×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -





お前は我が子のように可愛いから生き抜く力をあげようね、なんて言われる夢を見てから、僕は何となく人とは違う存在になったんだなと思った。


勘が良くなったというか、五感が人より優れ始めた。どんなに走っても疲れなくなって、重い物も持てるようになった。怪我をしても、人より早く治るようになった。

人によっては気持ち悪がっても可笑しくない現象を、僕の家族は笑って受け入れてくれた。


僕の家族は祖父母と弟だけ。

幼い頃土砂崩れで家を飲み込まれ両親を失った僕と弟を、嫌な顔一つせずに引き取ってくれた祖父母。二人は何処までも優しくて孫の立場から見ても随分とお人よしで、あぁこの人たちには自分と弟がついていなければと思えた。

甘えたい盛りで両親を失った弟は必死に大人になろうとしていた。祖父母に恩を返せるように、兄である僕と協力できるように。

そんなに急いで大人にならなくていいんだよ、と言えるほど僕らの人生は甘くなかったけれど、僕が人より少し優れた何かになってからは、弟に甘えさせてあげられるようになった。


弟が祖母の手伝いで小物を作っている間に祖父と一緒に山へ仕事に行き、夕方になれば家に帰って弟と祖母が作ってくれた夕食を食べる。

そんな繰り返す毎日が、僕にとっては何より幸せだった。

僕の特異体質の噂を聞きつけた鬼殺隊と名乗る奴らが来るまでは。


その力を是非人々の役に立てて欲しいと言い、共に鬼を倒して欲しいと言った。

鬼は知っている。祖父母に昔話のような形で聞いていた。まだ若い夫婦だった時に、それらしき姿を見たことがあるそうだ。

鬼殺隊は政府非公認の組織で、鬼から人々を守るためにあるそうだ。危険だけれど御給金が出る。けどやっぱり危険で、隊士は次々鬼に殺されちゃうから鬼殺隊は年中人手不足らしい。


もちろん鬼殺隊を名乗る奴らはそうあけすけには言わなかったけれど、要約するとそういうことなんだろうなって思った。

返事は最初から決まっている。鬼殺隊に入るつもりなんてこれっぽっちもない。

だって僕が鬼殺隊になったら、家はどうなる。聞けば鬼殺隊は年中人手不足の影響で、隊士は任務任務でなかなか家に帰ることができないというではないか。

家に居るのは祖父母と弟だけ。誰が家を守ってくれると言うんだ。近くなら勘を頼りにすぐ家に帰れるけれど、僕が遠くへ不在の間に鬼が、鬼でなくとも野盗が押し入ったらどうする。鬼は藤の花の御香やお守りで防げても、野盗は防ぎようがない。


僕が不在の間に家族が外敵に襲われでもしたらと思うと、僕を不在にさせる原因が憎くて憎くて仕方なくなってしまう。

鬼は怖くない、野盗も怖くない。怖いのは、そんな怖くないものに家族が奪われること。

土砂崩れという自然災害はどうすることも出来なかった。あの頃僕はただの子供だった。


けれど今は違う。この力をくれた何者かがどんなつもりで与えたのかは知らないけれど、我が子のように可愛いからくれたというなら、それを有効活用するだけの話だ。

鬼は鬼殺隊が持つ日輪刀で首を落とすか、太陽の光で焼き殺すか、藤の毒で殺すしかないらしい。けれどそれがなんだ。日輪刀や藤の毒を持っていなくとも、太陽の光で燃やしてしまえばいい。

襲われても叩き潰して抑え込んで、太陽の光がめいっぱい当たるところに張り付けにしてやれば、鬼はあっさりと消え去ってくれる。

鬼に殺されてしまう人たちは気の毒だと思うが、思うだけ。所詮は対岸の火事。自分のところが火事になれば、僕が火消しをする。


誰かのためじゃなくて、僕は家族のために生きたい。目の前で誰かが襲われていれば助けるかもしれないけれど、遠くの誰かの悲劇は他人事。だって他人だから。

冷たい人間だと思う?けれど人間誰しも全てを救うことなんて出来やしないんだから、出来ないことに一生懸命になるよりは出来ることを精一杯やった方がいいと思う。



家族は僕がやりたくないことはしなくてもいいって言ってくれた。嫌なことを嫌なままやってもろくな結果にならないんだって。

それでも鬼殺隊の奴らは来るし、嫌になった僕は家族を連れて住み慣れた家を出ることにした。育った家を捨てるのは悲しかった。こんな悲しい思いをする原因は鬼殺隊。弟は「あいつら嫌い」と言って泣いていた。


