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※氷室ローランド成代り主。


独りぼっちが怖かった。

小学生の頃、母の故郷である日本にやってきてから、僕の生活は大きく変化した。

子供とは残酷なもので、髪や目の色が違う僕は嫌でも目を引き、からかいや誹謗中傷の的になった。


当時日本語はよくわからなかったけれど、酷いことを言われていることはわかったし、子供の浅はかな知識で「ふぁっきゅー」と言ってくる相手には強い怒りを感じた。

それでも家では「どうだった?日本の小学校は楽しい?」と微笑む母に「うん、とっても楽しよ」と返し、父にも「毎日が楽しいよ」と嘘を吐いた。


本当は、辛くて辛くて仕方なかった。近づいてくる奴らは敵ばかり。僕と仲良くしてくれる人なんて、居やしなかった。でも、心配はかけたくなかったんだ。

言葉じゃどうしても言い返せないから、嫌な言葉には拳で足で仕返しするようになった。そうすれば、言葉はなくても相手は黙るんだ。

運の良い事に僕には喧嘩のセンスがあって、僕はあっという間に相手を倒すことが出来た。


中学の頃は喧嘩に明け暮れた。すると、僕には一人の友達が出来た。

駒光彦、初めて僕と友達になってくれた人。僕の唯一無二の親友。

僕が喧嘩をする様子を見て、凄いと思ってくれたらしい。どうやったらそんなに強くなるのかとか、喧嘩を教えて欲しいと言って、笑ってくれた。

自分に向けられる笑顔が嬉しくて、僕は駒に沢山のことを教えた。駒は僕が教えることを実践して、上手く出来ると「氷室のおかげだな!」と喜んでくれた。嬉しかった。

独りぼっちだった僕に友達が出来た。嬉しくて嬉しくて仕方なくて、母にも沢山自慢した。母は笑って「じゃぁ、その駒くんという子を大事にしないとね」と言った。勿論そうするつもりだ。だって僕には、駒しかいないんだから。


「氷室なら、喧嘩でてっぺんが取れるな!」

「てっぺん?」

「そう、てっぺん!」

駒のキラキラした目。その目がもっと見たくて、僕は「じゃぁ、てっぺん目指す」とそれまでやってきた喧嘩を、更に増やすことにした。

駒はノートで僕が喧嘩で倒した人数を記録して、その数を見返すたびに「凄いなぁ!やっぱり氷室は凄い!」と褒めてくれた。


けれど、喧嘩をする数が増えれば、学校にそれがバレるリスクも増す。

誰が密告したのか、僕と駒が喧嘩をしたことが学校にバレて、僕と駒、そして互いの両親が学校に呼び出された。


「駒は何もしてません。僕が一人でやって、駒はそれを見てただけです」

実際、喧嘩の大半は僕がしてたし、駒が怒られるぐらいなら僕が全部引き受けようと思った。

その後駒は困った顔で「氷室があえて泥をかぶる必要なんてないんだぞ」と言ったが、駒のためなら泥ぐらいへっちゃらだ。

・・・それなのに、それからしばらく経って、駒は僕を避け始めた。


大人に何かを言われたのかもしれない。時に申し訳なさそうに、時に悲しそうな顔で僕を避ける駒に、僕は深く傷ついた。

僕には駒だけだったのに、駒が僕から離れていく。僕に残ったのは、僕の上っ面だけに媚び諂う馬鹿な同級生ばかり。駒には僕以外にも友達がいたみたいだけど、僕はそうじゃないんだ。駒、駒、僕から離れないで、駒・・・

