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視線を感じるな、と思う瞬間がある。

例えば部屋でゆっくりしている時とか、例えばサバイバーの仲間と喋っている時とか、例えば庭園のベンチに座り少し微睡んでいる時とか・・・

最初こそ気のせいだと思っていたが、流石にこれだけ視線を感じる瞬間が多いと気のせいではないと察してしまう。

しかしその視線の主がわからない。本当に何処にいたって視線を感じるのだ。


「名前さん、顔色が悪いようですけど」

「あぁエミリー、気にしないでくれ、ただの寝不足だ」

特にサバイバーの仲間と喋っている時は、それを咎めるように視線が強くなるのだから困る。犯人は俺が仲間内から孤立することを望んでいるのだろうか。


そもそも、犯人は何が面白くてこんな草臥れたおっさんを監視するような真似をしているんだか。

もっと他にいるだろう。例えば女性ならウィラとか・・・いや、彼女に限らずこのゲームに参加者する女性たちはみなタイプは違えど美しい。兎に角、こんな大して顔立ちも整っていない草臥れた中年男性を監視するより、美しい女性を見つめる方がよっぽど時間を有用できると思うのは俺だけだろうか。


「やっぱり顔色が悪いわ。寝不足なら、少し部屋で休んではどうです?」

「じゃぁそうしようかな。用事がある時は呼びに来てくれ」

何か気の利いた台詞も思いつかないし、下手に遠慮してもエミリーを心配させてしまうだけだ。ここは素直に従っておこうと頷き、自室へと戻った。

扉を閉め、鍵まできちんとかける。それでも視線は感じるのだから不思議だ。

部屋に戻ったって特にすることなんてなくて、仕方なくベッドに寝転んでみた。

視線は感じる。ベッドに寝転ぶ俺を、じっと見つめているようだ。


「・・・ん?」

こつんこつんっと窓の方から音がした。

何だと思い起き上がれば、窓を叩く小さな梟の姿があった。


「お前は、イライの梟じゃないか」

窓を開けると梟は部屋の中に入ってくる。くるりくるりと部屋の天井付近を旋回し、俺の肩にとまった。

「っと、吃驚した。どうした、散歩中か?」

肩にとまった梟の腹当たりを指先で撫でながら問えば、当然返事はなかったがかわりに梟が頬ずりをしてきた。可愛いな。

アニマルセラピーというものがあるが、どうやらそれは本当に効果があるらしい。梟の羽の柔らかさを感じていると自然と笑みが零れる。

その時、こんこんと扉をノックする音が聞こえた。エミリーか?と思えば扉の向こう側から「名前さん、私です、イライです」という声が聞こえてきた。

「おっと、お前のご主人様が迎えに来たみたいだ。そうだったな、お前たちは視界を共有できるんだったな」

梟を肩に乗せたまま扉へと近づき、鍵を開ける。


「こんにちは、名前さん」

「あぁこんにちは。梟を迎えに来たんだろう?」

「はい。なかなか戻ってこないので探していたら、名前さんの傍にいる様子が視えたので」

「ははっ、こんなおっさんのドアップを見せて悪かったな。どうせなら美女のドアップの方が良かったろ?」

「いえ、そんなことは・・・」

小さく首を振るイライの頭を少し雑に撫で、梟を軽く握りイライに差し出した。


「ほら。さっさと連れて帰ってやれ」

「はい。・・・あの、体調が悪いとエミリーさんに聞いたんですが」

受け取った梟を慣れた手つきで撫でながら心配そうな声で言うイライ。まさかこの短時間で俺の体調不良が知られているとは、と思わず顔が引きつる。

「あー、いや、エミリーにはただの寝不足だと伝えたはずなんだが・・・まぁ、体調が万全ってわけでもないから、どちらかと言えば悪いに入るのか?」

「何かあったんですか?良かったら飲み物でもお持ちします」

「ははっ、こんなおっさん気遣わなくてもいいんだぞ。気にしいだな、お前」

心配そうな視線を感じる。そうだった、イライはやけに俺に懐いていたな。こんなおっさんの何処がそんなにお気に召したのかはわからないが、まぁ懐かれていること自体は悪い事ではないから受け入れてはいる。


