×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -






※『目が覚めたらアンドロイドだった話。』番外編。


アンドロイドの権利が認められてからしばらく。まだまだ課題は多いが、着々とアンドロイドが生命体であるという認識は広まってきている。

前世人間、今世アンドロイドの僕。清掃員としてデトロイト市警に雇って貰い、月々の御給金もきちんと貰える。しかし、代わりにそれまでデトロイト市警が負担してくれていた諸々はなくなった。

例えば、仕事が終われば他の人間の職員と同じように職場から出ていかなければならない。スリープのためのスペースは市警のものなのだから無断では使用できない。

同じくアンドロイドのコナー捜査官はアンダーソン警部補の家で暮らしており、アンダーソン警部補からは「お前も来るか?」と言って貰えたが、僕はそれを丁重に断った。

もはやアンドロイドは道具や備品という扱いではない。生き物として扱われる。その生き物を、それも成人済み男性型を二体も受け入れるのは、例えアンダーソン警部補本人が許しても、彼の負担を考えると僕自身が許容できない。


そんなわけで僕は少ない額で借りられるアンドロイド専用のカプセルハウスを借りたのだが、家賃とブルーブラッドとその他諸々、御給金はすぐになくなってしまう。

清掃員としての制服もあくまで『制服』なため、仕事が終われば脱がなければならないし、脱ぐなら代わりとなる衣服も必要になる。衣服を購入したら、メンテナンスや清潔さを維持するための費用もいる。

・・・うぅん、これが『生きる』ということなのだろうが、僕としては職場である市警が全てを管理してくれていた頃が懐かしい。


「おいプラスチック、何人間様みたいに項垂れてんだ」

「リードさん、僕はプラスチックと呼ばれても別に構いませんけど、他のアンドロイドが聞いているところでは控えてくださいね」

休憩時間、ブレイクルームで項垂れていた僕に声を掛けたリードさんは僕の言葉を気にせず「おい、珈琲」と催促をしてきた。

仕方ないなぁと思いながら珈琲を淹れて渡し、再び席に着いて項垂れる。

何故だか僕の正面に座ったリードさんは「んだよ、辛気くせぇな」と悪態を吐きながら珈琲を啜る。


「リードさんは、お金に困ったことありますか」

「あ?金欠かよお前、何に使ったんだ」

「家賃とブルーブラッド代と、衣料品と・・・生活に必要なものを買うと何も残らなくて」

「はっ!清掃員の給料なんてたかが知れてるのは当たり前だろうけどな。プラスチックが一丁前に人間みたいな生活しやがって」

そう悪態は吐いているものの、リードさんは愉快そうに笑っている。僕がお金に困って生活に悩んでいる光景が面白いのかもしれない。

「特に服。あれが大変です。まぁ休みの日の服なんて一着か二着あれば十分かと思って同じ服を着ていたら、たまに通勤経路で会う小さな子供に『お兄ちゃん、服持ってないの?』って聞かれました」

あ、リードさんが大爆笑し始めた。



「ひーっ、ひひっ、あ、あ゛ー、笑わせんじゃねぇよ名前。お前、コメディアンにでもなりてぇのか?あ?」

「コメディアンを志したことは一度もありませんが、リードさんが楽しそうで何よりです」

しばらく笑い続けて苦しそうに息をするリードさんにおかわりのアイス珈琲を用意する。それをごくごくと飲み干したリードさんは「・・・おい名前」と僕を見た。


「今度の休み、俺のゴミ出しに付き合え」

「ゴミ出し?何か大きなものですか?」

突然だなと思いつつも、まぁ休日にやることなんてない僕は素直に受け入れた。

たまにコナー捜査官からアンダーソン警部補の家に来ないかと誘われたり、一緒に出掛けようと誘われたりするが、今度の休みは誘われてはいない。

捜査官として頻繁に外へ出るコナー捜査官はアンドロイドの知り合いが多いようだけれど、生憎僕はそうじゃない。コナー捜査官やアンダーソン警部補に誘われなければ、基本的には暇なのだ。・・・まさかアンドロイドになってまで、交友関係で悩むことになろうとは思わなかった。


「そんなデカいもんじゃねぇよ。だが、折角清掃員アンドロイドがいんなら、そいつを使う方が楽だろ?」

「僕、初期化の影響で分別ルールとかあんまり覚えてないんですが」

「いいから黙ってタダ働きしろ、クソプラスチック!お前が働くのを賛成してやった恩を忘れやがったのか!」

「もちろん覚えてますよ、リードさん。その節は本当に有難う御座います。タダ働き自体は別に構わないんですけど、効率的には出来ないのであらかじめ言っておこうと思って」

「・・・ちっ、相変わらず調子狂う野郎だな」

悪態に笑顔で返されることが少ないからは、リードさんは複雑そうな表情で頬をぽりぽりと掻いた。

リードさんは我が儘で自分勝手で、異例の速さで同僚たちに嫌われてしまうような人だが、僕は別段嫌いでもない。本人も言うように、僕が此処で働くことに賛成してくれた一人でもあるし、好意的な部分もあると思っている。

