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僕が堂山くんの幼馴染だからだろうか。氷室くんや草壁くんを始めとするルーム長の面々からとても親切にされる。

僕に親切にしたからと言って、堂山くんへのアピールになるとは思えないが、邪険にされるよりは親切にされる方がずっといい。


「苗字先輩、以前寝つきがあまりよくないと仰ってましたよね?僕の母が寝る前によく飲んでいる紅茶なんですが、よければどうぞ」

「えっ、悪いね氷室くん。・・・わぁ、これ凄く高いんじゃない?うちはあまり裕福じゃないから、何だかドキッとしちゃう」

「ははっ、海外産というだけで特別高いものじゃありませんよ。是非飲んで、感想を聞かせてください」

「うん、是非そうさせて貰うよ」

終始笑顔の氷室くんから貰った紅茶の箱を受け取る。ティーバッグが20袋入っているらしい。飲むのが楽しみだ。

紅茶の箱を握り締め、教室に戻ると堂山くんが「お帰り」と笑った。


「ん?トイレに行ったんじゃなかったか?」

「途中で氷室くんに会ったんだ。僕の寝つきが悪いって話を覚えててくれたみたいで・・・寝る前に飲むといいんだって」

「へぇ、良かったじゃないか」

「うん。あ、堂山くんも良かったら幾つか持って帰る?僕今夜飲むつもりだから、明日お互いに感想を氷室くんに伝えようよ」

「ははっ、それもいいな。それじゃぁ貰おうか」

紅茶の箱からティーバッグを数枚取り出し、堂山くんに渡した。明日が楽しみだ。


その後の休み時間も、二年のルーム長や副ルーム長の生徒から元気に挨拶をされたり何かしらのプレゼントを貰ったり・・・

そういうのは僕じゃなくて堂山くんにすればいいのに、とちょっと疲れた放課後。生徒会会議中の堂山くんを待ちつつ、校内をうろうろしていた僕は見知った後ろ姿を発見した。



「あれ?本田くん」

「あっ・・・苗字、先輩」

僕の声に反応した本田くんは今から帰るところだったのか、手には鞄を握っていた。


「久しぶり!最近会わないね。やっぱり学年が違うとなかなか会えないよね。堂山くんと違って、僕は生徒会役員でもないし」

良かったら話そうよ、と本田くんと一緒に近くの階段に腰をおろす。

この時間帯、この辺りを通る生徒は少ない。外からは運動部の掛け声とかが聞こえるけれど、それ以外は静かなものだ。


「前はしょっちゅう堂山くんから本田くんの話を聞いてたのに、最近めっきりだからさ、実はちょっと心配してたんだ。・・・堂山くんと何かあった?」

「あっ、あの、えっと・・・」

実は前々から気になってはいた。あれだけ可愛がっていた本田くんの話題が、堂山くんの口から全く出なくなったのだ。まるで、最初から存在してなかったみたいに。

これは何かあったなと思いつつも、堂山くん本人には聞けなかった。言わないということは、聞かれたくないことだろうから。


「言って。堂山くんには言わないし、相談なら乗るから」

ならば可哀想だが本田くん本人から聞くしかない。僕がそう言って本田くんの肩を軽く叩けば、本田くんはぽろぽろと涙を流し始めた。

文化祭で折角堂山くんが任せてくれた仕事を大失敗してしまったこと。そのせいで堂山くんから叱られ、それ以降堂山くんが目すら合わせてくれないということ。

本田くんは本気で堂山くんを尊敬してるらしく、堂山くんから目すら合わせて貰えないことが相当ショックだったらしい。


「そうだったんだね・・・これは僕が下手なことを堂山くんに言ったら、余計に話が拗れちゃいそう」

ずずっと本田くんが鼻を啜るのを見て、僕はポケットからハンカチを取り出した。

よしよしと本田くんの頭を撫でつつ鼻や目元を拭ってやる。


でも変だなぁ。堂山くんが散々真面目で一生懸命だって褒めてた本田くんが、堂山くんの注意を無視した失敗をするなんて僕は思えないし・・・うーん、やっぱりルーム長同士のいざこざ?他人を陥れるなんて考えつきもしなさそうな本田くんは、きっと誰かに嵌められたんだ。

