×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -





※サバイバー人形設定。


おじい様のお屋敷で数日間お世話になるため、都会から御者の動かす馬車に乗って移動をする。

長い移動の中、馬車を引っ張ってくれている馬にも合間合間で休憩をさせてやらねばならない。御者がそろそろ馬を休憩させると言い、森の真ん中で馬車を止めた。

欝蒼とした森の中、特に語るような話題も無い御者と二人きりはなかなかに気まずい。持ってきた本も既に読み終わってしまったし、どうせだからこの近くを散策でもしてみようか。


「ちょっと近くを散歩してきてもいいですか」

「わかりました坊ちゃん。ですが、あまり遠くにはいかれませんように」

勿論だよと返事をして、特に荷物も持たずに森の中を歩き始める。あまりきょろきょろしては道を見失うとわかってはいるけれど、都会とは違う大自然の中は何だか新鮮で、僕はすぐにいろんなものに意識を取られてしまった。

あの木に絡まる蔦から生えた花が綺麗だ、あの岩陰に隠れている小動物が可愛らしい、風が吹く度に揺れる木々の音が心地よい・・・


「あっ」

気付いたら僕は道を見失っていた。どこを向いてもあるのは同じ様な景色。馬車なんてちっとも見えないし、馬の声だって聞こえない。

困ったな、と少し焦りながらも森の中を歩き回る。僕が戻ってこなければ御者が慌てて僕を探すことだろう。雇い主の息子を行方不明にしたなんて、それこそ御者自身の生活に影響がある。最悪、罰されることだってあるだろう。

御者のためにも馬車がある場所まで戻らないと。そう思うのに、何となくだけれど僕は更に迷ってしまっている気がする。

迷子になったら動き回らない方がいいと、誰かが言っていた気がする。


「・・・あれ、これは?」

動き回っていると、何やら道のようなものを発見した。誰かが何度か歩いてできた道。それをたどればもしかすると少しは事態が好転するかもしれない。そんな浅い考えで道をたどれば、僕がその『館』の前にたどり着いた。

館の周りを覆っているであろう壁は何処まで続いているかわからない。やけに大きなその館をぽかんと見上げていると、門の傍で何かが動くのが見えた。

もしかすると館の人かもしれない!そう思い駆け寄った僕は、ありえないものを目にした。

「ぬ、ぬいぐるみ・・・」

ぬいぐるみが、門の向こう側で動いている。僕の呟きから僕の存在に気付いたらしいぬいぐるみがこっちを見る。ぬいぐるみのボタンで出来た瞳と、目が合った気がした。


「あ、あの、ねぇ、待って!君は・・・この館の人?なのかな?」

驚いた様子で逃げようとする人形にそう声を掛ければ、ゆっくり振り返った人形が恐る恐るといった風に近づいてくる。よくよく見れば、ぬいぐるみは女の子で、帽子とエプロンがとっても可愛かった。

「僕、森で迷子になっちゃって。えっと、名前って言います。本当に突然で申し訳ないんだけど、道を教えて欲しいんだ」

エプロン姿のぬいぐるみはおろおろとした様子で僕を見上げている。僕の腰ぐらいまでしかないそのぬいぐるみはおろおろした状態のまま門を開けてくれた。どうやら助けてくれるらしい。

有難うと言って手を差し出せば、やわらかな手が僕の手を握ってくれた。嬉しくてぎゅっと抱きしめると、ぬいぐるみは慌てつつも抱きしめ返してくれた。可愛い。


「此処は不思議の国だったのかな!僕、こんなの初めて。無事におじい様のお屋敷に行けたら、絶対自慢するんだ!」

笑顔でそういうと、ぬいぐるみもにっこり笑ってくれる。僕の腰ぐらいまでの大きさしかないぬいぐるみが僕の手を握って「こっちこっち」と言うように案内してくれる。

扉をくぐれば、なんとなく家具は僕が普段使っているものよりも小さく感じた。たぶん、ぬいぐるみの大きさを基準にしてるんだ。


「此処は君の家なの?」

ぬいぐるみは首を振る。彼女は僕をダイニングホールのような場所まで案内すると、一度手を離して何処かへ消えてしまった。

待っていた方がいいだろうとその場でじっとしていると、しばらくしてこちらに向かってくる足音が何個か聞こえ始めた。


「わっ!沢山!」

足音の正体は彼女と同じぬいぐるみたちのものだったらしく、いろんな種類のぬいぐるみが僕の前に現れた。

でもちょっと僕を警戒しているのかな?すぐそばまでやってきてくれたのはさっきの彼女だけで、他は遠目に僕を観察してる。

そうだ、初対面で警戒されるのは当たり前だ。僕は以前じいやに教わったように、足を一歩引き、片手を胸の前まで持っていくと丁寧に頭を下げる。


「こんにちは。突然のことで驚かせてしまい、申し訳ありません。僕は名前、名前・苗字といいます。森で道に迷ってしまい、この館を見つけました」

エプロン姿の彼女が笑顔で僕の腰にくっつく。嬉しくなって彼女を抱き上げてぎゅーと抱きしめると、男のぬいぐるみが駆け寄ってきた。彼はまるで抗議をするように僕の太腿をぽこぽこと叩いている。

