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※納棺師の過去、一部捏造注意。


隣に住んでいるイソップくんはとっても可愛い。

つやつやキラキラしている銀髪に、同じ銀色の睫毛でおおわれたくりくりした目。きゅっと閉じられた口はふにふに柔らかそうで、他人がいると少し震える小さな身体もとっても可愛い。

僕、いつかイソップくんをお嫁さんにしたい。夜寝る前にお母さんにそう言えば、お母さんは困ったように笑ってたっけ。翌朝お父さんにもそう言ったら、お母さんと同じように困ったように笑ってた。

それでも否定せずにいてくれたのは幼い僕を気遣ってのことか、それとも上手い説明の方法が思いつかなかったからか・・・


「イソップくん!来たよ!」

朝起きたら、お母さんが朝ご飯を用意する前にイソップくんにおはようの挨拶に行って、朝ご飯を食べたらもう一度イソップくんに会いに行く。

イソップくんはとっても大人しい子で近所にあまりお友達がいないから、イソップくんのお母さんは僕が来るととても喜んでくれる。


「こ、こんにちは、名前」

やってきた僕におずおずと近づいてきて小さな声でそう言ったらイソップくんに「うん!こんにちは!」と返事をして、イソップくんを抱きしめる。小さく「ひゃっ」と悲鳴をあげたイソップくんは今日も可愛い。

可愛くて仕方なくてほっぺにキスをしたら、イソップくんは真っ赤な顔で固まってしまった。真っ赤なほっぺがりんごみたいでとっても美味しそう!


「今日もとっても可愛いね!僕、イソップくん大好き!」

「ひぇっ・・・あ、有難う」

ぽぽぽっと顔を更に真っ赤にするイソップくんの手を握って「さっ!遊びに行こう」とイソップくんを外へと誘う。

本当はお外よりもお家の中で遊ぶ方が好きなのは知ってるけど、昨日はお部屋で遊んだから今日は外!絶対外!

イソップくんも昨日はお部屋で遊んだことを覚えているから、特に文句は言わなかった。

一緒に外に出ると近所のおばさんが「あらあら、今日も仲良しねぇ」と言ってくれる。僕は笑顔で「有難う!」と返事をした。イソップくんは下を向いたまま、僕の背中に隠れた。

イソップくんを背中に隠したまま遊び場にしている原っぱまで行って「何しようか!」と振り返る。

「名前と一緒なら、その、なんでもいい」

「じゃぁ追いかけっこして、馬跳びして、あとはー、んー、イソップくんが疲れちゃったら、原っぱでごろごろしよっか」

ん、とイソップくんが頷いたから、まずは追いかけっこから始めた。僕が追いかけるとイソップくんは簡単に捕まっちゃうけど、逆にイソップくんが僕を追いかけるとイソップくんはなかなか僕を捕まえられなくて涙目になる。それがちょっと可愛いって思っちゃうから、ついつい意地悪して沢山逃げちゃった。


「ふっ、ぅえっ、待ってよ名前」

「ふふっ、イソップくんやっぱり足遅い」

今にも目に溜まった涙を零しそうになったあたりで足を止めて、かけてきたイソップくんをぎゅーっと抱きしめる。イソップくんもひゅーひゅー呼吸をしながら僕に抱きつく。

「馬跳び、ちょっと休憩してからしよっか」

「う、ん。そうする」

ころっと二人揃って原っぱに寝転んだ。

今日は良い天気だから、空は青くて綺麗。


「あの雲、マチルダおばあさんのとこの犬にそっくり!」

「ん・・・そう、かな?」

「そうだよ!」

「じゃぁ、僕もそう思う」

寝転んだまま僕に身体をぴったりとくっ付いたイソップくんは安心したように深く呼吸をした。あんまりにもぴったりとくっ付くから、イソップくんの髪が頬に当たってちょっぴりくすぐったかった。



「ねぇイソップくん、大きくなったら僕のお嫁さんになってくれる?」

「えっ・・・」

「僕、イソップくんのこと大好きだから、結婚して、ずーっと一緒にいよう。ね?いいでしょう?」

至近距離にいるイソップくんの顔がじわじわと赤くなる。


「ぼ、僕も、名前のこと好き。でも、結婚、できるかなぁ・・・」

「結婚は愛し合う二人がするんだって、近所のお姉さんが言ってた!だったら、僕とイソップくんもできるよ!」

ぎゅーっとイソップくんを抱きしめながら言えば、イソップくんは真っ赤な顔のまま「そ、そっか、じゃぁ僕、名前と結婚する」と返事をしてくれた。

こういうのってプロポーズって言うんだ。近所のお姉さんも恋人にプロポーズされたって言ってたから、お揃い!