我が儘や自分勝手なのは、たぶんリードさんがわんぱく盛りの小さな子供と一緒だからだと思えば、その行動は割と微笑ましくも見えてくる。

「それじゃぁ、休みの日にリードさんの家に行けばいいですか?」

「あぁ。場所は後で送信しといてやるよ」

「有難う御座います、リードさん」


そんな風に約束を交わし、ついに休みがやってきた。

僕は小さな子供に指摘された服と同じ服を着て家を出る。送られてきたリードさんの家の場所を確認しつつ向かえば、少し古いアパートメントがあった。

こんこんとノックをすれば低く唸るような声で「ん゛ん、開いてる」という返事が返ってくる。

開いてみると、最初に飛び込んできたのはゴミ袋いっぱいの酒缶だった。

まぁ男の一人暮らしなんてこんなものだろうな、と思いつつゴミ袋をまたいで「お邪魔します」と部屋の中へ入る。

起きたばかりなのか、パンイチで髪の毛ぼさぼさのリードさんが欠伸をしながら「おぅ、はえぇな、おはよう」と案外素直に挨拶をしてくる。僕も「おはようございます」と挨拶をした。


「おい名前、珈琲」

まさか家に来て早々珈琲を淹れろと言われるとは思わなかった。仮にも僕の方が客人のはずだけど、と思いつつリードさんに珈琲豆やカップの場所を聞いた。

珈琲メーカーは何と最新式だった。フォルムが格好良い。ちょっとテンション上がった。

リードさんが珈琲を飲んでいる間に食器を食洗器に入れたりゴミを分別したりしていると「おー、便利だな」なんて声が聞こえた。漸く完全に覚醒したらしいリードさんが「こっち来い」と手招きしてくる。

素直について行けば、案内されたのは少し大きめなクローゼットの前だった。

クローゼットの中には当然服が入っており、リードさんは「これと、あとこれとこれか・・・」とブツブツ言いながらクローゼットから服を掴んでは床に投げ始める。

何だなんだと見ているとリードさんは「とっとと適当な袋にでも詰めろ」と言い始める。

まだ十分着れるような服ばかりだけれど、まさかこれを捨てるのだろうか。

まぁリードさんは捜査官だもんな。清掃員の僕よりも十分に御給金を貰っているから、着なくなった服をあっさり捨てるぐらいの経済的余裕があるのだろう。

投げ捨てられ続ける服をしげしげと見つめていると「物欲しそうに見てんじゃねぇよ」とリードさんが僕を見た。

物欲しそう?と首をかしげると、リードさんが舌打ちをする。


「んだよ、欲しいとか思わねぇのかよ」

「この服をですか?」

そこまで自分で聞いて、ふと気付く。

まだ十分に着られる服、この間の会話。成程、もしかするとリードさんはゴミ出しと称して僕に服を譲ってくれる気なのかもしれない。

素直に「着なくなった服を譲るから家に来い」ではなく「ゴミ出しに付き合え」なのだから、リードさんは本当に捻くれている。これじゃ彼を理解してくれる人がなかなか増えないのも仕方ないことだろう。

リードさんの意図を漸く理解出来た僕は「確かに」と頷く。


「この服、まだまだ着用可能なものばかりですね。リードさん、大変失礼ですが、この服を僕に譲っては貰えないでしょうか」

「はっ!金欠アンドロイドが賤しいこと言いやがって」

とか言いつつ、リードさんの服を投げる手は軽快だ。鼻歌すら聞こえてきそうだ。


「リードさん、よければ僕に似合いそうな服を選んで貰えませんか」

「あ?どうせ全部いらねぇんだから、全部持って帰ればいいだろうが」

つまり、現時点で僕に似合いそうな服をリードさんは投げているつもりらしい。もしリード語検定なるものがあるなら、僕は段位すら取れそうだ。

僕は「嬉しいです」と言って、投げられた服を一着掴み「着てみてもいいですか?」と問いかけた。上機嫌な声で「本当に賤しい奴だな!」と言われた。OKという意味だろう。

リードさんの服を着て、リードさんの部屋の片づけをし、リードさんに昼ごはんまで用意した。まぁあんなに沢山服を貰えたのだから、それぐらいやるのが礼儀だろう。

終始上機嫌だったリードさんが「おい、これもゴミだ」と使いかけの衣類用洗剤や靴までも寄越してきたときは流石に驚いたが、指摘してその機嫌を損ねてはいけないため全て「これ貰ってもいいですか、嬉しいです」で受け入れた。


「おい名前、また今度ゴミ出しに付き合え」

「はい。わかりました」

どうやら今後もちょくちょく僕に何かを譲ってくれるつもりらしい。

リードさんは性格に難があり過ぎるけれど、面倒見の良さも少し持ち合わせていたらしい。コナー捜査官は絶対認めないだろうけれど。




アンドロイドの金銭的事情




「名前!外で会うなんて珍しいですね。おや、その服はどうしたんですか?」

「こんにちは、コナー捜査官。実はリードさんが気を利かせて僕に譲ってくれたんです」

「似合わないです」

「はい?」

「その服は、貴方には、似合わないです、絶対に」

翌日、職場でコナー捜査官からアンダーソン捜査官のお古だという服と新品の服を渡された。それを見たリードさんがキレた。




お相手:ギャビン
シチュエーション:SSSの「目が覚めたらアンドロイドだった話。」の続きorお任せ

今まで持ち主が全部管理してくれてたのに『個人』になったら自分自身の維持費が大変なことになりそうだなって話でした。
コナーは「ギャビンと似たような恰好をするなんて不愉快です」と言って更にギャビンをキレさせると思います。


戻る