「わぁっ!はじめまして!貴方は彼女のお友達?」

彼女を抱きしめたまましゃがみ込んで彼もぎゅーっと抱きしめると、最初は暴れていた彼はすぐに諦めたように大人しくなった。

両腕にぬいぐるみを抱っこしたまま「此処は本当に不思議の国みたいだ!」と笑いくるくると回る。女の子のぬいぐるみは楽しそうに笑ってくれていたけれど、男のぬいぐるみはぐったりしていた。


「あれ?わっ!?ごめんね、ぐったりさせるつもりじゃなかったんだ。本当にごめんなさい」

慌てて二人とも降ろして、彼の方を背中を撫でたりする、彼はゆっくり首を振って、のそのそと去って行った。

「うぅん、でも困ったな、誰か言葉が喋れる人はいない?」

他のぬいぐるみたちを見ても、喋り出すぬいぐるみはいない。動くだけでも十分不思議だけれど、流石に喋ることは出来ないらしい。

少ししょんぼりとしていると、看護師のような恰好をしたぬいぐるみが紙とペンを持って近づいてきた。


「あっ!もしかして、文字は書けるの?」

看護師のぬいぐるみはにっこり笑って、紙に「私はエミリー、初めまして」と書いてくれた。

「わっ!わぁ!はじめましてエミリー!」

ぎゅーっと抱きしめると、エミリーはよしよしと僕を撫でてくれた。可愛い。

するとそれを見ていたエプロン姿のぬいぐるみも、紙に「私はエマなの!よろしくなの!」と書いてくれた。エマって言うんだ!


「嬉しいなぁ!よかったら、皆の名前も教えて?」

にこにこと皆に向けて言えば、何人かは近づいてきて紙に名前を書いてくれた。けれど数名は、動かずこちらを窺ったまま。

ちょっぴり寂しいけれど、突然やってきてしまった僕を警戒するのは仕方のないことだし受け入れなくちゃ。

自己紹介が出来ていないぬいぐるみも数名いるけれど、再び「道を知っている人はいない?」と問えば、彼等は困ったように首をかしげていた。


「苗字家っていうお屋敷がこの森を抜けた場所にあるはずなんだ。予定より到着が遅れたら、おじい様が心配するかもしれない・・・」

いや、その前に僕のせいで僕を探す羽目になっているはずの御者も心配だ。

「・・・早く帰らないとなぁ」

少し目の奥がじんわりとしてきて、思わず俯いていると、エマが頭を撫でてくれた。




視点変更




彼等は恐怖に慄いた。何故、ゲーム中でもないのに館にハンターがいるのかと。

庭師のエマが連れてきた、自分より大きな存在。彼はこちらの言葉が理解できないのか、こちらが何を言っても首をかしげるばかり。

エマを突然抱きかかえ、それを見たクリーチャーが慌てて助けに行くと、彼は嬉しそうにクリーチャーまで抱きかかえた。

危険な存在ではなさそうだが言葉が全く通じない相手。筆談は出来る様子だが、彼が行きたいという『おじい様の屋敷』までの道のりは、誰も知らない。

外も暗くなってきたため、ひとまずはこの館でゆっくりしていくといいと提案したのは、彼を連れてきたエマだ。


「わぁっ!食器も少し小さいや!」

姿はハンターでも、言動や行動はまだ大人になり切らない子供のそれで、彼は楽しそうに屋敷を見て回っている。途中で彼に発見されたサバイバーはもれなく「可愛い!」と抱きしめられるおまけつきだ。

早い段階で彼を『不可解だが危険ではない存在』と判断した者は筆談で彼と自己紹介を交わし、それ以外は彼から逃げるように自室や別の部屋へと逃げた。

イソップ・カールも、彼から逃げた者の一人である。

しかし夕食の時間になれば彼と比較的仲の良いイライが部屋まで呼びに来たため、渋々部屋から出るしかなかった。

ダイニングホールには変わらずあのハンターのような少年がいて、にこにこと本人にとっては少し小さめの椅子に座っている。


「食べるものは一緒なんだね!てっきり、玩具の食べ物が出てくると思ってた!」

出会ってから短い時間だが、名前という少年の言動から何となく『彼の目には自分たちがぬいぐるみに見えている』と理解した。もしかすると、ハンターには自分たちが人形に見えているのだろうか?


