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男っていうには単純な生き物だとつくづく思う。特に俺という男は、男たちの誰よりも単純だ。

女に微笑みを向けられれば嬉しくなるし、思わせぶりにほんの少し触れられればそれだけで期待してしまう。女の涙を見ると絶対に動揺してしまうし、女の喜ぶ声は俺にまで喜びを与えてくれる。自覚はあるが、俺は女に弱い。それはそれは、滅法弱いのだ。


「名前さん、これ運んでくれるかしら」

「あぁ勿論だよエミリー。他にお手伝いできることはないかな?」

「ふふっ、もう十分手伝って貰ったわ。後は私がやるから、それを運んだら席に着いてまっててちょうだい」

くすくすと笑うエミリーに笑みを返し、トレイに乗った人数分の食器を運ぶ。

テーブルの角に一度トレイを置くと、軽い足音を立てながらエマが近づいてきた。


「名前さん!お手伝いするの!」

「大丈夫だよエマ。今日はゲームで沢山走って疲れたろう?ゆっくり休みなさい」

「でもでも!私、お手伝いしたいの!」

「ははっ、有難うエマ。じゃぁ俺は皿を配るから、エマはフォークとスプーンを配ってくれるかな?」

任せるの!と言ってフォークとスプーンを掴むエマの頭を軽く撫で、各自の席へと皿を配り始めた。


「相変わらずよく働くな」

「女性のお手伝いをするのは当然だろう」

「この間俺が電球を交換してる時はスルーしやがった癖にか?」

「それはお前が男なのと、お前なら一人でも大丈夫だろうという信頼からだよ、ナワーブ」

俺の弁解にナワーブは「はいはい、この女好きめ」と笑った。

確かに俺は女性が好きだけれど、別にやましい気持ちがあるわけではない。少しでも彼女たちの力になりたいだけだ。

彼女たちが一人じゃ何もできないとは勿論思っていない。俺よりも強く逞しい女性は沢山いることを知っている。それでも俺は、彼女たちに対して常に優しくありたいのだ。

俺の日々の行いのおかげか、荘園の彼女たちは困ったころがあると真っ先に俺を頼ってくれる。頼られることは信頼の証だと思っているから、嬉しい限りだ。


「まぁそんなお前でも、イソップに対しちゃ形無しだけどな」

ナワーブの口から出てきた名前に、俺の口元は自然と引きつった。


「お前が過剰なほど親切なのは女に対してだけだと思ってたのに、イソップに対しては女相手と同じぐらい親切だからな。たまにイソップの性別を疑う時がある」

「まさか。イソップはどこからどう見ても男だ。俺もそれをわかっているんだけど・・・」

「雰囲気が、ってやつか?」

「まぁね」

イソップ・カールはけして女性的な男性ではない。男らしくはないが、彼はまさしく男性だ。

だというのに俺は、女性に対するように、イソップ・カールに対しても同じように『弱い』。


「っと、噂をすれば来たぜ」

「からかうな、ナワーブ。・・・やぁイソップ、今日もお疲れ様」

「あ・・・や、やぁ、名前」

何処かうつむき気味に、上ずった小さな声で俺に返事をするイソップ。

彼が新たなサバイバーとして荘園にやってきたのはそう昔じゃない。線の細い、弱々しい雰囲気を持つ男。あまり他人が得意ではないのか、自分を見つめる人間がいれば思わず目をそらしてしまったり、発言を促されてもなかなか言葉を発することができない、そんなシャイな性格をしていた。

彼が初めて皆の前で挨拶をしたとき、蚊の鳴くような声とはこういうことかと思った。男性陣の中から「もっと大きな声で言ってくれ」という言葉が出てくれば、イソップはびくびくと身体を震わせ、可哀想なほど怯えた声で「すみません」と言っていた。

それを見た俺の行動はといえば、彼に近づき、怯える彼を圧迫しないように彼の足元で膝をつき「大丈夫、君を害そうとする人間はいない。ゆっくりでいい、まずは自分の名前だけ言おうか」とまるで小さな少女を諭すように声をかけていた。

