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鶏小屋で餌やりをしていると、近所に住むたかはるが「助けてくれ!」と駆けこんできた。

「おい、たかはる。鶏が吃驚するだろう。どうしたんだ一体」

「じいちゃんがっ!変な動物に餌を与えて!やめろっていうのにやめなくてっ、それで!なんか二本足で立ってるし!じいちゃんやめてくんねぇし!」

「落ち着け落ち着け」

たかはるは祖父と二人暮らしだ。唯一の肉親が二本足で立つ妙な動物に餌を与えているから、それを止めたいらしい。


「猿か何かか?」

「頭は猪で、身体は人間なんだ」

「とんだ化け物じゃねぇか」

想像してちょっと引いた。そりゃ俺でもじいさんを止めようとするだろう。

たかはるの様子から推測するに、その化け物が現れ始めたのは昨日今日の話ではないのだろう。だとすれば、化け物はたかはるの家を巣にしようとしている可能性もある。


「名前!お前害獣退治が得意だったろう!助けてくれよぉ!」

「といっても、二本足で立つ猪の化け物なんてどう対処すりゃいいんだか・・・」

「身体は小せぇから!赤子ぐらいの大きさだから!頼むよぉ!」

てっきりとても大きいかと思えば、化け物は赤子ぐらいの大きさらしい。


「小さいならお前が追っ払えばいいだろうに」

「何度追い払っても、じいちゃんが招き入れちまうんだよ!」

「・・・あー、うん。わかったわかった、わかったから泣くな」

愛する祖父がよくわからない化け物の相手をしていることが余程気に入らないのだろう。しまいには泣きながら頭を抱えるたかはるに顔を引き攣らせた俺は鶏の餌やりを一旦中止し、たかはると共に小屋を出た。


「んで?化け物は今も家に居るのか?」

「たぶん・・・農作業から帰ると、必ずいるんだ」

「あー、多分お前のじいさんが餌付けしちまったから、餌が貰えると思って毎日来ちまうんだろうなぁ」

動物は学習する。餌が貰える場所はすぐに覚えるし、学習能力が高いやつはこちらが張った罠なんてものともしない。

どうしたものかと思いつつも愛用の猟銃を手にたかはるの家へと向かう。


家に近づくにつれて元から悪かった顔色を更に悪くしていくたかはるに苦笑し、俺は何時でも撃てるように猟銃を構えながらたかはるの家の門をくぐった。

「・・・ん?」

たかはるが言うような赤子ほどの大きさの化け物は確かにいた。頭は猪で身体は人間、二本足で立ってたかはるのじいさんからおかきを受け取りそれを食べている。

・・・あの猪頭、被り物じゃないか?食べる時、ちょっとずらしてるぞあの化け物。

じっと観察していると「じいちゃん!駄目だって言ったろ!」とたかはるが声を上げる。たかはるの声に化け物が吃驚している様子はないが、見慣れない俺という存在は多少気になってはいるらしい。

一歩近づけば化け物はその場で四つん這いになり威嚇するようなポーズをとる。そのポーズは野生の猪と似ているが、危険な化け物には到底見えない。


「おーいチビ助、お前親はどうした」

そう言いながらもう一歩近づき、視線を合わせるためにその場にしゃがむ。うん、やっぱりこの頭は被りものだな。たかはるめ、驚いたり慌てたりするばかりで碌に確認していなかったらしい。

手を伸ばして触ろうとすれば「ヴーッ!」と唸り声を上げて化け物もとい子供は後ずさる。鳴き声はまんま猪だな、上手いもんだ。


「よしよし怖がることはないぞ、大丈夫大丈夫。こっちに来い」

敵意がないことを示すためにしゃがんだまま両手を上げれば、子供は「ヴッ、ヴッ」と鳴きながら俺の周りをくるくるし始めた。危険じゃないか否かを確認しているのだろう。

俺は努めて笑顔でくるくる回る子供を眺める。子供が四つん這いで駆け回るたびにひらひら揺れているふんどしには『嘴平伊之助』というなかなかに立派な名前が書かれている。


「伊之助かぁ、いい名じゃないか。ほら伊之助、怖くないからこっちに来い」

笑顔で名前を呼べば、くるくる走り回っていた子供はぴたりと動きを止め、正面から俺をじっと見つめた。突然動けば更に警戒されるだろうから、ゆっくりゆっくり上にあげていた両手を子供の方へと伸ばした。