「美味しそう!僕、うちの料理長が作るごはんが一番素敵だと思ってたけど、此処の料理もとっても素敵!」

そして彼の言動からわかることは、この少年が所謂『お坊ちゃま』ということだ。それもとびきり世間知らずな。

自分たちが人形に見えているというなら、もう少し怯えたっていいはずだ。少なくとも『不思議の国みたい!』と喜ぶような状況ではない。


「あれ?君はまだお名前を知らない子だね。良かったら此処に名前を書いて教えてくれる?」

「ひっ!?あ、え、僕は・・・」

「わぁ、マスク付けてる。髪も銀色で綺麗。男の人、かな?とっても綺麗だからちょっとだけ迷っちゃった!」

輝かんばかりの笑顔。対人恐怖症の気があるイソップは完全に硬直してしまった。しかしイソップの言葉がわからない少年は、固まったイソップをあろうことか「よろしくね!」と言って抱きしめ、更には膝の上に置いてしまった。


「はい!此処にお名前を書いて」

「ひぃっ!?は、離してください、離してっ」

「あれ?何で震えてるんだろう・・・寒いのかな?大丈夫?ぬいぐるみも風邪をひくのかな」

周囲の憐れむような視線を受けながらイソップが懸命に暴れていると、少年はぎゅっとイソップを抱きしめ、その背中をとんとんと叩いて「よしよし、こうやってくっつけば温かいよ。どうしよう、ぬいぐるみにもお医者さんっているのかな?あ!エミリーが治してくれるかも!エミリーのところへいこう」とイソップを抱えたまま立ち上がった。


「エミリー!エミリーはいる?この子がとっても震えてるんだ、風邪かもしれない!」

名前の声が聞こえてキッチンから飛んできたエミリーは、名前の腕の中でぐったりしているイソップを発見して事態を大体察した。

「まぁカールさん!ごめんなさい、貴方のことを彼に説明しておくべきだったわ。待ってて、今彼に説明するから」

早速常備していたらしいメモ帳に文字を書いてイソップを降ろしてあげるよう名前に説明するエミリー。名前はその文字を見ると吃驚した顔をして、イソップをゆっくり床におろした。


「ご、ごめんね、イソップ。イソップはあまりハグもお喋りも得意じゃないんだね。紳士的じゃなかったよ」

ふらふらのイソップにぺこりと頭を下げる名前。大きさはハンターのそれだが、その顔は泣き出しそうなただの子供だ。イソップはまるで自分が虐めてしまったかのような罪悪感に襲われる。実際は、イソップは何一つ悪くはないのだが。

「う、ううん、き、君は僕の名前を知りたかっただけ、なんだよね・・・」

エミリーから受け取ったメモにイソップは『大丈夫』と書いて見せた。途端に少年の顔には満面の笑みが浮かぶ。

「イソップは優しいんだね。僕、イソップのこと一瞬で大好きになっちゃった!」

「だ、大好きに・・・」

「良かったら僕とお友達になってください」

笑顔で差し出された手。イソップは震えながらも、ちょんっとその手に触れた。


「わぁ!有難うイソップ!」

「ひっ!?」

「だ、駄目って教えたでしょ、名前!」

エミリーの慌てる声と同時に持ち上がったイソップの身体。ぎゅうぎゅうと抱きしめられたイソップは、今度こそ気絶した。




ぬいぐるみでいず




「お手紙?え?僕宛てに?」

館に迷い込んできた少年名前へ、荘園の主人からの手紙が舞い込んだ。

「わぁっ、このお屋敷のご主人、おじい様の古い知り合いなんだって!良かったら、休みの間は此処で遊ばないかって・・・とっても親切だね!」

怪しさたっぷりのその手紙を手に嬉しそうに跳び回るちょっぴり世間知らずの少年が新たな『ハンター』として紹介される日も近い。



あとがき

外から迷い込んできた人。
ハンターに抜擢されるけど、ゲームの重大性は殆ど理解してない。
「ゲーム中はとりあえず皆を捕まえればいいんだね!」と楽しくかくれんぼと追いかけっこを楽しむ。殴ったりしない代わりに、めっちゃ生け捕りにして荘園に戻してくるハンター。
同じハンターのジョゼフとリッパーに紳士として憧れを抱きそう。
サバイバーは皆ふわふわで可愛いから大好き。
サバイバーも「こいつ明らかに荘園の主人に騙されてる」って思ってるから、ゲーム中以外だと普通に接してくれる。ゲーム中はめっちゃ逃げる。



戻る