俺と視線が合わせられず目をきょろきょろと動かす彼に「さぁ、深呼吸をして」と言って笑いかければ、彼はようやく少しだけ落ち着いた声で「イソップ・カール、です」と皆の前で言うことが出来た。


自分でも、らしくない行動だと思った。

女尊男卑というわけじゃないが、俺は女性にはとこと優しいが、男相手だと割と雑になる。イソップは明らかに男性で、俺が助けてやる義理など全くなかった。そのはずなのに、震えるイソップを見ると、女性が震えている様子を見たときのような、落ち着かない感じがしたのだ。

それから俺は、イソップが困っていれば近づき「どうかしたのかい?」と女性を相手にするみたいに優しく接してしまうようになった。

怯えていれば落ち着かせるために優しい言葉をかけ続け、困っているようなら惜しみなく手を貸す。男相手にこの対応は、本当に俺らしくない。

男性陣の中では割と仲の良いナワーブには先程のようにからかわれることがしょっちゅうだ。


「疲れているだろう。今日はエミリーがシチューを作ってくれたから、それを食べてゆっくり休むんだよ」

「う、ん。そうするよ」

ずっと親切にし続けたおかげか、俺の前ではイソップの挙動も少しは落ち着いた。今みたいに返事をすることも、時には自分から俺に話しかけてくることもある。

他の誰かを相手にするときも、俺が視界にさえいればなんとか相手と喋ることができるようになった。良い傾向だと思う。

イソップの席は俺の隣。以前は違ったのだが、変に気を利かせたナワーブが自分の席とイソップの席を交換して、今のような並びとなった。

席に近づくイソップのために椅子を引いてやれば、イソップは恥ずかしそうに「有難う」と言った。やり過ぎだとはわかっているのに、本当に自然と身体が動いてしまうんだ。

しばらくするとエミリーがシチューのたっぷり入った鍋を持ってきた。その他にはパンとサラダ、デザートのフルーツもある。


「有難うエミリー、美味しそうだ」

各自今日の料理当番だったエミリーにお礼を言い、食事をはじめる。

隣のイソップも普段顔を覆っているマスクを外すと、綺麗な所作でシチューを一口。お気に召したのか、ほんのり口元が緩んだのが見ていて面白かった。

「あのね!今日はイソップさんが大活躍だったの!」

おっと、イソップが咳き込んだ。そっと背中をさすってやり、紙ナプキンを差し出す。

興奮気味に語り出すエマ曰く、今回のゲームではイソップの納棺が大活躍で、そのお陰で勝てたと言っても過言ではないらしい。

エマの賞賛に賛同するように、同じく今日のゲームに参加していたイライやウィラもイソップの活躍ぶりを口にする。

イソップは嬉しいのか恥ずかしいのか、おそらくそのどちらともだろうが、震えながら俺に助けを求めるような視線を寄越してきた。


「イソップ、今日は本当に大活躍だったんだね。流石だ、本当に誇らしいよ」

「っ、名前っ」

助けてもらえると思っていた相手からの追撃に、イソップは元は白い顔を真っ赤にして俯いてしまった。厳しい言葉から守るなら兎も角、褒める言葉を遮る必要なんてない。むしろ俺も喜んでイソップを褒める側につこう。

恥ずかしくて恥ずかしてくてたまらないのか、ぷるぷる震えながら千切ったパンを只管口に運ぶ彼に「喉に詰まらせないようにな」と軽く笑った。


「それにしてもエミリー、本当に美味しいよ。何か秘訣とかはあるのか?」

「ふふっ、隠し味を入れてるんだけど、それを言ってしまったら隠し味じゃないでしょう?」

「それもそうか。おっとトレイシー、おかわりがしたいなら俺が注いでやるから、座っていなさい」

「名前、俺も」

「ウィリアム、お前は自分でやれ。イソップ、おかわりは?」

「あ、えっと、うん、少しだけお願い」

ウィリアムの方から「態度違いすぎるだろ!」という抗議の声が聞こえたが、無視してトレイシーとイソップの皿にシチューを注いだ。ついでに自分の分と、仕方ないからウィリアムの分も注いでやる。

