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実家が農家で、特に芋類をよく育てていた。

じゃがいも、里芋、サツマイモ・・・

鬼殺隊の隊士になってからも、家の小さな庭で菜園なんかを作って楽しんだ。


小さい菜園から採れる野菜の量なんてたかが知れているけれど、売り物にするつもりはないのだから特に気にならない。

しかしたまに、肥料や天候がいい具合に作物を刺激してか、その小ささに見合わない量の作物をこさえてくれる時もある。そういうときは、同じ鬼殺隊で仲良くしてくれている人とか、近所の人とかにあげたりするんだ。


今僕が抱える竹籠の中には、昨日収穫したばかりのサツマイモがごろごろ入っている。昨夜少し蒸して食べたけれど、甘くてとても美味しかった。

予定よりずっと多く採れたサツマイモを抱えて向かうのは、蝶屋敷だ。

あそこの子達には沢山お世話をなっているし、女の子も多いからきっと甘くて美味しいサツマイモをあげれば喜んでくれるだろう。

喜ぶ顔を想像して思わず上機嫌に鼻歌なんかを歌いながら歩いていると、昨夜の蒸したサツマイモみたいに黄色い髪をした炎柱様の姿が目に入った。

蝶屋敷がある方角から歩いてきているため、きっとその帰りなのだろう。軽く会釈をしてすれ違おうとすれば、視界の端で炎柱様が足を止めた。僕の抱えたサツマイモを見て。


「む!とても立派なサツマイモだな!買い出しか!?ご苦労!」

「えっ、あぁいえいえ、これは売り物ではなくお裾分けで。立派と褒めて頂き有難うございます。育てた甲斐があります」

「君が育てたのか!?凄いな、それだけ立派なものはなかなかお目にかかれない!」

真っ直ぐサツマイモを見つめ勢い良く話す炎柱様に少し気圧されしながらもなんとか返事をする。炎柱様と話すなんて初めてだ。


「お裾分けということは、それは蝶屋敷に届けるのか!」

「はい、蝶屋敷の方々にはいつもお世話になっているので」

「そうか!良い心がけだな!」

「有難うございます。えっと・・・」

では僕はこれで、と一言言ってこの場を去りたいが、炎柱様の視線はサツマイモから一向に外れてくれない。サツマイモに穴が空いてしまいそうな程、見つめ続けている。瞬きをしていないように見えるのだが、乾燥したりはしないのだろうか・・・


