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「ホメロス様は本当は何処かの国の姫君なのでしょうか」

「ん゛んっ!?な、何故そう思ったのですか?名前王子」

デルカダールと古くから親交のある国の王子である名前の言葉に、グレイグは顔を引き攣らせながら理由を問う。

まだ幼い王子は子供特有の柔らかい頬を赤く染め、少しもじもじとしながら口を開いた。


「ばあやが夜読み聞かせてくれるお話に出てくる姫君が、ホメロス様にそっくりなのです。あの美しい髪と、美しい瞳。それに、ホメロス様は此処でお世話になっている僕に、とても親切にしてくださいます。ホメロス様は博識で、僕が知らないことを多く知り、その知識を惜しみなく僕に与えてくださいます。・・・ホメロス様がにこりと笑ってくれるだけで、胸がいっぱいになるのです。これがきっと恋なのではありませんか?」

そういえばホメロスは王から名前王子の護衛を仰せつかっていたな、と思い出したグレイグ。


名前には可哀想な話だが、親交ある国の大切な王子に親切にするのは当たり前。特にホメロスは相手によって適切な態度を取るのが上手いため、名前の目にはそれはもう好ましく映ってしまったのだろう。

ホメロスを姫扱い、しかも『恋』ときた。この幼い王子は完全にホメロスに惚れている。確かにグレイグと比べれば細く、顔も整っている。しかしどうみても女性ではない。・・・子供だからこそそのあたりの考え方が柔軟なのかもしれないな、とグレイグは頭を抱えた。


「いつかホメロス様を我が国に迎えたいのです。デルカダールの大事な軍師であることは承知しておりますが、いつか、いつか・・・」

顔を真っ赤に染め上げたまま、キラキラと期待に目を輝かせた王子にグレイグは再び顔を引き攣らせた。

まだ幼い、希望に満ちた目の前の王子に現実を突きつけるべきか、今はただ見守り、何時かそれが叶わぬ夢だと気づいてしまうのを待つべきか・・・



「名前王子?こんなところにおられたのですか。お部屋にいらっしゃらないので、心配しました」

「ホメロス様!」

グレイグが悩んでいる時、件のホメロスが微笑みを浮かべ名前王子の目の前までくると、ゆっくりを片膝をついて目線を合わせた。


グレイグの記憶ではホメロスは子供があまり得意ではなかったはずだが、名前王子のように素直で礼儀正しく、少々酷い言い方をするなら扱いやすい子供はそこまで苦手ではないのかもしれない。

名前王子は元から赤かった顔を更に赤くさせ、ホメロスの微笑みを嬉しそうに見つめている。


「グレイグに何か御用でも?何かあれば護衛役である俺に仰ってください、と言ったはずですが?」

「いえ、グレイグ将軍に用があったわけでは。丁度居られたので・・・そうだホメロス様!本日のお仕事に区切りはつきましたか?デルカダール王からお借りした書物でお聞きしたいところがあって・・・」

「名前王子は勤勉ですね。では参りましょう」

「・・・ホメロス様、あの、グレイグ将軍にもお聞きしたのですが」

腰を上げたホメロスに連れられてデルカダール王から与えられた客室へと戻ろうとする名前王子が何を言おうとしているのか気付いたグレイグは、慌てて「名前王子!その問いの答えでしたら、後程お伝えしますので!」と声を上げる。

それに怪訝そうな顔をしたのはホメロスの方だ。


「グレイグ、お前は何を言っている。・・・名前王子、わからないことがあるなら俺にお聞きください。グレイグは武力に優れておりますが、知力に関してはからっきしですので」

一度じろりとグレイグを睨んだ後、名前に向けて優し気に微笑むホメロス。名前王子は真っ赤な顔でもじもじとしながら、ホメロスを見上げている。


「はいっ、あの・・・ホメロス様は、本当は何処かの国の姫君なのでしょうか」

「・・・はい?」

「ホメロス様のような高貴なお方は王族であっても可笑しくないです。そ、それに、僕はホメロス様ほど美しい方に今までお会いしたことがありません。きっと、何処かの口に姫君に違いないと・・・!」

