能力は十分にあるのに、性格に難があってその能力を上手く発揮できない・・・そういう類の人間というのは、結構多くいるだろう。
僕の雇い主兼庇護対象な彼、阿部さんもそんな人間の一人だ。
「始・・・」
ぎゅっと握られた腕に僕は驚くことはない。
びくびくと震えながら僕にしがみつく様にして歩いている阿部さんは、陰陽師の癖に極度の怖がりだ。
幽霊の話とかしたら普通に吐く。阿部さん用のゲロバケツがあるぐらいだ。
僕はと言えば、一応霊感的なものはあるのだが、阿部さんのように式神を召喚したりする能力はない。
僕の仕事と言えば、幽霊にビビって気絶した阿部さんを運び出すことだ。
もしくは、怖がり過ぎて仕事現場へ向かうのを拒否する阿部さんを無理やり引っ張り出すこと。
碌な仕事してないな、と思いつつも、僕はこの仕事が気に入っている。
「怖い、始」
「はいはい、わかったから。だからあまり僕の服を引っ張らないで」
グググッと引っ張られる服の袖。彼のせいで伸びて駄目になった服は多い。
「ぜ、絶対に行かなければ駄目か・・・!?」
「もう前金貰っちゃってるんです。前金返そうにも、もうニャンコさんが使っちゃって無いし」
まさか高級かつお節を桐箱で購入してくるとは思わなかった。
一応、阿部さんのお金の管理をちょっと任せて貰っている僕としては、本当に痛い出費だ。
前金を使ってしまったなら仕方ない。きっちり働いて謝礼を受け取らなければ。
阿部さんはこんな性格だし、断ってしまう仕事がほとんどなため、家計は火の車だ。
・・・あれ?僕って結構、主夫やってるんじゃないだろうか。
「無理。怖い。吐く」
がくがくっと震えている阿部さんに僕はにっこりと笑う。
「人の服に嘔吐物ぶっかけたら、もう二度と仕事に同行しませんからね」
「・・・ぅうっ」
必死に口を押える阿部さんにクスッと笑いつつ、この人はやっぱり面白いと思う。
その気になれば悪霊なんてちょちょいのちょいなのに、幽霊を怖がって・・・
何かあればすぐに僕にすがって震える姿も、ちょっと面白い。
あれ?僕って結構Sっ気があるのかも、なんて・・・
「始っ、オレが気絶したらちゃんと運んでくれよっ」
「今回の仕事で、怖がり過ぎて雑草食べ始めたりしないって約束したら、抱えて運んであげます」
「え・・・食ったら?」
「足を掴んで引きずって運びます」
「た、食べない・・・絶対に食べないぞ・・・」
ぶつぶつと自分に暗示をかけようとする阿部さんに「冗談ですよ」と言いながら笑う。
そんな冗談を言いつつ歩けば、阿部さんも大分落ち着いてきたらしい。
相変わらず僕の腕を掴んで離さないけど、震えは割かし止まっている。
「今日も頑張りましょうね、阿部さん」
「・・・ぁ、あぁ」
「頑張ったら、ご褒美でもあげましょうか」
「ご褒美?」
きょとんとする阿部さん。
まぁ、こんなに怖がりだけど一応は良い歳した大人である阿部さんに、ご褒美なんて幼稚すぎただろうか?
「じゃ、じゃぁ・・・」
あ、ご褒美欲しいんだ。
「始のシフトが・・・」
「僕のシフト?」
「は、入ってない日も・・・お、オレの傍に、いてくれ」
「・・・・・・」
あぁ、それって・・・
「毎日一緒にいたいって、ことですか?」
「・・・そ、そうなるなっ」
何時もは真っ青な顔をしている阿部さんの赤面なんて貴重だ。
僕はついついクスッと笑ってしまったが、阿部さんは羞恥心で真っ赤なまま。
僕の腕をぎゅぅっと掴んだままの阿部さんの頭をするっと撫ぜた。
「いいですよ」
「!・・・そ、そうか」
こくこくっと頷いた阿部さんは、この日の仕事を阿部さんの割には頑張った。
・・・ゲロは盛大に吐いたが、何とか雑草は食わず、ついでに言えば脱臼もせずに仕事を完了することが出来た。
「ご苦労様、阿部さん」
だが最後には結局気絶した阿部さんを背負いながら、僕は口元に笑みを浮かべながら労いの言葉を口にした。
さて・・・
シフトが入ってない日には、阿部さんのところでのんびり過ごそうか。
シフト変更中