「・・・良ければ炎柱様のところにもお持ちしましょうか?」

あ、こっち見た。いや、見てるかな?炎柱様の目の焦点がいまいちよくわからない。


「いいのか!!」

「はい、大丈夫です。今回は沢山採れたので」

実は家の畑に昨日時間が足りず収穫できなかった分が残っている。今回は本当に豊作だった。


「そうか!そうか!いや、すまない!実はサツマイモが好物なんだ!」

「あぁ、そうだったんですね・・・構いません。蝶屋敷に届けた後で、ご用意しますね」

「ならば俺も運ぶのを手伝おう!見たところ、なかなかに重かっただろう!」

柱を荷物持ちに使うつもりも度胸もなかったが、炎柱様ご本人の手によって竹籠はあっさりともっていかれてしまった。

そのままずんずんと一人勝手に蝶屋敷へと歩いていく炎柱様を慌てて追いかけた。




「胡蝶!届けものだ!!」

入り口で大声をあげる炎柱様に驚きつつ、数伯してから現れた蟲柱の胡蝶様に挨拶をする。

「あら煉獄さん、先程お別れしたばかりなのに、もう戻ってこられたんですか?嬉しそうにサツマイモなんて抱えて」

「彼がお裾分けを届けにきたそうだ!俺にもお裾分けしてくれるらしい!」

胡蝶様はこっちを見て優しく微笑むと「有難うございます」とお礼の言葉を口にしてくれた。


「そういえば、前も里芋をくださいましたね。貴方の育てる野菜はどれも立派でとても美味しいので、このサツマイモも楽しみです」

「そう言っていただけるとこちらも嬉しいです。おすすめの食べ方は蒸かし芋ですが、出汁醤油と共に炊き込んでも美味しいので、是非」

「まぁ素敵。今日のお夕飯が楽しみです」

僕と、胡蝶様が話している間に、蝶屋敷で働く子達が炎柱様からサツマイモの竹籠を受け取りきゃっきゃとはしゃいでいた。喜んでもらえて嬉しいなぁとつい頬が緩む。

目的は遂げたしそろそろ失礼しよう。胡蝶様や蝶屋敷の子達に挨拶をすると、隣から僕の声をゆうに超えた「では!失礼する!!」という大声がびりびりと響いた。


「ふふっ、煉獄さん?はしゃぐのは構いませんが、眠っている患者もおりますのでお静かにお願いしますね」

玄関の気温が急激に下がったような気がして、ぶるっと軽く身震いする。胡蝶様は何時も優しく微笑んでいるけれど、たまにとても怖い。

しかし気温が下がる原因を作った炎柱様本人はそのことに一切気付かず、先程よりも多少は小さくなったもののそれでも大きな声で「すまん!」と言う。やめて炎柱様、もう喋らないで・・・

そんな恐ろしい空気の中なんとか身体を動かし蝶屋敷を後にした僕は、胡蝶様曰くはしゃいでいる炎柱様をちらりと見る。


「あの・・・僕は畑にサツマイモを取りに行きます。ご自宅の場所をお教え頂ければ後ほどお持ちいたしますので・・・」

「収穫!まだサツマイモは土の中なのか!」

勢いが凄い。


「はい。昨日は任務が終わり帰宅してからの収穫だったので、全ては収穫できなかったんです」

「ならば俺も手伝おう!」

「・・・、・・・?」

「ならば俺も手伝おう!」

「あ、聞こえてます聞こえてます」

荷物持ちの次は収穫の手伝い?いやいや流石にそんなことはさせられないと断ろうとしたのだが、結局は炎柱様の勢いに押されて断ることが出来なかった。

何故こんなことになったんだと困惑しつつ、我が家に連れてくることとなった炎柱様と手分けして芋を掘る。


「うむ!それにしても立派な畑だな!任務があるにも関わらず、きちんと手入れがされている!」

「隠や近所の人もたまに手入れを手伝ってくださるので。あとたまに、僕と同じで農家の出の鬼殺隊士も」

「みなの協力あって、この立派さということか!」

少年のような輝かしい笑顔で特大のサツマイモを掘り当てた炎柱様に「あ、はい、そうですね」と頷きつつ、せっせと残りのサツマイモを掘った。

終始勢いと声量が凄かったが、炎柱様の手伝いあって、日が暮れる前にはサツマイモを掘り切ることができた。

僕が用意した竹籠いっぱいの芋を抱えた炎柱様は目を輝かせながら「こんなに!こんなに貰っていいのだろか!」と聞いてくる。どうぞもらって行ってください、柱に芋掘りをさせた罪がそれで拭えるなら。


「しかし少々貰い過ぎな気もするな・・・そうだ!君、今から俺の家に来ないか!夕飯をご馳走しよう!」

う゛うん゛っ、その純粋なご好意が心臓に悪い。

「いえいえ、僕一人じゃ手に余る芋をもらって頂いただけですので。柱である方の家に厄介に成る程のことでは・・・」

「うむ!遠慮はするな!」

話を聞いてない?僕の声は届いているようで届いていないのかもしれない。

再び炎柱様の勢いに押され、あれよあれよと出掛ける準備をさせられ、共に炎柱様の生家である煉獄家へ足を運ぶこととなった。日に何度移動すればいいんだ、本当なら今日はもう家でゆっくり休む予定だったのに・・・



「お帰りなさい兄上!・・・えっと、そちらの方は?」

「うむ!彼は立派なサツマイモを分けてくれた・・・よもや!俺は君の名前を知らない!」

「あ、えっ、苗字名前です」

炎柱様そっくりな弟君が困惑気味に僕を見ているが、僕だって困惑してる。たぶん知らないだろうとは思っていたけれど、まさか本気で名も知らない隊士をサツマイモ貰ったぐらいで家に連れ帰るなんて・・・

知らない人から物を貰ってもついて行ったら行けませんという言葉はよく聞くが、知らない人から物を貰っても連れ帰ってはいけないとは聞いたことが無いからだろうか。いや、普通連れて帰ったりはしないか。


