×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -






※ベルゼブブ、後天性女体化。


初めて出会った頃、勘違いじゃなければベルゼブブは男性型の悪魔だった気がする。それを思い出したように口にすれば、彼女は何時も「気のせいだ」と笑うのだ。

彼女の上司であるサタン様曰く『壮絶な愛の力』らしいけれど、まぁ私からすれば男でも女でもベルゼブブであることは変わらないため、性別については気にしていない。

かくいう私だって、エデンにいた頃は女だった時もあったようななかったような気もする。何がとは言わないが、自分が下なのが我慢できずにエデンを出奔して、気付いたら男になっていた。


数多の悪魔や時には天使と関係を結び、悪魔としての本分である『誘惑』でもって男も女も分け隔てなく誘惑した。

そんな風に遊び回っていた私だけれど、件の彼女と出会ってからは少しだけ遊びを控えるようになった。本当にほんの少しだけだけれど。

私に一目惚れしたらしい彼女が物凄い勢いでアプローチしてきて、自分と結婚すればどんな利益があるかとかまで熱心にプレゼンした。結果「まぁ彼女と結婚するのもいいかも」と思い、私は彼女と結婚した。


誤算は、彼女が思った以上に私に惚れていて、思った以上に重かったことだ。

私が誰かを『誘惑』すれば辛そうな顔をして、それが続けば一人こっそりと自傷行為を行う。気付けば傷だらけの彼女を見かねたサタン様が私に連絡を入れてくるまでが、一連の流れ。


「名前、すまない、君を困らせるつもりじゃ・・・」

「別に構わないよ。白澤くんからいい薬を貰ったから」

塗ってあげるね、と彼女の傷だらけの腕をそっと握れば、彼女は一瞬で嬉しそうな顔になった。

友人の白澤くん曰く、彼女の自傷行為は私に構って貰えない反動なのだそうだ。確かに彼女が仕事をしている間に私はいろんなところへ遊びにいくし、その各地で誘惑をするけれど、別に彼女を蔑ろにしているつもりはない。むしろ、夫婦である分他の誰より一緒にいると思う。

彼女だって「君の本分は『誘惑』だから、多少の浮気は目を瞑る」と言っている。もしかして私と彼女の思う『多少の浮気』には差異があるのかもしれない。


「痛くない?」

「・・・君が薬を塗ってくれるから、大分良くなったよ」

私が薬を塗るのを嬉しそうに眺めていた彼女は、うっとりとした笑顔でそう返事をする。

腕だけではなく手の甲や指まで傷だらけ。特に左手、更に言えば左手の薬指あたりが酷い。薬をたっぷり手に取って彼女の左手を握れば、彼女の視線は強くなった。

じっとじっと、私が左手に触れるのを見つめている。薬指に触れれば、何かに耐えるように唇を噛み締めた。


因みにだが、彼女の手にも私の手にも指輪ははめられていない。仕事が忙しい彼女とは式すら挙げていないし、その流れで指輪の交換もしなかった。

唯一夫婦であることの証明は、サタン様のサインが入った婚姻契約書だけ。だけと言っても、EU地獄の魔王サタンのサイン入りの契約書なんてちょっとやそっとじゃ破棄できない代物で、そんなものを婚姻契約書に持ち出してくるあたり、彼女の愛がいかに深い(重い)ものかがわかる。

そんなしっかりした契約書の前では、指輪なんて些細な問題な気がして今まで全く考えてもいなかったのだけれど、最近になって白澤くんが「指輪を上げたら少しは落ち着くんじゃない?」と提案してきた。


不安があるから自傷をする。ならその不安を少しでも減らせばいい。夫婦である証の指輪を私から贈れば、少しは愛されているのだと理解するだろう。

白澤くんの提案も尤もで、むしろ何故今まで気づかなかったのかと自分に吃驚してしまった。

それもそうか。今までそういう入用なものは全部彼女が用意してくれていたし。私が普段しようしているカードも彼女名義だし、服の選択も食事の用意も全部彼女がしてくれる。自然と、与えるのは彼女の役割となっていて、私から何かをプレゼントしたことはなかった。肉体的なもの以外で。


彼女の自傷が特に酷いのが左手薬指であることを考えれば、やっぱり指輪が欲しいのかもしれない。それも、私から贈られる結婚指輪が。それが理解できないほど、私も鈍感じゃない。

そうと決まればと、実は最近白澤くんのもとでアルバイトをしているのだ。遊びに行く時間を白澤くんのお店でのアルバイトに使っているため、帰宅時間は変わらない。彼女にも気づかれていない。

