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目が覚めたら口の中いっぱいに美味しい味が広がっていた。

もぐもぐ口を動かしながら周囲を見渡す。なんだかとても見覚えのある部屋の中は真っ赤に染まっていた。真っ赤なそれはとても美味しそうな香りがした。

小首を傾げながら床を見れば、大きな肉の塊があった。肉は女性物の着物を着ていた。


「・・・誰だろう」

この部屋と一緒でとても見覚えがある。でも思い出せない。

なんなんだろうなと思いつつ、まだお腹がすいているからそのお肉を食べた。ころりと床に真っ赤な玉飾りのついた簪が落ちていた。なんとなくそれが大事なものな気がして拾った。


それからしばらくこの部屋にいたんだけれど、そろそろまたお腹がすいてきたから部屋を出た。部屋の外も真っ赤だったけど、僕は気にせず進んで、家を出た。

家には苗字って表札がかかっていた。なんとなく僕はこの名前に縁が深い気がした。

家の外にはあの部屋にあったお肉と似たものが歩いている。動いて喋っている様子を見て、初めてお肉には『人間』って名前があることを思い出した。僕には『鬼』って名前がある。

鬼は人間とは違って寿命がないし、怪我をしてもすぐ治る。そのかわり日光に当たると灰になってしまうし、『鬼殺隊』っていう人間が持っている刀に首を斬られたり藤の毒を受けたりすると死んでしまうんだ。

あと僕のご主人様は『無惨様』で、この名前は口に出しちゃいけない。出したら怖いことがおきる。


僕の記憶の始まりはあの部屋からだけれど、それより以前の記憶はない。でも、鬼が苦手なことや無惨様のことは知っている。なんだか変な感じだけれど、きっとそういうものなのだろう。

鬼殺隊に見つかるのは危ないから、山とか林で人間を狩った。それが足りなかったら人里から少し離れた場所にある家を狙って襲った。

どんなに食べてもなんとなく空腹で、気づけば僕は村を一つ潰してしまった。

村が潰れる間際で鬼殺隊の人間が来たけれど、それも食べた。空を飛んでいた鴉は煩かったから捕まえて殺した。


そしたらある日、無惨様が来た。僕を十二鬼月の一人にしてくれるそう。

知らなかったけれど、僕が殺して食べた鬼殺隊は柱と呼ばれる役職だったらしい。人間をたくさん食べて柱も倒したから、下弦の陸になった。

おめめに陸って刻まれた。なんだか変な感じ。

これからも励むようにって言われたけれど、僕は頑張ったわけじゃない。お腹がすいたから食べてただけ。無惨様に素直にそう言えば「ならばこれからも好きに喰らい尽くすといい」と言われた。じゃぁそれでいいや。たくさん食べよう。


たくさん食べてたくさんの村を潰した。鬼殺隊と会うことも多かったけど、それも食べた。

陸から伍、伍から肆、という風にちょっとずつ番号が上がった頃、僕は雪山で不思議なものと出会った。

小さくてふくふくしてて、僕を見て怯えている癖に「寒くない?」と聞いてきた子供。

少し前に村一つ分食べてきたから何時もよりはそんなにお腹がすいてなかった僕は、その子供に「寒くないよ、君は此処で何してるの?」と話しかけた。

よくよく考えれば、こうやって会話をしたのは無惨様以外で初めてだった。だって、お肉とは普通喋らないし。

子供は「薪にする枝を探しにきたんだ」と教えてくれた。確かに子供の背中には枝がたくさん入った籠があった。

なんだか面白そうだなと思って「お手伝いさせてよ」と言えば子供はびっくりしていた。なんでそんなにびっくりするんだろう。僕は毎日ちゃんとお手伝いできるいい子だよ。いい子だって褒められてたし・・・ん?褒めてくれたのは誰だっけ?そもそも僕はお手伝いなんてしたことがないのに。

びっくりしている子供を無視して、そこらに落ちている枝を拾い始める。たくさん拾って子供のところに戻れば、子供は「あ、ありがとう!」とお礼を言ってくれた。なんとなく、胸がほわほわした。


そのあとその子供のお父さんだって人が来た。その人は僕を見た瞬間斧を向けてきたけど、子供が「枝拾いを手伝ってくれたんだ!」っていうと「ありがとう」ってお礼を言ってくれた。

