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※グレイグ成代り。


自分のポジションが『グレイグ』だとわかったのは、友人であるホメロスとの出会いがきっかけだった。

出会った当初はグレイグは遅れて城に来て三人で幼少期を過ごすのだろうと思ったが、待てど暮らせどグレイグは現れず「おや?もしかしてグレイグとは俺なのか?」と気付いてしまった。

貴族の出のホメロスはただの孤児である俺よりも多くのことを知っていて、精神年齢的には年下だが多いに頼らせて貰った。

ホメロスは何でも知っていて凄い、もっといろいろなことを教えて欲しい。そんな風に教えを乞う俺にホメロスもいい気分だったのだろう。俺にいろいろ教えるために、夜中こっそり難しそうな本を読みこんでいたのを知っている。


俺は魔物も魔術もない世界の記憶を前世として持っているせいか、この世界のことに対し無知過ぎた。その代わり、体術や剣術といった身体を動かすことは大の得意だった。

「俺は馬鹿だからホメロスが俺の手綱を握っていてくれ。俺はホメロスの手足、ホメロスは俺の脳味噌だ」

剣術の練習中、手合わせが楽し過ぎてうっかり教官の腕の骨を折り、各方面から大目玉を食らった後、そうホメロスにお願いした。

馬鹿な俺は力加減も出来ない。おそらく、本来の『グレイグ』よりも短絡的で馬鹿力だ。常に火事場の馬鹿力を発揮しているような状態の俺は、ホメロスのような上手い指示をくれる人間が必要だったのだ。

ホメロスは「仕方ないな」と笑って、俺がわかりやすいように俺がより上手く動ける指示の仕方を考え、実行してくれた。


ホメロスのおかげで俺は手加減もできるようになったし、魔物相手では無駄なく魔物退治をすることが出来た。

それを周囲から褒められれば俺は決まって「ホメロスの指示が素晴らしかっただけだ」と言い、ホメロスと会えば「お前がいてくれなきゃ俺は駄目だからな」と笑った。

だがあまりにも周囲がホメロスではなく俺ばかりを褒めるものだから、つい怒って「何故俺のホメロスが評価されないんだ!手足を褒めるなら頭も褒めるのが当たり前だろう!」と大暴れ・・・当時十代も中頃だったが、王にはお説教をされ、城内全てのトイレ掃除を命じられた。ホメロスは「馬鹿だな」と笑いながら、トイレ掃除でくたくたの俺に紅茶を飲ませてくれた。


その後もいろいろなことがあり、俺もホメロスも将軍となった。その間、俺は幾度となく大暴れをし、幾度となく叱られ、幾度となくホメロスに笑われた。叱られてしょげる俺を見る時のホメロスの顔は本当に楽しそうで、笑われても全く怒れない。

「ホメロス大変だ、部下に稽古をつけてやっていたら、部下が吹っ飛んで気絶を!」

「その気絶した部下をわざわざ俺の部屋に連れてくるんじゃない。まずは医務室に投げ入れてこい」

「それもそうか!有難うホメロス!」

数メートル吹っ飛んでそのまま気絶した部下にパニックになり、ついホメロスのところに連れてきてしまったが、ホメロスの冷静な言葉でなんとか正気に戻ることが出来た。おそらく驚きのあまり一時的なメダパニ状態だったのだろう。


部下を医務室の職員に預け、ホメロスの部屋へと走る。勢いよく扉を開けば呆れ顔のホメロスが腕を組んでいた。

「廊下を走るな、扉を乱暴に開くな・・・何度言われればお前は学習するんだ?」

「すまない!」

扉が壊れている様子はない。俺がこの城で過ごした数十年の間に何枚もの扉を壊してしまい、その都度修繕される扉は何時の間にやらある程度俺の馬鹿力に耐えられるようになっていた。職人の腕が素晴らしい。


ホメロスはため息を一つ吐くと「汗の一つでも掻いているなら追い出してやろうと思ったが、部下に突き合わされた稽古ごときでお前が汗をかくはずがないか。来い、紅茶の一つでも出してやる」と部屋に備え付けられた棚からティーセットを取り出した。

