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鬼に肉親を全て殺された、なんて話は鬼殺隊ではよくある話。よくある悲劇。

とは言うものの肉親が殺されたのは俺が物心つく前の話で、俺は村外れで細々暮らす老夫婦に引き取られ育てられた。

俺が独り立ちする頃には二人とも老衰で眠るような穏やかな死を迎え、俺は特に決意や熱意もなく鬼殺隊に入った。聞く人が聞けば激怒されても仕方ない。


自分でも驚いたのだが、俺にはそこそこの剣の才能があったらしい。育手のもとで修行をし藤の花が狂い咲く山で最終選抜を生き抜いた俺は鬼殺隊士となり、気づけば柱にまで上り詰めていた。

鬼に対しての恨みも怒りもないから心が激情で揺さぶられることもない俺の戦い方は、周囲からすると常に冷静で穏やかな人間に見えてしまうらしい。他の柱からもそこそこ信頼されていて、お館様からは『澄柱(すみばしら)』なんていう大層な名称を頂いた。

正直なところ他の隊士から尊敬されるような人間でもないが、仕事はきちんと熟すのがお給金を貰っている人間の務め。日々精一杯働かせて貰っている。


しかししかし、そこで俺は思いがけない壁とぶつかることとなった。

お給金が、貯まり過ぎる。

鬼殺隊は命がけの仕事だからか給金も高く、柱ともなればその額が更に高くなる。

そんなお給金の使い道が、俺にはこれっぽっちもなかったのだ。


家族がいれば家族に仕送りできただろう。愛する人がいるならその人に贈り物をしてもいい。趣味があるならそこにつぎ込むのだっていいだろう。しかしそのどれもこれもが、俺にはなかったのだ。

金は使えば無くなるが、その逆もまた然り。気付けば独り身にしては持ちすぎなほどの金があった。これ、俺が死んだ後はどうなるのだろうか。今まで会ったことも聞いたこともない見ず知らずの人間が俺の親族を名乗って遺産を引き取っていくのだろうか。それとも、鬼殺隊の資金として徴収されるのだろうか。

どちらも別に構わないのだが、どうせなら何かに使いたい。お金を使うために趣味を探すなんて我ながら可笑しな話だが、それを始めようかと考えた頃・・・


「俺は禰豆子を治すために剣士になったんです!」


ある日の柱会議の時に連れてこられた鬼連れの鬼殺隊士、竈門炭治郎くんと出会った。

彼の妹は鬼にされてから二年以上も人を食べずにいられたらしい。その言葉を証明するように、稀血を持つ不死川が目の前で血を垂らしても彼の妹は耐えた。

へぇそういうこともあるんだなぁと思いつつ「不死川、そのあたりにしといてやってくれ。俺からも頼むよ」と不死川と竈門くんの間に入った。鬼は恐ろしい存在だし人に仇を成すなら斬らなければならないけれど、彼の妹はそうじゃないなら斬る理由が無い。

不死川が「どういうつもりだ!苗字!」と怒鳴る中、漸く柱会議に姿を現してくれたお館様のおかげで俺は不死川に斬りかかられずに済んだ。あと少しお館様の到着が遅れれば、俺も刀を抜くことになっていただろう。仲間割れはよくない。


そんな感じの出会いの後、傷だらけで蝶屋敷へと運ばれていった竈門くんの後ろ姿を見つめ、唐突に閃いたのだ。

そうだ、どうせならとても苦労してそうな彼に金をかけてみよう。

蝶屋敷に運ばれて行くまでの間で、彼がとても素直で真っ直ぐな性格をしていることはわかった。確実に俺よりも信念をもって鬼殺隊に入ってきた若く力強い彼を応援する意味でこの有り余った金を使う・・・何だかとても有意義な気がする。

そうと決まればと俺は普段使うことのない財布を手に早速街へと繰り出した。




「竈門くん、ちょっといいかい」

蝶屋敷に足を運べば、珍しいものを見る目を何度かむけられた。それもそうか、俺が蝶屋敷に来ることなんて殆どない。蝶屋敷で世話になるような大怪我を負うこともなければ、お見舞いをするような相手もいなかったためだ。