やっぱり胸がほわほわして、人間を食べたわけでもないのに満腹になった。

僕がたくさん枝を拾ったから子供が重そうにしてて「運んであげようか?」って言えばお父さんの方に断られてしまった。むっとしていると「じゃぁ代わりに薪割りの手伝ってくれないかい」って言われた。ついていくと、太くて大きな丸太が何個かあった。斧で使いやすい大きさに割るんだって。

ぱこんぱこんと薪を割ってると、子供とお父さんとは別の人間が出てきた。いつもなら食べるけど、今はなんだかお腹いっぱいだしいいや。

出てきたのは子供のお母さんで、腕の中のは子供の妹なんだって。

お母さんも僕に「手伝ってくれてありがとう」って言ってくれて、子供の妹は僕を見てにこにこ笑ってた。変なの。とっても満腹。


「ねぇねぇ、他に手伝うことはない?僕、鬼だからもっといろんなことできるよ」


屋根の雪を払ってあげる。晩御飯のイノシシを仕留めてきてあげる。なんなら、誰かの家からお金を持ってきてあげてもいい。

僕がそう言うと「もう大丈夫、ありがとう」と断られてしまった。

むむむっと思いながら残りの薪を割っていると、空がちょっとずつ明るくなってきた。あ、太陽。そう思った瞬間、肌が燃え始めた。

そしたら突然、お父さんが僕の身体に布団を投げてすっぽり隠してしまった。


「お兄ちゃんだいじょうぶ!?痛くない!?」

お布団の向こう側から子供が声をかけてくる。僕は「平気。あのね、ありがとう」と言った。お礼なんて、初めていった。どきどきする。


「あのね、あのね、ありがとうって言われて胸がほわほわするの。そしたらお腹もいっぱいになるの。だからもっとありがとうって言われたかったんだけど、太陽のことすっかり忘れちゃってた。僕もありがとうって言わなきゃって思って言ったんだけど、この言葉はとってもどきどきするね」

ぽんっとお布団の上から頭に手が置かれた。大きな手だから、多分お父さん。

ばふっとお布団の上からお腹に誰かが乗った。軽いから、多分子供。

お父さんが僕の頭お撫でて、子供が僕の身体にぎゅーっと抱きついていた。変なの、とっても胸がほわほわする。もう満腹なのに、もう食べられない。


ふふっとお布団の中で笑っていると、お母さんが「太陽が危ないなら中でお話ししましょう」ってお父さんに僕を部屋の中へと運ばせてくれた。

お部屋の中に入れてもらって、僕はお布団から首だけだしてふふっと笑った。お腹いっぱいであったかくて、今すぐにでも眠りたい気分。幸せな気分。



「よかったら君のことを教えてくれないかい?」

いいよ。僕が覚えてる一番最初は、あのお部屋から。

僕が喋るにつれて子供もお父さんもお母さんも悲しそうな顔になった。どうして?どうしてそんな悲しそうなの?と聞けば「君がいろんな人を悲しませてしまったからだよ」と教えてもらった。


僕がいろんな人を悲しませてる?いろんな人って誰?って聞けば、いろんな人は僕が今まで食べてきた人間のことなんだって。人間はお肉なのにどうして?と聞けば、僕がお肉だと思っているものは、ちゃんと喋れば僕がこの家族と喋ってるみたいに胸がほわほわしてあったかくなれるはずだったんだって。

それが本当なら、きっと僕はとっても惜しいことをしたんだ。

他の人間ももしかしたら僕に「ありがとう」って言ってくれたかもしれない。そしたら胸がほわほわして、すぐに満腹になれたんだ。

この子供みたいに僕を抱きしめてくれたかもしれない、このお父さんみたいに頭を撫でてくれたかもしれない、このお母さんや妹みたいに笑いかけてくれたかもしれない。


人間は食べちゃいけないものだったんだ。僕はきっと、とっても悪いことをしたんだ。

悪いことをした僕は悪い子。そう思うと途端に悲しくなって、目からぽろぽろ涙が溢れた。涙を零しながら普段は懐に大事にしまっている赤い玉飾りの簪を取り出してぎゅっと握る。空腹なのに肉がなくてひもじい時はいつもこの簪を握ってた。今は満腹のはずなのに、無性に握っていたくなった。


「母上・・・」

ぽろっと口から出た言葉だった。でも、それがなんだかとてもしっくりきて、僕は泣きながら母上母上と連呼しながら簪を胸に抱いた。

泣いていると、子供がさっきみたいにぎゅっと抱きしめてきた。


「お兄ちゃん、とっても嫌な臭いがするけど、それと一緒にずっと大泣きしてる匂いがする」

「っ、ぼく、これ、母上にっ、いつも頑張ってる母上に、差し上げようと、でも、背中痛くて、気づいたら母上が、なんで、母上、僕、なんで母上食べたの、大好きだったのに、なんで、どうして・・・、ごめんなさい、ずっとごめんなさいしたかったのに、母上、母上ぇ・・・」

