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偶然なのかそうじゃないのかわからないが、この世界は力がある者ほど見目が良いことが多い。もちろん例外はあるが、俺が知る力ある者は殆どが美形だった。

例えば俺が所属する鬼殺隊士だが、階級が上に行けば行くほど顔がいい。階級が下でも、いずれは上に行くであろう人間は総じて美形だった。

力ある美しい者、その最たるは柱と呼ばれる存在だ。九人いる彼等は、本当に見目が良かった。

力を得る基準は美醜にあるのか?と思ってしまうほど、本当に見目が良い。

鬼殺隊に入ってすぐにそのことに気付いた俺は、それを仕事にも役立てた。


まず、鬼の見目が良ければすぐに応援を呼ぶ。肉弾戦が弱い鬼でも、とんでもない血鬼術を隠し持っている可能性があるのだ。おかげで、油断による死は今のところ免れている。

応援で駆けつけてくれた隊士の見目が良ければ何となく安心できて、心おきなく任務に挑めた。敵の美形は恐ろしく、味方の美形はとても輝いて見える。

だからこそ、俺は同僚であるそいつの姿を見たとたん、顔に笑みが浮かんだ。


「獪岳!今日はお前と一緒の任務だったのか!心強いよ!」

「・・・チッ、相変わらず鬱陶しい野郎だな」

鎹鴉を伴い歩いてきた獪岳は俺の顔を見た瞬間舌打ちをこぼした。

出会いはそう昔ではないが、出会ってから今まで幾度となく獪岳と共に任務をこなしている。


初めて獪岳を見た瞬間から獪岳は強いと確信していた。だって獪岳は顔が良い。不機嫌そうに吊り上がった眉と引き結ばれた口元は多少の声のかけづらさはあったものの、顔がいいだけで俺は獪岳を信用出来た。

その時の任務で遭遇した鬼もある程度見目が良かったため多少手こずりはしたが、最終的には雷の呼吸を使った獪岳の手により鬼を滅殺できた。

鬼の首を狩り取った獪岳に「お前は美しいからな。絶対に強いと思っていたんだ」と言えば、獪岳はみょうちくりんを見るような目で俺を見た。確かに変なことを言ったかもしれないが、俺にとってはそれが事実だった。


