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※男主×モブのR-15表現注意。


「あっ、ぁ・・・、名前さ、んっ」

藤の家紋の家で休ませて貰うことになった夜、隣の部屋からそんな声が聞こえた。

名前さんっていうのは今日から任務が一緒になった先輩隊士で、笑顔が優しい人。

そんな人が休んでいるはずの部屋からした声は、確かこの家の次男だったと思う。俺は耳がいいからわかる。


「んぁ、は、ふっ・・・切ないですっ、どうかご慈悲をっ、どうか・・・」

昼間そんな雰囲気なんて全然なかったのに、と驚く。確かにあの次男さんは名前さんを見た瞬間に嬉しそうな音をたてていたけれど、まさかそんな関係だったなんて・・・!

男同士なんていう未知の世界に若干の好奇心が浮かぶ。どきどきしながら耳をすませば、生々しい水音が聞こえた。

「あ゛ぁっ♥見て、くださいっ!あの夜、貴方に使っていただいてからっ、自ら弄るのをやめられないのです」

にちにちと粘着質な音と、次男さんの荒い息遣い。名前さんが側に居るのはわかるけれど、その声は聞こえない。・・・あの夜使ったってことは、やることは最後までやったってことだろう。

「もう一度っ、もう一度くださいっ!どうか、ご慈悲を・・・」

「ごめんね」

不意に名前さんの声が響いた。次男さんが息をのみと同時に、俺の喉もごくりと鳴る。



「僕、初物にしか興味ないんだ」



しんっとその部屋どころかあたり一帯が静まり返った気がした。

それからは怒涛の展開だった。次男さんはなんでなんでと泣き出すし、泣いたかと思えば怒って名前さんの頬をぶっ叩くような音が聞こえたし、対する名前さんはずっと優しい口調で「ごめんね」って謝るばかりだし・・・

これぞ修羅場といった空間から次男さんが飛び出し、俺は慌てて布団の中に潜った。

いやいや、なんて修羅場を聞いてしまったんだ。というかあの先輩クズ過ぎない!?初物にしか興味がないって、やることやったらポイするってことでしょ!?いやいやいやいや、クズでゲスじゃん!見た目すっごく優しそうだし、音もぜんぜん嫌な感じしないのに!ということは、あれなの?無自覚クズってこと?悪いことを悪いって感じてないってこと?怖くない!?


そんな感じに頭を抱えているうちに、すっかり夜が明けてしまった。因みに名前さんは次男さんが部屋から出て行った後、速攻で寝た。酷すぎる。

「あれ、我妻くん寝れてないの?顔色悪いよ、体調悪い?」

「・・・イエ、ゼンゼン」

そう?と名前さんは首を傾げる。逆になんで名前さんは普通に寝れてるわけ?少し離れた場所から名前さんを恨みがましく見つめている次男さんの目は泣き腫らしたのか真っ赤になってるし、それを心配してか女将さんもおろおろしてるし・・・

「無理しないでね我妻くん。僕、そんなに強くないけど、先輩だから少しは頼ってね」

ひえっ、昨晩のクズさを一瞬忘れそうなほど発言がいい人なんだけど!次男さんが凄い眼力でこっち見てる!違う違う!俺、この人とは昨日知り合ったばっかりだから!そんな泥棒猫を見る目で見ないで!


「今日も一緒に頑張ろうね。何かあったら、僕も出来る限り守るから」

「ひぇ・・・」

俺、鬼じゃなくて次男さんに殺されるんじゃない?なんで安全なはずの藤の家紋の家でどろどろの人間関係に巻き込まれて死にそうにならなくちゃいけないわけ???

というか名前さんめっちゃ俺に優しい!昨日から薄々感じてたけど、もしかして俺この人に気に入られちゃってる!?

「我妻くん?やっぱり顔色悪いね。大丈夫、僕がちゃんと側に居るよ」

にこにこ笑って手を握られる。一瞬きゅんときたけど、次男さんの眼力のせいでそれどころじゃない。女将さんも自分の息子の眼力に気づいて元からおろおろしてたのに更におろおろし始めた。無理、誰か助けて・・・



恐ろしい藤の家紋の家から脱出した後、なんとか名前さんと共に鬼を狩った。

名前さんは言っていた通りに怯える俺を守ってくれたし、沢山励ましてくれた。べそべそ泣く俺の顔を手拭いで拭いてくれたし、鬼を狩った後は「おつかれさま」って言って金平糖をくれた。ひえぇ、昨晩のことがなければめちゃくちゃいい先輩だぁ・・・

「我妻くんさ・・・」

「ひょあっ!?な、なんです!?」

「うーん、昨夜、起きてた?」

その問いかけに目が泳ぎまくっていると、名前さんは「そっかー、聞こえてたんだ」と頷いた。


「ごめんね、騒がしくしちゃって。そのせいで眠れなかったんだね」

お、俺に聞かれてたって知って出た言葉が「騒がしくしちゃって」って、この人ズレてない?ズレ過ぎじゃない???