そうだ、僕はこの簪を母上に差し上げたかった。女手一つで僕を育ててくれた、強くて優しい母上に。

家の手伝いだけでは足りないと思って母上に内緒で近所の鋳物屋の手伝いをして、駄賃を貯めてようやく一本の簪を買えたんだ。その帰り道に突然背中が痛くなって、それから・・・


「ごめんなさい、ありがとう、ねぇ、君たちの名前を教えて」

そっか、子供は炭治郎、お父さんな炭十郎、お母さんは葵枝、妹は禰豆子って言うんだ。

僕も名乗ろう。この人達には僕の名前を知ってもらいたい。僕の名前、名前は、そうだ、名前だった。苗字名前。それが人間だった僕の名前。

「僕は名前。ごめんね、鬼が突然現れて、怖かった、でしょう。怖いはずなのに、優しくしてくれて、ありがとう」

もうすっかり日が昇ってる。お布団から出て、家の外に出れば僕は灰になれるだろう。

僕はお布団から出て、立ち上がった。

子供、炭治郎が「だめ!」と言いながら足にしがみついてる。無理に引き剥がしたら怪我をさせてしまいそうで、黙って炭治郎を見下ろしていると、葵枝が戸の前に立って僕を通せんぼして、炭十郎が僕の身体にもう一度お布団を被せた。

どうして、どうして離してくれないの。どうして通せんぼするの。どうして僕を日光から守ろうとするの。


お布団の中で炭治郎にしがみつかれたまま問いかけると、僕を寂しいままで死なせたくないんだと言われた。

僕がやってしまったことはとても悪いことだけど、それを悪いことだと気づけた僕は完全な悪人じゃない。鬼は恐ろしいけれど、同時にとても悲しい生き物なんだって。

だからせめてしばらくの間はこの家で心を休ませなさい。心が休まって、悲しみが少しでも癒えたなら、天国の母上に一目会いに行けばいいって。きっと僕の行く先は地獄だろうけれど、反省している幼子にあの世の偉い人は一目ぐらい会わせてくれるかもしれない。


「・・・じゃあ、少しだけ。きっとまたお腹がすくだろうから、その時は自分で太陽の下へ行くよ」

炭治郎はそれでも離れてくれなかったけど、小さくこくんと頷いてくれた。

それから僕は、この家族のお世話になることにした。昼間は炭十郎が作ってくれた箱の中に入って、夜はこの家族のお手伝いをして、たまにやってくる獣を屠って・・・

葵枝が禰豆子の次に子供を産んだ。可愛かった。子供が一人また一人と増えて、僕は名前お兄ちゃんと呼ばれるようになった。

嬉しくて、幸せで、心がほわほわして、お腹はちっとも減らなかった。


でもそろそろかもしれない。やっぱり僕はここにいていい存在じゃない。あの日よりもすっかり弱ってしまった炭十郎に相談すれば、僕が一番いいと思えることをすればいいって頭を撫でられた。

そして炭十郎が静かに息を引き取りに、家族みんなが悲しんだその日、僕は死ぬ決心がついた。でも死ぬなら、この家族のためになって死にたい。

匂いに敏感な炭治郎にはすぐに僕の決意がバレて、怒られ、少し泣かれてしまった。けど、僕の決意は変わらない。

せめて正月までは一緒に過ごして欲しいと言われた、僕はそれに従った。今思うと、その時従っていて正解だった。




正月前、雪で覆われた山。炭治郎は正月を少しでも楽にしようと、町へ炭を売りに行っている。

夜、箱の中から出てきた僕は、家の外にある独特の気配にドッと汗が吹き出た。

戸の向こうにいる。僕は繕い物をしていた葵枝に子供たちと一緒に奥へ隠れるように言った。僕の様子の可笑しさで外に何か危険なものがあると察してくれたのだろう。葵枝は真っ先に禰豆子を起こし、禰豆子と共にまだ眠っている他の家族を奥へと連れてった。


僕は戸の前に立つ。向こうに誰がいるかはわかっている。何故いるかはわからないけれど、侵入を許せば十中八九この家族は殺されてしまうだろう。

僕は全力をもって戸ごと向こうの存在を蹴りつけた。けたたましい音と共に、足が何かを捉えて弾く。僕という存在がいるとは思ってなかった相手、無惨様は一緒驚いた顔をしつつも、すぐにその顔を怒りに染めた。