獪岳は口が悪いし態度も悪い、しかも他者を見下しているきらいがある。が、意外や意外、目上の人間にはきちんとした態度を取っているし、ある程度の節度と持った奴だった。

そういうところも気に入って、俺は獪岳に絡んだ。一度本気に殴りかかられたが何とか避けつつ、更に絡んだ。

何時の間にか獪岳は諦めたのか、悪態を吐くばかりでそれ以外は俺の行動を黙認するようになった。無視するようになったとも言う。


「獪岳、先に聞き込みをしたところによると今回の敵は見目があまり良くないから大丈夫だと思うが、気を付けろよ」

「・・・お前のその顔基準はなんなんだ」

「それが俺の行きついたこの世の真実だからな。強い奴は顔が良い。柱の人たちの顔を思い出してみろ、皆顔が整っているだろう?」

柱たちの顔を思い出すようにしばらく黙った獪岳は、小さく舌打ちをした。獪岳も柱たちの顔が整っていることに同意してくれたようだ。


獪岳と共に鬼が出ると言われている山道に入る。時折鳥の鳴き声がするだけで静まり返っているこの場所で、行商人や旅人が忽然と消えるのだそうだ。

命からがら逃げかえることが出来た村人が言うには、でっぷりとした肉に覆われた恐ろしい形相の鬼だったそうだ。

「獪岳、そこまで強い鬼ではないと思うが、血鬼術までそうとは限らない。慎重にいこう」

「うるせぇ、手前が俺に指図すんな」

「お前の顔に傷が付いたら困る。まぁお前なら、顔に多少傷がついてもその美しさは損なわれないと思うんだが、一応な」

「・・・・・・」

何とも言えない顔で獪岳が俺の方を見ているが、俺が行きついたこの世の真実がこれなのだから仕方ない。


かさりと木々が揺れる音がして、俺も獪岳もその方角に向けて構える。

音はこちらに近づくどころか遠のいているように聞こえる。おそらく俺と獪岳が鬼殺隊だと気づいて逃げたのだろう。

逃がすか!と駆けだす獪岳と離れないように俺も駆け出す。単独行動は危険だが、獪岳は俺なら勝手についてくるとわかっているのだろう。

雷の呼吸の使い手だからか、素の状態でも足が速い。生憎と俺は付いていくので精一杯だ。

一足先に鬼と対峙していた獪岳に数歩遅れて合流する。どうやら鬼はそこまで足が速くなかったらしく、俺と獪岳から逃げられないとわかるとこちらに襲い掛かってきた。

話に聞いていた通り、でっぷりとした肉に覆われた恐ろしい形相の鬼だ。

俺たちへの悪態を吐きながら襲い掛かってくる鬼をひらりと交わし、俺は足を、獪岳は胴体を切りつける。


「おい名前、さっさと片付けるぞ」

「ん!わかった!」

無意識だろうか俺の名を呼び、しかも俺と共闘する意思のある獪岳に思わず口元に笑みが浮かぶ。本人に言えば怒るだろうから言わないし、すぐに口元は引き締めたが。


「雷の呼吸 伍の型 熱界雷ッ!」
「水の呼吸 肆の型 打ち潮」

雷と水は相性がいい。同時に斬撃を受けた鬼は防御の間もなくばらばらに崩れ去った。

気を抜くことなく朽ち果てる最期を見届けてから、獪岳の方を見る。


「お疲れ、獪岳。何時見ても惚れ惚れする剣筋だったよ」

「・・・ふんっ、余計なこと喋ってねぇでとっとと行くぞ」

どうやら満更でもないらしいことは声色で何となくわかる。

笑いながら「いやー、獪岳の顔に傷がつかなくてよかった」と肩を叩く。


「お前、どんだけ他人の顔が好きなんだよ」

「好きというか、見目の良い相手は安心できる」

「・・・美醜と強さは必ずしも一致しないだろう」

「それでも、俺が出会った奴で強い奴の殆どは見目が良かった。驚くことに」

手を振り払われなかったことをいいことに、少し調子に乗って肩を組んだ。べしりと軽く頭を叩かれたが、それだけだ。

最近獪岳の俺に対する態度の軟化してきた気がする。諦めや無視とは少し違うそれに、少し気分がいい。


「まぁ、個人的に好みの顔は獪岳だけどな」

「・・・それで俺が喜ぶとでも思ってんのかよ」

「あれ?ちょっと声が嬉しそ、う゛っ」

肩を組んでいたせいでがら空きの脇腹に獪岳の肘が入る。ちょっと吐きそうになった。

そんな俺を鼻で笑った獪岳に「痛いんだけど」ともたれればもう一度肘が入った。容赦がない。本当に容赦がない。


「案外早く終わったから、多分すぐ次の任務が入るな・・・連絡があるまで、藤の家で休むか?」

おそらくは次の任務も獪岳と一緒だろうから、一緒の場所で休んでおいた方がいいだろう。次の任務も獪岳と一緒なら、俺も安心だ。

獪岳からも「あぁそうするか」と了承を得られたため、一緒に一番近い藤の家へと向かった。

藤の家の人たちは肩を組んで歩く俺たちを見て「あらあら、仲が宜しいんですね」と笑ってくれた。獪岳は即俺の腕を振り払った。



「なぁ獪岳、獪岳の知り合いに見目の良い奴はいるか?」

「んなの聞いてどうすんだよ」

「見目の良い奴は期待できるから。任務で一緒になったら是非親睦を深めたい」

藤の家の人が出してくれたお茶を啜りながら答えれば、獪岳からの返事が無い。どうしたのかと思って隣を見れば、獪岳は鬼のような形相で俺を睨んでいた。うっかり口の中の茶を吹き出すかと思った。


「えっ、えっ、どうした獪岳」

「手前は・・・」

「う、うん」

「俺の顔が好きなんだろ」

「え?うん、好みだけど」

思わず居住まいを正しながらそう返事をすれば、獪岳は恐ろしい形相のまま舌打ちをした。


「だったら他の奴のことを聞いてくんな、愚図」

「ん、んん?獪岳、何だか会話が噛み合ってない気がするのは俺だけか?」

「黙ってろ愚図!」

怒鳴り声と共に投げつけられた湯飲みを慌てて受け止める。中身が入っていなかったから良かったものの、人様の家の湯飲みを投げる奴があるか!と思わず「おい獪岳!」と声を上げてしまう。