「きっと堂山くんも、何時かは許してくれるよ。堂山くんね、僕がどんな失敗をしても、最後は絶対許してくれるんだ。本田くんとってもいい子だし、きっと大丈夫」

「苗字先輩・・・」

「僕もそれとなく、堂山くんに本田くんを許してもらえるように言うから。あ、勿論本田くんから相談を受けたとか、そういうのは一切言わないから安心して」

「はい、はいっ、先輩、有難う御座います」

相当堪えていたのか、本田くんの涙は止まらない。可哀想に。

僕は本田くんをよしよし撫で続け「早く堂山くんと仲直りできるといいね」と慰めた。


泣きじゃくる本田くんにはハンカチをそのままあげて、堂山くんの会議が終わるのを待った。しばらくすると「名前!お待たせ!」とこちらに早足でやってくる堂山くんの姿が。

一緒に学校を出て、通学路を並んで歩く。家も近所だから、返る方向は全く同じだ。



「ねぇ堂山くん?最近というか、前の文化祭後からかな?本田くんの話題を聞かないけど」

「・・・本田?あぁ、彼の話題はよしてくれ・・・」

それまで普通に会話をしていたのに、本田くんの話題になった瞬間、堂山くんは露骨に嫌そうな顔をした。

うん、根深い。堂山くんは本田くんの話題を嫌がっている。


「今日本田くんを見かけたよ。彼、相変わらず真面目で一生懸命な子だね。僕、堂山くんに本田くんを紹介して貰った時、すっごくいい子だなぁって思ってたんだよね」

「・・・あぁ、名前も気に入ってくれるだろうと本田を紹介したんだ」

「ねぇ堂山くん、僕がとやかく言うのは変かもしれないけど、僕は僕の失敗を最後には全部許してくれる、そんな心の広い堂山くんも好きだなぁ」

ちょっぴりおだてつつ、本田くんと何かあったなら許してあげてアピールをする。

堂山くんが実はちょっと僕に甘いのは何となく気付いている。こうやってお願いをすれば、少しは考えてくれるかもしれない。


「・・・少し、考えさせてくれ」

よし、と思いつつ「ごめんね、余計な事言った?」と聞く。本田くんが可哀想だからこんなことを言っているけれど、堂山くんがどうしても許せないというならもう仕方ないと思っている。堂山くん抜きに、本田くんとは今後も先輩後輩の付き合いをさせて貰いたい。


「いや。名前が常に僕のためを思って発言してくれているのを知っている。君の言葉に僕への悪意が一つも含まれていないことを、よく知っているんだ」

流石にそれは買い被り過ぎだけれど。僕はただ、友達として誠実でいようとしているだけ。


「そう言って貰えて嬉しいよ」

「君の言葉を信じて、失敗したことはない。・・・本田のこと、もう一度考えてみるよ」

「失敗したことないなんて、言い過ぎだよ」

笑って言えば、堂山くんは「いや、君の言葉は正しい」と割と真面目な顔で頷いた。

そしてその数か月後「君の言っていた通りだった!本田はずっと、真面目で一生懸命な良い後輩だった!」と堂山くんが嬉しそうに報告してくれた。

どういう流れかは知らないけれど、どうやら本田くんの濡れ衣が剥がれたらしい。良かったね、本田くん。




裏番長的な扱いの一般生徒




「生徒会長から最も信頼され、噂では生徒会長の決定には常に関わっていると噂の人・・・苗字名前先輩。彼の存在こそ、この戦いの鍵だ!」

「帝一、その先輩そんなに凄い人なの?」

「生徒会役員でもなければルーム長でも、何処かの部の部長でもない。ただ一つ、生徒会長の幼馴染というポジションで、この学校では生徒会長に勝るとも劣らない権力を持っている!しかも、彼に行った全ては堂山さんに筒抜け!上手くやれば、苗字先輩を通じて株を上げることが出来る!現に、ルーム長の二年生は一部を除き全員苗字先輩に何かしらのアクションを取っている!」

「へー、凄いね」

「噂では、過去の文化祭で大失敗を犯した本田先輩がまだルーム長でいられるのは、苗字先輩の口添えあってのものらしい」

二年生からだけでなく、一年生のルーム長たちからも親切にされ始めるのは、そう遠くない未来。



あとがき

別にこれといって特徴のない一般生徒だけど、生徒会長の幼馴染という特殊ポジションにいる。
長い付き合い故か、堂山からの信頼も厚い。実は副ルーム長に誘われたこともあるが、上手く出来る気がまったくしなかったため断った過去がある。

彼に行った親切も不親切も堂山に筒抜けなため、堂山にアピールする方法として使われがち。
本人的にお気に入りは本田くん。いい子だなぁと思ってる。



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