そもそも鬼殺隊に僕の存在がバレたのは村人たちのせいだから、とりあえず村から遠いところへ行った。

体力がとてもある僕が台車に三人を乗せていけば移動なんてすぐだった。

見知らぬ土地の山の上。出来るだけ村からは離れたかったから、どんどん移動した。途中立ち寄らせてもらった親切な家の大家族は本当に良い人たちだった。この人たちなら秘密をべらべら喋ったりしないだろうし、弟も楽しそうだったから、その家からあまり遠くない場所に新居を構えることにした。

本当は人里からも離れたかったけれど、家族の誰かが病気になった時に治療できる医者が近くにいないのは良くないと思ったから諦めた。

祖父母は僕や弟の好きなようにしていいと言ってくれた。


親切な家族との交流は案外続いた。山から下りようとしない僕らのためにと代わりに買い物に行ってくれるその家族に、僕は恩返し代わりに山の幸に川の幸を沢山取って、ついでに炭の材料も沢山用意してあげた。

あの家族はいい。父親も母親も、その息子娘たちも揃いも揃ってお人よしだ。祖父母と同じ底抜けのお人よし加減にちょっぴり心配になったから、何かあったら少しぐらい守ってやろうと思った。

でも流石に、元々身体の弱かったその家の父親の病までは治してやれなかった。父親を失って悲しんでいる家族に、僕ら家族は前よりもちょっと頻繁に会いに行くようになった。祖父母はその家の母親を娘のように、その家の子供たちを孫のように可愛がった。弟がちょっぴり嫉妬していたから、代わりに僕が甘やかせば弟の嫉妬は止んだ。



「・・・ん?」

ある日の夜、囲炉裏の緩い灯りを頼りに藁を編んでいると、何やら嫌な予感がした。

僕がこうなってからの勘は一度だって外れたことがない。嫌な予感がした方向にはご近所家族の家かあるから、僕は一緒に藁を編んでいた祖父に一言断ってから家を飛び出し山を駆けた。

遠目に見え始めたご近所家族の家の前に見知らぬ洋装の男がいる。一度だって見たことが無い人物はお客さんというよりは迷い込んだ獣のように感じた。


「戸を開けないで!」

男の前にある戸が薄っすら開くのが見えて咄嗟に叫ぶ。

戸を開けたのはその家の長女だったらしい。男が手を大きく振りかぶって、長女の胸を裂いた。中にいる子供たちと母親の悲鳴。男が更に家に入ろうとするから、僕は男の背中に飛びついて後ろに投げた。

男が僕に対して「誰だ」とか「邪魔をするな」とか言っているけれど、構うもんか。

男はたぶん鬼なのだろう。僕は男がこれ以上ご近所家族に近づかないように、何度も男を殴って、何度も男を投げて、何度も男の攻撃を避けた。

そうするうちに夜が明け始めて、男は逃げて行った。逃げる間際に「その顔、覚えたぞっ!」とか言っていたけれど、どうでもいいや。また来ても投げちゃえばいいだけなんだから。


ご近所家族は長女を囲んで泣いていた。どうやらまだ息はあるみたいだから医者に見せた方がいい。正直山から下りたくはないけれど、目の前で死なれちゃ寝覚めが悪いし、実は最近弟がこの長女に淡い恋心を抱いているようだったから、彼女を背負って山を下り始めた。

途中で昨日から村に炭を売りに行っていたらしい長男と合流したんだけど、そこで背中の長女が暴れ始めた。


怪我人とは思えない動きで僕の背中から逃れた長女が長男に襲い掛かる。もしかして鬼になってしまったんだろうか。長男を食らおうとする長女を背後から取り押さえていると、長男は長女に向け「頑張れ!」「こらえてくれ!」「鬼なんかになるな!」と懸命に声を掛けていた。その甲斐あってか、次第に動きを鈍らせた長女は長男を真っ直ぐみながらポロポロ泣き出した。

もう手を離してもいいかな?って思った時に、正直もう二度と見たくなかった日輪刀を持った鬼殺隊の男が現れた。

何も言わず長女を切り殺そうとするその男を見た長男が僕の腕から長女を抱き寄せ横に転がる。

鬼殺隊に関わるなんて真っ平ごめんだからと、僕はこけて気絶したフリをした。


鬼殺隊は嫌いだけど、あっちも仕事でやってるのはわかってるから無暗に邪魔はしない。まぁ二人が本当に危なくなったらあの男を気絶させてどっかに捨てればいいんだし。

そんな風に気絶したフリを続けているうちに、鬼殺隊の男は長男と長女への攻撃を止めたらしい。攻撃は止めたものの二人を気絶させた男は、長女の口に竹筒を噛ませ長男の隣に寝かせた。ついでに僕の方にも近づいてきたため、僕は出来るだけ不自然じゃないように「ぅうん・・・」と呻きを上げつつ目を開けた。

