「なぁ、名前」
別のクラスの教室に入った8823は窓際の一番後ろの席へと歩く。そしてその席に座っていた、不良とは縁も所縁もなさそうな優しい顔つきの青年へと声を掛けた。
8823は二年の不良のトップ。対する相手は文学小説を片手に微笑みを浮かべているいかにも善良そうな青年。
彼は「んー?」と声を上げながら顔を上げ、8823を見ると小首をかしげて見せた。
「ちょっと一緒に来い」
一見すると不良にカツアゲをされる前としか思えない光景にクラスメイトが少しざわつく中、名前と呼ばれた彼は「いいよ」と短く返事をして文学小説を閉じた。
閉じた本を片付けることもなく、手にしたままの名前は「行こうか」と8823と共に教室を出る。
不良である8823と一般生徒である名前が共にいれば、自然と8823が名前を無理やり連れ歩いているように見えてしまう。けれども名前の顔に浮かんでいるのは微笑みばかりで、だからこそ傍を通った教師も彼等を呼び止めることはなかった。
「わざわざ屋上まで連れてきて、何のようだい?」
屋上に来るや否や名前は持って来た本を広げ、冷たいコンクリートの上にすとんっと腰をおろした。
8823は無言のままそんな名前の横に腰かけ・・・そっと名前に身を寄せる。そして小さく「・・・別に」と返事をした。
「教室じゃ甘えられないから、わざわざ連れて来たんだ。屋上は風がちょっと強くて寒いのに」
「・・・・・・」
無言のままぐりっと頭を摺り寄せてきた8823に名前はくすくすと笑った。
これは誰も知らないことだが、8823と言う『不良』と名前と言う『一般生徒』は、所謂恋人同士というものである。
「わざわざそんなことしなくても、放課後になったらいくらでも出来るのに」
「・・・待てねぇよ」
本を読むのを妨害しようとしているのか、8823がぎゅっと名前の首に腕を回して抱きつく。
その行為に特に気分を害した様子もない名前は再びくすくすと笑いながら「なぁに?」と問いかける。
「・・・本読むの、止めろよ」
「本より自分を優先させてほしいって?」
「・・・・・・」
無言のままこくりと頷く8823に名前は目を細める。
本をぱたんっと閉じて横に置くと、8823の頬にそっと手を添え、米神にキスを一つ落とした。
くすぐったそうな顔をする8823の頭をするりと撫でて、名前は顔を離す。
「米神だけかよ・・・」
「唇に欲しかった?」
「・・・わかってる癖に、焦らすなよ」
「はいはい」
ちゅっと軽くその唇にキスを落とすが、それでも気に入らないのか8823の視線が名前に突き刺さる。
名前はふぅっと息を吐き、今度は深く口付けた。
「ん、ふ・・・」
8823の頭をしっかりと固定してキスを続ければ、8823は息苦しそうに声を上げる。
やっと唇が離れた時、8823は頬を染め息を荒くしながら名前の身体にしな垂れた。
「はぁっ、名前・・・」
「続きは放課後、ね?」
「ん・・・」
物足りなさそうだがこくりと頷く88233に名前は優しく微笑んで「あぁ、そうだ」と突然声を上げる。
ズボンのポケットの中に手を突っ込み、何か小さな箱を取りだした。
「はい、どーぞ」
「ぇ・・・」
差し出された箱を見て、8823は少し驚いた顔をする。
「ほら、受け取って」
「ぇっ、あぁ」
慌てて箱を受け取り、恐る恐ると言った感じに箱の中身を確認すると・・・
「ピアス?」
そこに入っていたのは一組のピアス。
「そっ。耳、穴開けてる癖に何もつけてないから」
シンプルながらもきらりと光るそのピアスに、8823は目を奪われる。
「これ・・・貰って良いのか?」
「折角君のために買ったんだ。貰ってくれなきゃ困っちゃうよ」
くすっと微笑む名前。
自分のために用意された突然のプレゼントに、8823は口元に笑みを浮かべた。
「じゃぁ・・・片方だけで良い」
「片方だけ?」
「だ、だから、もう片一方はお前が持っとけ」
その言葉に名前はくすくすと笑う。
「へぇ・・・やっぱり、そういうの憧れちゃうんだ」
一組のピアスをお互いに持っていたいなんて、と笑う名前に8823はカッと赤くなる。
「わ、悪いかよ」
「ううん。なかなか良いと思うよ」
8823の手から片一方のピアスをひょいっと取って言う名前は自分の耳朶に軽く触れた。
「でも僕は、穴開けてないけど」
周囲に秘密で8823と付き合ってはいるものの、一般生徒であり模範生でもある名前の耳には穴なんてない。
それを知っている8823は「持ってるだけで良い」と小さく言った。
「じゃ、肌身離さず持ってるよ。君だと思ってね」
「っ・・・臭い台詞言うな」
「でも、ときめいたでしょ」
「・・・・・・」
無言で頭を摺り寄せる8823に名前は楽しげに笑った。
「ほら、貸してごらん。付けてあげる」
「ん・・・」
8823の手から残ったピアスを受け取り、そっと8823の耳に手をやる。
「君の耳、綺麗だしきっと似合うよ」
ピアスホールの位置を親指の腹で確認する名前。それがくすぐったかったのか、8823はぴくっと震えた。
ピアスホールにピアスをはめ込み、最後に8823の耳に小さなキスを落とした名前に8823は思わず声を上げてしまう。そんな8823に楽しそうに笑った名前は、ゆっくりと身を離した。
「似合う、か?」
「うん。とっても似合ってる」
その言葉に8823は嬉しそうに笑うと「ありがとな」と呟いた。
「翔が喜んでくれるなら、どうってことないよ」
「・・・いきなり名前呼ぶなよな」
「ごめんね。でも、嫌じゃないでしょ?」
わざとらしく首をかしげて笑う名前に、8823は「嫌じゃねーよ」と言うと上機嫌な様子でベッタリと抱き付いた。
シュガーピアス
「今は無理だけど、いつか僕も開けるからね」
「その時は俺が開けてやるよ」
「うん。任せる」
お相手:ハヤブサ
シチュエーション:不良と文学少年っていうベタな設定に萌えるので、男主は不良とは一切かかわりなさげな文学少年(実はハヤブサの恋人)難しければシチュはおまかせします
坂本との決闘シーンでピアスを外して手の中にぎゅっと握りこむシーンが好きです。
きっと大事な人から貰ったものなんだろうなぁ・・・