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※過去捏造注意。


早朝からたっぷり働き、休憩がてら昼寝でもするかと煎餅布団に寝転がったまでは良かった。

何やら家の裏から餓鬼の声がする。1人ではなく、複数人の声。何かを揶揄うような声と嫌悪するような声、それからそれらを打ち消す程に大きな泣き声。


「うるせぇぞ餓鬼共!人ん家の裏で騒いでんじゃねぇ!」

家の中から大きく怒鳴ってやれば、一瞬にして声は止まる。それから「逃げろ!」やら「お前のせいだかんな!」やら再び餓鬼共の声で煩くなり、正直家から出て餓鬼共を1人ずつぶん殴ってやろうと思ったが、なんとか抑えた。

餓鬼共は逃げていなくなったのか、ようやく静かになる。

さて今度こそ寝るか、と思った頃、ぐずんっと鼻をすする音が聞こえた。なんだ、あの一番大きくて煩い泣き声をあげていた餓鬼はまだ残っていたのか。

イラッとして身を起こす。泣くのは勝手だが他所でやれ!と怒鳴ってやるつもりで家から出て裏に回った。


「おらクソ餓鬼、うるせぇぞ」

「ひっ・・・!」

声で先程怒鳴った奴だと気づいたのか、泣き腫らした目の餓鬼は怯えた目で俺を見た。

「俺は今から寝るんだ。静かにしろ」

「っ、う、ひっく・・・ご、ごめんなさい」

「あーあー、うるせぇなぁ!おい手前、こっち来い」

「えっ、あ・・・」

ぼろぼろと涙を流す餓鬼が鬱陶しくてたまらない。

怯えた餓鬼の細過ぎる腕を掴んで引っ張る。一丁前に抵抗しようとしているらしいが、痩せ細った餓鬼と大人じゃ力に大きな差がある。

あっという間に餓鬼を家の中に連れ込み、俺は戸棚から饅頭を出して餓鬼に押し付けた。


「これ食って黙ってろ、俺の昼寝を邪魔したらただじゃおかねぇからな」

その様子じゃどうせろくなもん食ってないんだろう。食ったらどっか行け。

餓鬼はぽかんとして俺と饅頭を見比べているが知ったことか。俺は餓鬼をその場に放置し、煎餅布団に寝転んだ。

「あ、あの、おじさん」

「誰がおじさんだコラ、まだお兄さんだ」

「ひっ!?ご、ごめんなさい!」

じろりと睨めばまた泣かれた。そんだけ泣いてりゃ体力はどんどん無くなるだろうに。

俺は舌打ちを一つし、そのまま目を閉じた。



しばらくして目が覚めれば、子供はまだ家にいた。それも、俺と同じ煎餅布団に寝転んで間抜けな寝顔を晒している。よく見ればヨダレまで垂らしている。このクソ餓鬼が。

しかし此処で怒鳴り起こしてしまえばまた大泣きするだろう。寝起きであの大声は頭が痛くなるだろう。

仕方なしに餓鬼を無視して布団から起き上がれば、外はすっかり橙色になっていた。ちくしょう、ちと寝過ぎたな。

独り身故に飯の支度をしてくれる嫁さんもおらず、俺は欠伸をしながら厨へと向かった。


釜に米と今朝汲んだばかりの井戸の水を入れ、竃に適当に薪を投げ入れ火を起こす。竹筒で火加減を調整し、いい具合になったら別の釜に適当に切った野菜と水、それから近所の婆さんから分けてもらった味噌を入れた。