「・・・え?あ、いや、獪岳?ごめん、何か気に障ることでもしたか?」

声を上げた瞬間、じわっと獪岳の目が潤んだのを見て、俺は慌てて湯飲みを置き獪岳に手を伸ばした。

拒否されなかった手でそのまま獪岳の肩や頬を撫でながら「どうした?何かあったか?」と問いかける。問いかけ方は小さな子供に対するそれに近いが、目の前の状況に困惑してしまったのだから仕方ない。

獪岳は涙こそ流さなかったものの潤んだ目のままに「俺の顔が好きなんだろ」と先程の言葉をもう一度口にした。

確かに獪岳の顔の造形は好きだが、それと先程の行動がどう噛み合うというのだろうか。

俺は困惑しながらも獪岳の頭を撫で「あぁ、好きだよ」と頷く。すると獪岳の手が俺の隊服の胸元をつかみ、頭を胸にぶつけてきた。

そのまま動かなくなってしまうものだから、俺は困惑のままに獪岳の背中を片腕を回し、頭を撫で続けた。


途中でお茶菓子を持ってきてくれた藤の家の人に目配せで退出いただき、獪岳が落ち着くまで撫で続けた。

獪岳が落ち着いてくれるまでの間に考えてみたのだが、もしかすると獪岳は案外俺に顔を褒められることが気に入っているのかもしれない。殆どの人間は褒められて悪い気はしないと思うし、獪岳は常々他人を見下す傾向があるし、他人と比べられるのも他人より下に見られるのも嫌っている。

ということは、自分と一緒にいる時は自分だけを褒めろ、と思っているのかもしれない。


「獪岳、悪かったよ。お前がそんなに繊細だとは思わなかった」

「・・・うるせぇ、愚図」

「俺が相手の美醜を気にする理由はちゃんとわかってるだろう?強い人間は見目が良いからだ。でも、こうやって一緒にいて楽しいと思える友人は獪岳ぐらいだ」

「お前もう喋んな。頭足りてねぇのかよ」

ガスッと横っ腹が殴られる。どうやら獪岳が欲しい言葉を上手には与えられなかったらしい。喋るなと言われたため言われた通り黙れば、胸に顔を埋めていた獪岳がゆっくりと俺を見上げた。つられてその顔を見つめると、獪岳の眉が寄った。


「・・・俺の顔が好きなら、俺の顔だけ見てろ」

「えぇ、んな無茶な」

顎に強烈な頭突きを喰らった。




この世の強さは美醜で決まる




「本当に仲が宜しいのですね」

「いたたっ、まぁ、はい」

戦闘以外で負った顎の負傷を手当てして貰っていると、藤の家の人はくすくすと笑いながら言う。

「でも、あまり焦らしてやらないでくださいね。お相手の方がお可哀想ですよ」

「え?えっと、はい?」

よくわからないことを言われ首をかしげた。いたた、まだ顎がいたいな。獪岳め、思いっきり頭突きしやがって・・・



あとがき

・相手の強さを見目で判断する隊士
強い人が大抵美形(一部除く)なのに気付いてしまった人。
おかげで下弦の鬼に遭遇しても即応援を呼んで数の利で勝利を収めた。一人で狩ったわけではないため、鬼狩りとしての評価はそこまで高くない。
水の呼吸を使うけど水のエフェクトはやや薄め。
いずれ出会うかまぼこ隊の見目の良さに驚愕し、大興奮のまま獪岳に報告しに行きブチ切れた獪岳に殺されかかる未来が待ってる。

・まんざらでもないツンギレ隊士
男主の『美しさ=強さ』理論に「何言ってんだこいつ、馬鹿か?」と思ったが、言われてみるとそうかも、と思っちゃった人。いずれ出会う上弦の鬼を遠目から見て「やべぇ」と思って男主を見習い応援要請する未来が待ってる。
見た目や剣技を惜しみなく沢山褒められるのが好き。
個人的な好みは自分の顔だと聞いたから、だったら俺の顔だけ見てればいいのにと思ってる。



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