ソファに座り紅茶の用意をするホメロスの隣にどすりと座れば、ちらっとホメロスがこちらを見る。おそらく「静かに座れ」ということだろう。

「それで?部下の様子はどうだ」

「命に別状はないが、しばらくは目を覚まさないだろうとのことだ!いや、まさか木刀で下から薙ぎったらそのまま上に吹っ飛ぶとは!」

「相変わらずの馬鹿力だな。うっかり俺のことまで吹っ飛ばしてくれるなよ?名前」

「勿論だ。ホメロスは俺よりも細くて折れないか何時もひやひやしているから、可憐な花をイメージして触れている。どうだ!痛くないだろう!」

紅茶を淹れるホメロスの邪魔をしない程度に、その手首に触れる。俺よりも随分と細い手首に本当に折れやしないかひやひやする。


「細くて折れそうは余計だ。流石の俺もそこまで弱くないぞ馬鹿め」

かちゃりと澄んだ紅色が注がれたカップが俺の前に置かれる。

紅茶を飲み時に一番気を付けないといけないのは、カップの持ち手を壊さないことだ。特にホメロスが所有しているものは全て質の良い・・・すなわち高価なものであるため、並々ならぬ注意が必要だ。

ホメロスの手首から手を放し、そっとカップの持ち手を握る。

むっ、このカップ、価値はわからないがこの細やかな模様からして確実に高い。


「因みにそのカップは最近の俺のお気に入りだ」

「ホメロス、今このタイミングでそれを言うのは止めてくれ、飲めなくなる」

にやにや笑うホメロスに見守られながら、カップをゆっくり持ち上げ、口元に運んだ。

音を立てないように注意しながら紅茶を啜る。紅茶の銘柄にも勿論詳しくないが、ホメロスが淹れた紅茶はどれも美味しいため、今回も当然のように美味しかった。

何度もこの緊張を繰り返したくはないため、紅茶はこの一度で飲み切る。カップを置く時も細心の注意が必要だ。飲んだからと気を抜いてカップをソーサーに戻す時、互いがぶつかって割れた・・・という経験がある。