「あ、あの・・・」

「なぁに?」

「次男さんとは、そ、そういう関係なんですね」

正確には名前さんが手酷く次男さんを捨ててるわけだけど・・・

俺の言葉に名前さんにきょとんとして、それから小さく首を傾げた。いや、それどんな感情なわけ!?少しは気まずい音たててみたらどうなの!?


「関係って程の関係はもってないよ?」

「いやいやいやいや!!!何言っちゃってんのこの人!やるとこやったのに関係ないわけなくない!?どんだけクズいの!?吃驚なんだけど!というか今どんな感情でそんな嬉しそうな音たててるわけ!?もう怖すぎるんだけど!!!」

「わぁ、我妻くんって賑やかで楽しい人だね」

「ありがとうございます!怖い怖い、ズレ過ぎじゃん!この様子じゃ絶対他の場所でもヤり捨ててるじゃん!」

「捨ててないよ???」

「そもそも拾ってないですよって!?鬼!この人心の中に鬼を飼ってる!それも無自覚クズの鬼を飼ってる!!!」

散々なことを言ってる自覚はあるけど、言わずにはいられない。今までの人生でこいつクズだなって思う人とは何人か出会ってきたけど、この人のクズさはなんか別次元のものだ。

当の本人は俺の言葉を聞きながら相変わらず嬉しそうな音を響かせ「うんうん、それでそれで?」と更に俺に喋らせようとした。いやいや、なんなの!?俺に散々なこと言われてるってわかってる!?


「ふふっ、そんなこと言われたの初めて。いつもならちょっとだけ喋って、布団の中で遊んで、ばいばいしてるから」

「ちょっと喋っただけで!?もう何者なの!?淫魔かなにかなの!?陰陽師呼ぶ!?」

「んっ、ふふっ、我妻くん、面白い」

ひえっ、笑い過ぎたのか目尻に浮かんだ涙を拭う姿が微妙に色気がある。その色気で次男さんを誑かしたんだろ!?やっぱり淫魔かなにか!?


「淫魔じゃないよ、僕も君と同じ鬼殺隊士さ」

「知ってますけど!?忠告しときますけど、次男さんみたいな相手をどんどん増やしたら、いつか刺されて死にますからね!?鬼じゃなくて痴情の縺れで死にますからね!?」

「うん気をつける。今度から、一回しかまぐわいしないって伝えてからまぐわうよ」

「そうだけどそうじゃない!」

叫び過ぎて汗かいてきた。名前さんがすかさず手拭いで俺の汗を拭いてくれる。ここだけみたらただのいい人なのに・・・

「僕が刺されないか身を案じてくれるなんて、我妻くんが初めて。他の人は『百遍死んでこい』とか『まだ地獄に落ちてなかったのか』って言うから、なんだか新鮮」

いや、殺意高いな!?絶対それ言った人達、この人に恨みあるじゃん!それでもまったく悪いと思ってないって、ある意味心が強靭過ぎない!?


「我妻くんさ、今晩大丈夫?」

「・・・、・・・はっ?はぁぁああぃぃいいいっ!?何言ってんのこの人ぉぉおお!?」

この流れってあれじゃん!俺の初物(尻)を狙ってるってことじゃん!無理無理!俺は女の子が好きなの!

「我妻くんいい子だから、沢山気持ちよくしてあげたいなぁ」

蜜を含んだみたいにとろとろ甘い声色で言う名前さん。多分、次男さんもこんな声を絆されて釣られて、あんなことになったんだろう。

だが俺はそうならない!だって女の子が好きだから!

でもたぶん名前さんはそんな言葉じゃ納得しないだろう。もっと的確に、この人の興味を失わせるような・・・


「あっ、えと、俺、初物じゃないです!」

これしかない!と思って嘘を言えば、思った通り名前さんは少し目を見開いた。よしよし、これなら諦めてくれるはず。

「いいよ」

「・・・はい?」


「我妻くんなら、初物じゃ無くても大丈夫な気がする」


ふんわりにこやかに笑った名前さんの音は嘘を吐いていなくて、本気で俺なら初物でなくても大丈夫って思ってるみたいて・・・

「は、はぁ?ちょ、ちょっと、何言ってるんですか・・・も、もお」

俺の口から、なんか満更でもなさそうな声が出てしまった。それを聞いた名前さんはにっこり笑って「今日は藤の家紋の家じゃなくて、宿屋に行こうか」と俺の手を握った。

・・・ふり払え、なかった。




鬼殺隊に初物泥棒がいるって本当ですか?




「あれ?初物?」

どろどろに甘やかされて何度も達したあたりでそんな言葉が聞こえた。

朦朧とする意識は、中で大きくなった名前さんの魔羅のせいで強制的に覚醒させられた。

結局初物好きかよぉ!



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