後はどうするか。壁にぶら下げた魚の干物を数匹掴んで、竃の横に干物を焼く網を用意する。

干物を網で焼いていると、煎餅布団に丸まっていたはずの餓鬼が恐る恐るといった風に厨へとやってきた。


「起きやがったかクソ餓鬼」

「っ!あ、あの、俺、えと・・・」

じわじわと目に涙を溜めるな鬱陶しい。

「チッ、泣くぐらいなら手伝えクソ餓鬼」

「わ、わかった!何すればいい、おじ・・・お兄さん」

どうやら昼寝前の言葉を覚えていたらしい。馬鹿だが記憶力はそれなりにあったようだ。

俺は餓鬼に干物を見ているように言い、竃の方に戻った。

釜に入った味噌汁がぐつぐつと音を立てている。もうそろそろか、と適当に千切ったネギを散らし、米の入った釜も確認する。こっちもまぁいいだろう。


「おい餓鬼、そっちは焼けたか」

「うんっ!ちゃんと焼けてる」

昼寝前に饅頭を食ったくせに、餓鬼の腹が盛大に鳴った。ハッとして腹を抑え、泣きそうになった餓鬼に「とっとと椀を用意しろ」と言えば元気な声が帰ってきた。

俺の一挙一動に怯えの色を滲ませている癖に、飯にはありつこうとするなんざ現金な餓鬼だ。俺は餓鬼が持ってきた四つの椀にそれぞれ米と味噌汁をよそい、持っていかせた。

焼けた干物を適当な大皿に乗せ厨から出れば、餓鬼は米と味噌汁の椀の前で目を輝かせていた。煎餅布団は部屋の隅に畳まれており、それだけは褒めてやろうと思った。

餓鬼と俺の間に干物を起き、無言のまま手を合わせる。餓鬼も俺の真似をして手を合わせ、小さな声で「いただきます」と言った。


「あ、あの、お兄さん・・・食べていい?」

「いただきますって手前が言ったんだろうが。とっとと食えクソ餓鬼」

「う、うん!」

俺の許可が出た瞬間がつがつと飯を食い始めた餓鬼を呆れた目で見つつ、俺は味噌汁を啜った。さっさと自分の分を食べ終えた餓鬼が食べたりなさそうな目をしやがったため「おかわりすんなら勝手にしろ」と米と味噌汁をおかわりさせた。目で訴えんな鬱陶しい。


腹がいっぱいになった餓鬼が恐る恐る「さ、皿洗いしようか?」と言ったため任せてみれば、唯一陶器で出来ていた大皿を一枚割ってくれやがった。

ごめんなさいごめんなさいと大泣きするクソ餓鬼を怒鳴る気力もなく「うっせぇ」の一言と共に大皿の残骸を風呂敷に包んで厨の隅に追いやった。明日、知り合いの修繕屋に頼んでくっ付けてもらうか。

大声をあげるのはやめたものの、それでもぐずぐず泣きじゃくるクソ餓鬼に「怒ってねぇから黙ってろクソ餓鬼!」と怒鳴ってしまい、更に泣かれた。

一晩中泣き続けそうな勢いのクソ餓鬼に「悪いと思ってんなら肩でも揉め」と言えば鼻をすすりながら背中に回り込んできた。皿洗いしてる様子を見てて思ったが、こいつは不器用だ。肩揉みも全然気持ちよくねぇ。

それでも「どう?どう?気持ちい?」と聞いてくるクソ餓鬼に適当に肯定してやれば、クソ餓鬼は嬉しそうに「へへっ、えへへっ」と笑った。笑い方きたねぇな。

あまり気持ちよくなかった肩揉みが終わり、隅に畳んであった煎餅布団を再び広げて寝転がればクソ餓鬼が俺のぴったり横に寝転がってきた。追い出すのも億劫で黙っていれば、餓鬼は俺の腕に縋り付いて、ぐりっと頭を寄せてきた。


「あ、明日もここにいていい?」

「うるせぇクソ餓鬼、黙って寝ろ」

「ひっ・・・く、クソ餓鬼じゃな゛い゛、善逸ぅっ」

「黙れ、寝ろ」

ぐすぐすとぐずる癖に俺から離れようともしないクソ餓鬼は、何時しか泣き疲れて寝た。




それでも音は優しいんです




それからしばらく、何だかんだ家に居着いたクソ餓鬼改め善逸が俺のことを「父ちゃん」などというふざけた呼び方で呼び始めたせいで周囲が善逸を俺の息子だと勘違いし、嫁も出来ぬまま餓鬼を抱え込むこととなった。

クソ餓鬼め、俺はまだ手前みたいな歳の餓鬼がいる年齢じゃねぇよ。せめて兄ちゃんにしろ、でなけりゃ我妻の姓は名乗らせねぇぞ。



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