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最近になって気付いたのだが、何で誰もホメロス将軍のことを褒めないんだ?

つい先日、魔物を一網打尽にする作戦を考えたのはホメロス将軍だし、その後の報告書作成などの事後処理をしたのもホメロス将軍だ。


確かにホメロス将軍の作戦を実行し見事魔物を打ち倒したグレイグ将軍は凄いが、何故褒められ讃えられているのがグレイグ将軍だけなんだ?

なんだあのグレイグ将軍コール。確かにグレイグ将軍は英雄と呼ばれるのが納得な力を持っているし尊敬できる人ではあるけど、それとこれは別問題じゃないか?

普通二人の将軍を一緒に讃えるだろう。まさかの王様でさえもグレイグ将軍を大絶賛でホメロス将軍はスルーである。何?ホメロス将軍なんかした?何か過去に大罪でも犯した?と疑いたくなるぐらい誰も褒めない。

なんかもういろいろと見るに耐えない。



「ホメロス将軍!」

「一体なんだ、私は忙しい・・・」

ホメロス将軍の部屋、その机の上には見てるだけで目眩がしそうな程の書類と参考書物が並んでいる。

見るからに忙しそうだし、なんなら忙しすぎてホメロス将軍はイライラしているが、正直もう我慢ならない。


「ホメロス将軍、先日の作戦は何から何まで素晴らしかったです!流石はデルカダールの知将だなと思いました!いつも有難う御座います!お疲れ様です!これからも応援してます!」

パリンッと何かが割れる音がした。見れば、唖然とした顔のホメロス将軍の足元に割れたグラスと中身の水が広がっていた。


「・・・、・・・?」

あっ、駄目だ。ホメロス将軍、混乱してる。もしや混乱する程普段褒められたりお礼を言われたりすることがないのだろうか。なんだそれ、可哀想通り越して周囲がホラーに感じる。

「お仕事が忙しそうなので、床の片付けは俺がしましょう!あとで代わりの飲み物を持ってきますね」

「あ、あぁ」

道具を取りに行ってきます!とホメロス将軍の部屋を出てすぐに戻ってくれば、ホメロス将軍はそわそわと俺の方を見た。


「あれ!もしかして先程まであんなにあった書類、もう終わったんですか!凄いですね!流石はホメロス将軍!俺も是非見習いたいです!」

「こ、こんなの、普通だ・・・」

あ、駄目だ。やっぱりこの人褒められ慣れてない。褒められると凄い挙動不審になってる。

さっきそわそわしていたのは、もしかして褒めて貰えるかもしれないと期待していたのかもしれない。考えるだけで悲しくなる。

こんな一介の兵士程度に褒められて喜ぶなんて。誰かホメロス将軍を褒めてやって・・・

あんまりにもホメロス将軍が不遇過ぎて内心泣きそうになりつつ、床に広がった見ずにとガラス片を片付けた。


「ん?いい香り・・・」

「・・・おい、終わったなら座れ。紅茶を用意したが、作り過ぎた。飲め」

「え!俺が後で持ってきますねと行ったじゃないですか!有難うございます!ホメロス将軍直々に淹れてもらった紅茶が飲めるなんて嬉しいです!」

テーブルの上には二人分のティーセットと茶菓子が並んでいる。どうみても紅茶を淹れ過ぎたわけではなさそうだが、指摘するつもりはない。なんかまた内心泣けてきた。

テーブルを挟んだ向こう側にいるホメロス将軍と向かい合うように椅子に座れば「砂糖は」「ミルクは」「温度は」と本当にいろいろ気を遣われた。


「美味しいです!ホメロス将軍は紅茶を淹れるのもお上手ですね!有難うございます!」

「あ、あぁっ」

嬉しそう。

「ホメロス将軍、もうお仕事は終わりですか?連日の激務でお疲れでしょう。先日の王主催の慰労会でも貴族たちの相手でお忙しかった様子。折角なら今日はもう休んではいかがですか?」