サプライズは楽しいから好きだし、指輪が購入出来たらサプライズでプレゼントするつもりだ。



「そういえば最近、君は日本のあの世にばかり行っているようだけれど・・・」

薬が塗り終わるあたりで、ぽつりと彼女がそう問いかけてきた。

「ふふっ、私が行く方角をよく見ているんだね」

「日本のあの世はそんなにいいのかい?君が望むなら、EU地獄にもっと施設を増やすことだって・・・」

「私のためにいろいろと考えてくれるなんて、君は本当に健気で可愛い妻だね」

有難うと言って抱きしめれば彼女はそれ以上何も言わなくなった。

アルバイトの件はバレていないみたいだけれど、そろそろ時間の問題かな。彼女は本当に私のことが大好きらしい。

白澤くんにお願いして、アルバイトの時間を少し延ばしてもらおうかな。そうすれば早くお金も溜まるはず。


「ねぇベルゼブブ、明日からの数日間、多分少しだけ帰りが遅くなってしまうんだけれど、いいかな?」

「・・・理由を聞いても?」

「ふふっ、それは秘密だよ」

よしよしと彼女の頭を撫でながら言えば、彼女は「・・・そうか、わかった」と頷いた。あまり納得はしていないみたいだけれど、早く指輪を手に入れるためなのだから仕方ない。

自分で稼いだお金で自分の選んだ指輪を買い、彼女に贈る。今まで彼女にだ大分お世話になっているんだし、これぐらいはしっかりしないと。


早いうちに白澤くんに電話しないとなと思って彼女から離れ、こっそり白澤くんに電話を入れる。白澤くんはあっさり了承してくれた。

そして翌日から、朝早くにEU地獄を離れ、桃源郷の白澤くんのお店で店番を夜遅くまですることになった。白澤くんは私が店番をしている間女の子と沢山遊びに行けるとご満悦だし、桃太郎くんとも大分打ち解けることが出来た。アルバイト期間が終わっても是非遊びに来て欲しいと言われたし、好かれているとは思う。



「名前さんって本当に何でもできますよね。まさか薬の調合まで出来るなんて」

「私は誘惑の悪魔 名前・リリスだから。デキる男はモテるでしょ?大抵のことは出来ちゃう。まぁ、何も出来ない駄目な男が好きな子もいるから、そういう時はあえて何もしないけれど」

「あ、もしかして奥さんは『何も出来ない駄目な男』が好きなタイプだったんですか?」

「んー、というよりは貢ぎたいお世話したいってタイプかなぁ。彼女、私のお世話をしてる時が一番生き生きしてるし」

そんな風に雑談をしつつ、白澤くんに頼まれていた薬の調合は完了した。薬の調合が出来るといっても、白澤くんほどの腕前じゃない。後で白澤くんに出来栄えの確認をして貰わなくちゃ。

「ちょっと見直しました。奥さんに自分で稼いだお金で指輪をプレゼントしたいなんて、なんかドラマちっくっすね」

「そうかなぁ?まぁ、割と常識的な思考をしてる桃太郎くんが言うなら、ドラマチックなんだろうね」

くすくす笑い、時計をチラ見。今日は白澤くんの帰りが大分遅い。きっと妲己の店あたりで酔いつぶれているなぁ。


「正直名前さんがアルバイト時間を延長してくれて助かります。でもいいんですか?奥さん心配しません?」

「まぁ大丈夫だと思うけど。危なくなったらサタン様が連絡してくれるし」

「その連絡の頻度も増してません?サプライズもいいですけど、奥さんを大事にしてくださいね」

「私なりに大事にしているんだけどねぇ。なかなか伝わらなくて」

桃太郎くんの言う通り、サタン様からの電話の頻度は日ごとに増している。前は一月に一回ぐらいだったのに、アルバイトを始めてからは三週間に一回、二週間に一回、最近では一週間に一回はサタン様から電話がかかってくる。


彼女は私が日本のあの世で特定の相手を見つけたと勘違いしているのかもしれない。あと数日もすれば指輪をプレゼント出来て、その誤解も解けるだろうから特に訂正は入れていない。

もしかするとそれがいけなかったのかもしれない。

遅い時間まで白澤くんのお店でアルバイトをし続けてついに最終日を迎えられた時、サタン様から「君の妻が倒れた」と連絡があった。何時もならギリギリで連絡をしてくれるサタン様が、彼女が倒れてから連絡をしてくるのは珍しい。サタン様の連絡が間に合わないぐらい、唐突に倒れてしまったのかも。

