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※『ヒールヒールハイヒール』続編。


「・・・そして、その『重要な情報』を持っているのが、この館の女主人であるモリス・アドヴァーンであるとの報告が入っている。早いうちに主人を失った彼女は普段は館に籠り切りだが、月に一度友人主催で開かれる夜会には必ず顔を出すらしい」

ぱさっとスティーブンが手元の資料を机に広げる。そこには一人の女性の情報が記され、一緒に館の写真も添えられていた。


「籠り切り・・・旦那さんを失ったショックが癒えてないんですね」

「いや、どうやら屋敷に複数人の男を飼っているらしい。夜会へ行くのは、新たなペットの品定めさ」

一瞬でもその女主人に同情したレオナルドはスンッと憐みの表情を消し去った。

「へー、くたばった旦那が残した遺産で毎日遊んで暮らしてるなんて、羨ましい限りだぜ」

「感想がクソだな」

おそらくだが、その女主人とザップの気は合うだろう。会って五秒でアドレス交換まで済ませそうだ。


「モリス・アドヴァーンの好みに近い男が夜会で彼女に近づき、うまいこと情報をかすめ取る・・・これが今回の任務だ」

難しい顔をしながら任務の大まかな説明をするスティーブンに「その好みとは?」とツェッドが質問をすると、その顔は更に難しそうに歪んだ。

「・・・顔がある程度整っている、物腰柔らかで丁寧な所作のスーツ姿な男性が好みらしい」

「番頭が出りゃいーんじゃねぇの?」

顔が整っていて、スーツも着ている。仕事柄、相手への対応や所作も完璧だろうスティーブンは今回の任務において適任であるはず。

しかしスティーブンは大きくため息を吐くと、首を横に振った。


「今言った情報に一つ追加をすると、どうやら相手は『年下趣味』らしい。生憎今回のターゲットと僕の年齢は同じ・・・サバを読むにしても限界がある」

ということは、現在その女主人の館には彼女よりも年下の男がわらわらとペットとして存在しているのだ。ペットというだけでもアブナイのに、それが年下の男という追加要素が入ると更にアブナイものに感じる。

スティーブンが駄目なら誰がいく?もちろん、当初は自分が行く気でいたスティーブンも、大いに頭を悩ませていた。


「ザップは駄目だ、顔と年齢以外は全てアウト。少年も残念ながら所作が駄目だ、今からマナーを叩きこむ時間もない。ツェッドも考えたが、相手がヒューマー型なら顔が整っているの定義もおそらくヒューマーでの話だろう・・・」

スティーブンが腕を組んでウンウンと唸ると、ザップがポンッを手を打ち「名前の奴がいるじゃないすか」と思い出したように口にした。

「あぁ!名前さん!ザップさんと違って優しいし、ザップさんと違って物腰柔らかだし、スーツ姿は見たことないけど絶対ザップさんより似合うし!」

「おーおー、言うなぁ陰毛頭。買うぞ?」

「事実しか言ってませんけどぉ?」

いつも通りの軽い喧嘩という名のじゃれ合いを披露しようとする二人に「そこまでだ」とスティーブンの冷ややかな声が飛ぶ。


「確かに名前の顔は整っている。出身は田舎でマナーに触れる機会などなかったはずだが、本人の努力でマナーも申し分ない。元々穏やかな性格だからか、話す言葉一つ一つに相手への気遣いも窺える。スーツもおそらく、いや、絶対に似合うだろう。ターゲットの希望である『年下』も当てはまっている。・・・だがっ、だがっ」

「おい陰毛頭、番頭ちょっと名前のこと褒め過ぎじゃね?」

「それは僕も思いましたけど、指摘しない方が身のためですよザップさん」

自覚があるのかないのか名前をべた褒めしながらも苦悶の表情を浮かべるスティーブン。そこでふと、いつものメンバーが一人足りないことに気付いたザップが「というか名前は何処だよ」と周囲を見渡す。

何時もならザップたちよりも幾分真面目に資料を読み込んで気になる部分があればすぐにスティーブンへ質問を投げかける名前は、現在存在すらしていなかった。

遅刻か?と首をかしげれば今まで黙っていたクラウスが「あぁ、名前くんなら・・・」と口を開きかける。


「遅れてすみません。仕立てて貰っていたスーツが受け取り寸前で血まみれになってしまって。急遽別のスーツを入手してきました」

タイミングがいいのか悪いのか、クラウスが言葉を言い終わる前に開いた事務所の扉から、件の名前が姿を現した。

手にはHLでも割と有名な紳士服店の紙袋が握られている。

名前はその紙袋を手にしたまま、クラウスの前まで真っ直ぐ向かい一度ぺこりを頭を下げる。クラウスの傍にいたスティーブンにも勿論会釈をしたが、スティーブン本人は名前の手にある紙袋を凝視したまま硬直していた。


クラウスは事前に名前から連絡を受けていたのだろう。受け取り寸前でスーツが血まみれになった経緯も知っているのか、特に説明を聞くことも無く「災難だったね、名前くん」と気づかわしげな言葉をかけた。