「名前、その、ちょっと多いよ」

「イソップは細いから、もうちょっと肉をつけて欲しいんだけど・・・もし食べきれないようであれば俺が食べるから、とりあえず食べれる分だけ食べてくれるか?」

「わ、わかった」

こくこくと頷くイソップに「良い子だ」とつい頭を撫でれば、イソップの顔が再び真っ赤にそまった。ナワーブがいる方向からからかうような視線を感じる。


その後、イソップは俺の言う通りに食べられる分は頑張って食べてくれたらしい。思ったよりも残りが少ない皿を受け取り、残りは俺の胃の中に収めた。

夕食後、皿洗いを申し出るマーサとパトリシアに「俺も手伝おうか」と言えば大丈夫だと言って断られてしまった。

やることもないなら一度部屋に戻ってゆっくりするかと自室に向かう途中、イソップの部屋の前を通った。そういえばイソップが前に面白そうな本を持っていたはずだ。それを借りて、読書でもしよう。

そうと決まればとイソップの部屋の扉を軽く数回ノックすれば、中からばたばたと騒がしい音が聞こえた。なにかを片付ける音だと思う。


「イソップ?」

「い、今開けますっ」

大慌てで扉を開けるイソップに目を瞬かせ「もしかして忙しかった?」と問えばイソップは大きく首を振った。なら良いのだけど。

「な、何か、用事?」

「あぁ。前にイソップが読んでいた本が面白そうだったのを思い出して。ほら、なんだっけ、動物の挿絵が入っていた、茶色の表紙の」

「あっ、それならもう読み終わった、から、持ってって大丈夫」

扉から離れ部屋の奥へと向かうイソップの背中を見送りながら、なんとなく彼の部屋の中をぐるりと見渡した。先程ばたばた騒がしい音がしたが、部屋自体はとても綺麗だ。手入れも行き届いていて、男の部屋とは思えない。まぁ、女の部屋にしては飾り気がにため、やっぱり男の部屋だけれど。


「ん?」

綺麗に片付いた部屋の床になにかが落ちていた。よくよく見つめれば、それは布の切れ端。なんとなく、俺が普段着ている服の色に似ている。

本を手に戻ってきたイソップは、俺の視線の先にあるものに気付き「ひっ!?」と声を上げた。

「ち、違う、これは・・・」

何を弁解しようとしているのか知らないが、布切れ一枚でよくそこまで顔を青くできるものだ。

必死になにかを話そうとするイソップを尊重して次の言葉を待てば、イソップの目が次第に潤むのが見えた。

俺が苦手な女の涙。いや、イソップは男であるためそうでもないはずなのに、やっぱり女の涙を見たときと同じぐらい動揺してしまう。

もしイソップがなくなら、このままじゃまずい。そう思いイソップの身体を軽く押し、二人してイソップの部屋に入るとそのまま扉を閉め、鍵もかけた。


「イソップ、どうかしたか?何か悲しいことでもあった?」

初めて出会ったときと同じように、イソップの足元で膝をつき、涙目の彼を見上げる。

視界が低くなってから気づいたのだが、先程の布切れと同じ色の布がベッドの下からチラリと見えている。

「名前、そ、その、僕は・・・」

「イソップ、落ち着いて。大丈夫、俺はちょっとやそっとのことじゃ君を叱ったりしないさ。俺が君を怒ったことがあったかい?」

小さくイソップが首を横に降る。俺は笑って「もしかして、君が泣きそうなのはそこのベッドの下に隠しているものと関係があるのか?」と問う。くしゃっとイソップの顔が泣く寸前まで歪んだ。正解だったらしい。

「失礼じゃなければ、ベッドの下を見ても?嫌なら断っていい」

「っ・・・そ、の、『あれ』を見て、名前が僕を、き、嫌いにならない、なら」

「わかった。約束しよう、イソップを嫌いになったりなんてしない」

俺の返事にひとまずは安心したのか、イソップは震えながらもベッドに近づき、ベッドの下から『それ』を引っ張り出した。


「えっ」

それは人の形をしていた。あまりにリアルで、一瞬ベッドの下から死体が出てきたかと思ったが、そうじゃない。ベッドの下にあったのは人形で、それも、俺そっくりな人形だった。

