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※うこぎ(善逸の鎹鴉)成代り。


僕は他の鎹鴉よりも身体が小さい。

お前は鴉じゃなくて雀なんだよと先輩の鎹鴉に言われた。何で僕は雀なんだろう。

鴉と違ってあまり多くのことは覚えられなくて、言葉だってまともに喋れない。身体も大きくないから、先輩の鎹鴉と違って口の中にモノを入れて運ぶことも出来ない。お手紙ぐらいなら運ぶことは出来るけど、重い荷物を持ったら飛べなくなってしまう。

こんな僕を渡される隊士は可哀想。ごめんねごめんね、でも沢山沢山頑張るから、嫌いにならないでね。

一生懸命練習したよ。お喋り出来ないけど、お喋り出来なくても次の任務の場所に案内出来るように、とっても頑張ったんだ。


「えっ?鴉?これ、雀じゃね?」

そうだよ、僕は雀だよ。けど一生懸命頑張るから、これからどうぞよろしくね。

蒲公英みたいな髪の毛の新米隊士の指に乗ってチュンチュンと鳴く。よかった、怖そうな人じゃないや。僕が雀で吃驚してるけど、交換しろって怒ったりしない。指にすりすりと頭を擦り付けたら、困惑しつつも頭を撫でてくれた。



僕の相棒になったのは善逸って言うらしい。すぐ泣くしすぐ騒ぐし女の子を見ると求婚せずにはいられない、あとちょっとイビキがうるさい。けど良い奴。

「わっ!なんだよチュン太郎、引っ張るなよ」

勝手に僕をチュン太郎と呼んでるけど、それは仕方ない。他の鎹鴉はちゃんと自己紹介できるけど、僕は喋れないからできなかった。チュンチュン鳴くからチュン太郎なんて、ちょっぴり安直。けど、そう呼ばれるのも嫌いじゃない。

善逸はなかなか任務に行きたがらないから、何時も大変。嘴で善逸の着物の裾を咥えて引っ張って、泣いてるなら慰めるためにほっぺにすりすり擦り寄って・・・

大丈夫だよ善逸、善逸はとっても強いよ。怖い怖いと、死んじゃう死んじゃうと泣くけれど、最後はちゃんと奮い立って皆を守るために頑張るってことを知ってるよ。怖いのは仕方ない。どんな任務も、死んじゃうかもしれないって可能性は捨てきれない。善逸の恐怖は真っ当なものなんだ。


「わかったよ!わかったから、もう引っ張るなってば!」

チュンと一つ鳴いて、裾から嘴を離す。それでこそ善逸だ。頑張ろうね善逸、僕も一生懸命案内するよ。一緒に頑張ろうね。


「・・・何なんだよお前ぇ、そんな上機嫌にチュンチュン鳴くなよなぁ。これから俺が死ぬかもしれないってのに」

善逸はちゃんと出来るよ。僕は信じてるからね。


「もー、やめろってば」

ふわっと善逸の両手が僕を包むように捕まえる。そのまま手の中でころころ転がして「このこのっ」とやる善逸はちょっとだけ落ち着いてきたらしい。ころころされるとちょっとくらくらするけれど、善逸が元気になるなら我慢するよ。

沢山ころころされて、よたよた飛ぶ僕に「ご、ごめん」と謝る善逸に大丈夫だって伝えるためにチュンと鳴いた。ちゃんと謝れる善逸は偉い。

こっちこっちと善逸を案内している途中で、僕は少し離れた場所を見て一瞬羽の動きを止めかけてしまった。危ない危ない、羽ばたくのを止めたら墜落しちゃう。


道の途中に見える女の子。駄目だ、善逸がまた任務に行きたがらなくなってしまう。折角落ち着いてくれたのに、女の子に求婚して、断られたら泣いて、死んじゃう死んじゃうと喚いてしまう。

方向転換!別の道を通ろう!と思った時にはもう遅かった。善逸は視界に入った女の子に勢いよく駆け寄っていく。チュンチュンと慌てて止めようとするけれど、善逸は女の子に縋りついて動かなくなってしまった。