言葉を受けた名前は申し訳なさそうにもう一度頭を下げる。

「すみませんでした、クラウスさん。折角仕立てていただいたのに」

「不慮の事故なら仕方ない。その様子だとまだ試着もしていないのだろう。別室で着替えてくるといい、もし不備があればギルベルトに言ってくれ」

「わかりました。すぐに着替えてきます」

クラウスの言葉で名前は紙袋を手に別室へと移動した。

パタンッと扉が閉まった瞬間、それまで固まってたスティーブンがふらふらとした足取りでクラウスへと近づいた。


「 ク ラ ウ ス 」

「事前に君から聞いていたターゲットの情報から、名前くんが適任だと思い、連絡を入れておいたんだ」

引き攣った笑みを浮かべるスティーブンに自分は何かしてしまったのだろうかとクラウスは首をかしげる。


「名前くんも快く引き受けてくれた。スティーブン、君は名前くんのサポートに回って欲しい」

「・・・っ、わかった、わかったよ、まったく」

名前が適任なのはスティーブンもわかっている。異論を唱える理由もスティーブン自身の極々『個人的な問題』なのだ。これ以上私情を仕事に持ち込むわけにもいかず、スティーブンはがしがしと頭を掻き投げやりな声で返事をした。


しばらくして別室から戻ってきた名前は仕立ての良いスーツに身を包んでいた。普段もそこまで着崩れた格好はしていないが、スーツ姿だと受ける印象も大分違う。

K・Kが「あらー!素敵じゃない!」と褒めると、名前は少し恥ずかしそうに「有難う御座います」とお礼を言った。

「ひゃー!馬子にも衣裳ってヤツかぁ、名前」

「ははっ、誉め言葉だと思っていいのかな?まぁ、普段スーツなんて着ないから、ちょっと慣れなくて変な感じだけど」

容赦なく背中を叩いてくるザップに苦笑交じりに返しつつ「クラウスさんから任務の概要はだいたい聞いています」と机に並べられた資料の一つを手に取った。


「ですが正直少し不安です。地元では農業か牛の世話ぐらいしかしたことが無かったので、そういう場でのマナーがきちんとできるかどうか・・・」

「普段の君の所作なら特に問題ない。不安なら、スティーブンに確認するといい」

名前なら上手く出来ると信頼しているのだろう。その信頼がくすぐったくて、名前ははにかみながら「ご期待に添えられるように努力します」と頷いた。

二人のやり取りを見ていたスティーブンは大きくため息を吐く。

何故ため息を吐かれたのか不思議そうな二人に、スティーブンはもう一度ため息を吐きたくなった。


「・・・仕方ないな。名前、やるなら完璧にやりとげるんだ」

「はい、スティーブンさん」

「外側からのサポートは任せて欲しい。インカムも渡しておくが、ある程度は自分で考えて行動して欲しい。何事も経験だ」

名前がはっきりとした声で「わかりました」と返事をした後、今回の任務の作戦が決められた。

各自準備のために解散すると、名前は「スティーブンさん、任務のアドバイスをいただければ」と資料を手にしたままスティーブンへと近づいていく。スティーブンはそんな彼を複雑そうな目で見つめた。

その目を見て「今回の任務を僕に任せるのは不安ですか?」と名前は首をかしげる。

「そうじゃない。君の実力は信用している。今回もきっと、上手くいく」

「じゃぁ・・・」

「君にハニートラップの真似事をさせるつもりはなかったんだがな」

ぱちぱちと名前の目が瞬く。

「・・・ふふっ、ご教授のほど、よろしくお願いします」

まさかそんなことを気にしていたのか。思わずといった風に笑った名前を、スティーブンは軽く睨みつけた。


「それに・・・どうせなら、君が着るスーツは僕が選びたかったよ」

今も着たままなスーツ。クラウスの紹介した店だからか、質も仕立てもその辺の安物とは少し違う。当初クラウスが用意したスーツではないらしいが、何となくスティーブンはそのスーツが気に入らなかった。

この任務が終わったらスーツを贈ろう。それか、普段でも着れるような服。どちらにせよ、名前の身を包む何かを贈りたかった。

何にしようかと悩むスティーブンに名前は「誕生日でもないんですけど」と笑う。


「だって、あの靴のお礼もまだ出来ていないんだから」

「お礼なんて・・・僕は、僕を受け入れて貰えただけで幸せなのに」

心底嬉しそうに笑っている名前は嘘なんて欠片もついていないだろう。それでもスティーブンの気は済まない。それに気付いた名前は「じゃぁ一つお願いしてもいいですか?」と問いかける。

「夜会では不用意に何かを口には出来ないと思うので、任務後何処か食べに行きませんか?」

「・・・それだと、僕のご褒美になっちゃうんだけどなぁ」

そうはいいつつ、スティーブンの頭の中には早速名前と一緒に行きたい店のピックアップが始まっていた。




スーツで夜会のご準備を




あら貴方、この夜会は初めて?と一人の女性に声を掛けられる。

声を掛けられたスーツ姿の男は振り返り「えぇ、知人の紹介で来たはいいものの、年甲斐もなく緊張してしまって」と笑う。

年甲斐もなくというが、男はそこまで齢ではない。女性にとって男は年下で、女性の目には『少し背伸びをした可愛らしい姿』として男が映った。


・・・掴みは悪くない。男、名前は自分へ向けられる女性の視線にほんのりと熱が込められたのを感じ、内心で安堵の息をついた。




お相手:スティーブン
シチュエーション:できれば短編の「ヒールヒールハイヒール」と同設定のお話が読みたいです。

たぶんこの後、思った以上に女主人に気に入られ、拉致られて館の地下に閉じ込められます。そんなピーチ姫♂状態な男主を怒り心頭なスティーブンさんが助け出すんだと思います。


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