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「#エロ」のBL小説を読む
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元鳴柱の桑島慈悟郎には実子が存在する。
「かいがく兄ちゃん、抱っこ」
その実子の子、桑島にとっては孫にあたるのが、今獪岳の足元で両手を上げている幼子・・・名前は桑島名前という。
長い事疎遠になっていたらしいのだが、ある日突然桑島の娘を名乗る女がやってきて、名前を置いて行った。
桑島はその時丁度善逸に修業を付けていたため、名前を受け取ったのは獪岳だった。後から獪岳の足元にいる名前を見て、桑島はそれはもう驚いていた。
存在は知っていたようで「お前が名前か」と呟いたため、獪岳はそこで漸く幼子の名前を知った。娘を名乗る女は、本当にただ名前を置いて行ったのだ。
置いて行った理由も言わず、置いて行く子供の名前も告げず、後で桑島の指摘で気付いたことだが、名前の荷物すらなかった。
丸投げとはこういうことを言うのだろうな、と獪岳は思った。
幼子は自分を受け取ったのが獪岳だったからか、獪岳に懐いた。
『かいがく兄ちゃん』なんて呼んで、ヒヨコのように後ろをついてくる。
弟弟子の善逸がやってきてからすっかり定置になってしまった桃の木の根元にある岩の上に獪岳が座れば、名前は当然とばかりにその膝の上に座るようになった。
名前が獪岳に懐いていることを知った桑島はそれはもう嬉しそうに「名前によくしてやってくれ」と言ってきたため、獪岳は名前を追い払うことが出来ない。
「抱っこ」
「・・・ちっ、相変わらず甘えることしか能がねぇな」
「のーがねぇ?」
まだほんの小さな子供。不思議そうに首をかしげる名前の両脇に手を差し込んで抱き上げれば、名前はすぐその顔に満足そうな笑みを浮かべた。
鬱陶しいが、慣れればとても扱いやすい。獪岳にぴっとりくっ付いていれば比較的静かにしているし、鍛錬中は危ないと言えばきちんと少し離れた場所で待っている。名前は甘えただが、利巧だった。
「・・・ん?待てお前、今日は善逸と団子食いに行くんじゃなかったのか」
「ぜんいつね、お寝坊さんしてる。起こすの可哀想だから、今日はいいの」
そういえば前日に先生が夜遅くまで修業を付けていたな、と獪岳は顔をしかめた。
弟弟子が来てからずっとそうだ。桑島は手のかかる善逸に付きっ切り。獪岳は自分で鍛錬が出来るからと、悪気なく獪岳を放置してしまった。
それまで桑島の現弟子は獪岳一人だったのに。それも、あんな修行から逃げてばかりの臆病者に。
「かいがく兄ちゃん、えんえんしちゃう?大丈夫?」
「・・・んだよ、何処を見たら泣いてるように見えるんだよ」
自分を見上げる名前がぺたぺたと頬を触ってくる。
「あのね、かいがく兄ちゃんのね、周りがね、えんえんしちゃう時のお色だった」
名前の目は少し特殊なのか、人を色で識別している節があった。獪岳と一緒に買い物をしていた時も「あのおじちゃん、真っ赤で怖い怖いだ」と怯えたように獪岳にしがみついていたことがある。後から聞けば、その男は他所から流れてきた乱暴者で、数日経たずうちに殺傷沙汰を起こして自警団に連れていかれたらしい。
名前はその目のおかげで、場の空気を読むのが上手い。甘えただが利巧で、そして敏い子だった。
一度試しに「お前をおいてった母親は何色なんだ」と問いかけたこともある。善逸に対する苛立ちや自分を放置する桑島に対しての苛立ちがつのり、その矛先を幼い名前に向けてしまった故の問いかけ。
