×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -





「名前さん、はい!これ食べてください!」

「あ、うん、有難う炭治郎くん」

「おかわり沢山ありますからね!」

「うん・・・」

目の前には炭治郎くんが絶妙な火加減で炊き上げたツヤツヤ輝く握り飯と、これまた絶妙な火加減で焼かれた焼き魚。流石は炭焼きの子というべきか。


いやいや待て、何故私は今、炭治郎くんに食事の世話を焼かれているのだろうか。

目が覚めて最初に見えたのは「あ、起きたなら今日は布団を干しましょうね!」なんて輝く笑顔を浮かべた炭治郎くん。唖然としている間に布団から引っ張り出されて、握り飯と焼き魚と味噌汁、それから漬物が並んだ居間へと連れていかれた。


「あの、炭治郎くん?君はなぜ私の家に・・・」

「あ!俺、布団干して来ますね!」

「あ、うん」

私の問いかけが聴こえていないのか、さっさと寝室へ布団を回収しにいく炭治郎くん。仕方なく、黙って食事を続けることにした。


一体どういうことなのだろうか。そもそも、私は炭治郎くんに自宅の場所を教えていないが、おそらく柱の誰かが教えたのだろう。考えられるのは、蟲柱か水柱・・・水柱かなぁ、あの人何だかんだで炭治郎くんに甘いし。

「おまたせしました!さっき何か言いかけてましたよね?」

「あ、あぁ・・・炭治郎くん、何故君は私の家に?」

「名前さんが一人暮らしで苦労してるとしのぶさんから聞いて、お手伝いに来ました!」

「あ、うん、ありがとう?」

はい!と元気よく帰ってくる返事。眩しい。善意が眩しい。


「じゃぁ家の場所も蟲柱からかい?」

「いえ!家の場所は義勇さんから!」

あ、そこは予想通りなのか。

私の手にある椀の中から味噌汁がなくなると「おかわりいりますか?」と笑顔で問われる。正直普段朝はそんなに食べる方ではないのだが、そう期待した顔をされればいらないとは言えない。

味も美味しいし普段よりは食べれるだろうと「お願いしようかな」と椀を渡せば嬉しそうに炭治郎は厨へと早足で向かっていった。


残された私は気付かれないように小さく息を吐く。

一人暮らしで苦労している、というのは確かにそうなのだが、まさか鬼殺隊の後輩がわざわざ世話を焼きに来るとは思わなかった。

柱ではないもののそこそこ高い階級にいた私が炭治郎くんの任務に応援として駆け付けたのが出会いのきっかけ。

あの時はとても感謝されたが、その後も会う度会う度好意的な態度を取る炭治郎くんはまさに『可愛い後輩』という言葉が似あう。

あの水柱や、笑顔だがなんかちょっと怖い蟲柱とも仲良くしている様子を見るに、誰からでも愛される素質を持っているのだろう。


「お待たせしました!」

「有難う」

味噌汁がたっぷり入った椀を渡され、一口啜る。味噌と出汁が良い塩梅で、飲んでいると心まで落ち着くようだ。


「美味しいですか?名前さん」

「あぁ、美味しいよ」

そう返事をすると、炭治郎くんはとても幸せそうな顔で笑う。そんな顔をされると、こちらが照れてしまいそうになる。

私が言うことにすぐ対応できるようにか、炭治郎くんが私の傍に座っている。私の湯飲みのお茶がなくなると、すぐに注ぎ直された。


「食事が済んだら、部屋の掃除をしますね。名前さんさえよければ、お昼の準備もさせてください」

「それは有難いけれど・・・それでは君が折角の休みを潰すことになるんじゃないかい?」

「いえ!俺がやりたくてやるので!」

にこにこ笑いながら私が食べる様子を見ている炭治郎くんは、本気でやりたがっているようにも見える。

彼の何がそうさせているのかわからないが、そうまで言われると断るのが逆に悪く感じてしまう。


「なら、私も一緒に・・・」

「いえ!名前さんは縁側でゆっくりしいてください!あ、もし鍛錬をするなら手拭いや飲み物の準備もするので、その時は教えてください!」

「あ、あぁ・・・」

至れり尽くせりとはこういう状況のことを言うのだろうか。

私が食事を終えると同時に膳が下げられ、食後の茶を与えられ、縁側でのんびりしている間に炭治郎くんが室内の掃除を始めた。

手伝いたいが、手伝いを申し出るたびに「ゆっくりしててください!」と言われてしまえば、縁側でゆっくりするしかない。

耐え切れず鍛錬を始めれば、その傍で洗濯物を干す炭治郎から穏やかな目で見つめられ、そわそわしてしまった。


「・・・ふぅっ」

「お疲れ様です!」

「あ、有難う」

ずいっと差し出された手ぬぐいと水。

汗を拭いて水を飲む私を相変わらず穏やかな目で見つめる炭治郎くんは、既に掃除と洗濯が終わったらしい。


「これからお昼の用意をしますね。食べたいものはありますか?」

「えっと・・・任せるよ。炭治郎くん、君も疲れているだろうから、簡単なものでいい」

「いいえ!大丈夫ですから!任せてください!」

ムンッと意気込む炭治郎くんに「う、うん、任せるよ」と返事をする。

朝起こされて朝食や昼食の用意、部屋の掃除や洗濯までしてもらって・・・


「・・・妻がいれば、こんな感じなのかな」

ぽつりとした呟きは、既に厨へと向かい始めている炭治郎くんには聴こえていないだろう。

正直突然炭治郎くんがやってきたことには驚いたが、こうやって世話を焼かれるのも悪くない。

炭治郎くんがどういうつもりで私の世話を焼こうとしているのかは知らないが、今日一日ぐらい甘えたっていいだろう。




おはようございます!押しかけ女房です!




「・・・つ、妻、俺が、名前さんの妻」

厨で一人昼食の用意をしている炭治郎は、真っ赤な顔で口元をふにゃふにゃと緩めていた。

大好きな名前さんの役に立ちたい一心で自身の休暇を返上し世話を焼きに来たが、まさかその本人から妻のようだと称されるとは思わなかった。


上機嫌な炭治郎は、昼にも関わらずうっかりご馳走を用意してしまったが、名前は驚きつつも「有難う」と笑ってくれた。



あとがき

多分今後、炭治郎がずいずいきて何時の間にか事実婚状態になってる。
押しが強すぎて断れないし、いつの間にか妻炭治郎を受け入れちゃう。そんな話。



戻る