「苗字さん、ですか。立派なサツマイモを有難う御座います。立ち話もなんですからどうぞ中へ」

「遠慮することはないぞ!サツマイモくん!」

いや、サツマイモくんってサツマイモに引っ張られ過ぎて僕の名前の原型が全く残っていない。どれだけサツマイモが食べたいんだ。

弟君に代わりに謝られながら煉獄家へ足を踏み入れる。途中で炎柱様が弟君に「千寿郎、すまないがこの芋を蒸かしてくれっ」と比較的小さな声でお願いしているのが聞こえた。

炎柱様から重い竹籠を受け取り小走りで去って行った弟君の後ろ姿を見つめていると「こっちだ!」と奥へと通される。

通された部屋はおそらく炎柱様や弟君が共に食事をする部屋なのだろう。伏せた状態の椀と箸がおかれたお膳が二つ並んでいる。


「君は此処に座ってくれ!」

座布団を持ってきた炎柱様に言われるがままに座れば、ぱたぱたと足音がして、弟君が「すぐにご用意しますね」とお膳をもう一組運んできた。突然の来客なのに申し訳ない・・・

「あの、僕も何か手伝いを・・・」

「いえいえ!苗字さんはお客様なので。どうぞ兄上とお話でもなさっていてください」

出来た弟君だ、と感心している間に弟君は再び何処かへ消えた。おそらくサツマイモを蒸かしに行っているのだろう。

何故弟君がそんなことを?と野暮なことは聞かない。二人の母親だろう姿が見えないため、おそらく既に母親は亡くなっているのだろう。父親の方はどうだろうか?この部屋に通される途中、物音のする部屋があったため、もしかするとそこにいるのかもしれない。本来なら挨拶に行くべきだろうが炎柱様がそれを促さなかったため、余計なことはするべきじゃないだろう。


「気負いすることはない!自分の家だと思って寛いでくれ!」

それは無理な話だ、と思いながらも顔に愛想笑いを浮かべる。良い人なんだ。良い人なのはわかるけれど、相手は柱。そう気安くはできない。

「いやはや!あのサツマイモは本当に立派だった!胡蝶が以前里芋を貰ったと言っていたが、他にも育てているのだろうか!」

「はい。実家は芋類をよく育てていて、じゃがいも、里芋、サツマイモは今でもよく育てています。後はトマトやキュウリ、ピーマンに余裕があれば他のものも」

炎柱様と会話が続けられる自信はなかったけれど、案外次から次へと質問してくれるおかげで何とかなかった。

お待たせしました!と弟君が米の入った御櫃や料理を運んでくる。本当に手伝わなくて良かったのだろうか・・・


自分より年下の子供が作ったとは思えない立派な夕食が目の前に並び、思わず「弟君は凄いですね」と呟いてしまう。僕が彼ぐらいの頃は、農業に精を出しつつも家事に関しては母さんに任せっきりだった気がする。

弟君は僕の言葉に照れたように頬を染め「お口に合うかわかりませんが」とはにかんだ。散々炎柱様に振り回された疲れが少し癒えた気がする。

三人で手を合わせ食事が始まる。僕が育てたサツマイモは大きな器に盛られている。その量は一部でしかないが、それでも一度に食すには多いだろうに。


「うまい!」

「えっ」

「うまい!うまい!うまい!」

炎柱様が食べながら凄い声を上げている。確かに弟君の料理は美味しいが、そんなに声に出す?と困惑してしまう。


「わっしょい!わっしょい!わっしょい!」

続いて僕の育てたサツマイモが口に運ばれたかと思えば、何やら祭りが始まった。困惑気味に弟君の方を見れば、眉を下げた笑みを向けられた。

訳がわからないまま炎柱様の「うまい」と「わっしょい」を聞きながら夕食をいただいたけれど、わっしょいって何なんだろう。美味しいってことだろうか。

弟君も「わっ、甘くて美味しいです」と言ってくれていたため、わっしょいは悪い意味ではないのだろう。

それにしても炎柱様はよく食べる。あの量の蒸かし芋を殆ど一人で平らげてしまった。


「とても美味しかった!君は農業一筋でやった方がいいんじゃないか!?」

「ちょっ、それはあんまりです兄上!」

「あっ、いいんです弟君。剣より農業の方が自分に合っているのは知ってます。それでも自分がやると決めたことですから、途中で投げ出すことはしたくないんです」

悪気があっての言葉じゃないのはなんとなくわかるし、怒るようなことでもない。僕の返事に弟君は胸を撫でおろし、炎柱様は「うむ!その心意気は素晴らしい!」と一応は褒めてくれた。