ん?そういえば、梟やイライが来てからは視線はこの二つからしか感じなくなったな。エミリーや他の誰かと喋っている時は咎めるように視線が強くなっていたはずなのに、イライはセーフということだろうか?基準がわからない。

「やっぱり何かあったんですか?」

「あ?あー、まぁな、ちょっと視線が気になるんだ」

「視線?」

「っそ。まぁ、気のせいってこともあるかもしれないが、何処からか視線を感じるって言うか・・・あ、あー、しまった忘れてくれ。別に誰かに相談するつもりなんかなかったんだ」

「どうしてですか?私じゃ、頼りになりませんか?」

目に見えて落ち込んだ様子になるイライに「なわけないだろ」と苦笑する。

こいつはほんと、何でこんなおっさんに懐いているんだか。


「おっさんに視線が向けられてるからって、誰も困りはしないだろ。多少視線が気になりはするし、犯人がわかれば何で俺を監視するような真似をするのか問いただしてやりたい気持ちもあるが・・・ま、俺には難しいことはわからないし、犯人捜しなんてやる気も起こらない。なるようになるさ」

「・・・私は、名前さんの元気が無いと、とても辛く感じます」

まるで自分のことのように落ち込むイライの姿は、まぁ嬉しくは感じる。

嘘も隠し事もあまり得意ではないせいで、うっかりイライに視線のことを話してしまったが、結果的には良かったのだろう。心配してくれる人が一人でもいれば、気は大分楽になる。


「有難うな、イライ」

ぐりぐりと今度は強めに頭を撫でれば、イライの口元が嬉しそうに緩んだ。

「まぁ、なんだ?視線に付かれた時は、お前の梟にでも癒してもらうさ」

「ふふっ、私ではなく、私の梟なんですね」

「お前はどうやって俺を癒すっていうんだ?このふわふわの羽毛に勝てるのか?」

冗談っぽくそう問えば、イライは少し黙ってから「癒す方法ならいろいろあります」と少し笑った。

「ほぉー?どうするつもりだ?是非教えてくれ」

「ふふっ、でも今はもう名前さん元気だから、次落ち込んでいる時にでもやってあげますね」

「おいおい、俺が落ち込む前提かよ・・・」

「大丈夫ですよ、私が付いてます」

「へいへい。占い師様が付いててくださって嬉しいよ、とってもな」

出来れば落ち込むことがない方がいいんだが、と思いつつそう言えば、イライは「楽しみにしていてください」と胸を張った。いや、だから落ち込むことはない方がいいんだって。


「はいはい、楽しみにしてるさ」

「・・・絶対ですよ」

「あ?」

「じゃぁ、そろそろ失礼します」

そう言うとイライは梟と共に去って行った。

何だったんだ?と思いつつ扉を閉めて鍵をかければ、また視線。


「・・・なんだってんだよ、ったく」

俺はため息を一つ吐き、ベッドに寝転んだ。

イライがいる間は視線はイライのものしかなかったのに。何が基準でイライがセーフだったのかはわからないが、もしイライと一緒の間は視線が無いのだとすれば、今後はイライを頼るべきなのかもしれない・・・


「あーあ、情けねぇなぁ」

この調子じゃ、本当に近いうちにイライやその梟に癒してもらわなくちゃいけなくなるかもしれない。イライはどんな方法で俺を癒すつもりだろうか。実はちょっぴり楽しみだったりする。




るっくるっく




「・・・もう少しだ」

軽い口調で特に深刻に捉えていない風を装っていたけれど、その実結構追い詰められているのはわかっている。

誰かと喋れば咎めるような視線を感じ、私と喋っている時はそれを感じない。自然と、彼は私を頼るようになる。

勘がいい人なら気付いてしまいそうだけれど、名前さんは基本的に仲間と認めた相手は疑わない善良な人。私を疑うことなんてきっとない。


・・・もう少し弱って、頼れるのが私しかいないのだと思ってくれたら、そこでようやく私は彼を、愛しい名前さんを手に入れられる。

「楽しみだなぁ」

私の言葉に同意するように、梟が鳴いた。



あとがき

前回『どうやら屑だったらしい』を更新したときのあとがきで『次回はもっと普通に書きます』と言ったな。あれは嘘だ!
・・・という感じな話になってしまいました。
次はもっと普通に書きます。



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