自宅の自分の部屋で膝を抱え、何度も何度も泣いた。駒がいない生活は、僕をどんどん絶望へと追いやった。


「・・・てっぺん、取ろう」

そうだ。てっぺんだ。てっぺんを取って、僕が一番偉くなろう。そうすれば、駒も大人の言いなりになんかならなくて済む。また、僕と一緒にいてくれる。

僕はまた、喧嘩をするようになった。もう駒は一緒にいないけど、喧嘩は最初から得意だったんだから、問題ない。

とは言うものの、大人数で来られると、僕も押されてしまうことはある。


何時も背中を守ってくれた駒はいないから、他校の不良たちに集団で襲われた僕はあっという間にぼろぼろになった。

頭を殴られて、腹を殴られて、背中を踏まれて・・・

大雨の中、神社の境内に放置された僕は殆ど虫の息だった。


「氷室!」

煩い雨音に負けない大声で僕の名前が呼ばれ、かすむ目で見れば、駒が泣きそうな顔で境内へと駆けのぼってきていた。

「氷室っ!ごめっ、遅くなって・・・氷室、今救急車を・・・」

僕は何とか手を動かして、駒の腕をつかんだ。


「駒、もう、行かないで」

ずっと我慢していた。母にも、父にも、駒にも、ずっと涙だけは見せないようにしていた。泣くのは部屋の中だけだった。

でももう無理だった。僕の目からはぼろぼろと涙が零れて、僕は掴んだ駒の腕を引いて、その手に縋った。


「行かないで、一人にしないで・・・駒、一緒にいて」

「氷室・・・」

もう中学生なのに、小さな子供のように泣きじゃくる僕を、駒が抱きしめてくれた。

ごめん、と言いながら強く抱きしめてくれる駒に、僕はもっと泣いて縋った。


「氷室、ごめんな。お前がそんなに俺のことを思ってくれているなんて知らなかったんだ。・・・それと、もう一つごめん。俺は、もうしばらくお前と一緒にはいられない。先生との約束をやぶった俺は、退学になってしまう」

やっぱり、大人から僕との付き合いを立つように言われていたんだ。僕と次関わったら、退学にするとまで言われて。・・・それでも、今日こうやって僕のところに駆けつけてくれた駒に、僕は胸がいっぱいになった。

母が言っていたとおり、僕は駒を大事にしたい。ずっとずっと、僕が大事にしていきたい。


「でも高校に入ったら!目一杯お前を支える!ずっとそばにいる!だから、それまで耐えてくれないか?」

「うん、うん・・・駒が一緒にいてくれるなら、頑張るよ」

「あぁ。高校で、一緒にてっぺん目指そうな」

「喧嘩するの?」

「ははっ、流石に今回みたいなことになったら困るから、そうだな・・・海帝高校の生徒会長を目指そう。将来この国をも動かせる、本物のてっぺんだ」

国を動かすとかそういうのは正直どうでもいいけど、駒が楽しそうに言うから、僕はその話にのってみようと思った。


「・・・それで駒が褒めてくれるなら、目指す」

「はははっ、お前ってやつは本当に、俺が大好きだなぁ!」

「うん、僕、駒が大好き」

「・・・今のは軽い冗談だったんだが」

「冗談?僕は駒が大好き、ずっと一緒にいたい。駒を、一生大事にしたい」

「・・・、・・・あ、有難う」

何故だか駒が真っ赤になってしまったけど、そんな駒の顔もいい。僕は駒の背中に回した腕の力を強め、駒の頬に頬ずりをした。駒がもっと真っ赤になった。




一生大事にするからね




「駒、一人で真っ赤になってどうかした?」

「・・・いや、昔のことを思い出してた。名前は、今も昔も俺にべったりだったなって」

放課後の教室で転寝から目が覚めたら、駒が真っ赤な顔で僕を見つめていた。


「だって僕には駒だけだし・・・駒は、僕が一緒じゃ大変?駒が望むなら、少しだけ距離をおいても・・・」

「そ、それは駄目だ!」

「駄目?」

「・・・今の名前は次期生徒会長の最有力候補。お前の隣を望む奴なんて五万といる。今お前から少しでも離れたら、その時は・・・」

「ははっ!なんだ、そんなことを気にしてたんだ」

駒の言う理由があまりに可愛くて、僕はついつい声を上げて笑った。


「ずっと言ってる。僕には、駒だけだよ。一生」

「・・・その台詞、俺以外には絶対に言わないでくれ」

「言わないよ。駒だけだから」

手を伸ばせば、駒が僕の手をぎゅっと握る。


「駒と一生一緒にいられるなら、本当は生徒会長にもならなくていいんだ」

「・・・滅多なことを言うもんじゃないぞ、名前」

でも嬉しい、有難う。そう笑う駒に、僕も笑った。



あとがき

精神年齢やや低めの氷室成代り主。
駒に褒められたり喜ばれたりするのが好き。
長い事味わったぼっちがトラウマ。初めて友達になってくれた駒に依存してる。

駒がてっぺん目指そうと言ったから生徒会長目指してるけど、正直駒がいてくれるなら何しても楽しい。駒と一緒に何かするのが好き。駒大好き。

当初の駒からすれば『そういうつもり』じゃなかったけど、露骨に特別扱いされれば自然と『そういうつもり』でもいいやってなった。満更でもない。



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