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獪岳は恐怖していた。

産屋敷名前、その名の人物から突如として手紙が届いたのだ。

産屋敷とは鬼殺隊の長、そして名前とは・・・

獪岳の記憶の中では名前とはあの寺にいた子供の名前と当てはまるが、何故その名前の人物の姓が産屋敷などになっているのか。

獪岳のけして悪くはない、むしろ良すぎる頭が、名前が確か『親戚』の家へ向かっている途中だったことを思い起こさせ、その『親戚』が『産屋敷』であったのではと予想を立てた。正しくは産屋敷ではなくその妻のあまねの親戚なのだが、おおむね正解である。

現岩柱があの寺の坊主であるのは既に知っていたが、まさかまさか裏切った人たちのうち二人が自分よりはるか高い地位に付いているとは思うまい。そんな人物が今更獪岳に会ってすることなんて、そんなの決まってる。


復讐だ。復讐される。

獪岳は震えた。

しかも手紙には任務が終わり次第、隠が産屋敷邸に獪岳を連れて行く段取りだと書かれているではないか。逃げられない。

完全に血の気が引いた状態である獪岳は隠に連れられて産屋敷邸へ・・・そしてある日の炭治郎のように砂利の上に正座をしていた。正座は獪岳独自の判断である。

まるで死刑を言い渡された罪人のように顔面蒼白で震える獪岳の前に、かつて世話になっていた坊主である岩柱がやってくる。

自主的に正座をして震えている獪岳を見て一瞬動きを止め、そして「南無・・・」と涙を流した。何となく行冥はこの展開を予想していた。


「ぎょ、行冥、さん・・・」

「久しいな獪岳。・・・名前はもうすぐお館様とともにやってくる」

「ひっ」

がくがく震えている獪岳をちょっぴり哀れに思いつつ、過去を考えればまぁこのぐらいは仕方ないかと思った行冥は、獪岳と共に名前とお館様が現れるのを待った。

「お館様、並びに名前様のお成りです」

そんな声がして獪岳は今にも吐きそうな顔をした。

襖の向こう側から現れた笑顔の名前は、お館様に一言断りを入れてから少し速足で獪岳のもとまで駆けた。

何故だか砂利の上で正座をしている姿には少し驚いていたが、それよりも獪岳に再び会えたことが嬉しかったのだ。


「獪岳!やっと会えた!」

喜色の滲む声で足袋のまま砂利の上に出た名前は、嬉しそうに獪岳に抱き着く。

獪岳はと言えば、今にも気絶しそうだった。

何だ、どういうつもりだ、何でそんなに喜んでるんだ、今から俺を断罪できることがそんなに嬉しいのか、こいつ怖い、めっちゃ怖い。

獪岳の内心は大体こんな感じだ。


「こうやってまた獪岳と会えるなんて、善逸くんのおかげだよ。今度善逸くんにお礼をしなくちゃ。あぁ、もちろん、獪岳を今まで育てて下さった育手の方にも」

あのカスがぁっ!と憤る暇もなく、獪岳は名前への恐怖で震える。

恐怖で言ったら行冥への恐怖もしっかりあるが、あちらは「南無南無・・・」と言って涙を流すばかりでこちらに何かをしてくる様子はない。対する名前は、何故だか凄い笑顔で自分を抱きしめてきている。言い知れぬ恐怖で獪岳は今にも吐きそうだしむせび泣きそうだった。今なら弟弟子のように奇声を発することも出来そうな気がする。


「ずっと獪岳のことを想っていたよ。今まで無事でいてくれて本当に良かった。これからはずっと一緒にいられるね。よろしく獪岳」

ずっと獪岳を(憎らしく)想っていたよ?(この手でお前を断罪するために)今まで無事でいてくれて本当に良かった?これからはずっと(お前に罪を償わせるために)一緒にいられるね?

獪岳の耳には、勝手に副生音が聞こえていた。


「ご、ごめ・・・」

ごめんなさい謝りますでもあの時はああするしかなかったんですどうか許してください殺さないでください助けてくださいどうかどうか・・・

命乞いをしようとする獪岳になどこれっぽっちも気づかずに、名前は喜びのままに叔父であるお館様におねだりをする。

これからは獪岳と一緒の任務がいい、いっそのこと一緒に住みたい、などなど。

これまでこれっぽっちも我が儘を言ってこなかった名前が初めて甘えてくる様子にほっこりしていたお館様はそれを笑顔で了承。獪岳の心は死んだ。


「これからずっと一緒にいようね!」

「・・・はい」

獪岳は泣いた。それを見た名前は獪岳も自分との再会を喜び感動してくれているんだと思い、嬉しそうに笑った。行冥は「南無・・・」と手を合わせて泣いた。





これもある意味償い





「獪岳!今日の夕食は僕が作ったんだ。君は僕の作った味噌汁を褒めてくれただろう?」

「ぁ、え、あぁ・・・」

「ふふっ、名前が料理上手だったとは知らなかったなぁ」

「お義父様のお口に合うかわかりませんが、獪岳にはよく褒めて貰ったので」

「兄上、手際がとてもいいですね」

「有難う輝利哉。寺に住むより前に覚えたけれど、手際が良くなったのは獪岳のおかげだよ。獪岳が沢山教えてくれたから」

「そうだったんですね。獪岳様、叔母の私からもお礼を言わせてください」

「ぃ、いえ、お礼を言われるような、これは・・・ぜんぜん・・・」

何故だか産屋敷家一同と夕食を囲むことになった獪岳は顔面蒼白のまま端切れの悪い返事を続けた。

いつ復讐されるのかわからない恐怖は、獪岳の中でしばらくは続くことだろう。



あとがき

あまねの甥っ子な男主が紆余曲折あって最終的には素敵な家族と素晴らしい友人に囲まれて幸せに過ごす話。
獪岳からすれば、かつて裏切った男が自分よりはるかに地位の高い存在になっていて自分に復讐を仕掛けてくる話。

男主的には、確かに裏切られたことは悲しかったけど生きるためなら仕方ないよね!と獪岳の行動に理解を示している。自分もかつて生きるために盗みをしたし、自分が獪岳の立場なら鬼に対して命乞いをしただろうと思っている。

両親を殺したのは人間だし、自分を疎んで蔑み野良犬を追い払うようにしたのは人間だし、食いぶちが減るからと自分を邪魔者扱いしたのは人間だし、正直鬼より人間が怖い。でも今の家族や終始自分に優しくしてくれた行冥や唯一無二の友である獪岳は好き。
同じ兄仲間として炭治郎も好ましいと思っているし、炭治郎の友達だからという理由で善逸や伊之助も好ましく思っている。

行冥は獪岳が本当は男主から恨まれても仕方ない立場だと知っているし、お館様も男主の今まで歩んできた人生を知っているため獪岳が仕出かしたことも知ってる。
でも被害者である男主が獪岳の行動を理解し許しているため、特に咎めはしない予定。ただし、獪岳の男主に対する誤解は解いてはやらない。それが唯一の罰。


※字数が多く一部が反映されていなかったため、1ページを2ページに変更(2020.3.31)



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