお人形は、大事なものだから、大事に扱ってほしいんだ」



「・・・・・・」


「に、人形はデリケートだからっ、その・・・ちょっとのことで壊れちゃうんだ。だから、大事に・・・」


「・・・何故貴方がそれを僕に?」

「ぇ、ぇと・・・」




どうしよう。

芭蕉君から相談されたんだ、と嘘を吐いたら確実に芭蕉君が曽良君に断罪を受ける。


あれ?というか、もう芭蕉君は僕のせいで断罪決定じゃない?




・・・や、ヤバイ。







「す、すまない!よ、用事を思い出したからそろそろ失礼するよ・・・!」

「待ってください」


「〜〜〜っ!?!!!?!??!」



ギリギリで悲鳴は挙げなかったものの、僕は曽良君に腕を掴まれた瞬間、完全に硬直した。




「顔を良く見せてください」

「ど、どうして、かな・・・?」


「いえ。特に意味はありませんよ。もし、芭蕉さんが貴方の名前に聞き覚えがないとおっしゃってもその特徴が言えるようにと思いまして。ほら、あの人もう結構歳だから」



失礼だよ!芭蕉君はまだまだ現役だよ!

そう反論したいけど、曽良君が怖くて出来ない!




「・・・綺麗な顔ですね」

「えっ!?そ、そうかな・・・」


「えぇ。とっても素敵です」

頬に曽良君の手が宛がわれ、僕は軽く冷や汗を流す。


何が目的なのか、曽良君はじーっと僕の顔をみつめ、しきりに僕にぺたぺたと触れた。

触れたかと思えば、今度は「あの」と言葉をかけてくる。




「な、何だい?」

「また来られますか?」


「ぇっ!ぁ、えっと・・・」



「来れますよね」

あれ?断言系になってる。




「も、もちろんっ!」

「そうですか」


あ、やっと放してくれた。




僕は「そ、それじゃぁ!」と言ってダッ!!!!と全力疾走した。





あぁぁぁああああっ・・・!!!!





「こ、怖かったぁぁぁあああっ」

僕は裏口から家の中に戻り、ぬいぐるみに戻るとホゥッと息をついた。


あぁ、死ぬかと思った。










そうしてその日、帰ってきた芭蕉君は曽良君にボッコボコにされ「マーフィー君〜っ!弟子が虐めるよぉぉおおおっ」と言いながら僕を抱き締めた。


・・・うん、ごめんね、芭蕉君。




けど、これで僕に対する恐ろしい所業が減るものと思ったんだけど・・・

「・・・・・・」


な、何で曽良君は、僕をじっと見つめるんだろう。




時折手にとってはじーっと見つめる曽良君が怖くて仕方ない!





「・・・早く、また来ないだろうか」






よくわからない曽良君の発言を耳にしつつ、僕は何時曽良君によって腕や首を引きちぎられないかとドキドキしていた。




ぬいぐるみの大奮闘

ドキドキッ
(・・・素敵な人だったな)
(芭蕉君っ!!!曽良君が怖いよぉぉおおおおッ!!!!!)


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