名前は少ししょんぼりした顔で「えんえんしてる時のお色と、真っ赤で怖い怖いのお色。名前といる時はずっとそうなの」と答えて、その日は片時も獪岳の傍を離れようとはしなかった。
母親は恋しいようだが、その母親から疎まれていることにしっかりと気付いている名前は、母親のもとに帰りたいとは一度たりとも言ったことが無い。きっとこれからも言うつもりはないのだろう。
血の繋がった祖父である桑島が忙しいのも理解している。弟弟子の善逸は自分のことで精一杯。だからこそ甘える矛先を獪岳にしたのかもしれない。
「かいがく兄ちゃん、えんえんしていいよ。名前がよしよししてあげるね」
「おい、こら、べたべた触んじゃねーよ」
「んふふっ、かいがく兄ちゃん、よしよし好き?名前も好き」
嫌がる獪岳を見てにこにこ嬉しそうに笑っている名前。その目には獪岳が喜んでいるように見えるのだろう。
獪岳は仕方ないとでも言いたげに大きなため息を一つ吐くと、それからは名前の好きなように頭や顔やらを撫でさせた。
此処に来たばかりの頃は小枝のように細かった指先は、漸く子供らしいふくふくとしたものに変わってきた。
親がいる癖に独りぼっちの表情を浮かべていたその顔は、ここ最近だと笑顔ばかりが浮かんでいる。
「かいがく兄ちゃん?」
「お前も好きなんだろ」
がしがしと獪岳の手が名前の頭を撫で、ふにふにの頬を揉むように撫でる。名前はにへっと笑い「うん、好き!」と獪岳に撫でられるのを喜んだ。
名前を撫でながら獪岳は歩き出す。自分の部屋に良き、銭の入った財布を手に取り再び外へ出た。
不思議そうに獪岳の手の中にある財布を見つめる名前に「腹が減った、団子でも食いに行くぞ」と言えば、名前は嬉しそうに笑う。
「ぜんいつにも、お土産買っていい?」
「約束すっぽかしてぐーすか寝てる奴に食わせる団子はねーよ」
「名前怒ってないよ!名前、ぜんいつのお兄ちゃんだから、ぜんいつがえんえんしないように守ってあげるの」
「・・・お前にとってあの馬鹿は弟なのかよ」
どうやらあまりにも情けなく絶叫したり号泣したりする弟弟子は、名前の中で弟認定されてしまったらしい。
思わず吹き出す獪岳に名前は「ねっ、いいでしょ?かいがく兄ちゃん」と笑う。今回だけだぞ、と言えば名前は「じゃぁぜんいつのお団子なににするか決めなくちゃ!」と目を輝かせた。
今名前の頭の中は店に並ぶ団子のことでいっぱいだろう。
時折「んふふっ」と笑うのは、善逸が泣いて謝る光景とお土産の団子に喜ぶ光景を想像してかもしれない。
獪岳はそんな名前を眺めつつ、山道を降りていく。
自分で歩けなんて言わない。名前は小さいから歩くのは遅い。実のところ祖父である桑島からは体力を付けさせるために歩かせるように言われたこともあったが、獪岳が抱いて歩いた方が早いのだから仕方ない。
それに何となく、腕の中から名前がいなくなると、胸の辺りが寒くなるのだ。名前が子供体温だからというのは、理由の一部でしかない。
「ねぇ!かいがく兄ちゃんは、何がいいと思う?」
「知らねぇよ、あの馬鹿ならなんでも食うだろ」
「んふふっ、ぜんいつ、好き嫌い少ないいい子だもんね!」
「お前もえんどう豆食えるようになれよ」
ぴきっと名前の身体が固まる。
「か、かいがく兄ちゃんが食べてくれるからいいもん」
「・・・先生には内緒だかんな」
「かいがく兄ちゃん大好き!」
ぎゅっと抱き着いてきた名前に、獪岳の胸の辺りは温かくなった。
その色は温かな陽光のような
おそらくだが、この腕の中にいる幼子を奪うような存在が現れれば、獪岳は容赦なくそれを排除しようとするだろう。
その程度には、獪岳は名前を気に入っている。口には出さないが。
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