真っ赤な顔で目をキラキラと輝かせている名前王子に、ホメロスは静かにグレイグを見た。グレイグは頭を抱えた。

先程のグレイグの慌てようを漸く理解したのだろう。ホメロスは小さくため息を吐き、再び名前王子の前に片膝をついた。


「名前王子、残念ながら俺は王族でもなければ勿論姫でもありません」

「そうですか・・・」

わかりやすくしょんぼりしている名前王子。いつかホメロスを自分の国に迎え入れたいと言っていたが、もしかすると王妃として迎え入れたいのかもしれない。先程の会話を思い出したグレイグは、ぐっと胸が痛くなるのを感じた。


「王子、王子は俺が姫君であった方が良かったですか?」

「そ、それは、あの、えっと・・・いえっ!ホメロス様は、今のままで十分素敵な方です。これは僕の勝手なわがままで・・・正直、ちょっぴり残念ではあるのですが」

素直に思っていることを口にした名前王子は少し迷った様子をしながらも、近くにあるホメロスの片手をぎゅっと握った。


「・・・ホメロス様はデルカダールの最も優秀な軍師、なくてはならない存在なのだと理解しています。でももし姫君であるなら、僕の妃として国に連れ帰れると思ったのです」

「妃として・・・そこまで名前王子に想っていただけて光栄です」

何をどう考えたらホメロスを姫だと思うのか甚だ疑問だろうが、何となくホメロスが喜んでいるようにグレイグは見えた。

おそらくだが、妃として国に連れ帰りたいと言うほど気にいられたという事実が嬉しいのだろう。

まだまだ幼いが名前王子はそのあたりの子供のようにただ無知で愚かなわけではない。ホメロスが教師の真似事をして名前王子を指導した時も、いずれは王になる者としての義務を自覚し様々な知識を貪欲にその小さな頭に詰め込んでいた。

未来では立派な王になると簡単に予想出来る名前王子。そんな王子に高く評価され、その幼い恋心を奪った・・・ホメロスの中の自尊心が満たされるのを感じた。


「妃にはなれませんが、名前王子がデルカダールにいる間は、俺がお傍にいましょう」

「・・・はい。今は、それで我慢します。でも、でも、いずれ・・・」

ホメロスの言うことに素直に頷きつつも、握ったままのホメロスの手を更に強く握り、その目に力強い意志を宿していた。


はらはらとその様子を見守っていたグレイグとは対照的に、ホメロスは思わず微笑みを浮かべながら「そうですか、それは楽しみです」と頷いていた。

名前王子は真っ赤な顔で「はい、楽しみにしていてください!」と笑った。




王子様の野望




「デルカダール王国元軍師ホメロスの身柄、我が国に預からせていただきたい」

デルカダール王に憑依したウルノーガの手下として暗躍していたホメロスは、大樹で勇者一行に敗北。忠義を誓っていたウルノーガにも裏切られ、勇者一行に捕らえられた。

全てが終わった後、ホメロスの処遇について話し合いがなされる中、その王子は現れた。


グレイグやホメロスの記憶に残っている姿よりも幾分か成長した、それでもまだ幼い王子名前は、その顔に穏やかな微笑みを浮かべたまま「長きにわたり魔の者と関わっていたホメロス様は、その身体を闇に蝕まれていることでしょう。我が国は呪いの治療においては他の国より勝っていると自負しております。起こしてしまった罪への償いは、その身がきちんと治ってからでもよろしいのではないでしょうか」と話し合いに参加する人々の前にホメロスの身体に起こっているかもしれない後遺症についてまとめられた書類を見せた。

「我が国に預けてくださいますね?」

人々が納得し頷く中、グレイグだけは困り果てた表情で名前王子を見つめていた。それに気付いた王子は、にっこりと微笑んでいた。その目はとろりと甘く蕩けているようにも見えた。

(やっと手に入った)



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