白澤くんからアルバイト代を受け取り、元々予約してあった指輪の代金を支払い、EU地獄にある自宅へと帰る。

自宅のベッドで眠る彼女は真っ青な顔で眠りについていた。つい薬を塗ったのに、腕どころか足まで全部傷だらけで、やっぱりその中でも左手は酷かった。



「ただいま、ベルゼブブ」

眠っている彼女から返事はない。

私は薬や包帯を用意し、意識の無い彼女の腕や足に薬を塗りこんだ。白澤くんの薬はとてもよく効くから、この傷も数日すれば綺麗に無くなっていることだろう。

「ベルゼブブ、君は本当に健気で可愛い妻だね」

寂しいなら寂しいと言えばいいのに。本分が『誘惑』であるから周囲を誘惑するのは止められないけれど、望んでくれれば大抵のことは叶えてあげられる。

私に嫌われたくないからって我慢しなくてもいい。その程度で嫌になるならそもそも婚姻契約書にサインはしていない。

「まぁそんな君だから、私の妻としてやっていけているのかもね」

これからもよろしくね、なんていいながら彼女の左手の甲にキスをし、そっと薬指に指輪をはめる。自分の指にも同じように指輪をはめた。

すると今まで手足に薬を塗ったりしても目を覚まさなかった彼女が、身じろぎをしてから薄っすらを目を開けた。


「名前?」

「おはよう、私の可愛い奥さん。仕事場で倒れちゃったんだってサタン様から連絡があったよ?」

「す、すまない!君の外出の邪魔をするつもりじゃ・・・お、怒っていないか?」

「大丈夫だよ。丁度今日は早く帰るつもりだったから」

「手当までしてくれたんだな、包帯まで巻い、て?」

自分の手足に視線をやった彼女が、ようやく自分の左手薬指にはめられた指輪に気が付き、硬直した。

ぱくぱくと口を開いたり閉じたりして、確認するように私の方を見たから私はにっこりと笑って頷いた。


「こ、これは、まさか・・・」

「今日で漸くアルバイト代がたまったんだ。結婚指輪、交換してなかったでしょ?」

「あ、アルバイト?君が?」

「吃驚した?」

「あぁ、凄く・・・その、う、嬉しい」

じんわりと彼女の目が潤みだしたかと思えば、指輪のはまった左手を右手で握り締めてぼろぼろと泣きだしてしまった。

私は「どうしたの?指輪のデザインが気に入らなかった?」とわざと見当違いなことを言いながら彼女を抱きしめる。腕の中の彼女は「ち、違う」と首を振って否定した。


「こ、この結婚は、私が無理やりしたようなものだったから、まさか君からこんな、素敵なプレゼントをして貰えるなんてっ」

「この結婚が無理やり?私はそんなつもりは一切なかったけれど。私も君が好きだから君と結婚したのに、君は私の愛を信じてくれないの?」

私の言葉がそんなに意外だったのか、彼女が吃驚した顔で「ほん、とうに?本当に、君は私を愛してくれてるの?」と問いかけてくる。私の愛が伝わっていないのは常々感じていたけれど、まさかこれほどまでだったとは。


「君が信じてくれないなら、信じてくれるまで、信じてくれてからもずっと言い続けるよ。私の健気で可愛い奥さん、私は君を愛しているよ」

元々ぼろぼろ泣いていた彼女は、今度こそ声を上げながら泣いてしまった。




ミスター・リリスの結婚事情




「君が折角指輪をくれたのに、この手じゃ台無しだな・・・」

「ふふっ、薬もちゃんと塗ったし、すぐよくなるよ。それに、この傷は君が私を愛するが故の傷なんでしょ?可愛いじゃないか」

「かっ、かわっ・・・!?」

「気付いていないみたいだからあえて言うけれど、君はとっても可愛いよ、ベルゼブブ」

笑顔でそう伝えれば、彼女は「す、好きっ」と小さな声で呟いた。私も好きだよ。




お相手:ベルゼブブ(レディ・リリスが性別が男なのでベルゼブブが性転換で性別が女になった)
シチュエーション:何でもこなせるイケメンでタラシなレディ・リリス成り代わり男主で、ベルベブが成り代わり男主が大好きで堪らなくてヤンデレになり構ってもらえないことが続いて自傷してしまうが、成り代わり男主は自分で働いたお金で指輪を買ってプレゼントしようとお金を貯めて指輪を買い、プレゼントするときにベルベブが倒れて手当てする。ベルベブが目を覚ました後に成り代わり男主が指輪を渡した後、いちゃいちゃする二人な話をお願いします!

ちょっぴり難産でしたが、何とか仕上げられました。
何でもできるイケメンって、もう完璧じゃないですかぁ・・・


戻る