駄目だよ善逸、女の子が嫌がってるよ。番にはならないって言ってるから、離してあげないと。鳥でももうちょっと考えて求婚するよ、だから止めようよ。

どんなにチュンチュン鳴いても善逸は聞いてくれない。チュンチュン、善逸こっち向いて、僕と一緒に任務に行こう。大丈夫だよ、善逸は強いから大丈夫だよ。もし善逸が危なくなったら、僕が精一杯応援を呼ぶからね。だからほら行こうよ、行こうってば。


チュン・・・

僕がちゃんと喋れたら、もっと上手に出来たのかな。

応援する言葉も窘める言葉も、本当はちゃんと伝えたい。けれどこの口は、チュンとしか鳴けないんだ。ちゃんと出来なくてごめんなさい。何で僕は雀なんだろう・・・


「・・・あー、もぉ!人が求婚してる最中に泣きそうな音出しながら鳴くのやめろよ!」

ぐるっと善逸がこっちを向く。女の子からパッと離れて僕をふわっと捕まえて、またころころする。その間に女の子は逃げた。


「あ゛ぁー!チュン太郎のせいであの子行っちゃったじゃんか!責任取れよぉ!」

ころころ、ころころ、とっても激しい。チュンーっ、と鳴けば、善逸は「まったく」とため息を吐いた。あのね、ため息を吐きたいのは僕だよ?

軽く手を嘴で突けば、善逸は「いてっ!?何!?何が不満なわけ!?」と叫んだ。今のため息も理不尽にころころされるのも、どっちも不満だよ。けどちゃんと任務に行くなら許してあげる。だから早く行こうよ、善逸。


「わかったってば!行く!行けばいいんでしょ!」

そうだよ善逸。ちゃんと行こうね。僕これ以上ころころされたらぐらぐらで飛べなくなっちゃうからもうやめてね。

すっかりくらくらでよたよただったけど、なんとか今度こそ善逸を案内できた。あぁ良かった。善逸が鬼を狩る邪魔にならないように、少し離れた場所から見守っていよう。

あっ、善逸気絶した。けど大丈夫なことを僕は知ってる。

頑張れ善逸、いいぞ善逸、そこだ善逸、いけいけ善逸、凄いぞ善逸、やったね善逸!


「わぁぁぁああああっ!死ぬ死ぬ死んじゃうううぅぅううっ!!!!」

鬼を狩り終わると同時にパチンと鼻提灯が弾けて、善逸が目を覚ます。目覚めると同時に叫ぶなんて、善逸は凄いなぁ。


チュンチュン鳴きながら善逸の肩にとまって、よく出来ましたって頭をほっぺに摺り寄せる。善逸がわんわん泣きながら僕の頭にほっぺをぐりぐりした。ちょっと潰れかけた。

鬼がいなくなった場所から一緒に離れる。もうやだと善逸は言うけれど、また次の任務があるんだよ。ごめんね善逸。


「ひえっ、ま、まさかもう次の任務?」

チュンッと返事をすれば叫ばれた。




小さな雀の大きな努力




「善逸の雀は善逸のことが大好きなんだな」

にこにこ笑いながら言う炭治郎に、善逸は「はぁ?」と首を傾げる。肩にとまった雀も同じように首を傾げる。

「いやいや、こいつ俺の求婚すーぐ邪魔するし、しょっちゅう嘴で突いてくるし、もう散々なんだけど!」

「でもずっと『頑張れ善逸!いけいけ善逸!』って応援してるぞ?善逸が怪我をすると『死なないで善逸、いなくならないで善逸』って泣いてるのも知ってる。本当に善逸が大好きなんだなぁ」

「チュンッ!」

雀は恥ずかしそうに善逸の肩から飛び立とうとした。それより早く善逸は雀の両手で捕まえ、手の中でころころした。善逸の顔は真っ赤だった。



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