恐々空になったカップをソーサーに置く。よし、少しかちゃっと音が鳴ったが、割れている様子はない。

大きく胸を撫でおろした俺に、ホメロスは遂に耐え切れなくなったのか声を上げて笑い出した。

「紅茶一つでそこまで怯えるなんて、国の英雄が聞いて呆れるな!」

「頼むから、俺の分は金属製のマグカップで出してくれ。ホメロスのお気に入りのカップは俺には荷が重い・・・」

「馬鹿め。お前を困らせるためだけにペアカップを買っている俺の努力を無駄にするつもりか」

楽しそうに笑ったまま自分の分の紅茶を俺よりずっと上品に飲んで見せたホメロス。相変わらず礼儀作法が完璧だ。孤児の出の俺とは違う、気品がある。


「何だ、そんなに見つめて。紅茶のおかわりが必要か?」

「そ、それは遠慮しよう。次は割ってしまいそうな気がする」

「ほぉ?」

意地悪く笑ったホメロスが次にすることなんてわかりきっている。しかしそれを止めようとしてうっかりホメロスに怪我を負わせてしまっては大変だ。

ホメロスを静止しようとした手は中途半端な状態で止まり、ホメロスは易々とカップに紅茶を注いでしまった。

がっくりと肩を下げつつ、ホメロスの紅茶が飲めること自体は有難いため「有難う」とお礼を言う。さて、また集中しなければ。


カップの持ち手を掴む。ゆっくり持ち上げ、そう、慎重にだ。慎重に持ち上げ、口元へ。

「あぁそうだ」

ホメロス、今話しかけるのは止めてくれ。よし、飲めた。後はカップをソーサーへ戻すだけ・・・


「次の休暇、お前と俺が珍しく被っていた。どうせだから一緒に出掛けるか?」

「それは本当はホメロス!なら俺はホメロスと遠出を・・・!」

ペキッと軽い音がして、カップの持ち手が折れた。支えを失ったカップはそのまま転落し、真下のソーサーを巻き込んで割れた。


「・・・また割ったな?」

まぁ予想はしていたが、と笑っているホメロス。

「割ってしまった詫びとして、出先では私の荷物持ちになる覚悟は出来たか?」

「それは勿論する!なんなら、出先の支払いも俺がする!本当にすまない!嫌わないでくれ!お前に嫌われたらショックで寝込む!」

折れた持ち手を持ったまま頭を勢いよく下げれば、風圧でホメロスの髪が揺れた気がした。

ホメロスが怒っていないのはその様子からわかる。なんならホメロスは俺にカップを割るように誘導した節がある。


しかし、何かの拍子にホメロスに嫌われるのはいただけない。今更ホメロスがいない生活なんて考えられるか?指示してくれる人間がいなければ、俺はあっという間に英雄から人型の魔物に扱いが降格するだろう。それぐらい、俺の馬鹿力は人外染みている。

見捨てないでくれホメロス、という気持ちを込めてホメロスを下からそろそろと見上げれば、ホメロスは笑っていた。

「ふっ、ふふっ、はは・・・お前は相変わらず俺がいないと駄目だな。英雄が寝込むなんてそれはそれで見ものかもしれないが、今のところ俺がお前を嫌う予定はないさ」

「今のところ!?未来永劫無いと断言して欲しい!」

ふふふっ、とホメロスが笑っている。頬を赤らめ、蕩けるような笑みは大変美しいが、笑っている場合じゃないぞホメロス!

ホメロスの手が私の頭に触れる。まるで大型犬を撫でる様にわしわしと撫でられ、俺は「許してくれるか?」と問いかけた。元々怒っていないのはわかっているが、念のための確認だ。


「お前には俺が必要だからな、許してやるさ名前」

とろりと蕩けた声で名前が呼ばれ、ほっとする。

俺はゆっくり頭を上げ、ホメロスに手を伸ばした。

そっとそっと、壊さないように十分注意しながらホメロスの手を握る。


「有難うホメロス、その寛大さに感謝する」

「ふっ、ははっ、はははっ、大袈裟だ馬鹿め」

とりあえず、ホメロスが破片で怪我をしてしまわないように、割れたカップとソーサーを片付けなければ。




人外レベルな怪力将軍と手綱を握る知将




「ホメロス疲れてはいないか?少し休憩するか?」

「先程喫茶店で休憩してから十分も経っていないぞ馬鹿め。おい、次はあの店だ。さっさと行くぞ荷物持ち」

「勿論だホメロス!疲れた時はいつでも言ってくれ!」

にこにこ楽しそうに大量の荷物を持ち自分に付き従うデルカダールの英雄の姿に、ホメロスはぞくぞくするものを感じながらその口元に機嫌良さ気な笑みを浮かべた。



あとがき

・グレイグ成代り主(原作知識有り)
原作知識を全く生かせてないグレイグ成代り。
本来のグレイグとは違い、知力よりも筋肉に能力を極振りされているため、割と人外染みた武力を持っている。
自分が馬鹿で騙されやすいことを自覚しているため、物事は全てホメロスに相談してから決めることにしてる。

・満更でもないホメロス
露骨に自分を信用し頼ってくる成代り主が気に入っている。
誰もが憧れる英雄が自分の一挙一動を気にしている姿にぞくぞく。
その気になれば成代り主を使って国落としとかできるかもしれない。
成代り主に褒められまくっているため、心に大分余裕がある。


原作開始でイレブンくんがお城に来たら「ホメロス!あんな純朴そうな子供が悪魔の子とは到底思えないのだが!?俺は本当にイシの村を滅茶苦茶にしていいのだろうか!?正直、何の罪もない善良な市民に手を上げた汚い手では、もう二度とホメロスに触れられない気がする!」と半泣きでホメロスに助けを求める未来が待ってる。



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