どうやらあまり疑り深い性質ではなかったらしく、男は特に僕に言葉をかけることなかった。


しばらくして目を覚ました長男に、男は「狭霧山の麓に住んでいる鱗滝左近次という老人を訪ねろ。冨岡義勇に言われて来たと言え」と告げた。そのまま去って行く男を横目に、僕は二人に近づいた。

「鬼は日光に弱いから、早いうちに家に戻ろうか」

長女を担ぎ、まだ困惑している長男を半ば引きずるように二人の家へと連れ帰った。

あとはそっちで話し合って欲しい。二人を家に押し込んでから、僕は自分の家へと戻った。その頃にはすっかり日が昇っていて、僕は欠伸を一つして仮眠をとることにした。


昼頃まで眠っていた僕は弟に起こされた。聞けば、どうやら長男と長女は家を出るらしい。お見送りに家族揃って会いに行けば、ご近所家族に深々と頭を下げられた。

助けてくれて有難う、この恩は忘れないって。お礼なんて別にいいのに、これからも僕ら家族と仲良くしてくれれば。あと、僕の人とは少し違う力をぺらぺら喋らないでいてくれたら。

皆僕のことを無暗に喋らないことを約束してくれた。祖父母と同じぐらいお人よしなこの家族はきっと約束を守ってくれるだろう。

餞別として祖父が編んだ籠を渡す。急ごしらえだから、近いうちにきちんと箱を拵えるように言っておいた。


「炭治郎、お前とお前の家族は僕ら家族によくしてくれたから、お前が困っていたら少しぐらい助けてやってもいい。もうどうにもならない、どうしても助けて欲しいと思ったら僕を呼べ。走って行ってやる」

「走って・・・名前、有難う!」

走って行くと言ったのがそんない嬉しかったのか、炭治郎は笑って手を振った。僕もひらひら手を振る。弟は名残惜しそうに籠を見つめながら手を振っていた。




家族以外どうでもいい男




鬼殺隊の柱と呼ばれる者たちに囲まれ、禰豆子の入った箱を奪われ、全身に傷を負いまともに動くことすらできない炭治郎は絶望しかけていた。

禰豆子を助けなければ、でもどうやって?どうすればいい?どうすれば、どうすれば・・・

「た、すけて、名前」

「いや、どうやったらそんな窮地に陥るわけ?助けを呼ぶならもっと早く呼べばいいのに」

名を呼んだ瞬間、風柱の手の中から箱が消え、炭治郎の真横から声がした。

ハッとして横を見れば、箱を抱えた無表情の青年が自分を見下ろしている。無表情だが、匂いは『呆れ』ていた。

何者だ!と怒鳴り刀を構える柱たち。青年は素知らぬ顔で「金持ちの庭園ってなんでこんな砂利敷き詰めてあんだろ」と見当違いなことを呟いていた。

柱たちが青年に斬りかかろうとした時、鬼殺隊の長であるお館様が現れる。


「おや、もしかしてそこにいるのは苗字家長子の名前殿かな?まさか貴方自ら鬼殺隊に顔を出してくれるとは思わなかった。ついに鬼殺隊に入ってくれる気になったのかな?」

「くどい。何度も言うが、僕は僕の家族さえ無事ならあとはどうだっていい。炭治郎とその家族とはいいご近所付き合いが出来たから助けただけ。あまりしつこいと鬼殺隊に牙を向く存在が増えると思え」

何やら顔見知りのように、しかしけして親しくはないという様子で言葉を交わす二人。いや、青年の方が一方的にお館様を邪見にしているようだ。


「そう言わないで欲しい。けれど安心したよ、君にも漸く同年代の友人が出来たんだね」

「炭治郎は友達じゃなくてご近所さんだ」

「えっ・・・」

「・・・大げさに言うなら友達かもしれないご近所さんだ」

炭治郎の悲しそうな声に訂正の言葉を上げた青年に、お館様は微笑ましそうに笑った。



あとがき

ある日神様から力を貰った。
その力で家族を守ってきたけど、その力が絶対的なものじゃないと知ってるから全てを救おうとはこれっぽっちも思っていない。身の丈に合った生き方をしたいと思っている。自分の限界をきっちりわかっている子。
それでも周りからすれば超人的な力だし、おこぼれに預かろうとする人間も利用しようとする人間もいる。正直鬼より人間の方が警戒の対象。

竈門家とはとてもいいご近所付き合いが出来た。もう年老いた祖父母も、可愛い弟もその家族を気に入っているから、死なないようにはするつもりでいる。
だから竈門家の人間が「助けて」と言って名前を呼べば走っていくし、脅かす原因を排除しようとする。それ以外には塩対応。

この後禰豆子の鬼殺隊入隊が許されると、あっさり帰っていく。次の登場はたぶん無限列車。その次は遊郭・・・正直呼ばれる頻度多くない?炭治郎、鬼殺隊辞めれば?とか言い始める。



戻る