「お?おぉ、よしよし」

両手はぴとっと子供の両脇に触れる。そのままよっこいしょと子供を持ち上げ抱き上げれば、子供が「ヴッ!ヴッ!」と唸りながらも暴れることはなかった。

危険人物ではないと理解してくれたのだろう。たかはるが「持って帰ってくれるのか?」なんて聞いてくるが、正直どうすべきか悩みどころだ。


「たかはる、見たところこの子はそんなに危ないものでもないだろう。おそらく山に捨てられた子供だ。どういうわけか野生動物として生きているようだし・・・まぁ、そこまで怯えることはないだろう」

「お、怯えちゃいないって。ただ、得体が知れないから・・・」

「んー。伊之助、ちょっと顔を貸してごらん」

よしよしと背中を撫でながら伊之助に上を向かせ、被り物を少しずらす。

「ほら見ろ、頭のこれは被り物だ。中身はちゃんとにんげ・・・うん?伊之助ぇ、お前随分と別嬪さんじゃないか。こりゃもう少し大きくなったら引く手あまただろうなぁ!」

ぐりぐり頭を撫で「将来が楽しみだな伊之助!」と高い高いをしながらくるくる回る。


「ひえっ、じいちゃんだけじゃなくて名前まで可笑しくなってる」

「たかはる、お前も見てみろ、凄く可愛いじゃないか」

「え?えぇ?ど、どれど・・・うぎゃっ!?」

半信半疑ながらも伊之助の顔を覗き込もうとしてきたたかはるに、伊之助の拳がさく裂した。

「・・・嫌われてるんだな、たかはる」

「うぅ、そんなヤツ追い出してくれぇ」

頬を押さえながら半泣きになるたかはるに呆れながら、腕の中で「ヴッ!」と唸っている伊之助の頭を撫でる。


「仕方ねぇなぁ。だが、ただ追い出すのも可哀想だ・・・伊之助もお前のじいさんに懐いているようだしな」

「そんなぁ・・・」

たかはるは相当伊之助が苦手らしい。まぁ懐いてもらってないし、攻撃されれば苦手意識も持つか。

「伊之助、これから俺の家の場所を教えてやるから、うちにも来い。行く場所が増えれば、そう毎日毎日食べ物を貰いに来ることもないだろう。たかはるも、駆除は諦めろ。確かにちょっと変わっているが、中身はまだほんの子供じゃないか」

「・・・まぁ、毎日じゃなくなるなら。でもお前はいいのか?」

「まぁお前と一緒で嫁もいないしなぁ。寂しい一人暮らしに賑やかな子供が加われば、きっと今より楽しくなるさ」

なぁ伊之助、と軽く抱きしめてみれば、伊之助は「ヴッ!?ヴッ!?」とじたばた暴れた。どうやら抱きしめられるのには慣れていなかったらしい。なるほど、可愛いじゃないか。




可愛いもんじゃないか




「おい名前!たまごやきを寄越せ!」

稼ぎの一つである内職をしていると泥だらけの伊之助が飛び込んでいた。作っている途中の小物を端に寄せ、伊之助の方を向く。

「伊之助、まずはその汚れた身体を洗ってこい」

「にわとり!にわとりを丸焼きにしたものも寄越せ!」

「その被り物もそろそろ手入れした方がいいな。ほら脱げ」

「わっ!?やめろ、勝手に取るな!」

「おぉ、やっぱり別嬪だな伊之助。他の奴らがお前の素顔をちゃんと見たことが無いのが残念だ」

「うおぉぉおおっ!やめろ!抱きしめるな!頭を撫でるなぁ!!!」

「はははっ!照れるな照れるな」

腕の中でじたじたと暴れる伊之助をぐりぐりと撫でつつ、今飼っている鶏の中に丸焼きに出来るような年老いた鶏はいただろうかと考えを巡らせた。



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