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※『君の副人格』続編。


「分離薬?」

セブルスはきょとんとした顔でその小瓶を見つめた。


「えぇ。本当ならこれは、一時的に幽霊体験をして遊ぼうっていう、ちょっとした吃驚グッズなの」

「それを僕に寄越してどうするんだ?」

突然自分に駆け寄ってきて、ずいっと小瓶を差し出して来たリリーの言葉。

咄嗟に小瓶を受け取ってしまったが、イマイチその意味が理解できていないセブルスは心底不思議そうに小瓶とリリーを見比べた。

「この薬って、本当に幽霊になっちゃうわけじゃないのよ。精神と身体を分離する薬で、しばらくすると元に戻るわ」

「精神と身体を?」

「この薬を見つけて、私思ったの。もしかして・・・名前とセブルス、一時的に分離出来るんじゃないかしらって」

「!」

もちろん、驚いたのはセブルスだけではない。セブルスの中にいる『彼』も、心底驚いていた。

「それは、本当か?」

「確信はあまりないけれど」

そう言いつつもにっこりと嬉しそうに微笑むリリーにセブルスは「そ、そうか」と小瓶をぎゅっと握り占める。

どちらがどう分離するかはわからない。

セブルスの方が身体の外に出るかもしれない。名前の方が身体の外に出るかもしれない。はたまた、二人共身体の外に出るかもしれない。けれどどちらにしたって、セブルスは『彼』と対面することが出来るのだ。


「『彼』はどう?やっても良いって言ってる?」

「お、面白そうだとは言っている。けど、この薬は安全なものか?」

彼が心配しているのは、その薬は『セブルスにとって安全なのか』ということ。

自分の中にいるもう一人が常に自分を気遣ってくれているという事実に、セブルスはつい笑ってしまいそうになる。

「えぇ。パーティグッズとして売ってるようなものよ。危険性はないわ」

「ならやっても良いそうだ」

「そう。じゃぁ名前の許可も取れたし、早速やってみない?」

わくわくした顔をしているリリー。

自分じゃ自分の顔は見えないが、セブルスは自分も似たような顔をしていることに気付いていた。



二人揃って今は使われていない空き部屋へと向かい、緊張した面持ちで小瓶を見つめ合った。

「い、いくぞ」

「えぇ」

小瓶の中に入っている分離薬は一回分。緊張で落っことしてしまいそうになりつつも、セブルスはその小瓶に口をつけた。

ごくりっ、とセブルスの喉が動く。飲んだ。


「・・・どう?」

「いや、特に変わりはないようだが」

自分の身体に変化はない。

リリーは「可笑しいわねぇ」と首をかしげる。

「あ・・・」

そこでセブルスはふと気づいた。・・・名前の声がしない。

「名前?」

「名前がどうかしたの?」

「名前の声が聞こえないんだ。こんなの初めてだ」


「セブルス」


おろおろとしていたセブルスは、突然とんっと背中を叩かれた。

セブルスと対面していたリリーが、セブルスの背後を見て目を輝かせている。

まさかと思い、セブルスも振り返ってみると、そこには此処にいないはずの『第三者』が立っていた。

「まさかセブルスとこうやって向かい合うことが出来るなんて。とても嬉しいですよ」

「名前?」

髪の毛と瞳の色は一緒。顔の造形もなんとなく似ているが、背丈はセブルスよりも高い。

「えぇ、名前ですよ」

優しい目と微笑みを持つ、大人びた青年がそこには立っていた。


「私とセブルスの性格に差異があったからでしょうね。姿形も随分と違う」

くすくすという上品な笑い声は、何時だってセブルスの中で響いていたものと同じだ。

セブルスはたまらず「名前!」と呼んで名前に飛びついた。

「おっと・・・セブルス、危ないですよ。もし私が触れられない相手だったら、セブルスは後ろの机にぶつかってました」

「何で触れるんだ?」

「さぁ、私にもわかりません。けれど、この薬は精神が身体に一つだけの人が同じように一つだけの人のために作った薬ですから、多少の誤差はあるのでしょうね」

ぎゅぅっと抱きついて来るセブルスを優しく抱き締め返し、そっと頭を撫でながら言う名前に、セブルスは胸がきゅぅっとなるのを感じた。


「リリー、こうやって三人で同時に話せるのは初めてですね」

「えぇ。吃驚しちゃったら!名前ったら、性格だけじゃなくって実体化した姿も大人びてるんだもの」

「性格が大分反映された形なんでしょうね、これは」

小さく微笑み、セブルスを抱き締めつつもリリーにそっと手を伸ばした。

その手が頭に置かれると、リリーは嬉しそうにそのまま頭を撫でられた。

「何だか、私達の兄さんみたいね、セブルス」

「あぁっ、そうだな」

嬉しそうなリリーの笑顔を見てほんのり顔を赤く染めたセブルスはこくこくっと頷いた。

今まで触れられることはないと思っていた名前が、こうやって目の前にいるのだ。つい興奮してしまいそうになるが、傍にいるリリーに恥ずかしい姿をあまり見せたくはないからと、何とか我慢した。

まぁ、我慢しきれない興奮がその頬を赤く染めているのだが。

冷めそうにない興奮の中、セブルスはふと思う。


「そういえば、この状態は何時まで続くんだ?」

唐突に不安になり眉を下げたセブルスに、名前もほんの少し眉を下げる。

「瓶のラベルには1時間ぐらいって書かれてたわ。けど大丈夫よ。また薬を買いに行けば良いわ」

にこにこと楽しそうに笑うリリーに、セブルスはほっとした顔をした。


「名前、名前、僕の我が儘を聞いてくれるか?」

「私も良い?名前」

何時の間にやら二人して名前にくっ付いている。

「私に出来ることなら」

そんな二人をまとめて抱き留めつつ、名前は笑顔で頷く。


「一緒に何処かへ遊びに行きましょう?」

「遊ぶのも良いが、三人で図書館にも行きたい」

「それ良いわね。三人で勉強会もしたいわ。ホグズミートもどう?」

「三人でか?」

「えぇ、もちろん。美味しいもの買って、三人で食べ比べしましょ?」

「食べ比べ・・・楽しみだな」

何時の間にかセブルスとリリーの二人だけでどんどん盛り上がって行く様子を、名前は穏やかな表情で見守っていた。




主人格との対面




時間はたっぷりあるから、少しずつ消化していこうね。

そういって優しく微笑む名前に、二人は嬉しそうに頷いた。



お相手:セブルス・スネイプ
シチュエーション:過去のほうに収納されてる『君の副人格』の続編で副人格の夢主が実体化する話を読みたいです。

内容を思い出すために急遽読み返したら昔の文章が恥ずかし過ぎて無事に撃沈しました。
・・・副人格さん、両手に華やないですかー。


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