「はぁー?自分で考えた十七条の憲法を忘れただぁ?」
今日も今日とて阿呆な太子に、俺は溜息をついた。
「わ、忘れたわけじゃないぞ!た、確か第一条は小石・・・いや、パンくず・・・?」
「・・・・・・」
「わーわーわー、始の目が怖いでおまっ!」
おそらく、今の俺の視線は下手すれば人・・・というより太子の心を殺せることだろう。
ガタガタッと震える太子に「まったく・・・」と額に手を当てる。
元々は有能な男のはずだ。きっとそうだ。
そう言って自分に言い聞かせ続ける俺だが、いろいろ限界もある。
太子の部下として就職した俺は、太子の馬鹿さに頭痛を感じることも多々ある。
例えば、いきなりジャージを仕事着にしようだとか、位別に袖の長さを変えようとか・・・
馬鹿の極みか、アンタは。
それに極度のカレー好きで、俺もことあるごとにカレーを食いに誘われる。もちろん全部却下するが。
正直言って、職場でも太子の扱いが酷いことも多々ある。が、それも仕方の無いことだ。
・・・本来は有能な男のはずなんだがなぁ・・・
何故こうも馬鹿なのか。
それとも、普段は馬鹿だか、ここぞという時に才能が・・・?
「ひぃっ!そ、そんなに見詰められると、心臓が潰れそうだっ!」
・・・ねぇな。
この馬鹿がそんなスペック持ってるわけがねぇ。
あぁ、本当にコイツは馬鹿。
馬鹿だ、馬鹿。この馬鹿野朗。
けど・・・
「始っ・・」
焦ったように俺を見詰める太子に、俺は今日一番大きな溜息をついた。
「・・・第一条、和をもって貴しとなす」
「むむ?」
「自分で考えたんだろ。俺は・・・この憲法、結構気に入ってるんだ。忘れんじゃねぇよ」
太子らしい憲法じゃねぇかよって、思ってる。
どんなに馬鹿でも、民の事はだれよりもよく考えてるし、こうやって憲法も作っている。
俺は、太子を馬鹿だと思っている。けれど尊敬している。
・・・結局は、馬鹿だコイツと思っても、俺は太子から離れる気はしない。
「太子」
「な、何でおま・・・」
いやな予感を感じたのだろう。
ズズッとちょっと後ずさる太子。
俺は笑顔でガシィッとその肩を掴んだ。
ビクゥッと振るえ、たらたらと冷や汗をたらす太子に、俺は更に笑みを深めた。
「・・・今日から猛勉強だ。自分で考えた憲法、全部頭に叩き込んでやる」
笑顔とは裏腹な低い声に、太子の恐怖がピークなのはよくわかった。
「ちょっ、えっ!?そ、それはどういう――」
「全部覚えるまで、カレーは抜きだ。もちろん、匂いも嗅がせねぇ」
「お、鬼っ!此処に鬼がいるぞっ!」
「勝手に言ってろ。とりあえず、覚えるまではカレーも日の目も見れないものと思え」
俺はにーっこりと笑って太子を引きずる。
太子の悲鳴だとか、他の同僚の哀れみの目とか、その他もろもろは結構無視しつつ、俺は太子を連れて行った。
まぁ、あれだ・・・
普段から、俺の尊敬する聖徳太子に少しでも近付いてくれればなぁっとか、別に思ってないからな・・・?
「始〜!許してくれぇー!」
「生憎だが、俺には何も聞こえていない」
にこっと笑ったら太子の悲鳴が煩くなって、俺はギロッと太子を睨む。
ものの数秒で静かになってしまった太子に、俺はにやりと笑った。
・・・さて、とっととお勉強スタートだ。
勉強しなおせ