何故僕がここにいるのか、何故呪いを解き逃れ者となったのか、無惨様が問いかけてくる。けれど僕はそれに答えず、無惨様に攻撃を仕掛けた。

もちろん、敵うなんて思ってない。僕は元下弦の鬼だけれど、下弦は上弦に遠く及ばないし、上弦は無惨様に及ばない。なら下弦の僕が無惨様に勝てる?そんなわけがない。

僕が出来るのは時間稼ぎだ。日の光が昇るまで、この家の中に入られてはいけない。

何度も手足を飛ばされ、頭も何度も潰された。それでもなんとか、僕はその場を耐え続けた。


「残念だ、本当に残念だ。まさか逃れ者になってから、これ程腑抜けてしまっていたとは・・・もういい。貴様など、吸収してなかったことにしてやる」

無惨様の手が、肢体を無くしまだ再生しきっていない僕の方へと伸びてくる。あぁ、あと少し、あと少しで夜が明けるはずなのに・・・

「だめよ六太!」

禰豆子の焦った声が聞こえた。


「名前お兄ちゃん、死なないでっ!」

六太の声。僕が怪我をするたびに呻いたせいだろうか。優しいあの子たち、その中でも一番弱く儚い六太が、僕を心配して飛び出していてしまった。まずい、だめだ、近づいてはいけない、あぁ、あぁ・・・

六太を連れ戻そうと駆け寄ってくる禰豆子。無惨様が丁度いいと言わんばかりに笑い、禰豆子に手を伸ばした。

禰豆子の悲鳴が上がる。六太を守るように抱きしめた禰豆子の背中が割かれた。

僕は咆哮を上げた。自分でも何を言っていたのかわからないけれど、怒りに満ちた僕は無惨様を、無惨を、食べることにした。


あれは鬼だ、いいや、あれは肉だ。肉は食べるもの、何が何でも食べるもの。食べる、食べる、喰ってやる、喰らってやる・・・!

再生したばかりの足で駆け、無惨という肉に齧り付いた。怒声と共に地面に叩きつけられても、また齧りに飛びかかる。それを繰り返すうちに、日の光が薄っすら見え始めた。肉が何かを怒鳴り、僕の頭を潰すと林の中へ消えた。


じりじりと肌が焼けて行くのを感じる。けれどこのまま灰になるわけにはいかない。

よろよろと歩きながら頭を再生させ、地面に倒れ臥す禰豆子とその腕の中で泣いている六太の両方を抱え上げ、家の中に入った。

音のせいで皆起きてしまっていたらしい。皆泣いていて、僕が禰豆子を布団に横たえると、泣きながら禰豆子を囲んだ。


「あれは、鬼の首領なんだ。鬼の首領の血がもしかしたら傷口から入ってしまったかもしれない。そうすると、禰豆子まで鬼になってしまう・・・」

ごめん、ごめんなさい、と謝る。守りたかった。この優しい家族を守りたかったのに。

葵枝が僕の頭をぎゅっと抱きしめ、もうどうにも出来ないのかと聞いてくる。
わからない。でも、もし鬼になってしまったら、僕みたいに家族や他の人間を食べさせたりなんかしない。絶対に僕が抑え込むから。



しばらくして、息を切らせた炭治郎が帰ってきた。きっと、僕や禰豆子の血の臭いを感じて急いで帰ってきたのだろう。

僕や他の家族から何があったか伝えられた炭治郎は真っ青な表情で禰豆子の名前を呼ぶ。

案の定、禰豆子は鬼になった。目の前の家族を襲おうとした禰豆子を抱きしめ、動けないようにした。


「禰豆子、禰豆子、大丈夫だ。禰豆子は僕とは違う。大好きな家族を食べたりなんかしない。禰豆子はいい子で、とっても強い子だから。お腹はすいてしまうけど、きっと禰豆子なら耐えられる。お願い、耐えて禰豆子」

家族が泣きながら見守っている。戸の向こうから誰かがやってきたようだけれど、禰豆子で精一杯な僕ははそちらは向かない。

炭治郎が「禰豆子は違う!名前も、鬼だけど人を悲しませるばかりの鬼じゃないんだ!」と誰かに向かって叫んでいる。


誰かと言い争っている声に反応したのか、禰豆子が暴れる。

そして炭治郎の苦しそうな呻きが聞こえた瞬間、禰豆子は僕の腕から逃れ、戸のそばで蹲る炭治郎を庇うように両手を広げ、いつのまにかいた、おそらく鬼殺隊の男を威嚇していた。


