×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -





小さな椅子の上、不安定な場所で座りながら器用に眠りについていた彼は、ふと自分の顔に触れられる感覚で目が覚めた。


「・・・名前くん、目が覚めたかい」

目を開けた名前が最初に見たのは、氷室ローランドの顔だった。



「ん、あぁ、氷室くん」

あまりの顔の近さに内心驚きつつも、名前はそれを表面には出さず、身体を起こすことで自然に距離を取った。

「氷室くんなんて他人行儀な呼び方は止めてくれ」

「ははっ、じゃぁローランドくん。美術室に何か御用?」

「君の様子を見に来たんだ。見たところ、順調そうだ」

氷室という同級生は、何かと距離の近い男だと名前は認識している。きっとその身に流れる異国の血がそうさせるのだろう。


肩や背中に触れる軽いボディタッチ、今のように親し気にファーストネームで呼びそして自分の名前も呼ばせる様子、本当にパーソナルスペースが狭い男だな、と名前は欠伸を零しながら思った。

欠伸をする名前を、氷室は優し気に見つめ「眠くなってしまうぐらい、根を詰めていたんだね」と笑った。

二人の傍には、完成間近の絵画がある。今回の絵画コンクールに提出予定のものだ。

描き込まれてるのは美しい景色が見える窓辺。名前の叔父が所有する屋敷からの景色だ。名前はその窓辺の景色に一目惚れし、今回の題材にすることを決めた。


「・・・この部分が、少し寂しい気がするよ」

氷室が指さす箇所に、名前は「君もそう思う?」と肩をすくめる。


「実はね、この空白をどうしようか悩んでいるうちに、転寝してしまったんだ」

「ふふっ、君のそういうお茶目なところ、素敵だと思うよ」

そっと氷室の手が腕に添えられ、そっと腕を撫でる。

「有難う。でも、そうだな・・・じゃぁ、青い花を添えようかな」

「青い花?」

「ローランドくんの瞳を見てたら、色が決まったよ。有難う、僕はあともう少し残るけど、下校完了時間にはきちんと帰るつもりだから、心配しないで」

起き抜け一番に至近距離で見た氷室の顔には驚いたが、その青い目にピンときたのだ。

この窓辺の寂しい部分、此処に添えるなら花がいい。それも、澄み渡った青。

名前はローランドから顔を背け、絵画に向かうため絵筆をとった。


そうなるともう他人の声など聞こえなくなってしまうことは、氷室も知っている。

氷室は静かに「応援しているよ」とだけ言うと、美術室を出て行った。




青い花を添えましょう




数日後、絵画コンクールに出されたその絵は見事賞を取り、校内の一角に飾られることとなった。

そしてその絵画を見上げる生徒が一人と、その生徒の斜め後ろに立つ生徒が一人・・・

見上げていた生徒、氷室は満足そうに頷いた。どの目は何処かうっとりとしている。


「この絵画は、名前くんから私に対して捧げられたものだと捉えて、間違いないんじゃないだろうか」

「・・・、・・・そうなんじゃないか!」

副ルーム長 駒光彦は、上機嫌な氷室に対し笑顔で頷くに留めた。

余計なことは言わない。良き腹心の心得である。



あとがき

氷室から割と一方的に想われてる美術部の一般生徒の話。
氷室的には相思相愛で、既に付き合ってても可笑しくないぐらいの認識。
「生徒会?へー、頑張ってね、氷室くんは何時も親切にしてくれるし、選挙の時は一票入れるね」と軽く応援する程度で、特に生徒会に興味なし。

氷室の友人兼腹心の駒は、一方的だなぁと思いつつも氷室の恋の応援はしてる。



戻る