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※記憶喪失中カミュ


昼間散々潮風に吹かれたり魔物と戦ったりと十分に体力を消費した俺と仲間達。

夜になればシルビアから与えられた船内にあるそれぞれの部屋へと戻った。


俺は商売道具を机の上に広げて、一つ一つ点検をし、必要なものには手入れや修理を施した。切りの良いところまで手入れが終わった頃、部屋の扉が控えめにノックされる。

こんなノックの仕方をする人物に大体の予想をたてて「開いてるぞ」と返事をすれば、ノックと同じく控えめ・・・というよりは、恐る恐るといった風に扉が開かれた。


「し、失礼します」

扉の向こう側から現れた人物は俺が予想した通り。つい先日、船内に忍び込み勝手に食糧を漁っていたところを発見された、仲間のうちの一人カミュである。

大樹の一件で一時的に離れ離れとなった俺たちだったが、まさか再会した仲間が記憶喪失になっているとは思いもよらなかった。


しかし記憶喪失とはいえ仲間であることには変わらない。いつか記憶を取り戻してくれるだろうと信じ、カミュを再び仲間として受け入れた。

受け入れたと言っても、俺自身は記憶喪失中のカミュとはある程度距離を置いていたため、こんな風に一対一で近づいて来られるのは初めてだ。

怯えつつも真っ直ぐ俺の目の前までやってきたカミュは「聞きたいことがあって」と部屋を訪ねてきた理由を説明した。

何かわからないことがあるなら他の仲間に聞くだろう。わざわざ碌に話したことも無い俺のところに来たということは、俺にしか聞けないことなのかもしれない。



「名前さんが俺の恋人だって本当ですか?」



俺にしか聞けないというか、まんま俺のことだった。

一瞬動きを止めてしまったが、すぐに持ち直す。

「・・・もしかして、勇者に言われたのか?」

余計なこと言いやがってとため息をこぼす俺に、現在記憶喪失中のカミュはへにゃりと眉を下げる。

俺の反応に、勇者の言葉が嘘だとでも思ったのかもしれない。


「で?だったらどうした?」

俯きかけたカミュの目線がパッとこちらに向く。心なしか目が輝いて見えるのは気のせいだろうか。


「やっぱり恋人だったんですね!イレブンさんが言ってたことは本当だったんだ・・・」

まるで喜びが隠しきれないと言わんばかりに口元をゆるゆる緩めているカミュ。記憶喪失前とはえらい違いだ。

「一目見た時から気になっていて・・・戦い方もわからない俺をさり気なく背中に守ってくれるところとかも、その、とてもどきどきして・・・」

「・・・そうか」

そういえば記憶喪失前のカミュも、一目惚れとか言ってたな。



初対面時、カミュはサマディーの酒場で飲んでいた俺に近づいてきて、大樹の枝についての情報を探ってきた。俺が知っている情報はせいぜいサマディーの国宝に輝く枝があることと、それが数日前に行商人に売りに出されたらしいという程度の情報だった。

俺は旅の商人兼、いく先々で何でも屋のようなことをやっていた。そのせいか次の国ソルティコでも偶然出会いその国での行動を共にしたところ、何故だか俺はお尋ね者となった。

詳しく事情を聞けば、カミュの旅仲間の一人は当時悪魔の子と呼ばれ追われていた勇者で、そんな彼らと一時的だとしても行動を共にした俺は勇者一行の仲間だと思われたらしい。

申し訳ないと勇者一行に平謝りされたが、どうせあの国に長居するつもりはなかったため、特に気にはしなかった。なにせソルティコは貿易が盛んな街。俺のような旅商人の出番なんてほとんど無かった。


偶然と勘違いが重なり、そのまま勇者一行の一員となった俺だったが、今思えばその時の自分の判断は間違ってはいなかったと思う。

勇者一行との旅は未知の驚きで満ち溢れ、その途中で手にいれた珍しいものの数々は心が踊った。

長いこと一人旅をしてきた経験から仲間に教えられることは多く、戦いにおいても足手まといになるとこはなかった。


そんな旅の中のある晩、カミュから二人きりで飲まないかと誘われて、飲んでる最中に告白された。

サマディーで声を掛けた時から気になっていた。おそらくその時からあんたが好きだったんだと思う。一目惚れなんだ。

そう告白したカミュに俺も少なからず惹かれていて、晴れて二人は付き合うことに。その後何故だか他の仲間に交際はあっさりバレ、祝福された。

照れながらも幸せそうなカミュに俺も幸せを感じていた。



「あの、名前さんっ」

目の前のカミュは記憶喪失前とえらく違うが、愛した恋人自身であることには違いない。しかし、記憶喪失で混乱する中で俺もみたいな男と交際してたなんて知ったら更に混乱するだろうからと距離を置いていたつもりだった。・・・勇者がバラしてしまったが、あの勇者のことだから10割善意だったのだろう。

でもまさか、ここまで喜ばれるとは思っても見なかった。

頬を赤らめ、期待したように俺を見つめている。試しに「なんだ」と返事をしながらカミュの手を握ってみる。カミュが「ひゃっ」と変な声を上げた。


「あのっ、突然で申し訳ないんですが、よければその・・・記憶喪失になる前の俺とするみたいに、接して貰えませんか?もしかしたら、それがキッカケで何か思い出せるかも」

赤らんだ顔のまま期待たっぷりにそうお願いしてくるカミュの言葉を断るつもりは一切ないが、記憶喪失前のような接し方・・・


「俺からはあまりこれといった行動は起こしてなかったな・・・ほとんどがカミュからだった」

俺が商品の手入れをしていれば後ろからくっ付き、眠ろうとすれば勝手に布団に潜り込み、俺が何かを食べていれば一口寄越せと強請って・・・

恋人らしいやりとりは、ほとんどカミュからだった。もちろん、俺から仕掛けることもたまにあったが。

「だから、お前がやりたいと思うことを俺にやってくれればいい」

「お、俺のやりたいように」

なにかいかがわしいことでも考えてしまったのか、カミュの顔が茹で蛸のようになった。

その様子をちょっと面白く思っていると、カミュが意を決したように「名前さん!」と俺を呼んだ。なんだと返事をする前に、唇が重なる。成る程、キスがしたかったのか。


記憶喪失前のカミュならもう少し自然な動作でスマートに熟すが、これはこれで悪くない。むしろ、唇を離した後にとてつもなく恥ずかしそうにしているところが、普段持っていないはずの加虐心をほんのり刺激した。

「へ、へへっ、キスしちゃいました」

「よかったな」

嬉しそうに笑ったカミュが今度はぎゅっと抱きついてくる。キスで吹っ切れでもしたのか、なかなかに遠慮がない。

俺の胸部にぐりぐりと頭を擦り付けてくるカミュの後頭部を撫でれば、また変な声を上げられた。面白いなこいつ・・・


「名前さんが僕の恋人で良かった・・・」

「そうか」

「あ、あの・・・」

もじっと身体を動かしたカミュは、俺の服の裾を掴んで控えめに笑った。



「えっちなこと、してもいいですか?」



いいですか?と言いながら既に俺の服を脱がし始めるカミュに、俺は記憶喪失前より欲望に忠実だなと内心ちょっぴり驚いていた。




欲望には割と忠実な方




・・・記憶喪失前のカミュは変なところで遠慮して、抱いて欲しいとは言ってこなかった。

目の前のカミュはヤル気満々だ。今更後戻りは出来ないだろう。

まさか初めての夜が記憶喪失中のカミュとになるなんて。記憶を取り戻したら、どやされそうだ。



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