「えーっと、もしかしなくてもこれは、俺か?」

「そ、う・・・名前の人形」

「人形作りの練習か?勤勉だな、イソップは」

「ち、がう、これは・・・個人用」

「こ、個人用なのか・・・」

若干引いてしまたことがバレたらしく、イソップが泣き出した。

慌ててイソップに駆け寄り「泣かないでくれっ」とその肩を抱く。


女の涙と同じように、イソップの涙は俺を動揺させる。俺の腕の中で「ごめんなさい、ごめんなさい」と泣きじゃくるイソップがあまりに哀れに見えて、俺の口は自然と「勿論許すさ、だから泣かないでくれ」と言葉を発していた。

「こ、こんなに僕に優しくしてくれた人、初めてで、嬉しくて・・・名前のそばなら安心できるし、で、でも、名前も四六時中僕と一緒にいられるわけじゃないから、せ、せめて部屋にいる時は代わりにが欲しいと思って」

「そ、そうか」

「うっ、ごめん、なさい。こんなの気持ち悪いよね」

「あ、いやいや、そんなに俺と一緒にいたいと思ってくれてるなんて。嬉しいよ、うん」

予想以上にイソップは俺に執着していたらしい。まぁ、あれだけ親切にすれば当然のことかもしれない。これが女性なら「彼の親切は女性全員に向けてのもの」と理解してくれるが、イソップは男・・・男でここまで親切にする相手はイソップただ一人だったため、イソップとしても特別感のようなものを感じてしまっていたのかもしれない。

まぁ確かに、男の中でもイソップは特別かもしれない。ほっとけないなとは思う。


「う、嬉しい?本当に?」

「あ、あぁ。それにしてもイソップ、その人形、本当にそっくりだ。びっくりしたよ」

未だに涙をこぼし続けるイソップの頭を撫でながら人形を褒めれば、イソップは小さな声で「だって、ずっと見てたから」と言った。そういえば彼はしょっちゅう俺のことを見つめていたな。

「服の小さな飾りまで完璧じゃないか。本当にすごいよイソップ」

「あ、有難う」

ほんのり笑ったイソップの涙を袖で軽くぬぐってやれば、イソップはくすぐったそうに「ふふっ」と声を上げた。

「よかった・・・名前が嫌わないでくれて」

「相当驚きはしたけどな。嫌うわけがないじゃないか」

イソップは嬉しそうな顔で、俺の胸に頬を寄せた。ううん、今更ながらこの距離感は男同士のそれじゃないな。女性に対してだって、過度な密着はしないようにしているため、こうやって抱きしめるのはイソップぐらいかもしれない。

俺の胸に頬を寄せたまま、安心しきったように目を閉じたイソップに「どうしたものなかぁ」と内心で頭を抱えた。


本当なら、他人の部屋に自分そっくりな人形があるのは普通に嫌だし、叶うなら処分してほしいぐらいだ。だが、それを言ってしまえばイソップは傷ついて泣いてしまうだろう。そう思うと、どうしても言い出せない。

「もうちょっとで、完成するから、その時はまた、その・・・見せる、ね?」

「あ、あぁ、楽しみだよ」

イソップがすりっと頬ずりをするもんだから、俺は「ははっ・・・」と笑って彼の頭を撫でるしかなかった。




泣きだされちゃ困るもの




顔、服装、全てが完璧なその人形。イソップが最後の仕上げかズボンの装飾を取り付けている間、人形は勿論ズボンを履いてはいない。

・・・気のせいじゃなければ、下着までそっくりなんだが、何故イソップは俺の下着の細部の模様まで理解しているのだろうか。

追求したいが、彼の涙を思い出すとそうもいかなかった。



あとがき

第五人格夢でした。
当時は知らなかったですが、最近第五人格を始めたので『質問』の【第五人格夢見てみたいです…あ、知らなかったらスルーしておいてください。】を実行しました。

この後、なんやかんや断り切れず恋人関係になるけどたぶん幸せだと思います。



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