「・・・よく知っているな」

「当然です。あまり冗談や軽口が得意ではないグレイグ将軍に代わり、ほとんどお一人で対応している様子でしたので、よく目に付きました」

「・・・そう、か」

あぁ、普段そういうことにすら気付いて貰えてなかったのか・・・もはやホメロス将軍は何らかの呪いにかかっているのではと心配になる。


「わかった、今日は休もう」

「はい、ごゆっくり」

タイミングよくカップが空になったため、椅子から立ち上がり一礼するとそのまま部屋を出て行こうとする。


「・・・待て、名前」

よく俺の名前を知っていたな、と驚きながらも足を止めた。

見れば、ホメロス将軍が何か言いたげにこちらを見つめている。これは、何かを期待しているのかもしれない。なんだ、なんて言えばホメロス将軍の意に添える・・・


「・・・実は俺もそろそろ休憩しようも思っているんですが!よければご一緒に城下を散歩しませんか!」

もしかしてまだ一緒にいた方がいいだろうか、とそんな提案をしてみると、すぐにホメロス将軍が出かける準備を始めた。

「あ!その靴はもしや新しいものですか?いい靴ですね!その耳飾りもとてもいいです!服はそちらを?とてもお似合いです!」

ホメロス将軍の服装もちょっと大袈裟気味に褒めれば、ゆるゆるとホメロス将軍の口元が緩み始めた。相当嬉しいらしい。

大袈裟気味とはいえ褒め言葉自体は本心だ。その後もホメロス将軍を褒めて褒めて褒めまくりった。今まで褒められていなかった分を埋め合わせも兼ねて。

するとどうだろう、次第にホメロス将軍が元気になり始めた。やっぱり人ってちょっとぐらい自分を褒めてくれたり肯定してくれる人がいないと、やっていけないと思う。


ホメロス将軍は「・・・また時間があれば、城下を巡るぞ」と次回の約束を取り付けた。もちろん返事は『はい』のみだ。

ホメロス将軍は沢山褒められて大変満足している。俺の方も、誰もホメロス将軍を褒めない不思議現象で溜め込んでいたものをホメロス将軍を褒めることで発散できた気がする。


「ホメロス将軍!今日は有難うございました!」

「あぁ」

最初よりも返事が普通になってきた。まぁ、口元は相変わらず緩んでしまっているようだけれど。この調子で会う度にみんなの代わりに俺が褒めていけば、きっとホメロス将軍も人に褒められることに慣れてくれるだろう。




誰か褒めてやってよ!




その翌日、驚くことに俺はホメロス将軍直属の部下に任命された。

将軍から直々に任命なんて凄いじゃないか!でも俺ならどっちかと言えばグレイグ将軍に任命されたいや、などと阿呆を抜かす同僚を無視してホメロス将軍のところへ向かうと、嬉しそうに「名前」と俺の名前を呼んで笑うホメロス将軍の姿があった。

何処に行くにも俺を連れ歩き、遠征の時は相部屋が普通になった。俺は相変わらずホメロス将軍を褒めまくっている。

「名前、お前は本当に私のことをよくわかっているな」

心底嬉しそうなホメロス将軍の言葉に、俺は「そりゃ、ホメロス将軍のことを尊敬してますからね!」と返事をした。


おや、突然ホメロス将軍が俺にぴっとりくっ付いてきた。

どう見てもうっとりしているホメロス将軍の頭をよしよし撫でながら、俺は「ちょっと褒め過ぎただろうか」と首を傾げた。



あとがき

他人の分までホメロスを褒め続けたらホメロスが離れなくなった話。

不特定多数を褒められるのに憧れてたけど、一人からたっぷり褒められ甘やかされるのが気に入った。部下主が一緒なら、グレイグへのコンプレックスもなんとかなりそう。

何をしても褒めてくれるけどどうせなら喜んだ部下主に褒めて貰いたいホメロスが今後いろいろと頑張る。



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