鬼が人間を庇う様子に目を見開いた男が、数伯置いてから禰豆子の首を叩き、気絶させた。家族が悲鳴をあげる中、男は禰豆子を抱え、家の中に入ってくると布団の上に禰豆子を横たえた。

禰豆子が殺されなかったことでひとまず安堵した他の家族から男は事情を聞き、禰豆子を自分の師に預けると言った。それを聞いて反対した炭治郎だったけれど、最終的には禰豆子を人間に戻すために自分も男のように鬼殺隊に入ると宣言した。もうこうなった炭治郎を止められる者はいない。


「そしてお前についてだが・・・その目の文字、下弦の鬼か」

「僕は禰豆子と違い、既に多くの人を喰ってしまっています。無惨の呪いが原因とはいえ多くの命を奪った罪は消えない。この家族と出会えてからはお腹はすかなくなったけれど・・・そもそも、僕はもう死ぬつもりだったので、どうか、首を落としてください」

僕の言葉に気を失っている禰豆子以外の家族全員に怒られ、泣かれた。でももう決めたことだから。


「・・・まて、お前は何故その名を口に出来ている」

その指摘で始めて僕は自分が無惨の前を口に出来ていることに気づいた。そういえば無惨は僕のことを『逃れ者』と言っていた。ということは、僕の居場所を把握できていなかったということだ。無惨は自分が鬼にした者の思考を読めたり居場所を知ることができると聞いたことがあったのに・・・


「お前は、特殊な鬼かもしれない。鬼殺隊に連れ帰る必要があるだろう」

「・・・お好きなように。罪を犯した僕に、選択肢などありません」

頭を下げながら言えば、炭治郎に殴られた。どうしてそんなことを言うのか、償いの気持ちがあるなら、生きて、これから不幸になってしまいそうな人達を守って、それからも家族を大事にして、精一杯生きることこそ償いではないのか。


おそらく炭治郎は自分でもちぐはぐなことを言っていると感じているだろう。それでも、僕があっさり命を手放そうとしているのを怒り、悲しんでくれている。

きっと、正月まではと言ったときも、こんな風になんとかして期間を延長しようと思っていたのだろう。正月が終われば誰かの誕生日まで、誕生日が終わればまた正月まで・・・そんな風に。


「・・・お屋形様には知らせる。お屋形様の決定があるまでは、そこの二人と共に師のところへ行け。手紙を送っておく」

「ありがとう、ございます」

僕は死ななくちゃいけない存在のはずなのに、もうしばらく炭治郎たちと一緒にいられることが、泣きたくなるほど嬉しかった。




償いの鬼




名前はむせ返るような異臭と一緒に、こっちまで泣いてしまいたくなる匂いがする。

ずっと肉だと思ってた、思うしかなかった人間への謝罪の気持ちと、自分が食べてしまった母親への恋しさで、心を涙でいっぱいにしている。

出会った頃は幼い話し方をしていた名前は、兄弟が増えてからは少し大人っぽくなった。見た目も、僕らの成長に合わせて少しずつ身体を大きくしているんだって前に教えてくれた。

名前はきっと、いつか死んでしまうだろう。いくら先延ばしにできても、この結末はいつか必ずくるんだ。

そう思うと俺は長男なのに大泣きしたくなる。けれどもしその日がきたら名前が少しでも心穏やかににあの世へ行けるように、なんとか笑って見送りたいんだ。


だって名前は、俺の大切な家族だから。



あとがき

下弦の鬼になるくらい人を食べてるから、いずれ必ず自害するか殺されるかする男主。

幼いうちに鬼にされたから思考も子供だったけど、竈門家の兄弟が増えるごとにちょっとずつ大人になった。今の見た目は炭治郎より少し年上ぐらい。

償いの気持ちでいっぱいだから、人間の言うことなら大抵受け入れる。償いのためなら拷問も斬首も受け入れるつもりだけど、無惨の呪いを打ち破った貴重な個体()なため、斬首まではされない。

本人はあまり意識したことがないけど、実は相当長く鬼やってる。上弦の何人かはたぶん年下。


最期はおそらく、鬼殺隊の誰かを庇うか逃すかして死亡。→キサツ学園へ!ってなれば自分が楽しい。

学生でもいいけど、あえて竈門家の近所に住む鍵っ子ショタになって欲しい。



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