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料理人の名前はサバイバーたちの食事の用意は自分がしたいと荘園の主人に手紙で申し出た。

あっさりと許可が下り、それからはキッチンは名前の城となった。

美味しそうなローストビーフ、色とりどりの野菜が使われたサラダ、バターの香りが鼻腔をくすぐる柔らかなパン、黄金色に輝くタマネギのスープ、きらりとフルーツの輝くデザート・・・


「今日も豪勢だな、名前」

「やぁナワーブさん。今日はサバイバー側の勝利だったって聞いたから、張り切っちゃった」

「この間はサバイバー側が負けてしまったから励ましのご馳走を作ったんじゃなかったか?」

「あれ?そうだっけ?」

くすくす楽しそうに笑いながら包丁でローストビーフを切り分ける名前をナワーブは口元に笑みを浮かべて見つめる。


名前は本当に楽しそうに料理を作る。一癖も二癖もある荘園の住人たちを満足させるだけの腕を持っていて、彼等が望めばどんな料理だって作る。

荘園に来る前は都会で小さな飲食店を営んでいたらしいが、火事で店も財産もすべて失い、荘園に流れ着いたという・・・

彼の言葉を証明するように、服で隠れている名前の背中には大きな火傷があることをナワーブだけが知っている。何故なら、ナワーブは名前の恋人だから。


「良ければ明日はナワーブさんが食べたいものを作るよ。一昨日はファインプレーをしたトレイシーさんの食べたいものを作ったし、明日は今回大活躍だったナワーブさんの好きなものを作りたいんだ」

「って言ってもなぁ。俺はお前の作るもんなら何だっていいぞ」

「それは嬉しいけど、本当にない?」

「今までの人生でこんな贅沢な飯を食い続けられるなんてことなかったからなぁ。お前のせいで少し肉付きがよくなった気がするんだが?」

名前が切ったばかりのローストビーフの欠片をひょいっと一つつまみ食えば「美味しいですか?」と問われる。美味しいに決まってる。むしろ美味しすぎて困る。

今までだったら食べられればなんでも良かったはずなのに、名前の料理を食べ始めてからはそうもいかなくなった。恐ろしい勢いで舌が肥えてしまって、市販の安っぽいビスケットが不味く感じてしまうほどだ。

もし今後、名前が風邪をひいたりして料理が出来ない状況になったら、それこそサバイバー達は大ダメージを受けるだろう。皆みんな、ナワーブと同じように舌が肥えてしまっているのだから。


「そうだな、じゃぁ俺が食いたいものじゃなくて、お前が俺に食わせたいものを用意しろよ。お前の料理なら何だって美味しいんだから、その方がずっといい」

「僕がナワーブさんに食べさせたいもの?難しいなぁ」

「なんだよ、無いのか?」

「そうじゃなくて、食べさせたいものがあり過ぎて・・・何かのパーティぐらいの量を作ってしまいそうで」

「ははっ!そんなに食えねぇよ」

あれもこれも食べさせたいと一人指を折り始める名前に、愛されているなぁとナワーブはまた口元に笑みを浮かべてしまう。

もう一口、ローストビーフをつまみ食えば、名前は「晩御飯入らなくなっちゃうよ」とナワーブの額をちょんっとつついた。

切り分けたローストビーフとサラダがそれぞれ綺麗に並べられた皿をサービスワゴンに乗せた名前に「俺が運んでやるよ」とナワーブが申し出れば、名前は「有難う」と笑って先程自分がつついたナワーブの額にキスをした。

流石にちょっと恥ずかしくてフードを深く被りなおし、そのままワゴンをダイニングルームまで運ぶ。

まだ人は殆ど揃っていないが、既にいたサバイバーはナワーブが運んできたワゴンを見て「美味しそう」と口々に発した。

自分が作ったわけではないが、名前の作った料理を褒められるとナワーブは自分まで嬉しくなってしまう。

ローストビーフとサラダの皿を全員が取りやすい場所に配置すると、再びキッチンへと戻る。今度はタマネギのスープをスープ皿によそっていたらしい名前が「ご苦労様」と戻ってきたナワーブに声を掛ける。


「美味しそうだって皆言ってた」

「ふふっ、教えてくれてありがとう。皆とっても美味しそうに食べてくれるから、僕も作り甲斐があるんだ」

ご機嫌にスープをよそうとそれもワゴンに乗せ、ついでにとワインのボトルも二本ほどワゴンに乗せた。酒が飲めない人用にジュースの入ったピッチャーを用意するのも忘れていない。

「まぁ、その中でも一番美味しそうに食べてくれるのは、ナワーブさんだったけどね」

「・・・あんなに美味いもん食ったの初めてだったんだよ」

「僕はそれがすっごく嬉しかったけどね。これからこの人の食べるものは全部僕が作ってあげたいなって思っちゃうぐらいには」

「なんだよ・・・口説いてんのか?」

恋人となる前からこんな風に口説かれ口説かれ、先に折れたのはナワーブだ。だというのに、恋人となった後も名前はナワーブを口説き続けている。

もちろんそれ自体は嬉しいのだが、口説かれるたびにどうしようもなく恥ずかしくなってしまうのだからいけない。


「不思議だね、付き合ってしまえば少しはこの熱情も緩やかになっていくと思ってたのに、もっともっとナワーブさんに僕のことを好きになって貰いたくてたまらなくて、つい言っちゃうんだ」

「・・・キザなやつ」

ごすっと軽く名前の脇腹を殴ってやれば、殴られた名前は「うっ」と短いうめき声を上げつつも笑ってワゴンを押し始めた。

どうやらもう運ぶものはないらしい。ナワーブがその隣を歩きダイニングルームまで行くと、既に殆どのサバイバーが揃っていた。

もうおなかぺこぺこだという一同の前に名前がスープ皿を並べ、ワインとジュースを注いでいく。まだ席に着いていなかった人のために椅子を引いてやるのも、名前は忘れない。

まるで高級レストランかのような待遇に、一瞬自分たちのおかれた状況を忘れてしまいそうになるのはいつものことだ。


「今日もご苦労様。さぁ皆、冷めないうちにそうぞ」

名前の合図で一斉にサバイバーたちの食事が始まる。名前はそれを笑顔で見届け、自身もゆったりとサラダを食べ始めた。

隣に座ったナワーブが「名前、乾杯」と言えば二人で小さくグラス同士を触れ合わせる。

「そういえば明日は名前の番だな。大丈夫そうか?」

「解読は得意なんだけれど、チェイスとかは苦手でね。でも、少しでも皆の役に立てるように頑張るよ」

「応援してる」

「ふふっ、明日はしっかり勝って、晴れやかな気持ちで夕食を作るつもりだよ」

「俺に食べさせたいものを?」

「・・・ゲーム中、そればっかり考えてしまったらどうしよう」

本当に困ったように眉を下げる名前の足をテーブルの下から軽く蹴ったナワーブは「明日の夕飯、楽しみにしてる」と笑った。




美味しく食べてね




「相変わらず人目も気にせずいちゃつく奴らだな」

「僻みですかライリーさん」

「煩いぞダイアー!」

翌日の夕飯も相変わらず美味しかった。



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