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※モブ成代り主。


今日は客が来ないな、とソファに寝転びながら欠伸をしている間に、何時の間にやら本当に眠ってしまっていたらしい。

「師匠、来ました」

声に反応してぱちりと目を開けると、俺を師匠と呼び慕ってくれている名前が俺を覗き込むようにして立っていた。

そうだ、転寝をする少し前に名前にメールを送っていた。

今回は仕事もなく特に用事もなかったから『来れるようなら来てくれ』という曖昧な連絡だったと思う。

部活の帰りなのか薄っすらと汗のにおい。それと一緒に、なんとなくソースの匂いを感じた。こいつ、買い食いでもしたきたのか?

よっこらせ、とソファから上半身を起き上がらせれば、名前が隣に座った。


「これ、途中で売ってたので」

「お、美味そうだな」

どおりでソースの匂いがするはずだ。名前が掲げたたこ焼き屋の袋から1パック受け取ってパックから輪ゴムを外す。

出来立てなのか温かな湯気に乗って漂うソースの匂いは、寝起きにも関わらずじわりと口の中に唾液が広がる。

食欲のままに爪楊枝で刺した一つを口に放り込めば、その熱さに「うごっ!?」と声を上げて中身を出してしまった。

床に向けて一直線に落ちていくたこ焼きは、床にたどり着く寸前でその動きをぴたりと止めた。


「師匠は何で熱いものをそのまま口に入れるんですか?」

くるくると空中で回転して荒熱が取られたたこ焼きが再び俺の口へと運ばれる。

もぐっとそれを食べると「美味しいですか?」と首をかしげる名前。もちろん美味しいと言えば、名前はこくりと頷き自分の分のたこ焼きを食べ始めた。

もぐもぐと無言のまま食べる名前を見つめていると、何を勘違いしたのか名前は俺のパックの中のたこ焼きを一つ浮かせてくるくると回して俺の口元へと運んできた。まぁ別にいいか。

名前は本物の超能力者で、所謂インチキ霊能力者な俺は名前を使って依頼をこなしている。実はうすうす気づいているのでは、と思うような出来事も多々発生しているが、いまだに名前から指摘を受けたことはない。


俺を師匠と呼んで、俺の傍にいる、中学生。

齢を増すごとに昔の友人たちとは疎遠になり、いつの間にか俺の傍にいる人間はいなくなっていた。別に学生時代に独りぼっちだったわけでもなく、馬鹿みたいにふざけ合う仲間もいたはずなのに、今でも会いたいかと言われればそうでもない奴らばかりだった。きっと、相手の方も俺のことを同じように思っていることだろう。

誰もいなかった俺の傍に現れた中学生と俺は、友人でも家族でもましてや恋人でもない、師弟という可笑しな関係だった。


「師匠、口」

「あ?あぁ」

目の前で回り続けていたたこ焼きを口を開いて受け入れる。俺がぼんやりしている間に名前は食べ終わったのか、俺をじっと見つめながら超能力で俺のたこ焼きをくるくると回していた。

荒熱の取れたたこ焼きを次々と口に入れられる。まるで雛鳥にでもなったような気分だが、名前的には俺に火傷をさせないように気を遣っているのだろう。

良い奴ではあるのだが、何処かズレている名前。まぁ大したズレではないから矯正する必要もないだろうと特に指摘しない。

楽に食べ終わったたこ焼きの空パックを袋にまとめて口を縛る。


「師匠、今日は何か用があったんじゃないんですか?」

「用?あー、特には・・・」

「あぁ、呼ばれただけなんですね」

普通なら怒るところだろうが、名前は「じゃぁ宿題してもいいですか」と鞄からプリントを引っ張り出す。

寝ている間に営業時間もとっくに過ぎていたため、宿題を始める名前を後目に事務所の鍵を内側から閉じ、再び名前の隣へと腰を下ろした。

中学生が学ぶ程度の問題なら簡単だろうと思い覗き込めば、案外難しそうな数学の問題に少し顔が引きつる。こりゃ、わからないから教えて欲しいと言われても教えられる自信がない。・・・現役時代ならどうってことなかっただろうに、勉強はしなくなれば忘れるばかりだ。


プリントを覗き込むために名前に近づくと、名前が来たばかりの時と同様に薄っすらと汗のにおいを感じる。正直名前が部活に入るのは反対だったが、本人が一生懸命やっているため否定は出来ない。

すんっと自然と鼻で息を吸い込んでしまったが、名前は宿題に集中しているため気付くことはない。

伏し目がちな名前の横顔を割と至近距離から見つめる。若いからかシミやシワが一つもない艶やかな頬は触れば気持ち良さそうだ。

そうだよなぁ、こいつ若いもんなぁ、対する俺はおっさんで、名前もいずれ俺の傍を離れて・・・


「・・・名前」

「はい?何ですかししょ・・・」

名前を呼ばれてパッと横を向いた名前は、思いのほか近かった俺の顔に驚いたように少しだけ目を見開く。

驚きついでに「えっ」と小さく開かれた口元にちょんっと自分の唇を当てれば、名前は完全に固まってしまった。そうだなぁ、こいつ悲鳴とか上げられるタイプじゃないもんなぁ・・・