傍にいた子に竈門くんのいる病室を訪ねればすんなりと教えて貰えた。まぁ俺も柱だし、別段面会制限があるわけでもない。


「貴方は確か・・・あっ!あの時は、有難うございました!」

竈門くんは俺の姿を見た瞬間、勢い良く上半身を起こした。その様子に「あぁいや」と首を振る。そんなに畏まられても困る。

「お礼を言われるほどでもないさ。ところで、君の妹なんだけど」

「え・・・」

「いやいや、そんなに警戒しなくてもいい。君の妹は人形とかは好きかい?」

問い掛けながら事前に買っておいた人形を取り出す。

贈り物として包装しても良かったが、あまり大層な包装をしてしまっては竈門くんが気後れしてしまうと思い、あえて何も包まずに持ってきた鞄に詰めてきた。


「実は街で綺麗な人形を見つけてね。そういえば君の妹は日中ずっと箱の中にいて退屈じゃないかと思って」

はいどうぞ、と竈門くんの腹部あたりに人形を置いた。吃驚したように目を見開いた竈門くんがブンブンッと音が鳴りそうな程早い動きで首を振る。


「い、いただけません!こんな高価な物」

「え・・・困ったなぁ、貰ってくれなかった場合、誰にあげればいいのか・・・」

少々わざとらしく眉を下げてみせれば、竈門くんが少し怯む。よし、今のうちに畳みかけるか。

「実は他にもあるんだ。これなんだけど、買ったはいいが寸法を間違えてしまって。仕立て直してもらうにも、小さ過ぎる。丁度君ぐらいじゃないか?少し羽織ってみてくれ」

「えっ、え、あの・・・」

「ぴったりじゃないか。これもついでに貰っておいてくれないか」

「えっ、えっと、えぇっ」

着物、靴、髪飾り、お菓子、本・・・鞄から出したいろんなものを竈門くんの布団の上に並べていく。もはや「えっ」としか言えなくなった竈門くん。拒否の言葉ではないから、俺は笑って「貰ってくれて嬉しい、有難う助かった」ともはや拒否できないようにした。


「ふぅ、俺の要件は以上だ。あ、お菓子は他の子と分けて構わない。それじゃ」

竈門くんがぽかんとしているうちに病室を出て行こうとしたら、思ったより早く回復した竈門くんが「ま、待ってください!」と俺を引き留める。


「あのっ、ど、どうしてこんなに良くしてくださるんですか!?」

良くして、か。ふむ、と俺は首をひねる。

結果的に竈門くんに親切にしているような感じになってはいるが、そもそもこれは俺自身のためだ。金を使うような相手も趣味もないから、少しでも有意義な金の使い方として竈門くんとその妹を選んだだけ。


「特に意味なんてないさ。竈門くん苦労してるし、頑張ってるみたいだから、応援みたいな?」

「応援・・・」

「まぁ頑張って。他の柱はまだどうかわからないけど、俺は君と妹のこと、応援してるから」

「あ、有難う御座います!俺、貴方に報いることが出来るように頑張ります!」

「うんうん、頑張れ頑張れ」

熱い宣言をしてくれた竈門くん。そういう反応をして貰えると、貢いで良かったという気持ちになれる。竈門くん、貢がれる人間として最高だな。


今度、また贈り物を用意しよう。次の任務先で名産品を買って、綺麗な着物と、都会で流行っている洋服も買って・・・

今まで貯まりに貯まった金を湯水のごとく使える快感に俺は思わずにっこり。俺の内心なんて知らない竈門くんは、照れたように笑っていた。




散財したい柱と貢がれる新人隊士




珍しいこともありますね、と蝶屋敷の主人である胡蝶しのぶが呟く。

天涯孤独で、誰に対しても一定の距離感を保つ彼が、突然たった一人を、それも鬼連れの隊士を『特別扱い』し始めた。

蕩けるような笑み、優しさと甘さの籠った声、惜しまず贈られるプレゼントの数々。そんなことをされて特別扱いだと気づかないわけがない。

現に、プレゼントをされた竈門炭治郎は赤くなった頬に照れたような笑みを浮かべ、大事そうに貰った着物を撫でていた。



あとがき

吃驚するぐらいお金が貯まってる。
食事や自分の着るものにもお金を掛けない。
趣味はなかったけど、最近では竈門兄妹に貢ぐことが趣味になった。ついでに善逸や伊之助にもお土産とかを渡すようになる。
貢ぐだけじゃなくてうんと優しくするから、懐かれる。



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