「おや、妹子君じゃないかい」
背後から声を掛けられた僕は、聞き覚えのあるその声にはっとして振り返った。
「ぁっ、始さん・・・」
そこに立っているのは、楽な格好をして穏やかな笑みを浮かべている男性。
僕の家の近所に住んでいて、身体が弱い彼は、普段家の中で布団に入っている。
「今日はお体の調子、良いんですか?」
「うん。だから少し散歩でもしようと思ってね」
今日の僕は運が良い。
まさか、好きで好きで仕方ない彼にこんなところで出会えるなんて・・・
家は近所なのになかなか会えないし、あぁどうしよう、何を喋れば良いんだろう・・・
「折角だから一緒にあるかない?あぁ、妹子君が暇だったらだけど」
「ひ、暇です!すっごく暇だったんです!」
太子に呼ばれてるけど、そんなの関係ない!どうせあの人家でカレー食ってるだけだろうから!!!!!
始さんは僕の返事に「そっか」とほほ笑む。
あぁ・・・笑った顔も素敵です始さんっ。
始さんの隣を歩く僕。あぁホントに運が良い。
「妹子君は聖徳太子様のところで働いてるんだったよね」
「へ?様・・・ぁ、はいそうですね」
太子に様を付ける人って最近なかなか見ないから、何だか新鮮だった。
というか、何で今太子の話?
ハッ!!!まさか始さん太子のこと――
「妹子君?」
「ぁ、す、すみません!・・・そ、それで、太子がどうかしたんですか?」
「ん?あぁ、いやいや。あれだけ偉い人のところで働いてるんだから、きっと妹子君も苦労してるんだろうなぁって。どう?大変?」
な、何だ。別に太子のこと聞きたいとかそういうわけじゃないんだ。
むしろ僕の心配をしてくれてるなんて・・・
どうしよう!嬉し過ぎる!!!!
「だ、大丈夫です。確かに大変だと思う事はあるけど、全然平気です!」
「そっか。妹子君は頑張り屋さんだから、心配してたんだよ」
始さんに心配されてるなんて!!!!!
あぁ嬉しい嬉しい嬉しいっ!!!!
「妹子君、顔が赤いけど・・・」
「へ?ぁ、ぇっと」
顔に出てた!?
あぁぁぁあ、変なヤツって思われたらどうしよう!
「風邪かな?」
「そ、そういうわけじゃ・・・」
「ちょっとこっちを向いてごらん」
は、はい。と返事をしながら始さんの方を見――
ピトッ
「・・・ぁ」
「うん。熱はないようだね。でも、もし身体がだるくなったりしたら、すぐに私に言うんだよ?これでも病気に関してはよく理解してるつもりだから」
にこりと微笑んでいるこの人は今一体何をした?
え?おでこをくっつけた?
え、誰に?・・・僕に!?!!?!??!??!???!
「い、妹子君!?か、顔が真っ赤だよ!?」
「へ、平気ですっ!!!!!」
あぁぁぁあ、駄目だ駄目だ!
顔が熱くて仕方ない!!!!
ついつい顔を抑えたままその場に座り込んでしまう僕に、始さんは心配そうな視線を送ってくる。
あぁ、そんなに見ないでください!!!!
「妹子君、もしかして疲れてる?」
「ち、違います」
「けど真っ赤すぎやしないかな?良かったら私の家でゆっくりしていけば良い」
「い、良いんですか?」
「もちろん。美味しいお茶を用意するから」
〜〜〜っ、やっぱり今日の僕は運が良い!!!!!
僕はこくこくこく!!!と何度もうなずいて、始さんに案内されるがままに始さんの家に行き、お茶を飲んだ。
「妹子君、私で良ければすぐに頼ってね」
「は、はいっ!!!!」
あぁぁぁぁああッ・・・
始さん、やっぱり好きです!!!!!
好き過ぎるんです!
太(妹子、来ないなぁー・・・)