でも、やっちまった。悲鳴は上げなかったが、名前はショックを受けたかもしれない。師匠と慕う大人に、それもいい齢したおっさんにキスをされるなんて。


ショタコンの趣味はなかったはずだが、どうやら俺はこの歳になって自分の傍に来てくれた名前に自分で思っていた以上に依存してしまっていたらしい。

自覚してももう遅いか。名前はきっと、今日帰ればそのまま此処に来なくなるだろう。そしてそのまま、二度と会うことなく・・・


「し、しょう?何で泣きそうになってるんですか?」

「・・・悪い」

「謝らないでください。吃驚しましたけど、唇がちょっと当たったぐらいですから」

悲鳴を上げないどころか相手の心配までしだす名前に、やらかした張本人でありながら心配になる。


「怒らないのか」

「それより、今にも泣きそうな師匠が心配で・・・」

超能力でタオルを持ってきた名前が俺の目元に当てる。潤んでいた目からぼろりと涙が零れると、名前は更に慌てたように俺の頭やら背中やらをさすり始めた。


「師匠、何か嫌なことでもあったんですか」

「大人になったら嫌なことまみれだ」

「そうなんですか・・・」

特に嫌なことがあったわけじゃない。年々寂しさが増していき、心にぽっかりと穴が開いたような虚しい感覚がするんだ。

名前が俺を師匠と慕って傍にいてくれれば、その虚しさも寂しさも感じない。今更名前が俺の傍から離れていけば、俺はきっと一気に十も二十も老け込んでしまうだろう。


「・・・寂しい」

「師匠、寂しんですか?律とかテルくんとか呼びますか?人がいっぱいいれば、寂しくないかもしれないです」

「お前が傍にいてくれ・・・寂しくなくなるまで、いてくれ」

「えっ、けど今日はもう宿題が終わったら帰らないと」

名前の太腿に顔をうずめるように倒れ込めば、おろおろした声が頭上から聞こえる。困惑しながらも俺の心配をしているのか、背中と頭は撫でられ続けている。

肉体改造部で毎日鍛えているはずなのに、名前の太腿に硬い筋肉の感触はない。いや、前よりは少し硬くなったか?

なぜっと太腿を撫でると、名前が「くすぐったいです」と少し動く。


「・・・ずっとこのままがいい」

「流石に足が痺れます」

違う。そういう意味じゃない。

「お前が俺を師匠と呼んで、俺のところに絶対やってくる、今のままが続けばいい」

「師匠はずっと師匠ですよ」

ぽんぽんっと規則的に背中が叩かれる。

学生時代、仲間たちとこれからもずっと馬鹿やっとふざけ合うんだと思ってた。けれどその仲間はもういない。名前だっていずれはいなくなるだろう。

じゃぁその前に俺から離れられなくしたい。相手が中学生だということはこの際置いておいて、このままこいつを俺のものに・・・


「師匠は、僕とずっと一緒にいたいんですね」

「あぁ・・・」

「じゃぁ、ずっといっしょにいられるように、就職先は此処にしますね」

くるっと寝返りを打ち、下から名前を見上げる。俺を見つめている名前に手を伸ばせば、名前は首をかしげながらも俺の手を握った。


「お前はずっと俺と一緒にいる気があるか?」

「師匠にはこれからもいろんなことを教えてもらいたいから」

「学ぶことなんかいつかなくなる。そしたらお前は離れるのか?」

「学ぶことがなくなったら、僕がちゃんとそれを実践出来ているか見ていてください。僕が間違って覚えていないか、ちゃんと」

面倒くさい奴でごめんな、と思いながら名前の手を解いてその首に腕を回す。ぐいっと引っ張れば、名前はあっけなく俺の方へと倒れ込んできた。

そのまま、無防備な唇にキスをする。今度は触れた程度ではなく、舌までがっつり絡めた可愛げのないキスだ。

初めての経験であろう名前の手がわたわたと動いている。それを気にせず舌を絡め続け、ようやく口を離せば名前の口から「ぷはっ」という声と大きく呼吸をする音がした。


「師匠、なんで・・・」

「ずっとそばにいるなら、こういう関係が俺はいいと思う」

「こういう、関係って」

「そろそろ外が暗くなってきたな。もう帰っていいぞ」

よっこいしょと身体を起こし、ソファから立ち上がる。

困惑したままの名前の視線を背中に感じながら事務所の鍵と扉を開け「ほら、さっさとしろ」と声を掛ける。

困惑しつつもテーブルに広げた宿題や筆記用具を鞄に詰めて立ち上がった名前の唇は、まだ俺と名前のどちらかの唾液で濡れている。

鞄を手に扉の方へとやってきた名前の唇を俺のスーツの袖で拭ってやれば、名前は小さく「有難う御座います」と言った。別にお礼を言われるような立場でもないのに。


「名前、明日来るか来ないかは、お前に任せる」

「・・・はい」

名前はこくっと頷くと、そのまま事務所を出て行った。

嫌がっている様子はなかった。けれど、ひどく困惑していた。

・・・明日、名前は来るだろうか。来なかったら、どうしよう。


その夜俺は、自分で仕出かしたことの癖に不安で不安で、死んでしまいそうになった。




どうか離れていかないで




「師匠、こんにちは」

俺の不安なんて杞憂だったかのように、翌日名前は事務所にやってきた。

「僕はそういう経験もないので、わからないですけど、お付き合いする前からキスをするのは・・・ちょっといけないことだと思います」

もじっと少しだけ恥ずかしそうに視線を漂わせた名前に、じんわりと欲が湧いた。


・・・そうだな。俺がいろいろ教え込んで、俺から絶対に離れないように仕込まなくちゃな。




お相手:霊幻新隆
シチュエーション:モブくん成り代わりで、成り代わり主に依存する霊幻師匠を見たいです!

お巡りさんこいつです案件になってしまいましたが、ちゃんと成代り主も師匠のこと好きです。無自覚ですが、お付き合いしたらそういうことしてもいいなって思ってます。
・・・お姉さん♂にいろいろ教えてもらうとか、無知シチュとか、いいですよね。←


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