「約束ね。僕以外と結婚したらダメだよ、イソップくん」

「うんっ、あ、あの、じゃぁ 名前も、僕以外と結婚しないでね?」

「当たり前だよ!」

そう返事をすれば、イソップくんは幸せそうに笑ってくれた。やっぱり可愛い。

その後一緒に馬跳びをして、馬跳びをしている途中ころんだイソップくんがちょっぴり膝を擦りむいちゃったから、僕がおんぶをして連れて帰った。

僕の首に腕を回しながら「約束ね」とさっきのプロポーズのことを言うイソップくんは、きっと心配屋さんなんだ。僕、約束は絶対に守るのに。



でもまさかその数年後、イソップくんがいなくなっちゃうとは思わなかった。

きっかけは、イソップくんのお母さんが亡くなってから。他に身寄りがなかったイソップくんは、イソップくんのお母さんを納棺した納棺師のおじさんと一緒に、村を出て行った。

手紙のやり取りはしていたけれど、毎日会っていたあの頃とはだいぶ違って、手紙に何度も「早く会いたい」って書いた気がする。

でも納棺師のおじさんといろんな場所へと行くイソップくんにはそんな時間はなくって、僕はイソップくんに会えないままどんどん大きくなった。

大きくなるうちに、男同士は普通結婚できないことを知り、お父さんとお母さんの困ったような笑みの理由がわかった。

イソップくんと僕は結婚できない。僕はとってもショックだったけれど、その頃には僕の涙腺もちょっぴり大人になっていたから、大泣きはしなかった。でもちょっとだけ泣いた。


それから更に数年後、なかなか恋人を作らない僕を見かねた近所の人たちが、僕に歳の近い女の子を紹介してくるようになった。

以前の僕なら「僕にはイソップくんがいるから!」と言えたけれど、イソップくんと結婚できないことを知ったら、はっきりとは断れなかった。

何人かの女の子と付き合ってみたことはある。でもついつい、記憶の中のイソップくんと比べてしまった。相手の女の子達に失礼だなって思って、早々にお別れした。

イソップくんと結婚できないことはよーくわかったけれど、イソップくん以上に愛しいと思える子がなかなか現れない。困ったなぁと思い悩む僕を、両親は僕以上に悩ましく思っていたらしい。気づけば、いろんなところからお見合いの話を持ってきた。


「名前、この子なんかどう?銀髪の綺麗なお嬢さんよ」

「こっちの子もいいんじゃないか。大人しそうだが、手先が器用だと評判だ」

なんとなくイソップくんに近いようなそうでもないような女の子ばかりが紹介された。たぶん、僕がイソップくんを引きずっているのがバレバレだったからだろう。

イソップくんに近ければいいってもんじゃない。きちんとその人本人を愛せないなら、不誠実なことには変わりない。


それでもお見合い攻撃は止まらなくて、僕はついに「ちょっと都会に働きに出て、そこで出会いを求めて見るよ」と言って、村を出た。両親は応援してくれたけれど、正直お見合い攻撃から逃げる上での建前だったため、曖昧に笑ってお礼を言うしかなかった。

都会では、飲食店のホールスタッフとして働いた。お客の呼び声があれば大きな声で返事をして、どたばた煩くない程度に急いでお客の元へ駆けつけるのが僕の役目だ。

昔からイソップくんと比べて声は大きい方だったけれど、どうやら他と比べても僕の声は大きかったらしい。店長には「元気があってよろしい」とよく褒められた。


「名前、お前宛てに手紙だぞ」

「僕宛てに?実家の両親かな・・・」

手紙を送った人物は僕の全く知らない人だった。でも相手は僕のことをよく知っているらしい。僕がイソップくんという忘れられない人がいることも、そのせいで次へ進めないことも、全部お見通しという風な内容がつらつらと綴られていた。

そして更に『とあるゲーム』に参加すれば、僕の望みを叶えてくれる書かれていた。しかも今なら、参加するだけで『イソップくんに会いたい』という願いの方は簡単に叶えてもらえるらしい。

なんと上手いセールストーク!と驚きつつ、僕はあっさりその手紙に書かれた住所の場所に行くことにした。割と長いことお世話になった店長に「昔好きになった人に会いに行く」といえば、背中をばしばしと叩かれ「頑張れ」と言ってもらえた。

そうして僕は少ない荷物を手に手紙の場所、『エウリュディケ荘園』へと向かった。




初恋のあの子と会えますように




「・・・っていうのが、僕が荘園にやってきた経緯かな」

「そ、うだったんだ」

荘園に到着すると本当にあっさりイソップくんと再会することができた。

僕を見た瞬間まるで死人でも見たような驚愕の表情で駆け寄ってきたイソップくんは大人になってもやっぱり可愛くて、思わず「結婚しよう」と言ってしまったけれど後悔はしていない。ただ、いろんな人が見ている中だったからイソップくんは羞恥心で死にそうになってた。


「僕、てっきり名前はもう結婚してしまっているのかと思ってた・・・」

「いやー、どの子とお付き合いしてもイソップくんと比べちゃって。失礼極まりないよね」

「そ、それでも、ぼっ、僕にとっては嬉しい」

ぽぽぽっとあの頃と変わらず可愛く顔を赤くするイソップくんい「イソップくん大好き!結婚して!」と割と大きな声で叫んでしまった。どうやら長いこと会えなかった影響で僕は抑えることを知らないらしい。

「うっ、そ、その・・・ぼ、僕で良かったら」

「ほんと!やった!」

因みに僕のもう一つの願いは、男同士でも結婚できる土地にイソップくんと移住するための資金なんだけど、イソップくんはどの土地がいかな?



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