夕食を食べ終え、大きな器に盛られた蒸かし芋の殆どは炎柱様の腹に収まった。あの体の何処にあの量が収まったのかちょっと気になる。

僕はせめて後片付けは手伝いたいと弟君に申し出、弟君と並んで後片付けをした。弟君は「兄上に連れてこられたんですよね。ご迷惑をおかけして申し訳ありません」と眉を下げた。僕が此処に来たのが僕の意思ではなさそうだと察したのだろう。


「いえ、おかげで美味しいお夕飯をご一緒できました」

「そう言っていただけるとありがたいです。兄上はけして悪気があるわけではないのですが、きっと美味しそうなサツマイモを前に気が昂ってしまったのでしょう」

「・・・よっぽどお好きなんですね」

ははっと苦笑いしていると背後から「そうだ!俺はサツマイモが大好物だ!」という元気な声がした。見れば炎柱様が立っていて、一人で片づけを待つのが暇だったのか「手伝おう!」と言って弟君と僕の間に入って食器を洗うのを手伝ってくれた。少し狭かった。

後片付けが終わる頃にはもうすっかり日が暮れていた。そろそろ帰ろうかと思った僕に、弟君からまさかの「泊っていってください」の声。断ったが、炎柱様も「そうすればいい!」と言ったため、結局泊まることになってしまった。

まさか柱と夕飯を共にしただけではなく柱の家で一晩お世話になってしまうなんて・・・



しかもこれがきっかけで炎柱様と弟君がよく鎹鴉で文を送ってくるようになった。内容は本当にただの世間話で、まるで親しい友人同士のような手紙のやり取りに、偶然手紙を見た同期は腰を抜かして驚いていたっけ・・・

それから何度か煉獄家にお呼ばれするようになり、偶然出会った炎柱様の父君には何故だか大罵倒を受け、それを見た炎柱様が「父上!もう我慢ができません!」と珍しく怒鳴り・・・まさかの現役柱と元柱の大喧嘩を見る羽目になった。

何故罵倒されたのかわからなかったし正直罵倒の内容もあまり覚えていないから気にするほどでもなかったが、炎柱様からは謝られ、その大分後から父君も謝ってくれた。弟君は「最近父上が一緒に食事を取ってくれるようになりました」と嬉しそうな文を送ってくれた。

煉獄家の事情は知らないが、父子の間で何らかの確執でもあったのだろう。それがあの時の大喧嘩で多少解消されたとのこと。僕にはまったく関係のない話だったが、家族仲がよくなるのはいいことだ。


「名前!こっちは全て収穫できたぞ!」

「ご苦労様です、炎柱様」

「いい加減杏寿郎と呼んでくれ!千寿郎も何時までも弟君と呼ばれると残念がっていたぞ!」

「え、いやいや、上司とその弟君ですので・・・」

「上司の前に友だろう!」

「えっ」

「えっ」

今年度のサツマイモの収穫も手伝いに来てくれていた炎柱様は、ぼとぼとと地面にサツマイモを落とした。


・・・僕と炎柱様、友達だったんだ。あ、待ってください、そんな真顔にならないで・・・!




サツマイモフレンズ




失言の後、何故か僕は煉獄家で正座をさせられていた。目の前には泣き腫らした目の弟君と怒った表情の父君と真顔の炎柱様。特に真顔の炎柱様が怖い。

「名前」

「は、はい」

「君とは沢山の会話と文のやり取りを重ねてきた。君の御蔭で父上ともう一度向き合う機会を得ることが出来た。君には感謝しているし、君のことは唯一無二の友人だと思っている。そんな君から友であることを否定され、正直堪えた」

普段の大声から考えられないぐらい淡々と言う炎柱様は怖かった。

「君が俺のことを友ではないと言うなら、こちらにも考えがある」

別ん友であることは否定していない。まさか友と思われていたとは驚いたけれど。


「これから俺は、会う人会う人に苗字名前という友人がいるのだと言い続けるつもりだ。そうすれば君は自他共に俺の友人だ!いい案だろう!」

思わず口から「ひえっ」という声が出た。

嬉しいけど、それはちょっと恥ずかしい。でも僕はそんな炎柱様改め杏寿郎さんを止めることは出来ず、鬼殺隊ではあっという間に僕が杏寿郎さんと友であることが広まった。



あとがき

サツマイモで気にいられ、何度か会話と文のやり取りを重ねる内に友達認定受けた。

今は友だけど、たぶん次の進化先は親友ではなく許嫁。
何時の間にか男の許嫁が出来て困惑する農業系青年の話。



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